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Ocean's Blue

089:堕ちたる七英雄

 決戦前、「皇帝」アイフリード=フロームヘルは仲間達を集め、宣言した。
「ハウゼン、そしてミサキとは俺が決着をつける」
 当然の事ながら、「七近衛」であるキスクやルナ、シャドウは反論した。た
だでさえハウゼンの力は絶大である。それに加えて2対1など自殺行為だか
らだ。だが、アイフリードは言った。
「キスク、お前にはやることがあるだろう?」
「…っ!」
 キスクはアルデバランでセイレン=ウィンザーに拉致されたリシアの事を
思い出した。彼女はハウゼンと同じ「七つの大罪」の十字架の持ち主である
という。ならばリシアが彼らの前に敵として現れることもありうるということで
ある。キスクは彼女の思いを受け止めれなかった、それがこの結果を招い
たのだ。アイフリードは過去の思い出に想いを馳せながら呟いた。
「キスク、お前は俺のようになるな。罪は償えても、過去は償えない」
 「皇帝」アイフリード=フロームヘルはこの戦いに全てを賭ける。

 己の全てを。

 戻らぬ過去に決着を付ける為に。

 ◆

 「皇帝」アイフリード=フロームヘルの望み通り、ルナやシャドウはまわり
の敵を倒すことに専念している。それでなくても敵戦力は多過ぎるのだ。減
らしておくことにこしたことはない。
「クク…欠陥品が…」
 アイフリードの実父であり「七英雄」たる最強のプロフェッサー、ハウゼン=
フロームヘル=ヴェスパーコアがが両の腕を広げ、宣言する。
「今日、貴様は知ることとなるだろう。ユミルの心臓───その技術の粋を
結した完全なる生命の不思議を。「ジュピロス」と呼ばれた者達の技巧を」
 ハウゼンの前方の空間4箇所、ひし形を為すように4つの刻印が浮かびあ
がった。アイフリードの視線が鋭くなった。これはアルデバランでハウゼンが
見せたヴェスパーコア───前回と異なるのは単発ではなく4つ全てを同時
に発動させてきたということである。
「だが我が力を見せるには多少時間がかかる。そこでその間、貴様の因縁
の相手と戦っていてもらおう」

 ハウゼンの影から現れた女性。

 「死者の巫女」 ミサキ=リフレクト

 アイフリードがかつて愛した女性、リーナ=プラスタラスの細胞から造られ
たホムンクルス。リーナの記憶を移植され、ハウゼンの意のままに動く、アイ
フリードにとって最も忌むべき存在。
「お相手致しましょう、リーフ…」
「その名で呼ぶな」
「私は今でも貴方を愛していますよ?───殺してしまいたくらい」 

 ゴアァァァァッ!!

 沸きあがる大量の糸。糸の繰り師は「死者の巫女」ミサキ=リフレクト、魔
性を払う国、アユタヤで織られた「神糸」である。魔力を吸う力を持つこの糸
に捕まれば、魔術師であるアイフリードは無力化させられる。事実、この神
糸によりアルデバランで大苦戦を強いられてしまった。

 同じ轍は2度踏まない。

 アイフリードの無詠唱グラビテーションフィールドがミサキの神糸を押し潰
す。瞬間、ミサキとの間合いを詰めたアイフリードの短剣がミサキの肩を貫
く。ミサキは驚愕し、歯痒そうな視線でアイリードを見上げた。
「何で…私が死んで…リーフが生きているの…!」
「俺がハウゼンの実験で選ばれず、リーナが使われ、俺が殺したからだ」
 アイフリードはミサキにそう答えた。
「死にたくなかった…!私は…死にたくなかったのに!何で私だけ死ななけ
ればいけなかったの!死ぬのは私ではなくて貴方だったのに!」
 血を吐くようなミサキの叫び。
「許せとは言わない。その時の俺には力がなかった。お前を護れなかった」
「今の貴方なら護れるというの?ふざけてないで…死んでよ…お願いだから
死んでよ…」
「それはできない相談だ」
 ミサキの目が見開かれる、本当に信じられないと言った表情。
「何で…?貴方は私を殺したのよ!私は貴方を殺す権利がある!」
「言ったはずだ、許せとは言わない。俺にはもう護るべきものがある。過去も
今現在の俺も全てが俺だ。俺を必要としてくれる者達がいる限り、この命を
簡単にくれてやるわけにはいかない」
「私を…愛してくれないの…私の言葉は貴方には届かないの…」
「今でも愛している、狂おしいほどにな。俺はお前を殺した罪を背負おう。っ
償いきれぬ罪を背負い、この身が朽ち果てるまでお前への贖罪に生きよう。
だからこそ安易に命は渡せない、俺は生きる。生きて地獄の中を彷徨う」
 アイフリードが苦笑した。
「だから────もう眠ってくれ、ミサキ。お前の舞をもう一度見たかった。
だがそれは叶わぬ願いなのだろう」
「…」
 ミサキはうつむき、静かに微笑んだ。
「どのみち────私には時間がない…」
 ミサキの左手、右足が灰となり突如崩れ落ちた。
「…!」
 アイフリードは倒れそうになるミサキの身体を抱きとめた。
「私は「ユミルの聖杯」の代替役、十字架の力で仮に生かされていただけの
存在。真なる「ユミルの聖杯」、フィリ=グロリアスが現れた時点で不要の存
在。リーフ、私は…どこに行っても必要とされ────」
「お前を必要としているのは俺だ。お前をリーナと呼ぶことはできない。俺に
とってのリーナは何年も前に私が殺したからだ。だがお前は不要な存在で
はない。俺にとってかけがえのない思い出であるリーナを思い出させてくれ
た。感謝している」
 ミサキの身体が次々と灰となって崩れ落ちていく。もう、幾ばくの命も時間
も残されていない。ミサキは最後に決意したかのように澄んだ瞳をしていた。
「リーフ」
 ミサキ=リフレクトは己が言葉を伝えようとアイフリードに擦り寄った。
「……………」
 その言葉はアイフリードにのみ伝わり、ミサキ=リフレクトの身体は灰と
なって散った。アイフリードは目を伏せ、その言葉を自分の中に刻み込ん
だ。彼女が残した最後の想いを胸に刻んだ─────────────


 静かに─────アイフリードは立ち上がる。


「クハハ…別れは済ませたか…欠陥品よ」


 アイフリードは、「皇帝」アイフリード=フロームヘルが力を解放した。アイ
フリードの背中に浮かび上がる十字架、それにクロスするようにもう一つの
十字架が浮かび上がる。


「Ultimate Emperor's Cross」

「ハウゼン=フロームヘル=ヴェスパーコア!一切の禍根を断ち今日ここで
全てを終わらす!全ての贖罪とともに貴様の存在をこの世より放逐する!」

「来い欠陥品よ!貴様の存在全てが無為であることの証明と共に、我が技
巧の粋、生命の頂点たる理を生み出せしジュピロスの力を見せようぞ!」

 最強の魔術師同士の最終決戦の幕が開いた──────

 ◆

 時間軸からすればアイフリードとミサキの戦いが始まったのと同じ頃、プロ
ンテラ噴水前での戦いも激化し始めていた。「トレント★樹海団」ギルドマス
ター、トレントと、魔軍七大勢力が魔王の一角「世紀末覇王」オークロードの
戦いである。オークロードは「神器」である雷の鉄槌「ミョルニール」を存分に
振りかざし、トレントの退路を断つかのように攻撃を繰り返していた。
「うぜえ!」
 トレントが超速の左右のターンを入れてもぴったりとついてくる。そう、オー
クロードは速いのだ。これがオークロードが魔王たる所以。

 身体能力のみで魔王の域に達した唯一の亜人────────

 それが「世紀末覇王」オークロード

 トレントの持つ魔剣エクスキューショナーは人を、亜人を含む「人」を破壊
する為の剣である。だがそのアドバンテージをあっさりくつがえすほどに「ミョ
ルニール」の威力は凄まじい。絨毯爆撃のようにプロンテラの街並みが廃墟
と化していく。
 「ミョルニール」とまともに刃を合わせれば、威力差でどれほどのダメージ
を受けるかわからない。故にトレントは防戦一方となり、敗色は濃い。
「グハハハ!威勢がよかった割りには防戦一方だな人間よ!」
 オークロードの挑発、トレントは攻撃を避けながら必死に付け入る隙を探
した。予想通り、そのようなものは微塵も存在しない。人の域では勝てるは
ずがない存在、それが魔王。そしてその頂点に立つ七魔王の一人なのだ。
「グハハハハハハ!ようやく───────」
 回避する余裕がない────攻撃を受けきるしかない!
「捕まえたぞ!挽肉となるがいい!!!!!」
 オークロードが「ミョルニール」を振り下ろし、トレントがエクスキューショ
ナーでそれを受け止める。

 その衝撃で地割れが起こり、耐え切れずトレントの身体が吹き飛んだ。

 ドガォゥン!!

 トレントを近くの民家に叩き込んだオークロードが口元に笑みを浮かべた。
「人間風情がこの俺に勝てると思っていたか、ガハハハハハ!」

 瞬間───────

 真紅の力の奔流が民家の瓦礫を吹き飛ばした。
「何ィ?」
 オークロードが目を剥いて驚愕した。

 トレントがゆらりと立ち上がり、オークロードに視線を向けた。

 トレントの眼が一際紅く─────真紅の輝きを発していた。

「伝承以上の化け物だな─────オークロードさんよ」
 エスクキューショナーに銀色の瘴気が収束していく。
「殺し合いの第2幕といこうじゃないか──────!」

 ◆

「ヴェスパーコア01────スパイダ−ウェブ空間全域展開」 
 ヴェスパーコア01によって増幅された魔力を注ぎ込んだ蜘蛛の糸がアイ
フリードに襲い掛かる。先ほどのミサキのようにグラビテーションフィールド
で押さえ込める物量ではない。

 ドンドンドンドンドンドンドンドン!!

 アイフリードが打ち立てた複数枚数のファイアーウォールが蜘蛛の糸を
焼き払い遮る。それと同時にアイフリードが手をかざす。

 マジッククラッシャー

 アイフリードの放つ正確無比の射撃がハウゼンへと飛ぶ。だがそれより
迅く、アイフリードの肩口を何かが貫いた。
「がっ…!」
 倒れず、だが流血はすさまじくアイフリードが踏みとどまった。何が起き
た、何をされた?
「ヴェスパーコア04、正確無比の神速射撃は私もあるのだよ」
 ハウゼンが陰湿な笑みを浮かべる。
「そして」
 ハウゼンの姿が消えた瞬間、アイフリードの首をハウゼンが掴んだ。かな
りの間合いをとっていたはずである。瞬間移動にも等しい動き。ハウゼンは
アイフリードの首を左手で掴みあげる。
「これがヴェスパーコア03、規格外の移動速度を可能にする」

 スゥ…

 ハウゼンがゆっくりと右手を開く。アイフリードはそれが何であるかを察し
た。だがそれすら遅い。ハウゼンはアイフリードの胸に右手を押し付ける。
「これは貴様も知っているな、ヴェスパーコア02の破壊力、再度味わうがいい!」

 ズドォン!

 アイフリードの身体がぼろ雑巾のように転がる。強すぎる。これが「堕ちた
る七英雄」ハウゼン=フロームヘル=ヴェスパーコア。ラクール=フレジッド
達と並び、生ける伝説と化したその力は「現在」の英雄など寄せ付けぬほど
の怪物。いや、あの「皇帝」アイフリード=フロームヘルが圧倒されている段
階でその実力は推し量れるだろう。
「く…」
 アイフリードが顔を上げると、見下すようにハウゼンが嘲笑を浮かべながら
両の手を天に向けて掲げた。
「喜べアイフリード、貴様は新たなる時代を最初に見る先駆者となる。さあ創
めよう────物狂いヴェスパーたる私が生み出した新たなるシステムの
幕開けだ」


 


 七つの禁呪と詠われる究極の魔法の一つ「アブラカタブラ」によって発生し
た闇が───闇の影たるカオス、混沌が空を闇に染め上げる。その混沌の
隙間から沸いて出るように、巨大な建造物が、惑星にも似た建造物がせり
出して来る。
「あれは…」
「フハハハハハ!これがジュピロス!かつてユミルの心臓の力をその手にし
強大なる軍事文明を為した者達が残した遺跡!我が魔力の内にこの力を取
り込み!我が望みを叶える礎となる存在!」
「望みだと…!」
「我が望みは「死した者の蘇生」、ただそれだけだ」
「…っ!」
 アイフリードは驚愕した。ハウゼンの真の目的は死んだ者を生き返らせる
という誰もが持ちうる願望だったからである。だが────
「ミサキを…リーナを生き返らせたのも、それが目的か」
「あれは出来損ないだ。リヒタルゼンの生体生命技術に細胞から抽出した記
憶と魂を乗せただけの人形。故に簡単に灰となっただろう?人を蘇らせると
いう禁忌は、途方もないほどの魔力を必要とするのだよ」
 そう──────死した者を真の意味で蘇生することは禁忌にして途方も
ない魔力を使うのだ。故に、七つの禁呪に数えられるストームガストやロード
オブヴァーミリオンと並び、蘇生魔法「リザラクション」の名が存在するのだ。
最も「リザラクション」だけは神ですら扱うことができなかったとされている。
「貴様は────」
 アイフリードの怒りが、憤激が、逆鱗を逆立てる。
「それを執り行う為に、どれ程の犠牲を強いたかわかっているのか!どれ程
人々の幸せを!命を!踏みにじったかわかっているのか!」
「知らんな」
 ハウゼンはそう吐き捨てた。
「そこでゆっくり見ているがいい。我が魔力の為す命を、蘇るは我が妻。20
年前の大戦「トリスタンの悪夢」の際、まだ赤子であった貴様を瓦礫からか
ばい!そして簡単に死んでいった貴様の実の母だ!」
「何…!」
「全てを憎んだよ、妻を失ったあの日にな。何もかもがどうでもよくなった。
「七英雄」と呼ばれ栄光をその身に受けても、最も近しい愛する人物すら守
れない自分を呪った。あの日に私は狂ったのだろうな…クク…ハハハハ!」

 父の凶行───────それは愛するが故に狂った悲劇の代償。

 それを実の息子であるアイフリードは、いやリーフは理解した。

 理解してしまった。

 もはや止めることなどできない──────────

 それほどに醜悪で、純粋なる想い─────────



 ザ…

「…」
 アイフリードが血が流れ出る肩を押さえながら静かに立ち上がる。ハウゼ
ンは虫けらでも見るかのような視線をアイフリードに向けた。
「もはや止めることはできないのはわかった」
「クク…物分りがよくなってきたな…」
「だがそれでも─────」
「ぬ─────!?」

 「皇帝」アイフリード=フロームヘルが「詠唱」を開始した。

 無詠唱魔法「のみ」で今まで戦い続けたアイフリードが、である。


「Amplification Magic Power」

 アイフリードの詠唱完了とともに魔法力の増幅が天空の混沌を切り裂く。

 魔力とともに吹き上げる乱気流の中で、「皇帝」アイフリード=フロームヘ
ルが静かなる闘志を瞳に浮かべる。

「父である貴様を止める。それが残された家族である俺の責務だ」

 [続]


〜あとがき〜
決戦編第1戦は「皇帝」の過去との対決です。
次回予告、ジュピロスを取り込んだハウゼンとの最終決戦。
そして戦いの終焉とともに巨悪の陰謀が蠢きます。


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