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Ocean's Blue

094:死者は告げる

「あんたは知らないかもしれないけれど」
 リシアの剣にオーラが宿る。彼女の異名たる巨大な「閃光剣」の発動。
「俺たちには譲れない誇りがある」
 キスクが稲妻のごとき力をその身に、その拳に宿す。猛り狂う阿修羅の力
が空気を振動させる。

 それは世界最強のギルド「皇帝の十字架」を成す一人であるということ。

 「皇帝」とともにあり、ともに最強に座する─────

 だがこの男、セイレン=ウィンザーはその夢を誓い合った仲間を殺した。と
もに歩む夢を持つ者の夢を永遠に消し去った。過去など取り戻せない、それ
は「皇帝」が自ら体現し言葉にしている。だが、「ケジメ」を付けるということを
彼に彼女に教え、ともに生きてきた。

「フ…フハハハハ!ハハハハッハハアアアハハハ!!!」

 セイレンが狂ったように哄笑を上げる。
「最強の誇りか…ならば教えてやろう!最強の魔を誇っていた生体研究所
の六魔人達が辿った真実を!その末路を!」
 セイレンが禍々しい殺気を剣から迸らせながらリシアの剣と打ち合う。
「その身を殺され蹂躙され、死んだ身体を弄ばれ、そして蘇生させられ、この
肉体を手に入れた。悪鬼羅刹と等しき禍々しき力!だが──────」


 カトリーヌ=ケイロンは─────

 エルメス=ガイルは─────

 セシル=ディモンは─────

 ハワード=アルトアイゼンは─────

 マーガレッタ=ソリンは─────

 そして、セイレン=ウィンザーは─────


「たった一人に滅された──────」
 セイレンに吹き飛ばされリシアが受身を取りながら床を滑る。
「それこそが魔──────、究極の魔だ──────」
 キスクが駆ける。セイレンは己の言葉に陶酔しノーガード。いや…既に生き
延びるつもりなどない。死すら救いと感じている狂想。


 キスクの「阿修羅覇凰拳」がセイレンの身体を貫き──────
        リシアの「閃光剣」がその存在ごと焼き払った──────

 
 沈黙がその場を支配する。セイレンが伝えたかったモノとは何なのだろう。
まるでこのプロンテラの戦いすら無意味であると言っているかのような。
「仇はとったぜ…ギルティ」
「…うん」
 それでもキスクとリシアは仇をとったのだ。かけがえのない仲間を殺した怨
敵を倒したのだ。キスクとリシアは階段を見上げる。この先にフィリ達はいる
はずだ、追いつき共に戦う。それこそがこの戦いを終わらせる手助けとなる
だろう。だがその前に──────
「いつまで寝てんのよこの子は」
「あいだだだだあ!」
 リシアに頬を思いっきり引っ張られてティアが涙目で目を覚ます。
「ほら行くわよ。敵もあらかた片付いたしね」
「う、あ、うん。助け、ありがとうございます」
「いーのよ、そんなの」
 リシアとティアがそう言い合う後ろでキスクがティアに視線を向けていた。
戦いに割って入る直前、蒼い光を見た。あれは間違いなく「Ocean's Blue」の
輝きだ。アルベルタで働いていた時には見逃したが、以前見たことあるから
間違いなくそう断言できる。

 ティア=グロリアス────────

「ユミルに最も魅入られし…少女か」
 キスクがそう小声で呟いた。

 ◆

「よくぞここまで────ここが旅の果て」
 セレスが静かに剣を構える。フィリが、イアルが、エリカが戦闘態勢に入
る。一触即発の空気、息詰まる膠着状態。
「私は貴女に宣言したよね、エリカ。フェイトを護る──────とね。これ
は互いの護るべきモノを奪い合う戦い。──────だから」

 護ってみなさい、貴女の護るべきモノを──────!

 ばきばきばきばきッ!!!

 異音を立てながらセレスの身体が見た目はかわらず──────だが、
人とは異質なモノへと変化していく。まとっているオーラが異質な力で染め
上がっていく。
「姉さん…それは」
 エリカが信じられないといった表情を浮かべた。

 セレスには魔王が憑いていた。

「自他の命を喰らう魔王──────タオグンガ」

 エリカが叫ぶ。
「そこまでして…何を護ろうというのです!」
「貴女にはわかるはずよ、エリカ。貴女は何を信じてココまできたの?」
「…っ」
 渦巻く想いがエリカの中を駆け巡る。
「エリカ」
 セレスがにっこり微笑んだ。
「戦いはもう始まっているのよ?」
 セレスの身体がかき消える。神速を上回る超スピード。
「危ねぇ!」

 ゴガン!

「っ…がっ…!」
 フィリをかばったイアルの腹部にセレスの蹴りが炸裂する。フィリとイアル
がまとめて壁際に吹き飛ばされる。それでもイアルは壁とフィリの間に身体
を入れ、フィリにダメージを与えないようにしていた。
「お二人は少し大人しくしていてくださいね」
 セレスはフィリとイアルに背を向ける。イアルは身体から生命力を抜かれ
たかのように動けない。フィリがそれに気付きハッとした。生命力を強制的に
削られたように見える。純粋に命を削られたかのような──────
「サクリファイス…ですか」
「ご名答」
 エリカの問いにセレスが答える。サクリファイスとはクルセイダーの上位に
いるパラディンのみが扱える力。己の生命力の一部を贄とし、相手の生命力
を贄とした分だけ削り取る。つまり無尽蔵の命を持つとされる魔王タオグンガ
の一部ともなればその贄となる部分もまた大きくなる。それこそ一撃で戦闘
不能に追い込めるほど──────
「…」
 エリカは無言で剣を掲げる。プロンテラ聖騎士団に聖十字の型。聖騎士団
に属するモノは全てこの型を基本とし聖戦を勝ち抜く。
「本気…ね」
 セレスが静かに聖十字の型をとる。


 「聖騎士」 エリカ=フレームガード

 「闇騎士」 セレス=ドラウジー


 激突──────衝撃が回廊を揺らす。破壊を撒き散らし2人の騎士が、
それぞれ異なる王に仕える最高の騎士同士がぶつかり合う。おそらく身体
が触れ合えばサクリファイスによって一瞬で戦闘不能に追い込まれる。エリ
カはセレスの必殺の剣よりも、身体を触れ合わせないことに注力した。

 それはセレスの剣に対する防御を緩めることに他ならない──────

「ホーリークロス!」
「イービルクロス!」

 聖十字と闇十字、互いに威力は同等。だがそれ故に不利な状況で戦うエリ
カは追い込まれていく。

「グランド──────クロス!」
「グランド──────ダークネス!」

 イアルの身体をヒールで癒しながらフィリが歯噛みする。加勢してやりた
い。だが、フィリが参戦すること=この先の戦いを捨て去ることに他ならな
い。まだフェイトだけではない、ウェルガ=サタニックやロウガ=ブラストなど
の強敵が姿を現していない。ここは万全を期して待つ、それが今のフィリに
出来ること──────

 ドガン!

 エリカの身体が壁に叩きつけられる。セレスがゆっくりと歩を進める。
「エリカ────まだ戦うの?」
「戦います」
 エリカの即答、その次の瞬間には剣戟の応酬。
「フェイトはこの世界に降り立った真なる魔族───それも神話の時代に存
在した純粋なる魔族、すなわち巨人族」
「巨人族…!?」
 エリカの問い返しにセレスが微笑んだ。
「彼の身に宿るは「巨人王」ロキ、かつて神魔を滅びへと誘った神々の黄昏
「ラグナロク」と呼ばれる戦いを引き起こした魔王」
「「…っ!」」
 フィリとエリカがともに息を呑む。かなりの魔族が宿っていると予想はして
いたが、これ程までの大物の名前が出るとは思ってはいなかったからだ。
「ロキ…!?」
「そう、ロキ。彼の望みはユミルの復活。巨人族の母であり、このミッドガルド
を含む9つ全ての世界を根幹から支える存在、その枷を外し自由にしてあげ
ること」
 エリカがセレスの剣を弾き返しながら叫んだ。
「そんなことをしてしまったら世界が!」
「そう、世界は滅びるわね。だからこそ彼は第2のユミルを創り出そうとしてい
たの。ユミルを復活させて、第2のユミルを世界にする、2者の存在そのもの
をすり換える」
 セレスは未だ意識の戻らないイアルの治癒するフィリに視線を向けた。
「これまでの戦いは全て第2のユミルを生み出すための布石。第2のユミルと
はすなわち貴女───「ユミルの聖杯」フィリ=グロリアス」
「…っ!」

 20年前の戦い、「トリスタンの悪夢」の際、ダークロードは死の間際に一つ
の予言を遺し、消えていった。

 闇滅びるとも死在り
 七つの美徳
 七つの大罪が喰らいし刻
 死出の門は開く

 ダークロードが滅びた後、「巨人王」ロキはこの世に現出した。さらにレイ
=フレジッドの母は強大な魔族=巨人族がトリスタン三世の双子の子供の
どちらかの宿ることを予言した。

「ユミルの心を投影した七つの美徳と七つの大罪、それら「ユミルの十字架」
を持つ者は候補者でもあるの。ユミルとして世界を支えることにふさわしい者
が選ばれ、他の十字架を持つ者と比較し合い、そして選別が始まる。善悪が
存在するように、ユミルとて完全ではなく、2面性を持ち合わす。だから当然
のごとく「ユミルの十字架」を統合していった先には美徳と大罪の2つの十字
架が生み出した2つの「ユミルの聖杯」が残ることとなる」
 すなわち───美徳と大罪、美徳側に選ばれた「ユミルの聖杯」がフィリで
あるということだろう。

 ウェルガ=サタニック達がとっていた行動…「ギルド攻城戦」で「ユミルの
十字架」を持つ者を全員集結させたこと。集結させることで「ユミルの十字
架」を活性化させ、聖杯を生み出す開始としたこと。

 レイの母であるマリア=ハロウド…すなわちこの世界に残ったただ一人の
神であるヴィーダルをニブルヘイムに封じることで、神の力をミッドガルド大
陸から消し去り、ユミルが世界に干渉しやすくしたこと。つまり、それが「ユミ
ルの十字架」が各個人に出現する原因となったこと。

 ユミルを復活させても倒されては意味がない。故に神殺し、魔殺しの最高
峰たる「神々を穿つ一条の閃光」を受け継いだレイを殺す必要があったこと。

 セレスは矢継ぎ早にこれらの事をフィリとエリカに告げた。

「では────大罪側の「ユミルの聖杯」を持った者は…」
 エリカの問いにセレスが哀しそうに目を伏せた。
「ごめんなさい。これ以上は私の身体がもちそうにない…」
 見るとセレスは息も絶え絶えに剣を杖代わりに蹲っていた。
「姉さん…?」
 セレスがにっこり笑った。
「ほら、死人に口無しって言うでしょう?死者は生者に何も語ってはいけない
の、伝えてはいけないの、望んでもいけないのよ」
 セレスの身体がかすれた。まるで存在がなかったかのように。
「姉…さん…」
 エリカがその言葉で気付いた。
「昔、その禁を破って消滅した女性がいたわ、彼女の名はセリン、原初の
ダークロードを生み出した存在。私も彼女と同じ末路を辿るかな、あはは…」
「姉さんは…もう…」
「うん、死んでるんだ。ここにいる私は命の魔王であるタオグンガの力で無理
矢理この世界に留まっているだけの亡霊。でも─────」
 強大な覇気、セレスが己の全てを剣に込めエリカと対峙する。
「決着をつけましょうエリカ、今を生きる者の背中を叩くことくらいなら、私でも
できるのよ」
 セレスは─────最初からフィリやエリカ達の為に戦っていたのだ。そ
の想いを受け、エリカが静かに剣を構える。

「姉さん」

 3───────────────

「何?」

 2───────────────

「私、姉さんに色々教えてもらって嬉しかった」
 エリカの言葉にセレスが微笑んだ。

 1───────────────

「強く生きなさい、貴女の護りたいモノを全て護りきれるように」
 セレスの言葉にエリカが強く頷いた。


 激突、2つの剣のぶつかり合いが城を鳴動させる。

 セレスは見た、エリカの剣が強く、強く光り輝いている。

 これは希望の光、そして伝説の始まりでもあるのだろう。

 どんな名剣も全て「最初」がある。

 「名剣」は伝説を越え、伝説と謳われるようになる。


「最期に教えて、エリカ。貴女の剣の銘を」
「エクスキャリバーと私は呼んでいます」
「そう…いい名ね」


 エリカのエクスキャリバーがセレスの心臓を貫いた。光がタオグンガを消し
去り、セレスが微笑んだ。エリカやフィリが歩む未来を祝福するかのように。


「これは、忠告」
 エリカは涙をこらえながらセレスを抱きとめている。
「私は真実を告げた、それでも…その概念を全て捨て去ってでも、この先の
さらなる真実を見て、そして自分達で道を決めなさい。それが私が貴女達に
告げた真実を覆い隠すほどの魔を目の当たりにした負け犬からの忠告」
 フィリが傷の癒えたイアルをともなって2人の傍らにやってきた。
「聞いてもいいですか、貴女の死した原因を」
「死人はしゃべっちゃいけないんだけど?」
「この際ですし、少々増えても!」
 セレスとフィリは冗談まじりにそう言い合って笑った。セレスは目を伏せた。
「貴女達の予想通り、私はある人物に殺された」

 セレス=ドラウジーを殺害した人物──────────

「それは「死を体現する存在」ディスクリート=イノックシャース」

 その名を告げて、セレスの身体は灰となり散り消えていった──────

 [続]


〜あとがき〜
書きダメ第3弾ヽ(゚∀゚)ノ
次回予告、先に進んだフィリとイアルの前に現れるウェルガ=サタニック!
さらに先行していたディスクリートがついにフェイトと接触。
王の死をフィリ達は止められるのかっっっっ!


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