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Ocean's Blue

084:なみのり

 サンダルマン要塞でフィリ達がオシリスを倒した頃────

 「亀族の大将軍」タートルジェネラルを撃破し、アルベルタの豪商オールド
=グロリアスより巨船を譲り受けたトレントは冒険者の連合を連れ、海路で
首都プロンテラに最も近い都市──衛星都市イズルードを目指していた。
 海路ということもあり、魔物の襲撃も無く、トレント達は船上で退屈を持て
余す日々を過ごしていた。だが、トレントはそれでもいいと思っていた。イズ
ルード、そしてプロンテラと、この先には想像を絶する程の戦いが控えてい
るのだ。戦士達の束の間の休息、今は休むべき時なのだ。

「くっくっく…」

 その束の間の休息を乱すものが現れようとは誰が考えようか。何とそれ
は「トレント★樹海団」ナンバー3、フィン=ロルナークの悪人笑いだった。
「俺は忘れてねぇぜ…トレント。ヴァルキリーレルム砦でのお前が俺に与え
た屈辱を!プライドを根こそぎもっていったあの下剤投入を!」

 今日こそ復讐を果たすとき─────

「最近は忙しかったからな、やる機会もなかったが…ヒマそうにしてる貴様に
ヒマじゃなくしてやるぜ…トイレで好きなだけNEETのごとく引きこもりオンライ
ンと化すがいい、くーっはっはっは!」
 現在時刻11:55〜もうすぐトレントが船上で昼食をとる時間だ。トレントが船
のコックに無理矢理頼んで毎日つくらせているカレーライスなる異国の料理
がすでにテーブルに並べられている。

 ス…

 フィンは懐から「呪われた水」と刻まれている下剤の瓶を取り出した。トレ
ントはいつも真ん中に座るので真ん中のカレーにその全てを投入────
しようとしたが半分入れた所でトレントや他のギルドメンバー達が現れた。
「でもトレント、やすり紙持ち歩いても剣の手入れにも使えないんじゃ?」
「やらんよりかマシだろーが、長旅のときどーすんだよ」
 フィンは慌てて調味料の所に下剤を起き、平静を装った。
「よぉ、トレント。いい天気だな」
「フィン、天気の話は貴族様とかにしてやると喜ぶぞ、多分な」
 トレントはフィンが下剤を仕込んだカレーの席にどっかりと座った。
「すまん、ちょっと手洗いにいってくるわ」
「さっさとしろ、冷めるだろ」
 フィンはさすがに下剤を触った後に自分の飯を食べたくなかったので超
ダッシュで手を洗いに行った。その間、わずか1分の間にトレントは調味料
の中に下剤があるのに気付いた。
「ん…誰のイタズラだよ」
 トレントはそう言いながらフタをカパりと開け、フィンのカレーに下剤の残り
全てをドササー!と投入した。ギルドメンバーの女性陣、ルアーナやアル
ヴィン、アリシャだけでなく、男性陣のプレックスターや「皇帝の十字架」の
幹部で百戦錬磨のライジング=ボーンドまでドン引きした。
「わりわりお待たせ!」
 フィンがこの先の悲劇を知らずにテーブルに座った。

 そして運命の食事が始まる────────

 トレントはフィンの死を確信した。
 フィンはトレントの死を確信した。

 そして…来るべきして来るものがやってきた────────

 ぐきゅるるるるうるぅぅぅぅうううう────────

 トレントがカレーを口に含むのを止め、フィンを睨みすえた。額には脂汗が
びっしり浮かんでいた。前屈みになりつつ、凄まじい憎悪の視線を向ける。
「フィン…てめぇ…やりやがったな…」
 だがフィンもまた脂汗びっしりの前屈み状態と化していた。
「またか…またなのかトレント貴様…ぁぁぁぁ!」

 「トレント★樹海団」のクルセイダー、アルヴィンが呟いた。
「片付けましょうか」
 「トレント★樹海団」のハンター、アリシャと「トレント★樹海団」のアサシン、
プレックスターがコクリと頷いた。巻き込み防止のため、テーブルを手早く片
付けた。
「手慣れているな」
 ライジング=ボーンドが感心した声を上げた。
「「いつものこと」」
 アルヴィンとアリシャとプレックスターの声がかぶった。

 ガン!

 トレントとフィンは椅子を蹴飛ばしながら立ち上がり、剣を引き抜いた。

 じり…じり…

 トレントとフィンは互いに牽制しながら移動を開始した。トレントもフィンも
わかっていたのだ。3つ男子トイレは1つは改装作業、1つは根こそぎ故障
で、残る最後の1つしか使用できないことを────────!
 すなわちこの戦いは『ギルド攻城戦』のレースにも似た戦いになるというこ
とだ。トイレをエンペリウムに見立てたレース戦。敗者には絶望のみしか残
らない。生き残るのはトレントかフィンか────────

 生き残りを賭けたトレントとフィンの死闘の開幕である!!!

 トレントが静かに口を開いた、脂汗びっしりのまま。
「フィンよ、いつかこういう日が来るとおもってたぜ…お前と完全決着をつけ
る日がな!」
 フィンがその言葉に答える、脂汗びっしりのまま。
「調子に乗れるのも今日までだぜトレント…!今日この日、お前を倒して俺
は全てを取り戻す!」
 腹痛には波というものがある。ビッグウェーブ来ているとき人は行動不能
に陥るが、それが来てないときは人はビッグウェーブが来ないよう慎重に行動
すれば何とかなると人は思い込む。慎重に動いてもくるものはくるのだが。

 2人は手っ取り早い方法を選択した────────

 ビッグウェーブが来る前に相手を排除する!

「ツーハンド…クイッケン!」
 フィンは自らの身体に黄金のオーラをまとった。攻撃速度を倍加する騎士
のスキル、フィンは高速での攻撃をトレントに加えた。
「ッチ!」
 フィンの先を考えない攻撃にトレントが防戦一方となる。フィンはビッグ
ウェーブの到来を早めてでもトレントを排除に来ている。未だかつてない
ほどのフィンの裂帛の気合いにトレントが押される。

 ガッ!

 トレントは船の床のタイルの目に足を引っ掛けた。
「しま…っ!」
「終わりだトレントーーーーーーーーッ!!!」
 フィンのバッシュがトレントへと振り下ろされる。








 








「うぎゃああああああああああああああ!!」
 フィンが悲鳴を上げながら倒れ伏す。フィンはビッグウェーブの力に抗い
きれず腹を押さえて蹲った。その隙を見逃すトレントではなかった。
「残念だったなフィン!相変わらず詰めが甘」








 








「Nooooooooooooooooooooooooooooooっ!!」
 トレントが力尽き倒れる。「亀族の大将軍」との戦いですらこれ程の地獄を
味わっていない。凄まじき消耗戦。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 復活したフィンが咆哮を上げながら立ち上がる。続いてトレントもゆらりと
立ち上がった。フィンはその瞬間戦慄した。

 フィンの足元に極太のソードナイフが突き刺さっている。

 気配を感じさせず相手を射るトレントの得意技。トレントが本気を出してき
ている証拠である。トレントが静かに口を開いた。
「どけフィン…トイレを俺に使わせないと…殺すぞ?」
 暴君そのままの言葉をフィンに吐き捨てる。だがフィンは負けられない。こ
こで負けることは全てを捨て去るに等しいからだ。このまま本気のトレントと
戦えば結果は見えている。

 このまま手加減を続けていたらの話だが。

「さすがはトレント──────「裏切りの王」と呼ばれるわけだ」
 フィンの周囲に突如オーラが吹き上がった。
「こちらも手加減して悪かったな、本気で行かせてもらう」

 ドゥン!!!

 凄まじいまでの「気」の爆発。「真紅の旅人」の力が戦いを求めて歓喜の産
声を上げた。これほどの力の解放を行ったのは「亀族の大将軍」タートルジェ
ネラルの戦いのときだけである。

「フン…だが結果は変わらねぇよ」

 トレントは一瞬だけ興味を持った視線を向けたが、すぐに興味を失ったよ
うだ、ソードナイフを取り出し、その全てをフィンに向けて放った。

 フィンが己が剣、風の力をまとったクレイモアをかざした。
「マグナムブレイク」
 風によりさらに燃え盛る紅蓮がトレントのソードナイフを薙ぎ払った。
「─────何だと」
 トレントが上げる驚きの声。その隙をフィンは見逃さない。
「ツーハンドクイッケン!」
 フィンは再び黄金のオーラをまとい、攻撃速度を向上させた。物凄いス
ピードでフィンは間合いを詰めるとトレントの背後に回った。
「あまり手間をかけさせるな、トレント」
「──────────ッ!」
 トレントが今度こそ驚愕した。そしてトレントが反応するより早く────








 








「グア─────ゥ─────ッ!」
 フィンの悲鳴が響き渡る。動きすぎた、もはや今回のビッグウェーブは止め
られない。フィンはもがき苦しみ、悶えていた。
「…」
 トレントは静かに目を伏せた。

 何でこんなことになってしまったのだろう────────

 親友の命をこの手で奪わなければならない日が来るとは───────

「あのクソギルドマスター絶対許さねぇぇぇ!!」
「集合場所を俺だけオークの村にしやがっただろうがぁぁぁ!おかげで夜通
しオークどもと戦うことになるわ、オークレディと結婚させられそうになるわ、
ハイオークに夜這いかけられそうになるわ…散々だったんだぞ!?」
「今忙しいんだよ!やる気ないならとっとと寝てろ!」

 フィンには理解されなかった────────────が、

 辛い思いもたくさん────させた─────────

 つまるところ暇つぶしの相手にフィンという存在はとっても最適だった。

 だからこそ─────────

 負けてたまるか。

 諦めてたまるか。

 俺の暇つぶしになってくれた───フィンのために!!

 フィンをキッチリ倒して─────俺はスッキリする──────!!

 トレントの眼が一際紅く───輝いた。



「おい…あれすげぇぞ…」
 冒険者の誰かがトレントとフィンの戦いを指差した。
「なにあれ…」
「常軌を逸してるぞ!?」
 視線の先、その指先にある存在はトレント。
 トレントが魔剣「エクスキューショナー」を天高く掲げ、それに銀色の凄まじ
いエネルギーが、ハリケーンのごとき凄まじい力が収束していたからだ。

 凄まじい轟音が船上を揺るがす。

 ◆

「そう、それでいいトレント」
 その戦い見入っていた「皇帝の十字架」ナンバー2であるライジング=ボー
ンドが静かに呟いた。
「その執念が───お前を強くする」

 ◆

 ギャギギャガガッガガガガガガガガガガ!!

 凄まじい異音を奏でながら、トレントの魔剣に銀色の瘴気が収束していく。

 真紅剣───「銀狼」

 トレントの魔剣に収束する恐るべき力が、今まさに相手を喰らわんとする
狼の牙から涎をたらしているかのような雰囲気をかもし出していた。
「とっておきをくらわせてやるぜフィン!俺の正真正銘最期の切り札、お前
ごときに使うつもりはなかったんだがな!」
 だが。
「お前は強ぇ。冗談抜きでここまで強いとは思わなかった。だから潰す──
俺のトイレを阻むものは全て潰す!!」

 次の瞬間、トレントの放った超衝撃波が悶え苦しむフィンを吹っ飛ばした。

 フィンの身体が船上から海へと落下して、ざっぱーんという音が聞こえた。

 トレントはゆっくりと剣を鞘に収めると、静かに呟いた。
「フィン…海中で好きなだけ己を解き放つがいい…。海中なら誰も気にしな
いさ…」








 








「…ック、急がないとな…」
 トレントは額に脂汗をにじませながらゆっくりと歩み始めた。

 ◆


 〜しばらくお待ちください〜


 ◆

 船上のトイレの中、全てを解き放ったトレントは至福の表情を浮かべた。
「さてと紙でケツ拭いて」

 無い。

「バカな…紙がないだと…!?」

 ッハ!

 トレントは恐るべき事実に気がついた。食堂に来る前に話題に上ってたや
すり紙があるではないか…!なんという幸運、これで最悪の事態は回避で
きたと言っても過言ではないだろう。

 トレントは懐からやすり紙を取り出し、そして──────────























 

じょりっ



 ◆

 ライジング=ボーンドが怪訝な表情を浮かべながらルアーナに尋ねた。
「今、男子トイレの方から、物凄い悲鳴が聞こえたのだが」
「1日もせずに2人とも復活するって、いつものことだし」
「そ、そうか…」

 [続]


〜あとがき〜
何だこの話…!?
書いて後悔した話は久しぶりですわ…orz
次回以降またメインストーリーが進行します。
次回予告、首都プロンテラにフェイトが召集をかける。
ウェルガやハウゼン…敵の揃い踏み!決戦は間近です。


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