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Ocean's Blue

090:シュケーテル

 氷龍が天を貫く。


 


 「皇帝」アイフリード=フロームヘルの放つストームガストが、ハウゼンの
魔力の中枢たるジュピロスに突き刺さり、それを崩壊へと至らしめる。
「ヴェスパーコア04!」
 それを半身で避けたアイフリードの拳がハウゼンの腹部を打ち据える。
「ぎ…さまぁ!!」
 ハウゼンの怨嗟の呻き、もはやアイフリードの力はハウゼンを圧倒してい
た。だがハウゼンも「七英雄」と呼ばれし存在。隠し手はいくらでもある。
「ククク…ハハハハハ!フハハハハッハハハ!!」
 ハウゼンの交渉とともに、アイフリードに大打撃を幾度も与えたヴェスパー
コア02が複数と言えば生易しいほどの数、展開する。
「…」
 アイフリードはそれを見据え───口元に笑みを浮かべた。
「私の「友人」が似たような技を使う。対策など当に出来ているよ」
 発動前にアイフリードの打撃の連打がハウゼンに命中する。ハウゼンは
血走った眼で、文字通り血を吐きながら咆哮する。
「欠陥品…風情が!この!私の邪魔を!するかぁぁぁぁぁぁ!!!」
「全てにおいて完璧な存在などありえない。だからこそ人は仲間と共に歩み、
そして足りない者を補いあってゆく」
「くだらぬ!理想論など必要ない!あるべきは己が鉄の意志!そしてそれ
を現実へと変える力のみあればよい!」
「ならばこそ────」
「なればこそ────」
 アイフリードとハウゼンの口から同じ言葉が紡がれた。

「「勝利にてそれを証明しよう────!」」

 ドン!

 その言葉と同時にハウゼンの手刀がアイフリードの腹部を貫いた。だがア
イフリードの持つ短剣はハウゼンの心臓を射抜いた。ハウゼンはよろめき、
己の敗北を知った。
「見事だリーフ…その折れぬ意志を持って前へと進むがいい…!貴様が全
てを知ったとき、その重みに耐えられるか…?全ての真実は黒く塗りつぶさ
れるだろう…!貴様の信じる正義こそ絶対悪なのだよ…!クク……ク……」
 ハウゼンの身体がミサキと同じように灰と化し、最期を迎える。溜め込んだ
魔力が制御しきれず肉体が崩壊したのだ。
「…」
 アイフリードは天を見上げた。己の生きる意味でもあった復讐を成し遂げ
たというのに心には空虚しか残らなかった。いや…この結末はわかっていた
のだ。何も残らない復讐劇、それがアイフリードという男が追い求めたモノ。

 だが──────────

 駆け寄ってくる仲間、ルナやシャドウの顔を見やり、アイフリードは笑みを
浮かべた。これからは己の生きたいように生きれるのだ。己に課した使命を
成し遂げ、己の未来が本当の意味で広がったのだ。
「アイフリード様〜大丈夫ですか〜?」
「アイフリード!大丈夫か!」
 心配そうな顔をする2人の頭を撫でると、アイフリードは視線をある方向へ
と向けた。

 プロンテラ城──────

 戦いは終わっていない、まだ始まったばかりなのだ。アイフリードはフィリ
の力となるべく、シャドウとルナを伴い城の方向へと駆け出した。

 ◆

 プロンテラ城、地下牢獄──────

 カツン…カツン…

 プロンテラ城の地下牢獄の階段を降りる男がいた。

 「死を体現する男」 ディスクリート=イノックシャースである。

「ハウゼンが死にましたか。さすがは「皇帝」、現在の若い世代で最強の冒
険者と言われるだけのことはありますね。ですがレベイレブ氏も恐ろしい作
戦立案を行う方だ、「剣の蜥蜴」とはよく言ったものだ…」
 ディスクリートは牢獄の中に囚われし、ある人物の前に立った。鉄鎖に繋
がれ、衰弱しきった男の元へとやってきたのだ。その男はこの国で最も高貴
なる存在、トリスタン三世である。
「なに…ものだ…」
 トリスタン三世は何者かが現れた気配を感じ取り、口を静かに開いた。ディ
スクリートは口元に笑みを浮かべると声をかけた。
「貴方を解放しましょう、そして…フェイトの元へと連れて行きます」
「…刻が満ちたとでも言うのか」
「ええ、存分に殺しあってください。結果は見えていますがね」
 これはディスクリートにとって遊戯に過ぎない。

 いや、全ての事象がディスクリートにとっては遊戯なのだ。

 「死のゲーム」

 ディスクリートの介入にて王の命に時間制限が付いたこととなる。

 フィリがたどり着くのが早いか、それとも王が滅びるのが早いか────

 ◆

 プロンテラ噴水前─────

 真紅の力の奔流を撒き散らし、トレントが魔王たるオークロードに牙を剥
く。トレントは一足飛びで相手を斬り伏せられる体勢を取る。
「ガハハハハハ!カスが本気を出そうとカスには違いないんだよ!」
 オークロードが瞬足でトレントとの間合いを詰める。その手には最強最大
の武器、神器「ミョルニール」が纏いし破壊力。
「千切れ潰れやが──────っ!」
「遅ぇんだよ」
 トレントが銀色の瘴気を剣にまとわせ、それをオークロードの胸板に叩きつ
ける。その動作のほんの直前、オークロードは直感のみで気付いた。

 この攻撃は────魔王たる俺に傷をつける──────!!


「真紅剣───────「銀狼」!!!」


 ゴ!ガォ!ドゥゥゥゥゥゥゥッゥン!!!


 オークロードの胸板に突き刺さった銀色の瘴気は天空へ向けてその威力
の残滓を放出した。天へと向けて銀色の瘴気がほとばしる。


 天へと向けた銀色の瘴気に気付いたフィリ達が一瞬立ち止まる。
「あれは…トレントの最終奥義の「銀狼」!?」
 フィリは驚きを隠せずそう呟いた。エリカがフィリの言葉を継ぐ。
「トレントが「銀狼」を出すのが早すぎます…!魔軍七大勢力の魔王が一
角、オークロード。それ程の相手ということなんでしょうか…」
 だがフィリ達に出来ることは先に進むのみ、トレントを信じることしかでき
ないのだ。


 「銀狼」は直撃した。だがオークロードは胸板に焼け焦げた後を残すのみ、
だが動きが止まっていることから痺れを感じていると見ていい。
「オオオオオオオオオオッ!!」
 滅多に存在し得ない好機、トレントは裂帛の気合いとともに宣言する。
「真紅剣──常時発動」
 意地でもここでオークロードを倒す。死んでも倒されるつもりがないトレン
トの覚悟である。トレントは真紅の力を纏わせたマグナムブレイクでオーク
ロードを業火で埋め尽くす。
「貴様──っ!」
 オークロードの痺れが残った反撃。いかな神器「ミョルニール」と言えども、
精度なき攻撃に致命的な威力などない。
「オートカウンター!」
 トレントの斬り伏せる反撃とともに、オークロードの巨体がよろめく。オーク
ロードは魔気を爆発させ、トレントの身体ごと吹き飛ばす。
「これでも…!」
 トレントは懐から極太のソードナイフを数本取り出す。
「喰らいやがれ!」
 真紅の力を乗せたソードナイフがオークロードの身体に突き刺さる。
「グアァアアアアアアアアア!!」
 効いている。トレントは油断なく隙なく、勝負を付けることに注力した。


「真紅剣───────「銀────


 グア!ドゴゥン!

 オークロードの拳がトレントの腹部に突き刺さった。
「がっ…!」
 オークロードはトレントに拳を突き刺したまま振り回し投げ飛ばした。受身
もとれずトレントが地面に落ちる。腹からは血が大量に流れ出はじめた。油
断も隙も見せなかったはず、それでこれか────
「クソ…あらためて考えなくても、とんでもない化けモノだな畜生…!」
 トレントは剣を杖代わりに立ち上がる。視線の先には魔王。
「ガハハハ…!中々にやるな…!久々だよ人間相手にここまで滾るのは
な!そして懐かしいモノも見れた。「真紅都市」の力か!」
「───────────────何!?」
 ありえない敵から出たありえない言葉。それはトレントがずっと追い求めて
いた都市の名前だった。
「貴様…名前は何と言う!」
「トレントだ、覚えとけ」
 その名を聞いた後、オークロードが噴き出した。
「グ…ガハハハハッハハハ!そうかトレントか!なるほどそういうことか!貴
様!あの呪われた魔女の眷属か!自分が滅ぼした都市の力を使うとは因
果だな!すなわち貴様の相手は俺ではなく魔剣士タナトスということになる」
「…何だと」
 オークロードの言葉が理解できない。だがこいつもまた何かを知っている。
トレントはそれを確信した。
「わざわざ貴様達の因縁に割り込むつもりはない。俺は別の相手を探すとし
よ─────────」

「待てや」

 トレントが血を吐きながら問う。
「魔女とは誰のことだ。有名なニブルヘイムの魔女キルケラのことか」
 オークロードが牙を剥きだしにして笑う。
「あれも大概な魔女ではあったが違う。俺が言っているのは貴様が共闘関
係になったあの女、この世界にソウルリンクの技術を生み出せし魔女、ルー
ンミッドガッツ王家「七つの家門」が一つ、クレイドル家のルアーナ=クレイド
ルの眷属かと言っている」

 「七つの家門」────それはこの国、ルーンミッドガッツ王国が建国され
た際に覇権を争った七つの王家の事である。そして結果、覇権を得たのはト
リスタン家とフェリカ家の2つの王家だったという。他にもシュケーテル家やク
レイドル家、フロームヘル家など様々な王家が存在していたという。

「つまり…そういうことかよ」
 「真紅都市」は異世界に存在するとトレントは認識していた。それを伝えた
ライジング=ボーンドですらそれが正しい認識であったと考えているだろう。
それは正解であって否でもあったのだ。

 異世界とは過去。

 過去────ルーンミッドガッツ王国が建国されるより前、

 「真紅都市」は存在していた────────────────

 ◆

「何者だ…貴様」
 アイフリードが肩口をおさえて呻く。すでにルナ、シャドウの2人は致命傷を
受けて倒れ伏している。斬られた「傷が治らない」のだ。
「俺に傷をつけることが出来るのは現在に魂が転生し、俺と同じく過去と未来
がつながっている「真紅都市」の一味だけだ。といっても力をばらまいている
のは我が愛する花嫁、ルアーナだろうがな」
 「堕ちたる七英雄」ハウゼン=フロームヘルすら倒した「皇帝」アイフリード
=フロームヘルですら勝てない魔人。不幸なことにアイフリードはこの男が
世界最強の英雄であるラクール=フレジッドをグラストヘイムで倒したことを
知らない。それ程の相手。

 ハウゼンを倒し、歩みを進めたアイフリード達の前にこの男は現れた。


 「無限王」 シリウス


「無様だな、「皇帝」と呼ばれるほどの英雄だ。どれ程の強さかと思えばこの
程度とは」
 アイフリードは剣を一振り持つだけでこちらを圧倒してきたシリウスを睨み
据える。まず傷が治らないということが一番致命的である。持久戦に持ち込
まれると確実に敗北が見える。かといって一気に攻めることすら難しい。
「やはり「塔」の力は素晴らしいな。過去と未来を繋ぎ強制干渉することで、
未来の肉体に傷をつけ、実質の傷は過去の存在しない肉体に現れる。未来
では癒えぬ傷をつけることでこちらの絶対優位を保つ。実際の所、「塔」のシ
ステムがなかろうが負けるとは思えないが」
「貴様───────何者だ───────」
 アイフリードはこの男がこの世界に存在する者達と一線を引いた異質な存
在ということを感じとりはじめた。率直なる疑問、それを言葉にした。
「「塔」は過去から未来にかけてこの世界の奥地にまだ存在しているようだ。
それもそのはずか。俺の思念体を封印したあの「塔」がなければ俺はこの世
界に留まることも出来ないだろうがね」
「貴様は────」
「タナトス」
「──!」
「俺の名は魔剣士タナトス=シュケーテル、現在は「無限王」シリウスと名
乗ってはいるが。それにも事情があるがそれは割愛しよう」
 魔剣士タナトス=シュケーテル。ルーンミッドガッツ王国「七つの家門」の
一つを担うシュケーテル家の青年。この世界に存在した最強最悪の巨人族
の魔王、「炎獄王」スルト、またの名を魔王モロクと呼ばれた存在を打ち倒
し、現在の「砂漠の都市」モロクに封印したとされる魔剣士。

 「無限王」シリウスの正体は魔剣士タナトス=シュケーテル

「もういいだろう。ちょうど俺の中の「憎悪」が暴れたいと言っている」
 アイフリードが動くより早く、突如出現した黒き円錐状の何かがアイフリー
ドの身体を貫き、アイフリードの意識は闇の中へと堕ちていった─────

 ◆

 同時刻、トレントがオークロードに敗北。

 オークロードが次なる獲物を探し動き出す。

 戦況は一気に悪化の一途を辿ろうとしていた─────────

 [続]


〜あとがき〜
「真紅都市」編のキーマンであるシリウスの正体が明かされました。
本編の次に作りこんでいる話であります、ご期待あれ(゚∀゚)ノ (多分
次回予告、敵の中にアルデバランで拉致されたリシアを見つけたキスク。
リシアはすでに「ユミルの十字架」にその精神を侵されていた!


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