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Ocean's Blue

093:殺戮王

「おい、コレはお前の仇か何かか?」
「まぁ…似たようなものだ」
 トレントの問いにロイヤルミストが答える。槍を掴んだせいで手が思いっき
りヤられている、これ以上の戦闘は無理だろう。だが、その前にやっておくべ
きことがある。
「レベイレブ、息はあるか」
「グソが…!」
 怨嗟の声を吐きながらレベイレブがのたうつ。その度にトレントに射抜かれ
た心臓から血が吹きだす。息絶えるのも長くはないだろう。
「「剣なる蜥蜴」とは何だ」
「ク…クク…それには答えられぬ…ゲフッ」
「どけ」
 トレントはロイヤルミストを押しのけるとレベイレブの首を掴み上げた。
「答えろっつってんだろ、教えてくれれば交換条件に助けてやらんでもない」
 トレントはポーションをレベイレブの視界にちらつかせながら口元に笑みを
浮かべた。ロイヤルミストが非難の声を上げようとするより早く、レベイレブ
が条件を飲んだ。
「「剣なる蜥蜴」…とは、その名のごとく…蜥蜴とその尻尾を剣…すなわち武
力で引き離す作戦だ」
「何だそりゃ」
 トレントが呆れた声。だが、次のレベイレブの言葉は衝撃的なモノだった。
「貴様らは蜥蜴の尻尾、そして蜥蜴はフィリ=グロリアスを指す。フィリ=グ
ロリアスの仲間を武力で全て引き剥がし、単身駒を進めさせる。そして…「七
つの美徳」と「七つの大罪」が接触し、「ユミルの聖杯」は完成する…!」
「「─────────っ!」」
 トレントとロイヤルミストは驚愕に目を見開いた。勘違いしていた、フェイト
はこのプロンテラの決戦などどうでもいいのだ。必要なのは儀式、この戦い
で邪魔をされず、そしてユミルの復活を狙っているということか。そしてレベイ
レブが市街へと戦闘区域へと移した事でロイヤルミストもそれを追ってきた。
尻尾がまた一つ引き離されたのだ。
「そういう…ことか!」
「おい、てめぇ。フィリ=グロリアスと一緒にいた奴だな。今、あいつの傍には
誰がいる…!」
「聖騎士のエリカ殿、チェイサーのイアル殿、アルケミストのティア殿、そして
護衛の兵が数名だ…!」
 その言葉を聞き、レベイレブが満足気に笑みを浮かべた。
「さあ、私は…グ、答えたぞ…!ポーションを…寄越せ、グハッ」
「うるせえよ」
 トレントはレベイレブを投げ飛ばすと、レベイレブの眉間をソードナイフで撃
ち抜いた。レベイレブは声も発さず絶命する。だがトレントの動作はぎこちな
い。それに気付いたロイヤルミストが問う。
「お前大丈夫なのか…?」
「どうもこうも身体中が軋みを上げてやがる。まだしばらくは動けん、しかし
俺が動かないといけなくなるのも時間の問題だろうな」
「…それは」
 トレントはオークロードとの戦いで瀕死まで追い込まれたのだ。それをポー
ションなどを駆使して動けるように身体を休めていた。
「いいから早く行け、俺はギリギリまで身体を休める。どのみち城下の戦い
で最後に残るのは「アイツ」なんだからな」
 ロイヤルミストはトレントの言っている意味がわからなかったが、それを考
えるのをやめ、フィリの元へ、プロンテラ城へと走り出した。
「感じてるぜシリウス…、てめぇが俺を探しているのをな」

 トレントは身体を休める。

 来るべき「真紅都市」の真実を知る者との戦いに備えて───────

 ◆

「敵の数が多いな」
「キリがありませんね」
 イアルの毒づきにエリカが答える。フィリ達はフィリを中心に背中合わせに
円陣を組むように戦っていた。ここはプロンテラ城内、最初の大回廊である。
特に城の外から侵入してくる敵の数が多すぎる。度重なる背後からの敵の
強襲護衛の兵達も次々とやられていき、残るはフィリ、エリカ、イアル、ティ
アの4人となっていた。
「お姉ちゃん─────」
 ティアが何かを決意したかのように口を開く。
「ここは私が食い止めるから先に行って」
「ダメよ、そんなことしたらティアが─────」
「お姉ちゃん」
 絶対に退かないというティアの決意の眼差し。
「──────っ!」
 最初に口を開いたのはエリカだった。エリカはフィリの肩を叩いた。
「行きましょう」
「エリカ…」
「お姉ちゃん、負けたら許さないからね」
 フィリはティアを抱きしめると、顔を上げた。静かなる決意を持って先へと
進む。エリカがそれに続き、イアルがその場に最後に残る。イアルは恋人の
方に振り返らず、声をかける。
「…ティア」
「イアルもほら早く」
「この戦いの前にティアは俺に言ってくれた。絶対生き延びろって。だから俺
も言う。絶対に生き延びろ」
「うん」
「まだキスも一回しかしてないしな」
「恋人らしいこと全然してないもんね」
 その言葉と同時にイアルは駆け出した。時間が無いとは言え、伝えたい気
持ち、共有したい気持ちの確認は終わり、そして始まった。

 絶対に生き延びる。

 その場に残されたティアは静かに剣を構え、各種ボトルを取り出した。

「ここは死守する。誰一人通さない!」

 ティア=グロリアスの決戦が始まった────────

 ◆

 フィリ、エリカ、イアルの3人はプロンテラ城の回廊を駆け抜け、階段をかけ
上る。目指すは玉座、フェイトの居場所。玉座に近付くにつれ、悪意ある瘴
気が、強大な魔力が増していく。階段をかけ上り、プロンテラ城2階の最初の
回廊に出たフィリ達の前に───────

 「闇騎士」 セレス=ドラウジー

「姉さん…!」
 エリカが姉と呼んで親しみ、そして「七つの大罪」に支配された、プロンテラ
聖騎士団最強の騎士が待ち受けていた───────

 ◆

 ティアはなるべくスキルを使わず、己の剣を振るうことで敵を打ち倒して
いった。スキルを使えば確かに一掃できる。だが戦いはどこまで続くか不
明確なのである。ならば力を温存し、長期に渡って戦い抜くのが最上の策。
 王国軍とは名ばかりのモンスターの群れ、レイドリックやライドワードなど
の異形の魔者達を次々と斬り伏せていく。
「もう…骨が折れるなぁ!」
 側面から襲い掛かってきたレイドリックを蹴り倒し、剣を突き立てる。いけ
る、この均衡が崩れなければかなりの時間もたせることが可能だろう。だ
が戦場において遭遇するモノが全て制することができうるモノではない。
「ほう…随分苦戦していると思っていたが、小娘がおさえていたとは」

 ゴゥ!

 その言葉と同時にレイドリック達が一瞬で吹き散る。まるで自分の仲間な
ど意に介さないといった様子、その言葉を吐いた男は静かにティアと対峙し
た。ティアは対峙した瞬間、恐ろしいほどの寒気を感じた。

 「殺戮王」 セイレン=ウィンザー

 この男は呼吸するように人を殺せる。暗殺者などではない、ただの快楽的
殺人鬼。ティアは静かに複数のボトルを放てる状態にした。完全なる戦闘状
態、他の敵を無視してでもこの男に注意を払わなければ即座に殺される。
「小娘…いやティア=グロリアスか、俺の名はセイレン=ウィンザー」
「…っ」
 セイレン=ウィンザーには圧力を感じない。圧力などとうの昔に通り越して
しまっているのだ。
「恐れることはない、お前を殺すつもりはない。「Ocean's Blue」の力をその身
に宿す贄たる少女」
 動けない、動かない。ティアはセイレンの一挙一動を、その動きを一瞬たり
とも見逃すまいと集中力を高める。

 キン

 セイレンが鞘に剣を納めた。それと同時にばきりという音とともにティアの
剣がへし折れる。ティアは戦慄した、見えなかった。いや感じ取ることすら不
可能だった。
「力の差など見せ付けるつもりもないが────今ので理解しただろう。無
駄死にしたくなければ俺と来い」

 その瞬間、ティアが選択した行為は「逃げる」ということだった─────

 その意図に感付いたセイレンが剣を振るう、城内の柱をへし折り、破壊を
まき散らしながらも、ティアをとらえることに失敗する。セイレンの口元に笑
みが浮かぶ。賢い少女だ、こちらが殺すことができないことを即座に逆手
にとってきた。すでに少女の姿は城の奥深くに入り込んでしまっている。
「狩りの…はじまりだな」
 「殺戮王」セイレン=ウィンザーがティア=グロリアスを追って動き出した。

 ◆

 「死を体現する者」ディスクリート=イノックシャースはトリスタン三世を伴
い、玉座の間を目指していた。衰弱しきったトリスタン三世は生気のない表
情でブツブツと何かを呟いている。

 人影────────いや、あれは幻影か

「ウェルガ=サタニック」
 ディスクリートの前に、「幻影」ウェルガ=サタニック=ダークイリュージョン
が現れた。ウェルガはトリスタン三世に視線を向け、ディスクリートに問うた。
「王が滅び────再生が始まるというわけか?」
 ウェルガの皮肉めいた問いにディスクリートが微笑で返す。
「そんな殊勝なモノでもない。私は全ての「死」をコントロールすることでこの
世界に干渉してきた。滅びの順番が来ただけの事です」
「それよりも早くフィリ=グロリアス達がやってきたらどうするつもりだ」
「結果が変わるわけでもない、それは十分過ぎるほどに知っているだろう」
「…」
 ウェルガはトリスタン三世から視線を外した。
「行け、この回廊を抜ければすぐに玉座だ」
 ディスクリートは満足気に頷き、すれ違いざまにウェルガに一言。
「「トリスタンの悪夢」の再来、存分に楽しませてもらいますよ」
 ウェルガは答えず、静かにディスクリートを見送った。

 ◆

「ハァッ…!ハァ…!」
 ティアは城のあちこちに逃げ込み、「殺戮王」セイレン=ウィンザーをやり
過ごそうとした。だが、セイレンは超感覚でそれを突き止め、ティアを追跡す
る。セイレンがまだ遊んでいるのがせめてもの救いか。いずれセイレンは判
断するだろう、多少痛めつけてでも大人しくさせようと。
「それからが本番…か」
 セイレンの実力はほとんど見えないが、あのクラスの力を持っている人間
をティアは一人だけ知っている。

 「七英雄」 ラクール=フレジッド

 おそらくセイレンは世界最強と謳われるラクールと同格。剣の使い手に限
定するのでは右に出るものはいないのではないだろうか。

 バチ…

「…っ!!」
 ティアはその音に寒気と殺気を感じ取り、今の場所から思いっきり横に跳
んだ。次の瞬間──────

 ────────────ゴゥ!

 とてつもない衝撃波がティアがいた場所を貫いた。音が遅れるほどの神
速。大破壊をまき散らした張本人が斜線上の起点にいた。
「…く」
 ティアが歯噛みした。勘違いしていた、今の攻撃からわかったことは一つ。
セイレンはティアの手足の1本や2本なら斬り落としても構わないと考えてい
る。今の衝撃波は察知できなければ左腕のみを正確に落とされていた。

 そろそろ遊びも終わりということだろう─────────

 震えが止まらない。怖い、怖い、怖い怖い怖い。ティアとセイレンの視線が
交錯する。戦いにもならない圧倒的蹂躙。
「賢い少女だ」
 セイレンが笑った。
「別に斬り落とすのは、君の「首から上」でも構わないのだが」

 衝撃波が     不可視の

      避けれない   死ぬ      首が落ちる

                     音
「……っ!?」
 セイレンが異変に感付いた。
「なるほど…それが「Ocean's Blue」の力か」
 ティアの周囲に蒼き大洋の幻想が浮かび上がり、セイレンの衝撃波を
吸収した。巨大なオーラにも似た「Ocean's Blue」の力の解放。
「ユミルの持つ感情、「七つの美徳」の一つ、「純潔」の十字架を体現せし
「Ocean's Blue」を体現する存在。ユミルの心に最も近い存在。故にユミル
再臨の生贄として君の存在が不可欠だ」
 セイレンの剣に力が収束してく。

 「殺戮王」セイレン=ウィンザーの<王者の剣>の解放

 セイレンはティアを殺してでも、その力を手に入れるつもりである。セイレ
ンの力の解放とともに周囲にいた魔者達が蒸発していく。触れることすら
許さぬ圧倒的魔力。
「バーサーク──────ッ!」
 セイレンの身体が今まで流されたどの血よりも紅き輝きを纏い、ティアへ
と襲い掛かった。ぶつかり合う蒼と紅──────

「何──────っ!?」

 セイレンは自分の魔力が「Ocean's Blue」に飲み込まれていることに気が
付いた。だが遅い、すでにセイレンの魔力はティアに喰らい尽くされ、底を
ついた。ティアが同時に倒れ伏し、意識を失う。

 だがまだセイレンには殺戮の剣技が残されている──────

「オオオ…俺の魔力をよ、よくも……ク…ク…殺す殺す殺す…こ、ろ、す」
 セイレンが激情のままにティアへと剣を振り上げた。ティアの命を狩り取
るべく振り下ろされたその剣を受け止める者が現れた──────

 ガキィィィィィィン!!

「ふーっ!いいタイミングだったみたいね…っ!」
「貴様…!?」
「お久しぶり、私を拉致ってくれてありがとね」
「「閃光剣」…リシア=キングバード!」
 間一髪助けに入ったリシアとセイレンとの激しい鍔迫り合い。だがそれを
横から割り込むように声がした。
「お前には仲間殺された借りがあったな」
 セイレンが振り向くより早く、「魔人拳」キスク=リベレーションの拳がセイ
レンの下顎を撃ち抜いた──────!

 [続]


〜あとがき〜
回線つながらない間に書きダメ第2弾(゚Д゚)
次回予告、セイレン=ウィンザー戦決着!
エリカの前に現れたプロンテラ聖騎士団最強の騎士セレス!
彼女は魔王タオクンガの力をその身に取り込んでいた!


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