前へ  小説目次へ  次へ

Ocean's Blue

086:真紅幻想

 「トレント★樹海団」の歯車が動き出したのはいつだっただろうか───

 構成メンバーの中で初めに出会ったのはトレントとフィンだった。衛星都市
イズルードでのソードマン転職場で2人の腐れ縁は始まった。その後、トレン
トとノービス時代に組んだことがあるルアーナを加えて、彼らの冒険は幕を
開けたのだ。仲間のルアーナと同じ名を持つ「真紅都市ルアーナ」、それを
追い求めると決意したその日、フィンはトレントに一つの条件を提示した。

 俺は根本的に甘い人間だ。
 100を救うために1を切り捨てることを躊躇する。
 だがお前は違う。
 お前は躊躇無く切り捨てることができる。
 リーダーには冷静さと非情さがなければいけない。
 だからお前が俺たちを引っ張れ。
 俺はお前についてってやる。
 だが──────

「もし実際に誰かを切り捨てる事になるときは、俺を切り捨てろ。俺の主義に
反してもお前のやることには従う。文字通り手足になってやる。しかし、この
役だけは他のやつにやらせられない。根が甘い俺の最大の譲歩だ。1を救
えないのなら、せめてその1に俺がなれば結果は同じになる」
 その言葉に対し、トレントは少しだけ考えた後、こう答えた。
「捨て駒になるまで死ぬなよ」
 と。

 フィン=ロルナークという男の決意、覚悟を───────

 トレントという男は知っている─────────────

 ◆

 バイラン島海域──────

 ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラを海路で目指すトレント達の前に
現れた魔軍七大勢力が一角、「亜の眷属」の刺客、オーク族最強の英雄、
オークヒーロー。その力は魔軍七大勢力の七魔王に匹敵するとすら言われ
ている。立ち塞がる余りに大きな障害。だがトレント達はそれでも進み、歩み
を止めない。目的を果たす為に、未来を取り戻す為に。

「ふむ、慣れぬ海上の戦いとあっても士気は落ちぬか」
 オークヒーローは感嘆した。冒険者連合は海上での戦闘経験はほぼ無い
に等しいだろう。逆にこちらは海上を封鎖する為、凄まじい実戦訓練を繰り
返している。既に海上戦闘は陸上でのそれと何ら変わらぬ戦いを行うことが
できる。

 こちらの船とあちらの船がもう少しで互いの射程に入る──────

 その瞬間、オークヒーローは気付いた。
「…!同胞達よ!伏せろ!!」
 その叫びと同時に、オークヒーローに目掛けて衝撃波が放たれた。

「ボウリングバッシュ────剣圧衝撃波!!」
「小賢しい!!」

 トレントが放ったボウリングバッシュの衝撃波をオークヒーローが己が大剣
で受け止める。

 ゴガァァァアアアアアアン!!

 爆音の中、互いの船が射程範囲に入る──────

 冒険者連合とオーク族の死闘が開幕した。それに合わせてトレントが指示
をまわりに飛ばす。
「行くぞお前ら!ライジング=ボーンドとフィン、プレクは俺についてオーク
ヒーローをぶっ潰しにいくぞ!ルアーナは気配を消しておけ!アルヴィン、
アリシャはルアーナの護衛だ!周囲の警戒を怠るな!」

「「了解!」」

 トレントは去り際にルアーナに声をかけた。
「ルアーナ、「無限王」シリウスはどこから現れるかわからん。注意しすぎる
にこしたことはないからな」
「わかった。トレントも気をつけて」
「任せろ」
 そう言い残すとトレントはフィン達とともにオーク族の船へと駆け出した。

 オークヒーローが大剣をゆっくりと構え、向かってくる4人の冒険者を見据
えた。トレント達は散開し、オークヒーローを取り囲む。
「悪ぃな、こうでもしないとお前を止めれそうにないんでね」
 トレントは口の端を吊り上げると、静かに腰を落とした。
「来い、オーク族の英雄と詠われるその力を持って返そうではないか」

 ゴガァン!

 ライジング=ボーンドの不意打ちにも等しい蹴りを左腕で受け止め、オーク
ヒーローが裂帛の気合を放ち、大剣を振りかざした。

 大気が斬り裂かれた────────

 斬り裂かれた大気は摩擦とともに「稲妻」を発生させた。
「何!?」
 トレントの驚いた声、避けきれその攻撃をまともに浴びてしまったトレントは
意識を保てず、そのまま崩れ落ちた。

「残る貴様らは我が雷剣、止めれるか?」
 オークヒーローがゆっくりとライジング=ボーンドの方へと向き直った。残っ
た3人の中では最も実力があるとみなされたのだろう。
「…」
 ライジング=ボーンドが冷静に状況を分析した。

 トレントが一撃で倒されたことが士気に影響し始めている。だがそれでも幸
いだったのはトレントがまだ息をしているということだろう。凄まじい一撃であ
り、あれを喰らえば「皇帝」アイフリード=フロームヘルですら耐えれたか怪
しいものだ。

 オークヒーローの猛攻が始まった。
「キリエ・エレイソン」
 ライジング=ボーンドは結界を張りつつ、その攻撃を捌きに捌いた。だが、
まだあの「稲妻」の一撃は来ない。凄まじい爆音とともに船が揺れる。
「クッソ…が…!」
「トレント…!」
 フィンはトレントがうめき声を上げながら意識を取り戻したことに驚いた。
「トレント、具合はどうだ」
「いい感じに手足が動かん」
「…どうする」
 トレントはまだ朦朧とする意識の中で戦況を分析した。ライジング=ボーン
ドがオークヒーローを足止めしてはいるが、崩されるのは時間の問題だろ
う。あの「稲妻」はこちらの都合などおかまいなしに戦闘不能にしてくる。

 だとすれば矛盾が生じる─────────

 あの「稲妻」を乱射すればここにいる人間全員をあっさりと戦闘不能にする
ことも可能だろう。と、なれば奴は何故それをしない。「稲妻」の回数制限な
ど魔王級の力を持つオークヒーローには存在しないと見ていい。
「おいプレク」
「どうした」
 トレントは「トレント★樹海団」きっての暗殺者、プレックスターを呼んだ。
「奴らの船に──────」

 ドガン!

「それ以上は言う必要はない──────」
 オークヒーローの「稲妻」で吹き飛ばされ意識を失ったライジング=ボーン
ドの身体が甲板に叩きつけられた。
「おそらく貴様が考えている通りだからだ、「真紅の旅人」よ」
 トレントが歯噛みした。
「てめぇ狂ってやがるな」
「フ…貴様が考えている通り、我らが船には周辺区域を灰と化すほどの高
密度マインボトルが搭載されている。時間稼ぎをしているのみで我々は勝
利を収めることができる」
「「──────何」」
 フィンとプレクの声が引きつった。トレントはやっぱりなという表情をした。
「お前がさっさと主力の俺たちを倒してしまうと、逃げの一手に走る輩もでて
しまう。だが勝てる「かも」しれないという見込みを残すことで、逃げることを
無意識下で防ぐ。こんなとこか」
「我々は主命を遂行するのみだ」
「やかましい、ようするに神風じゃねぇか。自分達の命と引き換えに皆殺しに
しろとでも命令されたのか」
「そうだな。だが、そのような命令でも我らには喜ばしき名誉だ。かの巨人族
が王より拝命せしこの任務、果たしてみせよう」
「巨人族の王だと…!?それは─────────」
 トレントが問い返す前に、オークヒーローの大剣が振り下ろされた。

 ガギィィィィン───────────

 その剣を受け止めるは「トレント★樹海団」の騎士、フィン=ロルナーク

 フィンが焦燥に駆られた表情でトレントに言い放った。
「トレント─────時間がないみたいだぜ」
 まわりを見回すとオークアーチャー達が火矢を互いの船に放っている。
事情を知らない冒険者達は火攻めをされているという認識しかないだろう。

 このままでは全滅する───────────

 高密度マインボトルを海に捨てるか、火が回り始めている、そんな時間は
ないだろう。ならば船を高速離脱させるか、そんな時間をオークヒーローがく
れるだろうか。爆発する前にオークヒーローを倒し、船を離脱させる、これも
不可能だろう。
「諦めろ──────我らとともに海の藻屑となろうぞ」
 オークヒーローの狂気混じりの死の宣告。


 俺は根本的に甘い人間だ。
 100を救うために1を切り捨てることを躊躇する。
 だがお前は違う。
 お前は躊躇無く切り捨てることができる。
 リーダーには冷静さと非情さがなければいけない。
 だからお前が俺たちを引っ張れ。
 俺はお前についてってやる。
 だが──────


 ふざけんな──────ふざけんな───────────!!


「もし実際に誰かを切り捨てる事になるときは、俺を切り捨てろ。俺の主義に
反してもお前のやることには従う。文字通り手足になってやる。しかし、この
役だけは他のやつにやらせられない。根が甘い俺の最大の譲歩だ。1を救
えないのなら、せめてその1に俺がなれば結果は同じになる」


 100を救う為に1を切り捨てる──────

  それを命令することがどれほど血反吐を吐く思いをするか、わかってて
言いやがったのか畜生。

「ク…クク…」

 トレントが腹の底から来るかのような狂った笑い声を発した。苦しみぬいて、
絞り出すかのような言葉とともに。

「フィン」

 こんなにも簡単に──────

「俺は100を救って1を切り捨てる」

 共に歩んだ仲間に──────

「殿を任せる」

 死ねと──────言う。

「あいよ」

 それをあっさりと受け入れる死地に残る男──────

「プレク、俺とライジング=ボーンドを抱えて俺達の船に跳べ」
「了解」
 オークヒーローが動いた。
「逃がさぬ」
「させねぇ」
 立ち塞がるは死地に残りしフィン=ロルナーク、風の剣をもってオークヒー
ローの進行を阻む。

 空中に舞ったプレクの身体を突き放したトレントは力を解放した。
「真紅剣──────「銀狼」!」
 銀色の衝撃波がオーク族の船とトレント達が乗ってきた船の中心を分か
つように突き刺さる。その衝撃で互いの船の距離が急激に広がる。トレント
達の船に残ったオーク達は駆逐され、海へと投げ捨てられる。


 そして、オーク族の船上にただ一人の冒険者が残ることとなった。


 オークヒーローが静かに口を開いた。
「人間とは──────もっと情に厚いものと思っていたがな」
「そうか?こんなもんだろ」
 フィンがニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「あいつには今背負ってるモノが多すぎる。叶えるべき夢もある。俺と出会っ
た頃のように、全部を打ち捨てて1を拾いに行くような真似はできないのさ」
「切り捨てられたという自覚はあるようだな」
「そうだな、そいつはお前も一緒だろ?」
 オークヒーローの瞳に炎がともったようにフィンは感じた。
「オークロード、それにフェイトか。お前はそいつらにも死ねと命じられたか。
俺たちがプロンテラに辿り着くヤバいってそろそろ自覚が芽生えてきたみた
いじゃないか。そんなに俺達が──────怖いか?」
「貴様──────」
「その過程で切り捨てられた者同士、最期を楽しもうぜ」

 ゴガォゥン!!ゴガォゥン!!

 火矢が発火用のマインボトルに引火したのだろうか。メインの高密度マイン
ボトルに引火するのも時間の問題だろう。

 フィンが愛用の剣、風の力を付与された剣、クレイモアを構えた。
「来いよ、俺は簡単には死なないぜ」

 オークヒーローが大剣を構えた。己が培った武の全てを注ぐかのごとく。
「我が命の最期に真の武人と出会えたようだ。──────死合おうぞ」

 激突。

 オーク族の戦士達はただ敬礼して見守るのみ。

 風の剣士と亜人の勇者の死闘を。

「「ツーハンドクイッケン!」」
 互いに神速。足場など利用せず、平地での真っ向勝負。

 オークヒーローの雷剣がフィンへと振り下ろされる。
「うっらぁあああああああああああああ!」
 フィンの裂帛の気合い。フィンの風の力とマグナムブレイクの合わせ技。
炎の竜巻と稲妻が喰い合う。拮抗──────そして、
「迅さだけなら──────誰にも負けねぇんだよ!」
 剣を翻し、オークヒーローの胸板を風の能力を付与されたクレイモアが斬
り裂く。次の瞬間、オークヒーローの拳がフィンの肩口に突き刺さる。ボギボ
ギという鈍い痛み。フィンの身体が船の端まで吹き飛ばされる。
「がっは…!」

 ドガォウン!ゴガォウン!

 吹き上がる爆炎の中、オークヒーローがゆっくりと悶え苦しむフィンの前に
歩みをすすめた。オークヒーローは大剣を振り上げた。
「見事だ、風の剣士よ──────真紅の幻想へと還るがよい」
「諦めて…たまるかよ…!」
 フィンの脳裏に仲間達との思い出が走馬灯のように駆け巡る。ロクな思い
出しかないが、それでも確かに胸の内に残るものもあった。「トレント★樹海
団」を立ち上げた時、変なギルドの名前をつけたトレントを皆でボコボコにし
たものだ。だが、皆が笑いながらトレントをどついていた。夢に向かって進む
ために皆が心を一つにしていた。あの頃の気持ちは変わっていない。
「俺はそもそも死ぬつもりなんてないんだよ!這い上がってでも生き延びて
やる!この無駄クソに死にそうな状況も何とかしてやる!」
 オークヒーローの大剣が振り下ろされる。フィンはもてる限りの力を振り絞
りクレイモアでその攻撃を受け止める。鈍い音とともにクレイモアが砕ける。

 オークヒーローが大剣を翻した。

 フィンは折れた剣を見やった後、オークヒーローに向き直り──────

 何かを悟ったかのような笑みを口元を浮かべた。

「トレント────俺達の夢、叶えられなかったらあの世でぶっ殺すからな」

 その瞬間、高密度マインボトルに火が灯った。

 船を中心に輝きが広がり、轟音が天に轟いた。

 半球状の爆発は海上に大波を発生させ、トレント達が乗る船を揺らした。

 そして──────海上には有ではなく無のみが広がっていた。

 トレント達は敵軍、そして大切な仲間の一人が灰燼に帰した事を知った。

 ◆

 トレント達は次の日の明け方、衛星都市イズルードに攻め入ることとなる。
もはや彼らを遮るモノは無く、道を進む先に存在するは首都プロンテラのみ
となった。

 そしてトレント達が衛星都市イズルードを占領した頃、フィリ=グロリアスの
解放軍がプロンテラ平原に進攻しており、首都プロンテラを防衛する王国軍
との戦いへと戦いの舞台を移していた──────

 最期の決戦の刻は着々と近付いていた──────

 [続]


〜あとがき〜
ギャグ一切抜きのフィン戦闘は違和感ありすぎ、じんましん出ます。
実はこの物語はこれで終わりではありません。
物語が2つに分かれ、「Ocean's Blue」メインストーリーと、
そしてフィン視点で動く外伝「真紅幻想」に舞台をうつします。
次回予告、ついにプロンテラまで後1日の所までやってきたフィリ達。
仲間達それぞれが持つ様々な想い、フィリ自身の想い。
全ての決着が付く戦いの前に彼女らの想いが交錯します。


前へ  小説目次へ  次へ

トレントの樹海TOPへ

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット