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Ocean's Blue

092:信仰者達の狂宴

 「巨人王」 ロキ

 この世界において、その名を知らぬ者は存在しない程の魔王。遥か太古
の時代、この世には存在していた3つの世界。

 神々が住まう世界──アスガルド
 巨人族、つまり魔族が住まう世界───ヨトゥンヘイム
 そして、人間が住まう世界──ミッドガルド

 それら3つの世界を含む全ての世界に戦乱、俗に言われる神々の黄昏と
呼ばれる神魔の最期の戦い「Ragnarok」を引き起こした張本人。

 その戦いを収束させたのは後の世にマリア=ハロウドと名乗るレイの母、
ヴィーダル。彼女は「神々を穿つ一条の閃光」を放ち、神の力を失った。だが
それでも彼女はこの世界に残った最期の「神」である。
 マリアがこの世界のシステムに組み込まれたことを知ったロキは行動を起
こした。マリアを幼きレイの元から連れ去り、死者の都「ニブルヘイム」へと
幽閉したのだ。「神」であるマリアをこの世界から引き剥がし、「魔」であるユ
ミルの力を高める。

 全てはユミル復活の布石──────────

 「巨人王」ロキは、フェイト=トリスタン=ルーンミッドガッツ四世は、長き刻
に渡り、ユミルを追い求めてきた。神も魔も滅ぼし、全てはユミルの唯一なる
占有者とならんが為。

 ある愛の形が、この世界を闇もしくは無、あるいは混沌へと壊しゆく。

 ◆

 首都プロンテラに大嵐が吹き荒れる。それがたった2つの存在が引き起こ
しているなど誰が想像できようか。人などが到底及ばぬ絶対的存在。「魔軍
七大勢力」の七魔王同士の戦い。
「ガハハハハハハ!貴様と戦う日がくるとはな!タートルジェネラル!」
「お主は誰がわし等の「主」が忘れてしまったのかのう?オークロード」
 タートルジェネラルは2刀の大太刀をたくみに操り、オークロードの持つ神
器「ミョルニール」の攻撃を受け流す。
「グハハハ!俺の主は「王」よ!太古の時代に世界を焼き払った「王」!」
「ふむ…それは「あの方」への反逆と見なすぞ?」
「ガハハハハハ!好きにしろ!この後に及んで迷宮の森に引き篭もっている
奴には用などない!俺の全ては「王」に託したのだからな!」
「お主はわかっておらぬ、「あの方」は」全てを見ておられる。何故「あの方」
が己が後継者たる息子をレイ=フレジッドやフィリ=グロリアスに張り付かせ
たかわかるかの?」
「──────?」
 怪訝な表情を浮かべるオークロードに対し、タートルジェネラルはまるで全
てを見透かすような表情を、哀れみにも似た表情を浮かべた。
「お主やドレイクやオシリス、「魔軍七大勢力」の魔王達の離反について、「あ
の方」は早い段階から察知しておった。それの調査も含んでおったが…」
「ガハハハ…!それは可哀相なことだな…!」
 オークロードはオシリスとの戦いで後継者を失った「あの方」に哀れみと嘲
笑、そして愉悦の入り混じった言葉を吐く。
「「あの方」はこうおっしゃっておったの」



 「好きにさせろ。いてもいなくても変わらぬ」



「───とな」
 タートルジェネラルの言葉にオークロードは絶句した。永きに渡って仕えて
いた主の一言、存在として「見られていない」ほどの無関心。オークロード達
が何をしようと、そのような物は些事でしか無いと。

 「迷宮の森」の主の絶対的無関心──────

「何だと…それは」
「ひとえに言えば最初からいらぬと言うことじゃ、元々必要のないものを見限
ることこそ簡単なモノはないからの」

 コノオレガ、サイショカラ、ヒツヨウノナイモノダッタト、イウノカ─────

「死ぬ。貴様も迷宮の森の屑も死ぬ。苦しみ、そして死ね」
 オークロードの激情のまま、神器である「ミョルニール」を投げ捨て、周囲
の大地を竜巻のように巻き上げ、空間を軋ませた。オークロードの持つ最大
の奥義「アースクエイク」である。空間に「地震」を引き起こし、対象者を引き
ずり込み絶対死で収束させる最悪の奥義。

「ふむ、ようやく本気になったかの。じゃが─────」
 タートルジェネラルは2刀の大太刀を鞘に納めると、周囲の空間にある
「水」の力を取り込み始めた。それに伴い急速に一帯が乾燥し始めた。

 そして、オークロードの「アースクエイク」が発動した──────

 空間が軋み、全てのモノを引きずり込もうと荒れ狂う。それはタートルジェ
ネラルも例外でなく、徐々に引きずり込まれ、身体のあちこちに裂傷が出来
上がる。それでも尚、タートルジェネラルは「水」の収束をやめない。
「グアッハーーーーーーーーーーーー!死ね!死ね!死ね!」
 オークロードの圧力がさらに増す。

 ばぎばぎばぎばぎばぎばぎ!!

 空間が音を立ててさらに軋む。そこで、オークロードは異常に気付く。
「アースクエイク」の爆心地にいるタートルジェネラルは何故壊れない。もは
やあの場所は限定的ではあるが、生命の存在すら許されぬ重力空間と化し
ているはずだ。
「オークロードよ」
 タートルジェネラルの言葉にオークロードが焦燥をあらわにする。
「「あの方」への反逆には死でもって贖え」
「黙…れぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!!」

 ズン

「──────っ!?」
 オークロードは腹から突き出している己の何かを見つめた。最初は槍か何
かが腹に突き刺さったと思った。だがそれは、オークロードの腹から突然出
現し、オークロードの腹を突き破ったのだ。
「これは…俺の…血…!?」
「わしの「水」への支配はお主も例外にあらず。お主の中の「水」を支配し、脳
神経から筋肉中枢に到る全てを掌握した」
 だがこれはあくまで身動きを拘束するためだけのモノである。身動きがとれ
ないオークロードにタートルジェネラルが静かに歩み寄る。
「が……やめ…」
「逆もまた然り、「アースクエイク」などの児戯、「水」で空間の軋みをちょっと
埋めるだけで破綻は免れる。そしてその腹から突き出ている己の血で出来
た槍で気づいたと思うがの」
 タートルジェネラルは静かに身を翻した。
「わしは「水」を支配することで、有ではなく無を己の武器とする。これがわし
の奥義「無形剣」じゃ。多少発動に時間がかかるのが難点じゃが、この技を
破った存在は一人しかおらぬ。故にわしは「あの方」に忠誠を誓ったのじゃ」
「───っ!──────っ!!」
 まるで命乞いをしているかのようなオークロードの呻き。タートルジェネラル
は振り返りもせず、吐き捨てた。
「散れ、身の程知らずが」
 次の瞬間、オークロードの肉体が爆裂四散した。ぼとぼとと肉片が周囲に
降り注ぐ。冷徹にして最強、これが「魔軍七大勢力」の魔王の実力なのだ。


 だが、それすら凌駕するモノが存在した──────────


「油断したのう…」
 背後から胸を剣で貫かれ、静かにタートルジェネラルが倒れ伏す。タート
ルジェネラルの背中から剣を引き抜き、その男が呟いた。
「どこだ、どこにいる。ソウルリンカーの始祖たる「真紅都市」の姫巫女、我が
花嫁ルアーナ。どこにいる、トレント──────もう一人の俺」

 「無限王」シリウス───────

 ────────魔剣士タナトス=シュケーテルの身体が鮮血で染まる

 ◆

 プロンテラ聖騎士団最強の部隊と言われていた第3-1-3分隊

 世界中の騎士達の模範、鑑たる存在。

 あの男が豹変するまでは────────

「レベイレブ…っ!」
 聖杯統合の痛みも治まり、プロンテラ城の城門の前まで進んだフィリ達を
待ち受けていたのは、王国軍を率いる軍団長レベイレブだった。そしてコモド
よりフィリに付き従ってきた元聖騎士にして、「七英雄」菊丸=クレバーを父
にもつロイヤルミスト=クレバーの過去を凄惨なモノへと壊した張本人でも
ある。ロイヤルミストはその姿を見るやいなや、2本の剣を構えた。
「レベイレブ!てめぇだけは許さん!」
 対するレベイレブは重厚なペコペコに鎮座し、単騎であるというのに涼しい
顔である。レベイレブはランスの切っ先を静かにフィリ=グロリアスへと向け
た。レベイレブは嘲笑を浮かべた。
「クク…我が「剣なる蜥蜴」の網へようこそ、フィリ=グロリアス」
「剣なる…蜥蜴…?」
 フィリが呟く。聞きなれない単語である、作戦名だろうか?エリカやイアル
がフィリを護るようにレベイレブの前に立ち塞がる。だがレベイレブは首を
ゆっくりと横に振った。
「私は貴殿らを阻もうとはせぬ。ただし───この王国軍を掌握しているの
は私だ。私を殺せば、王国軍の機能は半減するだろう」
 つまりレベイレブは自分をエサとして直接討って出てきたということだ。
「ヌン!」
 レベイレブはペコペコを走らせ、フィリ達の脇を真っ直ぐプロンテラ市街の
方へと走り抜けた。レベイレブがすれ違い様に言葉を捨てる。
「これより王国軍全体に、この首都プロンテラに残る住人達の殲滅を命ず
る。止めたければ追って来い」
「…っ!」
 その言葉にあからさまにフィリが動揺する。だが、振り返ろうとするフィリよ
り早くロイヤルミストが駆けはじめた。
「フィリ様、奴は俺が倒します。先へ──────進んでください」
 ダダダという音を残しながらロイヤルミストがレベイレブを追って市街へと
消えた。フィリは歯噛みながら、それでも振り返らず、その代わりに城を見上
げた。美しきプロンテラ城は黒い靄に包まれ、それでも尚、輝きを失わない。
「行こう──────皆」
 迷う暇などない。イアル、エリカ、ティアを始めとする仲間達が頷いた。

 プロンテラ城の城門が静かに鳴動し、開いた──────

 まるで誘っているかのごとく─────────────

 ◆

 レベイレブはペコペコを乗り捨てると、ある建物の中に入り込んでいく。あ
れはプロンテラの図書館か。ロイヤルミストは躊躇せずレベイレブを倒す為
図書館へと飛び込んだ。
 ロイヤルミストは本棚を背に、レベイレブが一冊の記録書を手に持っている
のに気が付いた。その記録書には見覚えがある──────
「それは俺たち第3-1-3分隊の記録か」
「その通りだ、貴様達が「自主的」に隊を解散して散っていた記録でもある」
「それをてめぇが言うか!」
「…そうだな、実に見事だった。プロンテラ最強の部隊と謳われていた私の
部隊が薬一つでこんなにも簡単に壊れてしまったのだからな。アルナベルツ
教国からわざわざ毒草を手に入れた甲斐があったというものだ」
「アルナベルツだと…?」
 ロイヤルミストの問いにレベイレブが答える。
「そう、調合次第ではあるが、人を壊すには、壊れたモノ達が住む地より採
取できるモノが良い出来になる。楽しかったよ、淫蕩に狂い乱れるエマも、身
体中を掻き毟り血溜まりを作るジャックも、真実に近付き私に挑んで殺され
たイグニゼムも、全て私がやったことだ」
「……!」
 怒りで前が見えなくなるほどにロイヤルミストは激昂した。
「神に近付いたモノは許せぬ、神に近付いていいのはこの私だけだ。そして
それを果たす為ならば悪魔とも契約を結ぼうではないか」
 次の瞬間、ロイヤルミストがレベイレブに斬りかかった。レベイレブはラン
スで、ロイヤルミストの足を払った。転がりながら本棚へとロイヤルミストが
衝突する。すぐさま立ち上がりロイヤルミストは剣を構える。
「貴様程度が私に勝てると思ったか、ロイヤルミスト」
「勝つんじゃなくて殺しに来たんだよ」
「クク…ならば未だ埋まらぬ実力差を見せてやろう」

 剣と槍の激しいぶつかり合いが始まった。

 レベイレブの圧倒的な槍術がロイヤルミストを徐々に追い込んでいく。
「ハハハ!ロイヤルミスト!これが歴然とした力の差だ!」
「ク…っ!ソ!」

 ガキガキィン!ガキィン!

「スピアクイッケン!」
 レベイレブの攻撃速度がさらに上昇する。さすがに捌ききれずにロイヤル
ミストが吹き飛ばされる。レベイレブが槍の切っ先を、ロイヤルミストの眉間
に押し当てた。
「勝負有りだ」
「…っ!」
 観念したようにロイヤルミストが剣を取り落とす。
「…」
 その様子に満足したのかレベイレブが目を細めた。
「そうだ、その表情こそが私が好むモノ。神に近付く者は誰であれ苦しめ」
「お前は…ずっとそうやって生きてきたのか」
「私ほど神を愛しているモノはいない…神の寵愛は私のモノだ」
「神なんていねぇよ」
 槍の切っ先をロイヤルミストが手で直接掴んだ。
「!」
 レベイレブは思わず槍を引こうとするが動かない。ロイヤルミストは手から
血を流しながら、言葉を紡いだ。
「神なんていない。苦しんだ過去をどうこうしてくれるわけでもない。叶わぬ
のなら、己の意志で叶わぬ過去を振り払い、俺はこの剣を王に捧ぐと決め
た。我が剣をこの国を導く「新たなる王」に捧ぐと決めた」
「──────貴様、何が言いたい」
 ロイヤルミストがニカっと笑った。
「要するにお前と同じで汚いことなら何でもするってね」

 ドン

「がっ…っは…っア」
 レベイレブの心臓を射抜く横方向からのソードナイフ。レベイレブは驚愕
に目を剥きながら静かに倒れた。ロイヤルミストがソードナイフの投擲が
あった方向に視線を向けると、そこにはトレントの姿があった─────

 [続]


〜あとがき〜
回線がつながらない間にちょっとまとめ書き(ノ∀`)
次回予告、ついにフィリ達は城内への戦いへと駒を進める。
敵の背後からの侵攻を食い止めるために単身残ったティアの前に
現れたのは、「殺戮王」セイレン=ウィンザーだった!


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