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Ocean's Blue

083:受け取る想い

 旅を続けるうちに私とジュニアの想いがお互いに向くのは、そう時間がか
からなかった。互いに気持ちが通じているのがわかるのだけど、それでも
相手に気持ちが伝えられない事情が私とジュニアの間にはあった。

 私、エリカ=フレームガードは人間

 彼、ジュニア=サイドライクは魔族

 本来ならば相手の存在すら許さず滅する存在。だけど私達は違った。互
いの想いを感じつつ、だけどそれを相手に伝えられず、もやもやを抱えたま
まずっと旅を続けていた。

 そして私達は再び出会ったのだ。

 アマツとイズルードをつなぐ船上で─────

 フィリ=グロリアスという少女を連れたレイ=フレジッドと─────

 ◆

 サンダルマン要塞「黄金宮」最奥──────

「小細工も通じない、あらゆる技能を駆使しても歯が立たない」
 ジュニアはシニカルな笑みを浮かべると独り言を呟いた。
「さて─────どうすべきかな」

 「古の黄金王」 オシリス

 世に名だたる「魔軍七大勢力」の一角、「古の眷属」が魔王。

 その力は既に神の領域へと足を踏み入れている。

 オシリスが纏いし闇紫色の包帯が触手のように蠢き、己が御前に立ち塞
がる虫けらをどのようにすり潰すか思案しているようだった。

 ロードオブヴァーミリオンは切り札だ。あれを使用できるのは精々数発が
限度だろう。ならば、それを叩き込める隙を生み出すしかない。

「「魔界の貴公子」よ、少々遊ぼうかと思っていたが────飽いた」

 オシリスのその言葉を言い放った瞬間、「黄金宮」を埋め尽くすのでない
かと思われる程に包帯触手が広がった。

 ドガガガガガガガガ!!

「────────────ッ!!」
 凄まじい包帯触手の連続攻撃、ジュニアはそれを捌きながら少しずつ後
退させられていった。と、背中に違和感、壁に追い込まれた。

 ズン

「────クソ」
 右脚を包帯触手に貫かれた。その状態で包帯触手の攻撃が止む。ふいに
右脚から持っていかれる浮遊感、貫いた右脚を基点に吊り上げられたのだ。
そして幾重にも及ぶ衝撃、壁、天井、床、あらゆる所に叩きつけられたのだ。

 気付けばジュニアは「黄金宮」の床に倒れ伏していた─────

「ク……ソ…」
 圧倒的過ぎる。攻めても全てを弾き返され、相手の攻撃は全て回避しきる
ことはほぼ不可能。ダメージの蓄積、死への蓄積。ここでロードオブヴァー
ミリオンを用いようとおそらく結果は変わるまい。

 このまま手加減を続けていたらの話だが。

「さすがは名立たる七魔王──────最強と言われるわけだ」
 ジュニアの周囲に突如オーラが吹き上がった。
「こちらも手加減して悪かったよ、本気で行かせてもらう」

 ドゥン!!!

 凄まじいまでの「気」の爆発。「魔軍七大勢力」最強の魔王の血が戦いを
求めて歓喜の産声を上げた。これほどの魔力の解放を行ったのはルイー
ナ決戦での「皇帝」アイフリード=フロームヘルとの戦いのときだけである。

「ほぅ…だが結果は変わらぬ」

 オシリスは一瞬だけ興味を持った視線を向けたが、すぐに興味を失ったよ
うだ、包帯触手が蠢き出し、その全てがジュニアに向けて放たれた。

 ジュニアが手をかざした。


 


 怒り狂う雷龍の閃光が包帯触手を薙ぎ払った。
「─────何だと」
 オシリスが初めて上げる驚きの声。その隙をジュニアは見逃さない。
「空間支配」
 ジュニアの持つ空間干渉能力が周囲の空間をブレさせる。その干渉によ
り、「オシリスの背後」にまわったジュニアが言い放つ。
「あまり手間をかけさせるな、オシリス」
「──────────ッ!」
 オシリスが今度こそ驚愕した。そしてオシリスが反応するより早く────

Labyrinth 

 ジュニアの大鎌「クレセントサイダー」がオシリスの首を刎ね飛ばした。宙を
舞ったオシリスの首は「黄金宮」の床でドン、ドンと跳ね、無惨に転がった。

 遅れて、オシリスの身体がゆらりと倒れ伏し─────────

 闇紫色の包帯が灰となった─────────

 同時にサンダルマン要塞中の「古の眷属」が消失した──────

「…」
 勝った────────────か。

 ジュニアがその場に膝をついた。緊張から解放され、脱力感を感じたの
だ。おそらく最後の攻防が成功しなければ、もはや手立てはなかった。そ
れほどまでにオシリスの力は強大だったのだ。

 だが当面の問題としてジュニアには頭を抱えたい問題があった。
「エリカに─────────どう謝ろう…」
 なるようになるか、ジュニアはそう思い、ゆっくりと立ち上がった。
 






















 ズシン─────────


 ぼとり─────────


「──────う」


 突如、極限まで広がる激痛。ジュニアは己の「左腕」が「黄金宮」の床に
落ちているのを目の当たりにした。己の左腕の付け根からは血が噴出し、
左腕は足元に転がっている。
「う…あああああああああああああああああ!!」
 ジュニアの絶叫とともに、周囲の空間が黒く歪んだ。

『「魔界の貴公子」──────見事だ。我が首を刎ね飛ばしたその戦果
に免じ、「古の眷属」が王、オシリスの真の姿をお見せしよう』

 瘴気が収束している。

 「古の眷属」─────その全ての魂を喰らい瘴気が拡大する。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 瘴気の拡大に伴い、サンダルマン要塞に揺れが生じ始めた。

「……っ」
 ジュニアの瞳に絶望の色が宿る。気付いてしまったのだ、オシリスがどう
いう存在なのかということを。

 生物が死す際に残す「死にたくない」という残留執着心。

 生への執着と呼ばれる悪意の集合体。

 悪意と名づけられた瘴気の塊。

 「古の眷属」と名づけられた魔物達は悪意という名の瘴気の一部。

 それら全てを統合したものが真なる「オシリス」

 「古の黄金王」 オシリス

 世に名だたる「魔軍七大勢力」の一角、「古の眷属」が魔王。

「あ──────あ──────…」
 見立てが甘すぎた。心の底では勝てるかもしれない、そう思ってしまって
いた。そうではなかったのだ──────────こんなモノに勝てるわ
けがない、だからこそレイはドレイクに対して「ラグナロク」を使用したのだ。

 ズズズズズズズズズズ…

 サンダルマン要塞よりもはるかに巨大な瘴気の魔神が顕現する────

 瘴気の魔神と化したオシリスを見上げ──────────

 ジュニアが肩を落とし、視線を床に向けた。
「ク…クク…」
 笑いが止まらない。こんなものに挑もうとしていたのか、自分は。

 ごめんエリカ──────────やっぱり帰れそうにない。

 だけど君達の道は僕が必ず切り開く──────────

 見ていてくれ──────────

 ジュニア=サイドライクという存在が咲かす最期の華を────────

 ジュニアは─────己の全てを解き放った──────────

 ◆

「何だ…あれは」
 ロイヤルミストが絶望の声音で呟いた。

 敵が突如消滅したのも束の間──────────

 吹き上がる土煙の中より現れる魔神──────────

 サンダルマン要塞の大きさをはるかに超えた瘴気の魔神が出現したの
だ。王たるフィリ=グロリアスすら身動きが取れなくなるほどに絶望の視線
をその魔神に向けていた。誰もが気付いていたのだ。あれがオシリスだと。

 自分達は勝てるわけがない戦いを挑んでしまったと────────

「おい、あれ─────」
 誰かがそれを指差して呟いた。

 土煙の中より─────────もう一体の巨人が出現したのだ。

 その姿はまるで「魔軍七大勢力」の最強の魔王に酷似していた。

 褐色の肌に大山羊の角──────巨大な大鎌─────────

 だがその姿は痛々しかった。全身に激しい傷を負っており、特に激しい傷
として挙げられるのは片腕を、左腕がないということだ。左腕の付け根から
は血が溢れ出し、もう一体の巨人の命を奪っていくかのようだった。

 瘴気の大魔神と化したオシリスに──────────

 傷だらけの巨人がフィリ達を守るように対峙した──────────

 ふらり…ふらりとおぼつかない足取りでエリカがフィリの隣まで戻ってき
た。エリカの表情は蒼白で傷だらけの巨人にずっと視線を向けていた。
「ジュニア…ジュニア…」
「─────っ!」
 フィリがエリカが呟くその名前でそのもう一体の巨人の正体に気付いた。
「ジュニア…!」
 フィリが呟いたその言葉に反応してエリカが絶叫した。

「ジュニア────────ァァ────────ッ!!!」


 その叫びを背に、傷だらけの巨人となったジュニアが咆哮を上げ、瘴気
の大魔神となったオシリスへと突進した─────────!


 大切な人たちを守るために─────────!


 愛する人を守るために─────────!


『魔王継承の力を解き放ったか。貴様は間違いなく死ぬな。魔王に相応し
き器を身につけてから魔王継承の儀は行われる。器無き者にそれ以上の
魔力が流れ込めばどうなるかわかるな─────────崩壊する』
 オシリスの言葉にジュニアが答える。
『わかってるさ─────────だけど、それでも、僕はここで守るべき
ものを守らなければならない─────────!彼女達の道は僕が切
り開く!!』
『やってみるがいい─────────!出来損ないの魔王よ!』
 オシリスの拳がジュニアの顔面に突き刺さった。右眼を抉り取り、そのまま
捨て去る。オシリスの哄笑がサンダルマン要塞に響き渡る。ジュニアが大鎌
を振り上げ、オシリスの肩口に叩き込む。
『効かぬ─────────!全く効かぬ!わからぬか!この世界の全
ての者が死にたくないと望む!それが我が力となる!死にたくないと望む生
への執着こそが最強!』
 オシリスの爪がジュニアの胸板に深々と突き刺さる。ジュニアの胸から噴
出した血の雨がサンダルマン要塞とフィリ達の身体を朱色に染め上げる。

『その執着という名の悪意を持ってして我々は太古の昔より跳梁跋扈を繰り
返してきた!故に我らは「古の眷属」────────!!その悪意なる
命の永きを用いて太古の昔より巨万なる富を築いてきた!故に我が名は
「古の黄金王」───────!!その力!絶大なり!!』

『違う───────────』

 オシリスの力ある言葉を遮るジュニアの否定。

『真に強きは人の想いだ───────!我々魔族よりはるかに脆弱な人
間が我々魔族に対抗し得た!?人は想いを力に代えることができる唯一の
存在だからだ!どの種族も持ち得ない想いを抱くことができる力を持ってい
るからだ────────!』
『どの種族も持ち得ない想い────────だと?』
『そうだ────────』

 身体をほぼ動かない、命あるものが最期に振り絞る力を持ってジュニアが
その身の魔力を解き放つ────────!

『人は──────愛する想いを抱くことができる唯一の存在だからだ!』

 サンダルマン要塞の天空に浮かび上がる魔法陣。

 その力の総量を感じ取り────────オシリスが驚愕した。
『まさか────────これは────────バカな!』
 こんなものを喰らえば、タダではすまない。いや死ぬ。生への執着を起源
とした悪意の結集体である、とめどなく魔力を持っているはずの自分ですら
生き残ることはできない。
『何故だ────────何故貴様にそんな力が────────!』
 オシリスの叫びにジュニアはシニカルな笑みを浮かべた。


『僕もまた────────人を愛してしまったからさ────────』


 天空に浮かび上がりし魔法陣より雷龍が堕つ────────


 


 ◆

 サンダルマン要塞での戦いが終わって1日が過ぎた──────── 

 エリカはフィリとともにサンダルマン要塞の瓦礫の中を歩き回っていた。

「フィリさん、私────────ジュニアに伝えられなかったんです」

 オシリスを消滅させたロードオブヴァーミリオンの後、ジュニアの捜索が行
われた。だがジュニアの姿は無く、ただジュニアが武器として使用していた
クレセントサイダーの折れた刃先のみが落ちていた。主が存命ならば、クレ
セントサイダーは自動的に再生するはずである。それが折れたままというな
らば、ジュニアはやはり────────────────

「貴方のことが好きですという一言が─────告げられなかったんです」

 だが、ジュニアが残してくれたモノは大きい。首都プロンテラまではほぼソ
グラト砂漠────────すなわち砂漠を制圧していたオシリスを排除
したことで、首都プロンテラへと一気に向かうことが可能になったのだ。

「ジュニアは────────私に好きだとしっかり告げてくれたのに」

 この戦いの後、新たなる王、フィリア=フェリカ=ルーンミッドガッツ二世が
決起し、さらには誰も倒せないと思っていたオシリスを撃破したことを知った
義勇兵、冒険者達などが次々とフィリの元に集うことになる。図らずもこの
戦いがもたらした効果は絶大だった。

「────────泣いていてもはじまらないことはわかります」

 エリカがフィリに微笑んだ、目から溢れる涙をぬぐいもせずに。レイが遺し
た想いをフィリが継いだように、エリカもまたジュニアの想いを継ぐことを決
意した。フィリとともに首都プロンテラへと向かい、フェイトの手からこの国
の平穏を取り戻すことを────────

「ごめんなさい…でも、今日だけは…泣いてもいいですか…」

 エリカはフィリの胸に顔を埋めて泣いた───────

 エリカは今日この日、パラディンへと転生した────────

 ジュニアが遺した大切な、大切な想いを継いで───────────

 [続]


〜あとがき〜
また一人仲間が欠けました。「ギルド攻城戦」はあくまで試合。
今行われているのは本当の戦争です。命の奪い合いです。
と──────3部のメインストーリーの導入編は終了です。

次回は完全にノリが逆転します。

次回予告、「トレント★樹海団」の面々は船でイズルードに向かっていた。
フィンはヴァルキリーレルム砦でトレントに下剤を仕込まれた恨みを
忘れてはいなかった!トレントの料理に下剤を仕込むフィン!
そしてトレントのまたいつものノリでフィンの料理に下剤を仕込む!
船にトイレは一つ!生き残りを賭けたトレントとフィンの死闘が幕を開ける!


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