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Ocean's Blue

087:交錯する想い

 あれからどのくらい経っただろうか────────

 レイとの再会───────
 皆との出会いと旅───────
 戦い抜いたギルド攻城戦───────
 大切な人を失ったグラストヘイム───────
 仲間が欠けたサンダルマン要塞───────

 楽しいことばかりではなかった。いや、むしろ辛かったことのほうが多かっ
たと言える。だけどそれでも、歯をくいしばり、涙をこぼしながらも前へと進ん
できた。そしてようやく辿り着いたのだ。

 ルーンミッドガッツ王国首都プロンテラへ後一歩の所まで───────

 サンダルマン要塞にて「古の黄金王」オシリスを破り、勢いを増したフィリ=
グロリアスの軍は義勇兵などを取り込み、20000を超えるほどの軍になって
いた。20000といえば、「ギルド攻城戦」───ルイーナ決戦でアルデバラン
に集結した冒険者の敵味方合わせての総数とほぼ同等である。その軍と知
略をもってして連戦連勝を重ねていったのだ。人々はフェイトの圧政を打ち
破るのはフィリ=グロリアスしかありえないとの認識で一致し始めていた。

 王国に伝わりし神器「ブリーシンガメン」

 それを継承せし、王国の正統王位継承者フィリ=グロリアス

 フィリ=グロリアス率いる解放軍はプロンテラ平原に陣を構え、休息をとる
こととなった。位置的には首都プロンテラの門まで3時間といった所だろう。
その情報はフェイト側にも当然承知の上である。

 明朝───────ついに決戦の火蓋が落とされることとなる。

 ◆

「というわけで、今日は皆さんゆっくり休んでください。警戒班には重々注意
をしてくださいとの周知もお願いします」
 フィリ=グロリアスの言葉で決戦前、最後の会議が終わる。会議に出席し
ていた者達が思い思いの場所へと散っていく。

 その場にはエリカとティア、そしてフィリの3人が残った─────

「ついにここまで来ましたね」
 エリカの言葉に頷く一同。
「思い残すことなく明日は望まないとね」
 ティアの言葉にフィリがにっこりと笑顔を浮かべた。
「そうよね、ティア」
「ぇ」
「そうですよね、ティアさん」
「ぇぇ!?」
 エリカまでもがのってきたのでティアがたじろぐ。
「な、何のこと…」
 フィリとエリカは笑顔を絶やさず一人の名前を挙げた。
「「イアル」」
「───────!!」
 ティアの頬が途端に朱色に染まる。フィリが神器であるブリーシンガメンを
手で弄びながら─────王者の風格を出しながら妹であるティアに威厳
ある言葉を放った。
「告りなさい」
「いやお姉ちゃんセリフと神器と風格があってないから!」
 エリカがぽむっとティアの肩に手を置きながら言った。
「王の命令ですよ?」
「権力の使いどころが間違ってるよおおおおおおおおおおお!」
 ティアがダッシュで2人の元から逃げ去っていった。

 ティアがいなくなった所でフィリが優しい笑みを浮かべた。
「うまくいくといいけど」
「大丈夫ですよ、ティアさんなら。むしろ心配なのは…」
「イアル…ね」
 サンダルマン要塞を越えた頃からイアルの表情に余裕がなくなったことを
誰もが感じ取っていた。
「レイさんが倒れ…ジュニアが死に…次は自分の番と思っているのかもしれ
ませんね…」
「…」

 ◆

 会議が終わり、自分の天幕に戻ったロイヤルミスト=クレバーは、そこに
自分の昔の仲間が勢ぞろいしているのに驚いた。
「おいおい、雁首揃えてどうしたんだよ」
「嬉しいくせに」
 その中で唯一の女性、エマが茶化すように言った。
「違いねぇ」
 ロイヤルミストが笑った。

 かつて彼らはプロンテラ聖騎士団最強の部隊と言われていた第3-1-3分
隊に所属していた。隊長であるレベイレブを中心に数々の戦功を立て、その
名を知ら国民はいないといった程の部隊だった。

 レベイレブ
 ジャック=オー
 ジャン=ファードック
 クアーク=ドノン
 エマ=シアース
 イグニゼム
 ロイヤルミスト
 ナインボール

 だがこの場にレベイレブ、イグニゼム、クアーク=ドノンの3人はいない。
イグニゼムは死に、クアーク=ドノンは発狂し廃人となってしまったからだ。

 他ならぬ隊長レベイレブの手によって─────

 5年前、第3-1-3分隊の最後の任務となってしまった任務がトリスタン三世
より下された。それは王国が所有する「ブリーシンガメン」以外の「神器」の
調査。彼らは世界を巡り、そして「神器」の一つである「メギンギョルド」の情
報を入手した。それがディスクリート=イノックシャースという男の手にあると
いうことも。彼らはその情報を王国に報告しようとした─────その矢先。

 隊長であるレベイレブが豹変したのだ。

 彼はアース神族を崇拝する狂信者だったのだ。レベイレブは自分よりも神
に近付く者を許さない。近付く者には破滅を与えることにしたのだ。彼は自分
と苦楽を共にした仲間、自分の部下である隊員達を薬漬けにし、その記憶を
奪った。クアーク=ドノンにいたっては記憶だけでなく理性をも奪われ廃人と
なった。真実に気づいたイグニゼムとロイヤルミストの2人はレベイレブに挑
み、そして敗北した。イグニゼムは殺害され、ロイヤルミストは致命傷のまま
ウルフが生息する荒野へと捨てられた。
 それでも生き延びたロイヤルミストが再び見たのは当時の記憶を失い、第
二の人生を歩む仲間達の姿だった。ロイヤルミストは自分が傷を癒している
間に全てが終わってしまったことを知った。
「だけど─────お前ら、どういう気まぐれで集まったんだか」
 ロイヤルミストが口の端に笑みを浮かべながら言うと、エマが答えた。
「運命よ、きっと。私たちの腐れ縁は切っても切れない」
「─────そうか」
 彼らはフィリ=グロリアスと戦う旅の途中で互いに情報を交換していった。
すでに自分達の隊が解散した原因が、自分達を苦しめ仲間を殺した者がレ
ベイレブということもわかっている。そしてそのレベイレブは─────

 プロンテラ王国軍の軍団長としてフェイトに仕えている。

 これはロイヤルミスト達にとって過去を取り戻す戦いでもあるのだ。エマが
静かに口を開いた。
「あの時はレベイレブが隊長だった。でも私たちが一番隊長になってほしかっ
たのはロイヤルミスト、貴方なの」
「─────は?」
「貴方が「七英雄」のソードマスター、菊丸=クレバーの息子だからなんて関
係ない。私たちは貴方に惹かれていたの。だからロイヤルミスト、レベイレブ
は貴方に任せたい、他の誰でもなく貴方の手で倒してほしい」
「─────っち…、どういう理屈だよそりゃ…」
 ロイヤルミストはそう答えながらもわかっていた。過去の清算はロイヤルミ
ストに任せ、自分達は過去の清算を頭の中から切り離し、フィリ=グロリアス
とともにフェイトの軍と戦うと言っているのだ。

 勝てるか─────あのレベイレブに──────────

「やってやるよ、任せとけ」
 ロイヤルミストは力強く宣言した。ジャック=オーが、ジャン=ファードック
が、ナインボールが、そしてエマ=シアースが静かに頷いた。

 ◆

 フィリ達の陣より少し離れたプロンテラ平原の草原で横になっていたイア
ルは空を見上げながら様々なことを考えていた。

 失った友─────レイやジュニアの事
 実の兄にして世界最強の暗殺者であるロウガ=ブラストの事
 「死を体言する男」ディスクリート=イノックシャースの事

 そして、イアルの傍らにいつもいてくれる少女の事

「や」
「うわ!」
 いきなりその少女─────ティアに顔を覗き込まれたイアルが仰天し
た。ティアがそんなイアルに対してむくれてみせた。
「そこまで驚くことないでしょー」
「考え事してたんだから仕方ないだろ」
「ふーんだ」
 ティアはそう言いながらイアルの隣に座った。
「イアル」
「んー」
 呼びかけられてイアルが生返事を返した。
「次は自分の番なんて…思ってないよね」
 イアルが右手であちゃあという感じで自分の顔を覆った。
「やっぱりそう見える?」
「見える」
 ティアは即答した後、まくし立てるように言った。
「私は嫌だよ。命賭けで戦うなんてやめて、お願い。私たちを守って死ぬな
んて言わないで」

「違うよ」

「え?」
 イアルの否定にティアが驚きの声を上げた。イアルは自嘲気味に笑った。
「どうやったら死なずにすむか────それだけしか考えてない。格好悪い
けどな。自分が死ぬのも、誰かが死ぬのも、もう勘弁してほしい」
「イアル…」
「兄貴と戦うのだって何で俺がやらなくちゃいけないのかわかんねえよ。あん
な化け物の相手やってられるかって。それでも─────あの兄貴は俺の
唯一の家族なんだ。俺が止めなくて誰がやるんだよ」
「…んだよ」
 ティアがぽつりと呟いた。
「逃げても…いいんだよ」
「ティア…」
「私は─────イアルが死ぬくらいなら逃げてほしい。イアルに死んでほ
しくない。だって…私は─────」

 ぐい

「あ」
 イアルがティアの手を引き、ティアの身体がイアルの上に倒れこんだ。
イアルがティアを静かに抱きしめた。
「そういうことは俺から言わせてくれ」
「だってイアル言ってくれないんだもん」
「自信ないんだよ俺」
「私だってないもん」
 2人は顔を見合わせて笑った。
「俺はティアの事が好きだ」
「私はイアルの事が好き」
 2人の顔がそっと近付き、唇が触れ合う。触れるか触れないかの口付け
だったが、2人にはそれで十分すぎるほどだった。
「イアル、絶対生き延びて」
「ああ─────」
 2人が再度キスしようと顔を近づけたとき、人の気配を感じた。

「うわっちゃあああああ!すまん!間が悪かった!」
 王国の密偵、通称森の人、グランである。ティアは顔を真っ赤にしながら、
イアルは気まずそうな苦笑を浮かべながら互いの身体を離して立ち上がっ
た。だが次にグランが放った言葉は2人の意識を切り替えさせるには十分な
モノであった。
「本陣に─────フェイトの使者がきたんだ!すぐに来てほしい!」
「「─────!」」

 ◆

 フィリ=グロリアスを守るように何人もの冒険者達がその使者を取り囲ん
でいた。フィリは静かにその使者を見据えていた。
「お初にお目にかかる。我が名はセイレン=ウィンザー、王者の剣を持つ者」
 セイレン=ウィンザー?誰もが聞いたことがあるルーンミッドガッツ王国の
建国王が倒したとされる企業都市リヒタルゼンに蔓延ったレッケンベル最強
の生体生命の魔人の名ではないか。ざわめきが広がる中、フィリが口を開
いた。
「用件は何でしょうか、セイレン=ウィンザー」
 セイレンは己が覇気に全く気圧されないフィリ=グロリアスという王に感心
した。普通の者ならば失神してもおかしくない。事実、ここまで無抵抗で入り
込めたのだから。
「有り体に言えば─────フェイトからの最期通告だ。降伏しろ、以上だ」
「断ります」
 フィリ=グロリアスの即答。セイレンがニタリと笑みを浮かべた。
「そう言うと思っていた。そこでだ、フェイトからのプレゼントだ」
 セイレンがすっと手を上げた。

 地鳴りが…空が鳴動を開始した。

 ズズズズズズズズ…

「な…なんだ!」
「おい!空の向こうが光ってるぞ!」
 動揺が連鎖して広がっていく。

 ───────────────っ!

 音が聞こえないほどの轟音とともにプロンテラ平原に光が落ちた。衝撃波
が連鎖し、フィリ達のいる本陣までもが大地震が起きたかのように揺れた。
光が落ちた場所はクレーターとなり、生物の存在すら許さぬ死地と化した。
「…フェイトからの伝言を伝えよう。「存分に相手をしてやる、希望の欠片す
ら残らない敗北を喰らわせる」とのことだ」
 セイレンが言い終わるのと同時に、イアルとティアがフィリ達のもとに駆け
込んできた。
「おい!何だ今の!」
「お姉ちゃん大丈夫!」
 セイレンが明確にティア=グロリアスに視線を向けて笑った。
「では明日会おう、ハハハハハ!!」
 セイレンの姿がその場から消失した。

 フィリが静かに首都プロンテラの方角に視線を向けた。
「レイ…私に力を貸して」
 フィリは己が愛する者の名を呼び、己を奮い立たせた。

 ◆

 セイレンが戻り、フェイトがセイレンに尋ねた。
「余興としては面白い方だろう」
「遊びが過ぎるともとれますが、「奈落の王」よ」
「どうだった」
 フェイトの質問はただ一つの意味しか成していなかった。
「生贄に捧げるには十分な媒介ではないかと。「Ocean's Blue」の力をその
身に宿したあの小娘─────ティア=グロリアスは」
 フェイトの瞳の中の闇が深まる。

 ユミルの復活の時は近い──────────

 ◆

 あれからどのくらい経っただろうか────────

 レイとの再会───────
 皆との出会いと旅───────
 戦い抜いたギルド攻城戦───────
 大切な人を失ったグラストヘイム───────
 仲間が欠けたサンダルマン要塞───────

 楽しいことばかりではなかった。いや、むしろ辛かったことのほうが多かっ
たと言える。だけどそれでも、歯をくいしばり、涙をこぼしながらも前へと進
んできた。そしてようやく辿り着いたのだ。

 短き休息の時を終え、夜が明ける───────

 長き旅も、全ての出会いと別れも、全てはこの日の為───────

 人々の今と未来を決定する運命が交差する日───────

 フィリ=グロリアスの軍がついに首都プロンテラを視認した。


 新たなる王の名の下に────────────
 圧政を敷く王の名の下に────────────


 戦いの幕が開く───────




ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラ

王都奪還戦開始



 [続]


〜あとがき〜
久々書いたら時間めっさかかったorz
んで次回、ついに決戦がはじまりますヽ(゚∀゚)ノ
作者急病で1年半休載にならないようがんばります!


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