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Ocean's Blue

081:アビス

 出会いが偶然と必然の狭間で起こる事象ならば─────

 別れもまた偶然と必然の狭間で起こりうる事象である─────
 
            「裂けた大地の書」より抜粋
               著:アウレリアス=サタニック=ダークロード

 ◆

 フィリ達のサンダルマン要塞への突入が始まった。「古の黄金王」オシリ
スの眷属である「古の眷属」は要塞内部にはほとんどおらず、フィリ達の
要塞への侵入は容易であった。おそらくは「ジナイ沼」にほぼ全軍出し切っ
てしまったのであろう。

 すなわち今現在「古の黄金王」オシリスは丸裸の状態ということだ。

「ここまで上手くいくとは思わなかったな」
 ジュニアの呟きにエリカが頷いた。
「フィリとロウガ=ブラストが対峙していると気づいたときには冷や汗がでま
したけどね…」
「それをフィリは乗り切ったんだ、この戦い、風向きは完全にこちらに向いて
いる。一気にたたみかけよう」
「そうですね」
 ジュニアとエリカを先頭にフィリ達が一気に要塞内部を進む。砂でできた
堅牢な要塞はところどころより瘴気を噴出す魔窟と化していた。

 ザッ…

 フィリ達一同はサンダルマン要塞内部の巨大な広間に出た。
「ここは…?」
「ここは古代の闘技場、アリーナを模して建造された場」
 フィリの呟きに答えるのはフィリの仲間達ではなかった。フィリ達の眼前に
はフィリ達の宿敵たる魔族がその場に佇んでいた。

 「幻影」 ウェルガ=サタニック=ダークイリュージョン

「ウェルガ=サタニック…!」
 前へと出ようとするイアルを制してフィリが前に出た。
「通して──────もらえますか」
「できぬな」
 ウェルガの即答とともに、アリーナの床があちこちで盛り上がりそこから
「古の眷属」最強の魔物と言われるエンシェントマミーが大量に出現した。
血肉を求める化け物達が一斉にフィリ達に襲い掛かる。フィリを護るかの
ように、ティアやロイヤルミスト、グラン達がエンシェントマミーの大群との
戦闘を開始した。
「クク…フィリ=グロリアスよ、お前たちが入ってきたアリーナの入口、アリ
ーナをはさんで反対側の出口を真っ直ぐに進めば、オシリスの待つ黄金
宮だ」
 ジュニアが無数の大鎌「クレセントサイダー」を展開し、ウェルガの目の
前に躍り出た。
「それだけ聞ければ十分だよ」
「フン…」
 ウェルガはジュニアに手をかざした────が、ジュニアはウェルガの脇
を通り過ぎて駆け抜けていく。同時にイアルとエリカもまたウェルガの横を
通り過ぎて走り去っていった。3人は真っ直ぐに黄金宮へと向かったのだ。
「…何だと」
 ウェルガが呆気にとられた表情を浮かべた。フィリがクスリと笑った。
「フィリ=グロリアス、貴様がオシリスの相手をすると思っていたのだがな」
 魔軍七大勢力の魔王が一角であるオシリスと対抗し得る力を持っている
のはおそらくはフィリだけであろう。だがそれでもフィリは3人の仲間を先に
向かわせ、『ウェルガとの対決にフィリ自身が残った』。
「貴方を倒して、私は皆の元に追いつく、ただそれだけの話です」
 ウェルガの表情が無へと変化した。人間風情が、この「幻影」を侮辱する
か。たかが人間風情が、この「幻影」を侮辱するのか!
「フ…フッフッフ…ハッハッハ!!殺されても恨むなフィリ=グロリアス!!」
 ゴガァァァァ!という轟音とともにウェルガの右手と左手に魔力が瘴気をと
もなって渦巻いた。対するフィリは静かなる動作にて己が杖を掲げた。

 ◆

 ザッザッザッザッザ!!

 砂を跳ねさせながらジュニア、エリカ、イアルの3人が進む。ここまでは計
画通り、ウェルガとの戦いにフィリが向かい、その間にフィリの仲間で最も
実力の高い3人がオシリスと戦い、フィリの到着まで時間を稼ぐ。エンシェン
トマミーなどの敵を残したままオシリスが暴れだせば最悪全滅もありうる。

 故に、この段階では時間を稼ぐことこそ最優先事項である。

「こいつが…黄金宮か」
 イアルが口元に皮肉な笑みを浮かべる。サンダルマン要塞の中に、文字
通り黄金でできた宮殿が存在したからである。
「ここに…オシリスが」
 エリカが緊張した面持ちで周囲を見渡す。
「…」
 ジュニアが黄金宮の内部より感じられる圧倒的魔力に一瞬だけたじろぐ。
これだけ距離が離れていてこの威圧感。これが───オシリスの魔力。
「行こう」
 ジュニアが駆け出し、それにならってエリカが走り出そうとした瞬間、
「あぶねぇ!!」

 ガキィン!!

 イアルが己が持っていた短剣でエリカの眼球目掛けて放たれていたナイ
フを弾き返した。ナイフが床に落ちて刺さり、黄金の岩肌が猛毒で溶ける。
ベノムナイフと呼ばれる暗殺者の投擲武器だ。ジュニアとエリカは全く気づ
いていなかったのか、硬直した。イアルのみが、その攻撃に反応できた。

 なぜならその男のことはイアルが一番よく知っているからである。

「兄貴…!」
「…」
 イアルの兄であり、世界最強の暗殺者「暗殺王」の異名をとる男。

 「暗殺王」 ロウガ=ブラスト

「…厄介な奴がでてきたね」
 ジュニアが前に進み出ようとするのをイアルが片手で制する。
「先に行け、コイツの相手は俺がやる」
 ジュニアとエリカは顔を見合わせた後、イアルとロウガにかまわず駆け
出した。イアルの勝利への不退転の意志を感じ取ったからである。

 ジュニアとエリカの姿が黄金宮の中に消えた後、ロウガが静かに先ほど
放ったモノと同じ形状のベノムナイフを数本取り出した。イアルもそれにな
らいロウガに向かって静かに短剣を構えた。

 それは血塗られた運命に彩られた兄弟の殺し合いの開幕の証────

 ◆

 黄金宮の奥へと進む。立ち塞がる敵はすでにおらず、ジュニアとエリカは
オシリスの元へ向けて一直線に走っていた。

 突然、エリカが足を止めた。それに気づいたジュニアがもまた足を止め、
怪訝な表情を浮かべた。
「エリカ?」
「私たちは…勝てるのでしょうか」
 エリカの表情には不安がありありと浮かんでいた。
「オシリスに…そして戦いの先にいるフェイトに私たちは勝てるのでしょうか」
「…何とも言えないな」
 ジュニアは下手な励ましなど行わず、正直な感想を述べた。
「今の僕たちに出来ることは最善を尽くすことだけだよ。結果はそれについ
てくるだけさ」
「でも」
 エリカは己が不安を言葉にした。
「あの男が、ゲフェンで出会ったあのディスクリート=イノックシャースとい
う男が語った状況になってしまっているのが怖い。ジュニア、貴方を失うの
が怖いんです」


 グラストヘイム古城での戦いの前、ゲフェンで出会った「死」を内包する男

 ディスクリート=イノックシャースはジュニアに向けてこう言った。

 「君も、随分と「死」の気配を内包しているね。そうだね、生への執着を
持った化け物と戦い、君は朽ち果てる運命だ」


 生への執着を持った化け物、すなわち生きることに執着し、それに特化し
た魔物の王となった「古の黄金王」オシリスと戦い、ジュニアは死ぬ。その
言葉通りの状況になってしまっている。レイですらあの男の言葉通り、人格
の死を迎えた。ならばジュニアもまたそうなってしまうのではないか。それ
をエリカは恐れていた。
「…」
 ジュニアは黙して語らない。だがジュニアもまた、オシリスとの戦いに「己
の全て」をぶつけるつもりだったのだ。すなわちそれは自分の命をも捨て駒
にするということを意味している。

 エリカは───────────それを許さないだろう。

 人の命を糧に捨て駒にしてまで、エリカも、そしてフィリ達は前に進もうと
は思わないだろう。だがそれでは甘いのだ。仲間を失う覚悟、貪欲に勝利を
喰らい奪う心の強さがなければここから先へは進めない。

 彼女たちは優しい。

 だからこそ覚悟が欠けている。




 ──────────────────────ここまでか。




 ジュニアは穏やかな表情を浮かべた。思い残す事がないよう、全てを伝え
てから前に進もう。せめて彼女には伝えておきたいことがある──────
「ジュニア…?」
 エリカがジュニアの顔を覗き込んだ。するとジュニアはいきなりエリカの手
を引き、彼女の身体を力強く抱きしめた。困惑したエリカがジュニアの腕の
中でもがく。
「…っ!? ちょ、ちょっとジュニア…!」
「エリカ、今まで───────────ありがとう」
 エリカの動きが止まった。
「何で…そんなこと…言うんですか…?」
「君に伝えておきたいことがある」
「…っ」
 ジュニアのいつもの冗談と思っていたエリカは、今まで見たことがないよう
なジュニア真摯な表情を見て、ジュニアが本気だと悟った。

「僕は、君を愛している」

「────────っ」

 エリカが驚いた表情のまま何かを言おうとする前に、ジュニアが自分の唇
をエリカのそれに押し付けた。

 少しの間、静かな時が流れ、2人がゆっくりと身体をはなす。

 ジュニアがゆっくりと静かに言葉を紡ぐ。
「教えてなかったね、僕の本当の名を」
「え…」
「僕の本当の名はアビス、バフォメット=アビス=サイドライク。遠きフィゲ
ルの奥地にある竜の巣窟たるアビスレイクの名にも使われている「深淵」と
いう名が僕の本当の名前。闇より深き深淵より魔族の導き手とならんこと
を名に刻まれている。だからこそ人々を導く輝きとなるレイって名前の人間
とは対極の位置にいるなあとか思っちゃったこともあったよ」
「アビス…?」
「この名前を知るのは僕の父だけだ。魔族の王として生きることとなる己が
真名を他の者に教えるなんて僕はとんだ後継者だよ…でも」

 それほどまでに彼女を愛してしまった。

 魔族と人間、種族、寿命、存在全てが違う彼女とずっといたいと願った。

 だがそれは叶わぬ願い────────────────

 ならば僕が道を切り開こう。彼女達の進む道標を僕が刻もう。

「僕のことは忘れてほしい。勝手なことを言っているのは重々にわかってる。
だけど君はもっと高みにいける、幸せになる権利がある」
 ジュニアがエリカの肩をそっと押した。

 エリカの身体が少しだけ後に下がり、ジュニアは己が持つ武器、クレセント
サイダーを天井にたたきつけた。

 轟音とともに黄金宮の一角が崩れ落ち、ジュニアとエリカの間に瓦礫が落
ち始める。エリカが叫んだ。
「待って、ジュニア────────アビス、行かないで!」
 ジュニアは首を静かに横に振った。
「ここから先は君と一緒にはいけない。フィリ達の元に戻るんだ」



「「古の黄金王」オシリスは────────僕が倒す」



 ドガシャアァァァァァ!

 瓦礫が完全に落ち、声も届かないほど2人の間は隔たった。エリカはそ
の場で崩れ落ち、静かに泣いた。
「勝手…すぎます……私の気持ちも知らずに…」



 泣いているだろうな。ジュニアはそう感じ取っていた。だけど彼女を死な
せたくはない。そのエゴ、己のワガママじみた思いは変わらない。
「征く────────」
 ジュニアが歩みを再開した。

 黄金宮の奥に進むほど濃くなる瘴気。

 そして到達する────────


「来たか────────「魔界の貴公子」ジュニア=サイドライク」

 黄金宮の奥に据え付けられた大玉座。

 そこに座するは黄金王。

 「古の黄金王」 オシリス

 その身に纏われた闇紫色の包帯が触手のように蠢いている。

「────────話すことはない」

 ジュニアが無数の大鎌を展開した。



 轟音と地鳴りが黄金宮を揺るがした。

 ◆

 フィリ=グロリアスの詠唱が完了した。

 ウェルガ=サタニックの詠唱が完了した。

 フィリが放つ光の輝き「ホーリーシャイン」とウェルガの放つグラビティブラ
スト「Hamatan 」が激突する。凄まじいエネルギーの奔流がアリーナ内部を
駆け巡る。均衡が保たれていたそれはウェルガの一押しにより、「Hamatan
が「ホーリーシャイン」を吹き散らした。

 そのまま伸びた重力砲がフィリの足元で大爆発を起こし、ティア達の悲鳴
が響いた。

 だが、爆炎の中、フィリは静かに結界を発動させていた。
「────────アスムプティオ」
 フィリが静かに口を開いた。
「例え誰が相手であろうと────────私は退かない」
 ウェルガの口元に醜悪な笑みが浮かんだ。

 [続]


〜あとがき〜
「小説が遅れる要因」 :課長癌張りすぎ
 :砦がとれて必死狩り :2倍期間とかで必死狩り
誰か課長を殺ってください!殺ってください!
次回予告!フィリvsウェルガ、イアルvsロウガ!


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