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Ocean's Blue

088:決戦プロンテラ

 ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラ

 ミッドガルド大陸有数の王国王都に続くプロンテラ平原を駆け抜ける軍勢。
フェイトに仕えし王国軍はすぐにそれを察知した。ついに決戦の刻がきたの
だと。城壁の見張りは王国軍団長レベイレブにすぐさま報告し、戦いへと備
える。プロンテラは大陸でもトップクラスの防衛力を誇る城塞都市でもある。
 弓兵、魔法兵を中心に、プロンテラ平原より来たる軍勢を薙ぎ払う。敵軍勢
の数は未だかつて無い規模である。だがこの城壁と城門さえ死守できれば
我らが主フェイト様の手を煩わせることも─────

 敵軍勢───フィリ=グロリアスの軍より2つの影が飛び出してきた。

 イアル=ブラスト
 ティア=グロリアス

「どきやがれ!」
 イアルとティアは弓、魔法の中をかいくぐり、城門へと辿り付いた。その城
門は魔法が付与されており、中からでなければ容易に開けることはできな
い。イアルが困った顔をした。弓と魔法がイアルとティアの2人に殺到する。
「インティミデイト」
 イアルがティアの腕を掴みスキルを発動させた。対象と自分を一瞬で瞬間
転移させる技。現在は『ラグナロク』によって世界の空間が歪んでいるため
大した距離が移動できないが、イアルは「ギルド攻城戦」でライジング=ボー
ンドを倒した時のようにまたしてもそれを逆手にとった。

 2人の姿が消え─────城門の「上」へと出現した。

 驚く王国軍の面々、ティアはニコリと笑みを浮かべた。
「スフィアーマイン─────20連爆!!」

 ドンドンドンドンドン!!!

 20発もの連鎖爆発が城門を防衛する弓手や魔法使いを吹き飛ばす。その
隙にイアルが城門の裏側に飛び降り、城門に触った。いや触ったようにしか
見えないほどの早業で城門のロックを解除した。
「開門だ」

 プロンテラの城門がゆっくりと開門していく。

 襲い来る敵を薙ぎ倒し、イアルは外にいるフィリ達の軍勢を城門より迎え
入れた。フィリとエリカがイアルの元にやってくる。
「お疲れさま、うまくいったね」
「うまくいきましたね」
「これからだろ、行こうぜ。ティアーーー!降りてきていいぞーーー!」
 イアルが呼びかけると、ティアが城門の上で何やら叫んでいた。
「飛び降りれる高さじゃないんだけどおお!わあああ敵がきたあああ!」
 フィリとイアルは苦笑した。まだ戦いは始まったばかりだ、だが上々な出だ
しである。プロンテラの城門突破をここまでスムーズに行えたのだから。フィ
リが城へと視線を向けて、宣言した。
「────────勝利を!」
 フィリ=グロリアス率いる解放軍とフェイト=トリスタン=ルーンミッドガッツ
四世が擁する王国軍との王都決戦が開幕した。

 ◆

 プロンテラ城では王国軍団長たるレベイレブの元に様々な情報がもたらさ
れていた。レベイレブは精密機械のようにその情報を精査し命令を飛ばす。
こと戦場の指揮に関してはレベイレブは天才であった。
「城門の突破の手並みは見事だが、元々我々の作戦の第一段階は城壁内
に誘い込み一挙に撃破だ。特に支障はない。アレの出撃準備をさせろ」
 レベイレブより下された命令が戦場へと伝わっていく。

 ここまで辿り着いた者らよ、我はお前らを阻もうと考えてはおらぬ。しかし、
この地に敢えて来たからには覚悟はできているだろうな?

 左右より襲い来る敵を吹き飛ばしたロイヤルミストが歯噛みした。
「この戦場の動き、レベイレブの野郎か!フィリ様、恐らく何か仕掛けてきま
す!レベイレブならばこのタイミングで何かが────」
 ロイヤルミストが言い終わる前に、地中を突き破り、機械兵達が出現した。
「おい!こいつらは!」
 イアルが焦燥に駆られた表情を浮かべた。その機械兵の名は「巨人族の
戦士」」───Battler Of Titans。通称BOTと呼ばれる「ギルド攻城戦」の最
後、フェイト達が仕掛けてきた時に現れた魔物である。動きは単調だが基礎
能力が異常に高く、仕留めようとする瞬間、その場から転移して消え、そして
復活する。数が──全く減らない最悪の敵である。
「仕留めようとすれば逃げられます!動きを封じてください!」
 魔術師達がストーンカースやアイスウォールなどの動きを封じる魔法を
唱え始める。

 全ては余興だよ。言っておくが、この先は地獄だぞ?何故、この大陸が
度々闇に埋もれたか、知りたいか…?

「中々に勢いが緩まぬな、もうプロンテラ南十字路まで侵攻されたか。仕方
あるまい、手元のカードは使わねば損と言うものだ」
 レベイレブは淡々とチェスの対局のように相手を追い込む。
「また幹部連の方々に出撃の準備を依頼しろ。作戦を第二段階に移す。作
戦名「剣なる蜥蜴」を発動」

 ならば、進むがよい。貴様らが望み、そして望まぬモノはこの先にある。
但し、全ての幻影と…全ての偽りを乗り越えればな…!

 先行偵察より戻った森の人グランがフィリの元に戻る。
「フィリ様、魔物が来ます。王国軍ではなく、魔物…!いや…!」
 歯切れの悪いグランの言葉、グランもまた自分が見たものが信じられない
のだろう。グランの様子にフィリの隣にいたエリカが状況を察した。
「皆気をつけて!魔王が来ます!」
 その言葉を耳にし、「ギルド攻城戦」を戦った者達の中でその意味合いに
気づいた者達が数名────
「召喚された魔王がくるぞ!」
 イアルが周囲に響き渡るように叫んだ。

 我はしばしの間、「幻影」と共に行動していた。大魔族たる「幻影」に抗いし
者らよ、お前らの目にこの世界はどう見える?

「幹部連の方々、第一配置に付きました」
「良い。下がれ」
 レベイレブは伝令を下がらせた後、プロンテラの戦場を推移する。恐らく
フィリ=グロリアスの軍は召喚魔王相手では大苦戦を強いられるだろう。こ
こで仕留めてもよいかもしれない。何故なら魔王に対抗出切るほどの実力
者、レイ=フレジッド、ジュニア=サイドライクは既にいないのだから。

 この世界は貴様らが思うような成熟し繁栄を極めた文化文明ではなく、人
間の真の恐ろしさを全て融合させ…遥かに人間の想像を超えた場所。

 超巨大な発条機械がフィリ達の前に出現する。
「こいつは…!まさかRSX-0806!?」
 RSX-0806、かつてアインブロクに魔の手を広げたレッケンベルによる魔道
掘削機械。一度動けばその道にいる人々は殺戮される運命に囚われるとす
ら言われた発条機械である。
「こんなモノまでいやがるのかよ!」
 イアルやティアがRSX-0806に飛び掛るが傷一つ負わせられない。

 全てのことが間違いであった。我らは存在してはならぬ存在であった。そ
れでも未来と希望を願うならば、更に奥へ進むがよい。その未来と希望の全
てを喰らい、叩き潰し、絶望と滅びを汝らに与えよう。

「ぢぃ!」
 イアルがティアの首根っこを引っ掴み、RSX-0806から間合いを取る。その
瞬間、RSX-0806の近くにいた冒険者たちが血煙にかわる。RSX-0806の殺
戮が始まったのだ。
「やべえやべえやべえやべえやべえやべえやべえやべえやべえ!」
 イアルが頭を必死に巡らし、RSX-0806を叩き潰す方法を考える。だが生
半可な攻撃では傷一つ負わすこともできない。自分のスキルを駆使すれば
食い止められるかもしれないが、それはここで自分が足止めされることを意
味する。召喚された魔王はこれだけではないかもしれない。もっと強大な「魔
軍七大勢力」クラスの魔王もこの先で待ち構えているはずだ。
「戦力差が浮き彫りになってきたってやつか…!」
「イアル危ない!」
 ティアがイアルに飛び掛ってきたRSX-0806をスフィアーマインで吹き飛ば
す。だがRSX-0806は全く効いてないようにすぐに体勢を立て直す。


 わかっていたはずだ───────

 人は魔王には勝てない。これは誰もが認識している絶対的事実。

 だからこそ魔物の頂点たる魔王を人は恐れるのだ。

 だがそれでも魔王を倒しうる存在がいる。

 人はその存在をその者達を希望と崇拝の念を込めて英雄と呼ぶ。

 そう────────

 既にフィリ=グロリアスの元に到着していたのだ。

 英雄と呼ばれる男に率いられし最強の援軍が。

 その英雄の名を人々はこう呼ぶ。

 「皇帝」────────と。


「Ultimate Emperor's Cross」


 「皇帝」と呼ばれる英雄が持ちし最強の魔法の詠唱が完了した。
 

 


 氷龍が天より堕ち、RSX-0806を一瞬で粉微塵に分解した。
「こいつが「皇帝」アイフリード=フロームヘルのストームガストか。何っつー
威力だ…」
 ロイヤルミストが引きつった笑いを浮かべた。こんなもの、普通の人間の
できる技ではない。しかもそれが援軍として現れた。心強いが同時に複雑な
気分にもなった。
「俺の親父もあのぐらい強かったってことか…?」
 ロイヤルミストの頭の中で20年前「トリスタンの悪夢」で散った亡き父、「七
英雄」菊丸=クレバーの事がよぎった。


「フィリ様、遅くなって申し訳ありません」
 シュバルツバルド共和国軍を引き連れ現れたアイフリードがフィリ=グロリ
アスの元で臣下の礼を取る。
「え、え、ちょっと」
 アイフリードが冗談めかした表情を浮かべているのに気づいたフィリがか
らかわれたのだと気付いた。冗談を言う人だったのかとフィリは今さらながら
にアイフリードという男に驚いていた。
「それはそうとフィリ=グロリアス、お前はこんな所で足止めされている場合
ではないだろう。お前が行くべきはあそこだ」
 アイフリードは明確にプロンテラ城に視線を向けた。
「うん」
「フィリ=グロリアス、お前は何の為に戦う?未来か?勝利の為か?」
 フィリが頭を申し訳なさそうに頭をかいた。
「実のところ…正直わかんないかな」
 アイフリードが虚を突かれた表情を浮かべた。
「でも今は一生懸命やる。皆が苦しんでいるのは見ているのは嫌だから。皆
で楽しく笑い合えるようになったら、それは凄くいい事と思うんだ」
 その言葉にアイフリードが頷いた。
「そうか…同感だ。私も平穏を望んでいる。小さな平和でいい。小さな平穏で
いい。何気ないモノ、ただあってしかるべきモノ、小さな幸せを守る為に俺は
ここに来た」
 アイフリードが笑った。
「行け、フィリ=グロリアス!小さな幸せをこの国に取り戻す為に!」
「はい!」
 フィリは仲間達を引き連れ、プロンテラ南十字路を越え、さらに先へと進ん
でいった。そして────────────────

 それと同時に声がした。

「くだらぬ、実にくだらぬ…」

 取り戻すということは奪っている者が存在しているという事である。

「小さな平穏?小さな平和?虫唾が走る」

 人々の幸せを奪い、踏み付けにし、嘲笑し、それを繰り返す。

「いいだろう、貴様の全てを奪い取ろう。奪い尽くそう」

 許されざる絶対悪が────────

「完全なる決着をつけようぞ、我が愛しき欠陥品よ」


 「堕ちたる七英雄」 ハウゼン=フロームヘル=ヴェスパーコア


 己が怨敵と、その傍に寄り添うかつての恋人に似た女、その2人を視認し
た「皇帝」アイフリード=フロームヘルが不敵な笑みを浮かべた。
「ちょうどいい。俺もそろそろ貴様らの首を刎ねようと思っていた所だ」

 「皇帝」と「七英雄」、2人の超常的な魔力がぶつかりあった──────

 ◆

 ゴゴォン!!

 背後から聞こえる魔力のぶつかり合いが天空と大地を揺らす。だがフィリ
は振り返らない。今日この日、この戦いの地に来てくれた仲間を信じる、信じ
て前へと進む。フィリ達は襲い来る敵を蹴散らし、プロンテラの中央にある噴
水の所まで勝ち進む。

 そこに待ち構えるは「魔王」────────

「ガハハハハハハ!よく来たな!フィリ=グロリアス!」


 「魔軍七大勢力」が一角、「亜の眷属」を率いし魔王

 ────────────「世紀末覇王」オークロード


 グラストヘイム古城で敗北した事を思い出したのかイアルが怒りの形相を
浮かべた。オークロードはイアルの視線など物ともせず、実に愉快気にフィ
リに視線を向けていた。

 キィン!

 突然、フィリの首にかかった神器「ブリーガンシメン」が光った。まるで共鳴
するかのごとく。それはオークロードの持つ鉄槌との共鳴であった。
「まさか…」
 フィリが蒼白な表情を浮かべと同時にオークロードが笑った。
「ガハハハハ!気づいたか!おうよ!この俺様の武器は神器!北欧の時
代、雷神トールが持ったとされる神の鉄槌「ミョルニール」よ!さあどこから
でもかかって来い!俺様が皆殺しにしてやろう」

 皆が一斉にオークロードに飛び掛る────────

 ゴゥン!!

 ミョルニールは一薙ぎで雷鳴を纏う。
「危ない!」
 エリカの悲鳴じみた声とともに雷鳴の一撃が大地に堕ちた。

 その雷鳴の攻撃範囲にフィリが入っているのに気付いたエリカが駆ける。

 だめだ────────間に合わない────────!!


 ドガォウン!!!


 雷鳴とともに破壊が巻き起こり、粉塵で視界がゼロになる。
「フィリ…さん…」
 エリカが悲痛な声を上げると、粉塵の中、フィリから返事が返ってきた。
「私は大丈夫…でも」
 フィリの視線は目の前にいる「者」一点に注がれていた。
「何で…?」
「決まってるだろう、約束を果たしに来たのさ」
 オークロードのミョルニールの攻撃を受け止めた男が言った。


 王の権威を示す為のカテゴリーの一つとして武力が上げられる。

 王権を維持する為に存在せし武力。

 剣と魔法。

 「皇帝」アイフリード=フロームヘルを魔法とするならば彼は剣。


 王を守護せし真紅の剣


「「トレント★樹海団」ギルドマスター、トレント!」
 誰かが驚きの表情でその名を上げた。トレントはニヤリと不敵な笑みを浮
かべた後、不満そうにその表情を変化させた。
「重てぇ」
「「え?」」
 誰もがその言葉を理解しないトレントの発言。
「重てぇっつってるだろうが!このブタ!」

 ドガン!!ドガガガン!

 トレントのまわし蹴りがオークロードの横顔に炸裂し、オークロードが近くの
民家に突っ込む形で吹っ飛んでいった。
「魔王蹴った…」
「魔王蹴っ飛ばしたぞ…」
 その様子を見ていた誰もが常識外れな状況に口をあんぐり開けていた。

「とっとと立て、フィリ=グロリアス。いつまでも尻餅ついてるんじゃねえよ」
「あ、うん」
 フィリはトレントに指摘されて慌てて立ち上がった。いつの間に尻餅をつい
たのか自分でも気が付いていなかった。
「でもトレント、何であなたが…」
「だから約束を果たしにきたっていってんだろうが。8ヶ月前か、「ギルド攻城
戦」が終わった後にな、お前の愛しのレイが自分に何かあったらお前を助け
てやってくれと俺とアイフリードに頼んできやがったんだよ」
「…え」
 思わぬ所でレイの名前が出たことにフィリは驚いていた。
「俺もアイフリードも最初は断ったんだがな、あのまま続けてると土下座しそ
うな勢いだったしな。男の土下座より高いモノなんて早々ねぇ」
 レイの想いを引き継いでアイフリードもトレントもこの地へと馳せ参じた。
フィリは瞳から涙が溢れそうになったのを必死にこらえた。

 レイは本当に私の事だけを考えていてくれた────────

 今までも、そしてこれからも────────

「泣きそうになるのはわかるがな、全部終わってからにしやがれ。ていうか早
く行け。ほら行け、とっとと行け」
 しっしと鬱陶しげに手を振るトレントにフィリがにっこりと表情を浮かべた。
「トレント、ありがとう」
「もう一つ言っていけ、我らが主、この国の王さんよ」
 トレントが不敵な表情を浮かべた。
「トレント────────オークロードを倒して」
「任された」
 トレントの即答。

 フィリはこの場をトレントに任せ、先へと進む。

 仲間を信じて────────前へと進む。

 残された者もまた前へと進んだ者を信じ、この場での戦いに臨む。


「ガハハハ…人間風情にここまで舐められたのはいつ以来か…」


 憎悪に満ちた魔王の呟き。オークロードはその表情を憤怒へと変えてゆっ
くりとトレントの元へと戻ってきた。
「クク…いい表情だぜ、俺を殺したくなったか?」
「調子に乗るな人間風情が…クズにも等しい存在め」
「その前に一つ聞きたい、バイラン島海域にオークヒーローを差し向けてきた
のは貴様か?」
「それがどうした…クズにはクズらしい死をくれてやっただけのこと」

 オークロードはこう言ったのだ。

 あの場で戦ったものは全てがゴミ以下の存在だと。

 敵味方双方に多大な犠牲をだしたあの戦いに価値はなかったと。

 あの場で命を落としたトレントの仲間、フィン=ロルナーク。

 その男はくだらない死に様で意味がない死だったということを。


「そうかい…」
 トレントが静かに鞘から己の魔剣「エクスキューショナー」を抜いた。

「殺してやるぞ、人間」
 オークロードが神器「ミョルニール」を掲げ、トレントを睨み据えた。


 トレントが不敵な表情を浮かべた。
「魔王だろうが神器だろうが知るか、てめぇは確実に地獄行きだ」

 「人間」と「魔王」の戦いが今始まった────────

 [続]


〜あとがき〜
長らくお待たせしました決戦プロンテラ開幕です。
次回予告、「皇帝」の前に立ち塞がるミサキ=リフレクト。
アイフリードの過去を清算する戦いが始まります。


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