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Ocean's Blue

082:白銀の翼

 サンダルマン要塞、古代アリーナに爆音が轟く。

 ルーンミッドガッツ王国、正統王位継承者、フィリ=グロリアス

 闇の眷属の幹部、英雄殺しの異名をとる、ウェルガ=サタニック

 光と闇の争いはさらなる激化の様相を呈してきた。
「フィリ=グロリアスよ!憎いか!この私が憎いか!貴様からレイ=フレジッ
ドを奪い!貴様の姉を傷つけ!さらにこの世界を闇に落とし込もうとする
この私が憎いか!!?」
 ウェルガの咆哮に、フィリが答えを出す。
「私は貴方が憎いです。でもそれ以上に自分が許せない!これは私に課せ
られた罪、過ちを正す戦いと私は定義付けています!貴方の妄執も、欲望
も、私にとってはこの断罪の一幕に過ぎません!」
「クハハハハハ!己を許せぬか!何も救えなかった自分が憎いというか!
憎悪を抱いているか!フィリア=フェリカ=ルーンミッドガッツ二世よ!」
 フィリが己の手のひらを合わせると、強力な輝きが、光が生まれ出でる。
「だからこそ、もう私は迷わない!全てを救ってみせる!守りきる!」
 フィリのホーリーシャインがウェルガを撃ち抜く。が、幻影のようにウェルガ
の姿が闇に溶け消える。その瞬間、フィリは背後にぞわりと悪寒を感じ真横
に跳び退った。

「遅いな」

 ドゥン!ドガガガガガガガガガガ!ドガン!!

 突如、空間転移でフィリの背後に出現したウェルガの攻撃、ウェルガの得
意とする重力砲「Hamatan 」の攻撃の直撃を受け、フィリの身体が地面をえ
ぐりながらアリーナの端まで吹き飛ばされる。
「う…く…」
 舞い上がる土煙の中、フィリが額から血を流しながら立ち上がる。絶対に
退かない。この男にだけは絶対に負けられない。
「クク…クハハハハ!!」
 ウェルガの狂気に駆られた哄笑がアリーナ内部に響く。

 ◆

 サンダルマン要塞、古代アリーナよりさらに奥、黄金宮の入り口での戦闘
もまた激化していた。イアル=ブラストとロウガ=ブラスト。実の兄弟同士の
血塗られた運命による殺し合いである。
「クソ兄貴!いい加減目を覚ましやがれ!何でこんなことをする!」
 イアルが柱の陰に隠れ、叫ぶ。ロウガは殺気を隠さず、ゆっくりとゆっくり
とイアルのいる方向へと歩んでくる。
「前にも言ったはずだ。お前はアサシンギルドからすら見限られた出来損な
いの暗殺者だ。俺の考えていることなど理解はできまい」
「出来損ない出来損ないうぜぇんだよ!出来損ないには出来損ないのやり
方があるってことを教えてやる!」
 イアルが柱の陰から飛び出し、大きく脚をふりかざす。衝撃波「飛竜」、「皇
帝の十字架」ナンバー2であるライジング=ボーンドの得意としていた技。
「くたばり…やがれ!!」

 ゴゥン!!

 風を切り裂きながら衝撃波が一直線に飛ぶ。だが突如として、ロウガの足
元から円錐状の岩が突き出した。イアルの衝撃波がそれに直撃し、ロウガ
の元には届かない。
「っく!」
 イアルが歯噛みする。グリムトゥースか今の技は。姿を見せたまま使いこ
なすとは、やはりロウガ=ブラスト、暗殺者の頂点に立つ男は次元が違う。
「この程度の物真似で俺が倒せるとでも────思っているのか」

 ロウガのまわりに三日月上の闇が大量に浮かび上がる。
「死にたくなければ、堪えるがいい」
 100は軽く超えるであろうソウルブレイカーがイアルに次々と襲い掛かっ
た。イアルは己に向かってきたもののみを丁寧に捌く。だがそれでも捌きき
れないものがイアルの肉体を切り裂く、血塗れにされてゆく。

 そして、イアルはロウガの「突進」に気づかなかった。

「しまっ…!」

 ゴギィ!

 ロウガの拳がイアルの首に突き刺さった。
「…っ!……!」
 イアルが呼吸も出来ずにその場に倒れ伏す。ロウガは弱者である己の弟
を見下しながら言葉を吐き捨てる。
「「皇帝の十字架」に勝利して天狗になっていたか?天狗の末路はみじめな
ものだ。誰も救わず、ただ一人のみ地獄を味わう」
「……だ…ろ」
「…?」
 力を振り絞って声を上げようとするイアルにロウガが怪訝な表情を浮かべ
る。いやそれよりも先ほどの致命打の打点をずらしていたというのか。
「てめぇ…みたいな最強野郎が、ずっと前にいたんだ、天狗になるわけ…」
 イアルの眼に生気が戻る。
「ねーだろうが!!!!!」

 ドゥン!!

 イアルの引き起こしたサプライズアタックが周囲の黄金床とともにロウガを
吹き飛ばした。ロウガは空中で受身をとると、隙無くイアルと対峙した。

 ロウガはそこで気が付いた。

 若干であるが、イアルの腕に薄く大蛇の紋様が浮かんでいることに。

「ゲオルグの────呪い──か」

 ロウガが珍しく焦燥に駆られた声を吐いた。
「ゲオルグの…呪い…だと?」
 イアルがロウガが吐いた不可解な言葉を繰り返す。


 ──────────────汝に死の安息を。


 突如ロウガの眼に「死」が宿る、それは「暗殺王」が真の力を発揮した証。


「Enchant Deadly───────」


「そこまでだ」
 突如として、ロウガとイアルの間に、割って入り、戦いを止める声。

 2人の間に割って入った男はイアルとロウガにはあまり関わりが無く、

 だが、名前はよく知っている男だった。

「「死を体現する者」ディスクリート=イノックシャース」
 ロウガの言葉にディスクリートが静かに頷いた。
「お前が…!」
 イアルもまたジュニア達から話だけは聞いていた。魔法都市ゲフェンで間
接的にだがレイを死地に追いやり、ジュニアとエリカを戦いで圧倒した男。

 この男が何故この場に現れる──────────

「ロウガ=ブラスト、貴公が本気でかかれば現在のイアル=ブラストでは数
秒ももたないでしょう。それとも殺す理由が出来てしまいましたか?」
「邪魔をするな、邪魔をするなら─────」
「私と戦いますか?」
 ディスクリートの両手にエインフェリア、天界の戦士の証たる「The Sign」が
浮かび上がる。ロウガが正確に戦力を分析する。勝てない相手ではないだ
ろう。だがそれはリスクがあまりにも大きな賭けであるとも言える。
「ディスクリート=イノックシャース。アウレリアス=サタニック=ダークロード
を現世に召喚した施術者セリンの実弟、そしてこの世界に残された4つの「神
器」のうちの一つ、「メギンギョルド」の簒奪者にして現所有者────」
 ロウガの言葉の中にあった「神器」という言葉を聞いてイアルがディスク
リートに視線を向ける。
「神器…だと」
 ディスクリートの両拳に光が宿る。

「太陽と月と星の─────悪魔」

 ディスクリートの姿が消失する、いや消えるほどの速度でロウガに肉薄す
る。ロウガはディスクリートの攻撃を捌きつつ、言葉を吐き捨てた。
「ルーンミッドガッツ王国建国王、ゲオルグ=トリスタン=ルーンミッドガッツ
一世が受けた呪いが絡むとなれば貴様が現れるのは当然の事だったな。
迂闊だった」
「建国王…トリスタン一世…!?」
 イアルは完全に話から取り残された状態となった。大きくわからないことが
3つある。

 ゲオルグとは一体、ルーンミッドガッツ王国の建国王はフィリア=フェリカ
=ルーンミッドガッツ一世のはずである。

 この謎の男、ディスクリート=イノックシャースは神器「メギンギョルド」を保
有しているという。

 そして、何故ディスクリートは自分をかばった。自分を生かすことに何のメ
リットがある。

「畜生…何なんだよ…!」
 しかも、どちらの戦闘レベルも今のイアルではついていけないほどの次元
の戦いになりつつある。凄まじい攻防の応酬、このレベルについていけるの
はレイ=フレジッドや「皇帝」アイフリード=フロームヘルくらいのものだろう。

 ズダン!

 ディスクリートとロウガが超至近距離で向かい合う。ディスクリートの表
情が愉快気なものに変化する。
「ふむ───フェイトも考えたものですね。フィリ=グロリアスだけではな
かった。貴方もまた───聖杯統合者…「ユミルの聖杯」の力を持ってい
るということですか」
「…どうあっても退くつもりはないか」
「貴方が退けば私も退きましょう、ロードオブデスの名にかけて」
「…」
 ロウガは少しだけ口惜しげな表情を浮かべたまま闇の中へと姿を消した。
そしてディスクリートが静かにイアルの方に視線を向けた。
「レイ=フレジッド、ジュニア=サイドライク、そしてイアル=ブラスト。素晴
らしき「死」を内包した者達よ。もっともっと私を歓喜させてください」
 ディスクリートはそう言葉を残し、姿を消した。
「──────何がなんだか、わからなかったな…」
 だが、イアルは感じ取っていた。世界にはまだ自分が知らない何かがあ
る。そしてそれは自分だけではない、まわりの者達にすら破滅を呼び込む
何かだということだ。
 昔の自分なら敵わぬモノがでてきた時点で心が折れていただろう。だが
レイ達とともに歩むことで強い心とそれに見合う力を手に入れた。

 お前らの思い通りなんかにはさせるかよ────────絶対にな。

 複数の足音とともにイアルの背後にはエンシェントマミーの大群。イアル
は短剣片手にその群れへと突っ込んでいった。

 ◆

 「幻影」 ウェルガ=サタニック=ダークイリュージョン

 なんという化け物であろうか。たった一人で対峙して戦ってみて、そして理
解した。レイはたった一人でこの化け物と戦っていた、こんな化け物と戦っ
ていたのだ。すでに万策尽きたといっても過言ではないだろう。

 決め手である「ホーリーシャイン」ですらこの化け物には通用しない。

 もはや奇跡でも起きない限り、この化け物には勝てない。こんなとき、レ
イならどうするだろうか。生きるための悪あがき?それとも逃走?命をかけ
ての突貫だろうか?

 どれも違う───────

 レイならば──────────────機を待つ。

 狩人の本領を発揮するかのごとく、どれほど相手が強大だろうと、その
隙を見出し、己の全てを叩き込む。そうやってレイは勝利してきた。

 「幽鬼なる海魔」 ドレイクを相手にしたときも。

 「真紅の旅人」 トレントを相手にしたときも。

 「皇帝」 アイフリード=フロームヘルを相手にしたときも。

 それが最善とは言えないだろう、だがフィリはその道を辿ることを決意し
たのだ。そう生きると覚悟を決めたのだ。

 フィリはゆっくりと杖を構え、静かに詠唱を開始した。

 長き─────長き詠唱を───────

「万策尽きたかフィリ=グロリアス!愚かにも程があるぞ!!」
 凄まじいエネルギーがウェルガ=サタニックの手にこもる。瘴気と魔力
が渦巻き、全てを滅する重量エネルギーに転化される。
「ここで果てるがいい!「ユミルの聖杯」──フィリ=グロリアス!!」

 ウェルガのグラビティブラスト「Hamatan 」が放出される。

 迫り来る魔の力。

 フィリはこんなときだというのにレイの事を想っていた。

 ◆

 ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラ────────

 魔力の奔流を感じる。

 激流のごとき大魔力の放出。

 感じる。

 世界の鼓動を。

 世界に散らばったユミルの心臓の欠片の共鳴を。

 フェイト=トリスタン=ルーンミッドガッツ四世が狂喜する。
「覚醒せよ────「ユミルの聖杯」、世界の新たなる器!もう一人のユ
ミル!フィリ=グロリアスよ!」

 ◆

 世界と己が同一になったような感覚。

 世界の鼓動をその身で奏でる。



 フィリの背中に白銀の翼が生まれ出でる─────────────



 本物の翼ではない。フィリの魔力が具現化した幻視の翼。この世界の混
沌、光、闇、全ての魔力を凌駕する力を顕現させている白き輝く翼。グラス
トヘイムでフィリが一瞬だけ出した──────────

 もう一人のユミルの証──────────

 ウェルガ=サタニックが目を見張る。

 ウェルガは強い。強いからこそ、コレが危険なものである事を感じ取った。

 フィリの長き─────詠唱が完了する。

 「ストームガスト」や「ロードオブヴァーミリオン」などと肩を並べる禁呪の一
つ。この世界ではすでに単独でこれを扱える使用者は誰一人おらず、複数
の聖職者たちが集まり、儀式によりようやく発動が可能となる強大な魔法。

 天より授かりし聖なる大結界。

 魔を放逐し、死者を滅する絶対の言霊。



  



 かつてアルベルタを襲撃した「幽鬼なる海魔」ドレイクへと放たれたモノと
はレベルが格段に違う、絶対なる退魔の聖十字が古代アリーナ覆うほどの
光となった。
「ウオアオオオオ…オオオオオアアアアアアァァ!?!」
 ウェルガ=サタニックが悶え苦しみながらも己の闇で光を押さえ込み、
憎悪のこもった視線をフィリに向けた。
「フィリ───グロリアス…!」
 ウェルガにはまだ余力がある。フィリはそれを感じ取った。
「この場は譲ろうではないか…もし貴様達が「古の黄金王」オシリスを倒し、
フェイトの待つ首都プロンテラにやってきたとき、そのときは…」

 ウェルガ=サタニックが──────

 「闇の眷属」の大魔族──────

 「幻影」 ウェルガ=サタニック=ダークイリュージョンが──────

 今まで見たことない程に楽しげな表情を浮かべた。

「──────我々の因縁に終止符を打とうではないか」

 ゴァ───!!

 ウェルガの姿が黒き竜巻とともに消失した。

「…う」

 フィリは凄まじい魔力を放出したため立ちくらみを起こした。フィリの放っ
たマグヌス・エクソシズムで古代アリーナの敵を一掃できた為、ティアやロ
イヤルミスト達が慌ててフィリに駆け寄る。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「…何とか」
 やせ我慢してそう言ったものの、もはや指一本動かせそうにない。

 だが戦いは終わっていないのだ。

 ◆

 サンダルマン要塞「黄金宮」最奥──────

「く…っはっ…ぜは…」
 ジュニアは右手に大鎌「クレセントサイダー」を持ったまま、己が敵に視
線を向けた。ジュニアの前に立つ魔王には動じる気配など欠片もない。

 最強にして最後の敵─────────

 「古の黄金王」オシリスは黙したまま─────────

 己に挑む虫けらに視線を向けていた─────────

 [続]


〜あとがき〜
次回、サンダルマン要塞編決着。
次の話でメインストーリーはいったん幕を閉じ、
間に「真紅の旅人」の物語を挟みます。


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