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Ocean's Blue

091:聖杯統合開始

  プロンテラでの決戦前、「皇帝」アイフリード=フロームヘルはキスクを呼
び出した。アルデバランでの戦いの折、仲間の一人であるリシアが拉致され
た件についてだろうとキスクは当たりをつけて話に望んだ。だが、アイフリー
ドがキスクにかけた言葉は全く違うものであった。
「キスク、何故20年前、「トリスタンの悪夢」は引き起こされたのだろうか」
「──?」
 「トリスタンの悪夢」、それは20年前に人類を滅ぼさんと「闇を総べる者」
ダークロードが「魔軍七大勢力」の七魔王全てと魔族全てを持って戦いを挑
んできた大戦。レイの父母であるラクールやマリア、「七英雄」の活躍により
大戦は収束したが、その大戦の理由など明白である。
「人間を滅ぼそうとしたんだろ?」
「それならば何故、20年前だ。何かが起きる時、何かが引き金になってい
る。「魔軍七大勢力」の魔王が一人動いただけで世界はざわつく。それに気
になる点はもう一つある。数ある国家で強大な三国、ルーンミッドガッツ王
国、シュバルツバルト共和国、そしてアルナベルツ教国。それらの中でルー
ンミッドガッツ王国が何故攻められる対象となった?」
 キスクはそこでアイフリードの言わんとすることを言葉にした。
「ルーンミッドガッツの国家そのものが危険であって、それが元でフェイトが
現れて、魔族たちはそれを防ごうとしていた…ということか?」
「俺もそれは考えたが、それでは現在フェイトがオークロード達を従えている
理由が不明だ。これは非公式情報だが、アルナベルツ教国による、トリスタ
ン三世の世継ぎである第2王子、第3王子の暗殺事件が起きた事例もある。
何故、ルーンミッドガッツ王国はこれ程までに執拗な敵意を受ける?」
「最も繁栄しているからとかじゃないのか…?」
「魔族もアルナベルツ教国も己のテリトリーを守れればそれで良いと考える
節がある。その線は薄いような気がする」
 考えが煮詰まる、推論でしかないのだが。これはキスクくらいしか知らな
いのだが、そもそもアイフリードはよく全ての事象に対して疑問を抱く癖があ
る。またその癖だろうと思い、キスクは自分の本題に乗り出した。
「俺はプロンテラでは別行動をとるぜ」
「俺のようになるな、俺と違いお前たちにはまだ救いがある」
「ああ」
 リシアを救う。キスクはそのためにプロンテラの戦いに望むのだ。

 そしてこの時はとりとめもない推論であったこの会話。

 答えが出る刻はそう遠くないことをまだ2人は知らなかった─────

 ◆

 戦火の中を駆け進む。アルデバランで「殺戮王」セイレン=ウィンザーに
よって拉致されたリシア。その姿を探してひたすら駆ける。プロンテラの南東
にはイズルードに移転する前の剣士ギルド跡がある。砂地に突き立った複
数の十字架。その間に彼女は立っていた。

 「閃光剣」 リシア=キングバード

 ユミルの十字架、「七つの大罪」の一つ、「嫉妬」の十字架にその身を支配
され、フェイトやウェルガの操り人形としてプロンテラへと放たれた。彼女の
近くには無惨に殺害された冒険者達の亡骸が転がっていた。リシアは世界
最強のギルド「皇帝の十字架」の中でもトップクラスの実力者なのだ。並大
抵の冒険者では全く歯が立たないだろう。

「リシア、探したぞ」
「キスク、待ってた」

 即座に2人は戦闘体勢をとる。偽の「神仙の島」コンロンで出会って、2人
はずっと一緒にいた。ともに技術を磨き、そして互いの想いはすれ違い、互
いの気持ちはお互いに向いていたというのに、小さな臆病とプライドが全て
を壊してしまった。だからこそ、キスクは全てを清算する為にここに来た。

 自分が壊してしまった大切な人を取り戻す為に────

「オーラブレード!」
 それは青い刀身、リシアの手にある剣が、長さ30メートルはあろうかという
巨大なオーラの大剣へと進化する。これがリシアが「閃光剣」と呼ばれる由
来だということをキスクはよく知っていた。その鈍重な剣の見た目とは裏腹に
超速度で剣が振り下ろされる。

 ガギィィィィィィ!!

「へっ…!」
 キスクは手にオーラを収束させて、その攻撃を受け止める。キスクもまた
「魔人拳」と呼ばれるほどの実力者、簡単にやられはしない。そしてお互い
の手の内は全て知り尽くしている。ずっと一緒にいたから。
「ツーハンドクイッケン!」
「伏虎拳!連柱───崩撃!!」
 乱打、乱撃、激しい激突音が周囲に破壊を撒き散らす。砂地に刺さった十
字架が次々と吹き飛び、周囲が荒野のごとく変化していく。

 ゴゴゥン!!

 2人の力をともなった一撃のぶつかり合いの後、2人を中心にクレーターが
出来上がる。
「今さらだけどよ、俺はお前とずっと一緒にいたかったんだ。ずっとバカ言っ
たりできる関係を壊すのが怖かった」
「あたしもそう。キスクがそう想ってくれてることも理解できるの。なのに…違
うあたしが私の中で叫ぶの。壊せって。あたし、キスクを壊したい」
「そうすることでリシアが満足するならいくらでも壊されてやる」
「違う、あたしはそんなこと思ってなんかいない…!キスク…助けて…」
「動くな」
 キスクはリシアの服の肩口を破る。そこにはくっきりと十字架が───ユミ
ルの十字架が黒々と鈍く光っていた。キスクはそこに手を押し当てた。
「キスク…早く…いつまで制御できるか…う、く…」
 リシアの殺戮衝動が増加しているのだろう。リシアの身体が震えている。

 キスクが狙うはユミルの十字架のみ。

 「発勁」──練功向上により身に付けし体内への爆発呼吸からの勁打撃

 諸悪の根源である「七つの大罪」を討ち滅ぼす。

 一撃はすぐに済んだ。

 まるで毒が抜けたかのようにリシアが倒れこみ、血色のいい表情でキスク
にすがりつく。最初から、こうしていればよかったのだ。
「キスク…」
「リシア…」
 互いのすれ違ったかのような想いをかみしめるように2人は抱きしめあう。



 異変はすぐに起こった─────────



   ドクン

               ドクン



 「誠実」の十字架を持つキスク=リベレーションも「嫉妬」の十字架を持つリ
シア=キングバードも倒れこむ。身体にある十字架の位置が脈打ち痛む。
「ぐぅ…っ!!何だこれは…!」
「ああ…!くう…っ!」



   ドクン

               ドクン



 シリウスに倒され、意識不明の「英知」の十字架を持つアイフリード=フ
ロームヘルの十字架が蠢く。死した「貪欲」の十字架を持つハウゼン=フ
ロームヘルが灰となった場所に十字架が浮かび上がる。



   ドクン

               ドクン



 「魔法都市」ゲフェンでは「暴喰」の十字架を持つフィリやティアの姉であ
るミリア=グロリアスが、「幻想の都市」コモドでは「希望」の十字架を持つ
ラクール=フレジッドが、それぞれ天を見上げながら痛みに耐える。



   ドクン

               ドクン



 プロンテラ城の内部で「傲慢」の十字架を持つロウガ=ブラストが、同じく
ユミルの十字架、「情欲」の十字架を持つセレス=ドラウジーに語る。
「始まったか…「ユミルの十字架」の完全なる統合が。「ユミルの聖杯」が選
定されるときが」
「フフ…」
 セレス=ドラウジーが額に脂汗をにじませながら立ち上がる。
「行くのか」
「ええ…私に宿っている魔王が血を欲しているから」
 セレスが妖艶に微笑んだ。



   ドクン

               ドクン



「ぐっ…なんだよこれ!」
 「勇気」の十字架を持つイアル=ブラストが痛みに耐えかね叫ぶ。同じく
「思慮」の十字架を持つエリカ=フレームガード、「純潔」の十字架を持つ
ティア=グロリアスが悲鳴を押し殺し蹲る。
 だが最も異様な存在感で突出していたのはフィリ=グロリアスだった。
「ああああああああああああああああぁぁっ!!」
 「愛情」の十字架を持つフィリの背中にはユミルの十字架の力を発した時
のごとく白銀の翼が展開されていた。だがあまりにも力が溢れている為か、
その白銀の翼は紅く血濡れ、激しく震えていた。幻視とは言え、フィリは意
識が飛びそうになるのを必死にこらえていた。
 フィリ達の異変を察したロイヤルミスト達はフィリ達を守るように敵を通さ
ない為、敵に襲われる心配は今のところないが─────

 まるで「七つの美徳」の十字架が全てフィリに宿るかのごとく、イアル達か
ら十字架の力がフィリの翼に流れ込む。

 そして、「七つの大罪」の力はプロンテラ城の中へと流れ込んでいた。

 ◆

「ガハハハハ!見つけたぞ!グハハハハッハハ!!」
 耳障りな哄笑とともに、フィリ達の元に「魔軍七大勢力」が一角、「世紀末
覇王」オークロードが現れる。
「「…!」」
 トレントがやられたか。イアルの額に冷や汗が浮かぶ。痛みはだいぶ治
まってきたが、こいつ相手に戦える状態ではない。エリカもティアもまずい
といった表情を隠せない。フィリにいたってはまだ激痛に耐えている。
「グハハハハ!貴様らが俺にぶつけた、真紅の旅人は雑巾のようにズタボ
ロにしてやったぞ!最後の最後で逃がしたが、あの傷では死んでいる!」
 じゃあ生きているな、イアルはそう思った。あいつは殺しても死なない。だ
が、安易にオークロードをこちらに流すような真似をするだろうか?逆転の
策を持っているならば、流すはずがない。本当にやられたのか?
「グハハハハ!屑ども!一人残らず滅してくれるわ!」
 雷鳴とともにオークロードが神器「ミョルニール」を振り上げる。

「ふむ、つまりわしは、この為に呼ばれたということかの」
 オークロードの前に、突如、老人が現れた。

 その老人を見て、オークロードが目を剥く。
「何故貴様がここにいる」
「見ての通りじゃ。わしの存在は切り札とトレントは言っておったが、奴が
言っておったの。切り札は最も効果的な時に切るから切り札なのだと」
「邪魔立てするか、いやそれよりも我々と敵対するつもりか」
 老人が微笑む。
「オークロードよ、お主は今も昔も野心が強すぎるのう。それでは高みという
名前の頂には登れぬぞ」
「ならば登って見せよう…!貴様を倒し俺が魔王の頂点たる存在となる!」
「やれやれ、仕方ないのう」
 老人が力を解き放つ。人の姿であって老人の体格が「元」に戻ってゆく。

 それを見たイアル達は度肝を抜かれた。

 老人の正体は「亀族の大将軍」タートルジェネラルだったからだ。

「案ずるなフィリ=グロリアスとその仲間達よ。我が「武の眷属」、亀族は全
軍、主らに味方しよう」
「な…なんで」
 ティアが震える声で呟く。
「トレントとかいう生意気な人間によると、お主らに未来を幸せにできる可能
性があるそうじゃ。わしもお主らに賭けてみようと思っただけじゃよ」
 タートルジェネラルがでっかいひげをゆらしながら、ニカっと笑った。
「征け、ここはわしが任されようぞ」
 まだ痛みの治まらないフィリが痛みにこらえてそっと呟いた。
「助けにきていただいて、ありがとうございます。「亀族の大将軍」タートル
ジェネラル翁」
 その言葉を耳にし、笑みで返事を返しながらタートルジェネラルはオーク
ロードと向き合う。オークロードの眼が殺意にぎらつく。
「壊してやる…!殺してやる…!ジジィ…!」
「やってみるがよい、小童。おもちゃを手に入れた程度で勝てると思うな」

 魔王対魔王の人知をはるかに超えた戦いが始まる────

 ◆

 プロンテラ城、玉座の間─────────

 フェイトが部屋の片隅で待機するウェルガに語りかける。
「俺の「憤怒」の十字架も受け渡し、無事統合を完了した」
「となれば、「ユミルの聖杯」、聖杯統合者は2人に絞られた…と」
「「七つの美徳」を背負いしフィリ=グロリアス、「七つの大罪」を背負いし…」



 静かにその男は佇んでいた。

 その手に「ルドラの弓」を手にし──────

 腰には再生した紅蓮と蒼氷の魔剣を携え──────

 「七つの大罪」の全てをその背に負う──────



 フェイトの魔力がプロンテラ全域の戦闘を把握する。
「そろそろ城内が騒がしくなるな、迎え撃つ準備はできているか?」
「問題無い。レベイレブの考案した作戦「剣の蜥蜴」は順調にパズルの
ピースを埋めながら進んでいる」
「それに珍客も来ているようだ。ディスクリート=イノックシャースか」
「ほう」
 その名を聞き、ウェルガの眉が跳ね上がる。
「奴一人、どうとでもなる。順調に計画を遂行せよ、ウェルガ」
「承知した」

 ウェルガ=サタニックがフェイトに臣下の礼を取る。
「我が主、「巨人王」ロキ。貴方様の仰せのままに」
 フェイトの闇がさらに魔力を帯びる───────

 ◆

 数ヶ月前のグラストヘイム古城──────────

「レイ=フレジッド、フィリ=グロリアスは王位継承せし我が妹であり、
我が魂は巨人王ロキの転生した魂が宿ったものだ」

 「神々を穿つ一条の閃光」はこの言葉の後、放たれた。

 [続]


〜あとがき〜
話がどんどん佳境に入って伏線回収だけで話が終わっていくww
次回予告、魔王対魔王。そして神器クエストでおなじみ(?)
レベイレブとの戦いがありまっす!ムカつくおやじをぶっとばせ(゚A゚;;)


〜登場人物紹介〜
●フェイト=トリスタン=ルーンミッドガッツ四世
世界を闇に堕とし込んだ魔王。
その正体はかつて神と魔の全てが滅んだ「ラグナロク」
を引き起こした巨人族の王、ロキ。


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