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Ocean's Blue

095:最後の十字架

「すげぇな!人間やればできるもんだ!」
 プロンテラのあちこちで決起した住人達がモンスターを蹴散らしていく。決
起した集団の一つを率いるプロンテラの鍛冶工ホルグレンはレイドリックを
捕まえては精錬して破壊、精錬しては破壊のコンボを繰り返していた。
「ホントすげぇ…今までにないくらいの大軍勢だぜ!」
 ルーンミッドガッツ王国の解放軍に加えて、シュバルツバルド共和国の援
軍まで加わった大連合が攻め込んできているのだ。今までフェイトの強大な
力に戦うことを諦めてしまっていた者達もこれに加わり、未来を取り戻す戦
いに身を投じていた。
「「ギルド攻城戦」でのライブカメラくらいでしか見たことないが…フィリ=グロ
リアス、さすがは王家の正統後継者ってか。オラオラ!気合い入れろ!取り
戻すぞ!俺達の街を!国を!世界を!」
 頼むぜ、俺達の未来はあんたの背中にかかってんだからな。

 ◆

 セレスとの戦いの直後、突如出現した深淵の騎士の群れをエリカに任せ、
フィリとイアルは回廊をぬけ、階段を駆け上り、先へと進んでいた。
「玉座はどこだ!」
「前に来たことあるからわかるよ!玉座の間は謁見の間とも呼ばれている
の!謁見の間は大回廊並に大きいけれど、そこが終着点のはず。その前
に巨大な大回廊があるわ!」
「いよいよ近付いてきたな…!」
 2人は大回廊に続く階段を駆け上がる。そして振り返る。振り返った先は
大回廊、そして─────────


 「幻影」 ウェルガ=サタニック=ダークイリュージョン


「ついにここまで来たか、フィリ=グロリアス」
「ウェルガ=サタニック!」
 イアルが短剣を素早く構える。もうセレス戦のようなヘマは無しだ。
「さすがは軍略家レベイレブ、十分な役割を果たしてくれたようだ」
「何だと!」
 イアルが叫び返す。
「奴の考案した作戦「剣の蜥蜴」、蜥蜴の尻尾を引き剥がし、本体を料理す
るといったものだが…本体はしっかり来てくれたようだ」
 本体…つまりフィリ=グロリアスということだ。
「「ギルド攻城戦」などでお前達がよくとっていた大将潰しの作戦を逆手に
とっただけだがな。どのみち我々の目的はフィリ=グロリアス、貴様だけだ」
「「ユミルの聖杯」の完成が目的ってことね」
「ほぅ…」
 フィリの言葉にウェルガが目を細める。
「そこまで知っているのならば話は早い。聖杯の完成を急ぐとしよう」

 ガキィィィン!

 突如ウェルガに斬りかかったイアルの短剣をウェルガが手刀で受ける。
「私と戦うつもりか?」
「今戦わないで、いつ戦う」
「クク…」
 ウェルガの手刀に瘴気と魔力が渦巻き、全てを滅する重量エネルギーに
転化される。
「喰らえ」

─────ゴゥ─────────ッ!

「インクリースアジリティ!」
「っぢぃ!」
 フィリが咄嗟にかけた速度増加の魔法でイアルが超回避する。これはウェ
ルガの得意技である重力砲「 Hamatan 」か。

 ドガガガガガガガガガガ!ドガン!!

 破壊を連鎖的に引き起こしながら、ウェルガの放った重力砲が一直線に突
き抜ける。粉塵と瓦礫の山が築かれる。こんな物はウェルガにとって小手調
べだ。ウェルガ=サタニック、フィリとイアルの2人がかりで勝てるかどうか。

 そんな中────────────

 築かれた瓦礫の横から人影が現れた───────────

 ◆

〜幕間〜

 彼女との出会いは船の上だった。
「最初はつまんなさそうな顔してたっけかな」
 つまらなさそうな顔をしているのが気になって、声かけてみたんだっけ。
「色々な冒険の話をしたりしてるうちに笑ってくれるようになったっけ。その笑
顔が好きだった」
 子供心のうちから彼女に淡い恋心を抱いていたのかもしれない。
「その後、彼女の家にオヤジと一ヶ月くらい泊まって…ずっと一緒にいた」
 旅立ちの際、彼女は泣き出してしまった。思えば最初に泣かせたのはあ
の時が初めてかもしれない。
「冒険を続けている間も手紙のやり取りが続いて、オヤジから一人立ちし
て、ある日アルベルタに立ち寄ることになって再会して…」
 見違えるほどに綺麗になった彼女の姿があった。
「しかも冒険者になってるし…行動力がすごいというか」
 好意を抱かれていることに気付けないほど自分は鈍感ではない。だから
こそ悩んだ。このまま旅に連れて行っていいものか悩みぬいた。
「でも押し切られたんだったな…彼女の家族に」
 一緒に旅をはじめて、アマツでいきなり魔王に出会うわ、その帰路に今の
仲間達や敵と邂逅した。
「その後のイズルードじゃひどかったな…ほとんど裸で抱きつかれるわ、宿
壊して弁償させられるわ…」
 そしてプロンテラにオヤジと久しぶりに再会する為に向かったのだ。
「そこで出会ったんだよなアイツに…運の尽きというか。あの野郎…ことある
事に突っかかってきやがって」
 アイツとの決着は最後は「ギルド攻城戦」までもつれ込んだ。夢の為には
手段を選ばない、めちゃくちゃ勢いのあるバカだった。
「その後、モロクにいったんだっけか…」
 そこでまた仲間が増えて、いきなりアルベルタにとんぼ帰り。
「そこで彼女に想いを告げて、彼女も自分を受け入れてくれた」
 その直後に「幽鬼なる海魔」が攻め込んできて、俺は生まれて初めて「神々
を穿つ一条の閃光」を放った。彼女と彼女が愛した全てを護る為に。
そしてそこで旅はいったん幕を閉じた。
「彼女と2人で暮らした日々はかけがえのない大切なモノになった」
 あれ以上に幸せだった日々はないだろう。
「だけどそう長く続かなかった…奴らが再び現れたからだ」
 全てに決着をつけるために戦いに身を投じた。

 「ギルド攻城戦」へと。

「アルベルタでできた友人は世界最強ギルドだわ、プロンテラで出会ったあ
のバカは何度もつっかかってくるわ散々だったなぁ…」
 それでも勝ち進み、そして世界最強のギルドを打ち崩したのだ。
「さすがに勝った瞬間は信じられなかった」
 そして勝ちを得た直後に奴らはまた現れた。

 そして──────────────

 ゲフェンからグラストヘイムへと道を進め、自分の物語はそこで終わる。

 護りきることもできずに、全てを失い喪った。

 それがこの「身体の持ち主」が辿った結末───────



 ドガガガガガガガガガガ!ドガン!!



 物凄い轟音とともに粉塵が舞い上がり、瓦礫が崩れてくる。それを避けて、
人の気配をする方向へと歩みを進めた。そして───────

 彼がこの世界で最も愛した女性がそこにいた───────


 彼は彼女に最初に出会ったときと同じくニカッと笑いながら声をかけた。

「フィリ」

 彼女は信じられないといった表情を浮かべながら彼に声をかけた。

「レイ」

 旅の果てで、悲劇の幕がまことしやかに開幕する───────

 ◆

 プロンテラ城、玉座の間───────

 フェイトが静かに目を開いた。その眼前には跪く一人の男と、壊れたおも
ちゃのようにブツブツと呟く高貴なる人物。
「戦いになれば必ず介入してくると思っていたよ、ディスクリート」
「お互いに呼び名は真なるモノで呼び合いませんか、フェイト」
 フェイトは口の端を吊り上げた。
「今日はどういう用件で来た?「死者の王」ロードオブデス」
「王の滅びが私のシナリオの中でやってきまして、「巨人王」ロキ」
「その男にはこの世界の滅びを最期まで見せてやろうと思うのだが」
「滅びこそ救いという言葉もあります故」
 フェイトの手に妖刀「村正」が出現する。
「これは貴様からの借り物だったな、返そう」
 フェイトが村正をディスクリートに放り投げる。それを受け止めてディスク
リートが静かに笑みを浮かべる。
「マリア=ハロウドをニブルヘイムへと封じた今、私から奪った「死の眷属」
を操る力は不要…と?」
「2つの聖杯が出会った、じきに「ユミルの聖杯」は完成する。ユミル以外の
全てが消え去るというのに物欲を残す必要もない」
 その言葉を受けたからではないだろうがディスクリートが道を譲る。

 トリスタン三世が一振りの剣を手にフェイトに対峙する。
「…義……怒り……」
 ブツブツとうわ言のように呟きながら、ゆっくりと歩を進める。

「この国を護る王としての意地というわけか」
 フェイトがディスクリートに視線を向けると、ディスクリートはひょいと首を
すくめるのみ。まるで自分はここに連れてきただけで成り行きで事が済む。ディ
スクリートはおそらくそう考えていたのだろう。

 フェイトの手に魔剣ミスティルティンが出現した───────

 ◆

「…レイ、何でここにいるんだよ」
 信じられないといったイアルの言葉。そしてフィリにはわかってしまった。今
のレイがレイではないことに。フィリは怒りの形相を浮かべてウェルガを睨み
付けた。ウェルガが静かに口を開く。
「紹介しよう、我々の最後の同志の一人であるレイ=フレジッド。ユミルの十
字架、七つの大罪が一つである「無為」の十字架を持っていたものの、己の
身に宿る人格と神を穿つ力を持ち合わせていたために「ユミルの十字架」に
支配されるには到らなかった者」
「ガイスト」
 今のレイに近寄るまいと遠巻きに観察していた鷹のガイストがレイに吸い
寄せられる。ガイストは抵抗むなしくレイに捕まる。レイはガイストの羽根を
へし折り逃げられなくした後、ルドラの弓へと強制変換させる。
「おいレイ…!」
 イアルが咎めるように声を上げる。
「お前達の言葉は届かぬよ、今のレイ=フレジッドは「レイの記憶」を持った
だけの、「無為」の十字架に操られるただの殺戮人形」
 フィリはハッとした。グラストヘイムでレイは人格の死を迎え、何もない空っ
ぽの存在となった。それこそがウェルガ達の思惑、その空っぽの器に「ユミ
ルの十字架」が入り込む。本来ならば神を穿つ力を持ち合わせていたレイが
無意識で支配されることを抵抗できていた。それ故に、ゲフェンでのミリア=
グロリアスの暴走の際は、レイは「ユミルの十字架」支配されることはなかっ
た。だが、そのガードできる枷が外れてしまった今、レイという肉体に残った
のは「ユミルの十字架」のみ───────
「そして、レイ=フレジッドもまた「ユミルの聖杯」として存在している」
 ウェルガ=サタニックの言葉にイアルがキレた。
「ふざけんじゃねぇ!」
 イアルの蹴りが衝撃波を生み出す。蹴りから衝撃波を生み出す奥義「飛
龍」である。だがそれを放つ瞬間、イアルは強烈な殺気を感じ取った。
「っく!」
 イアルは咄嗟に殺気の方向に短剣を掲げた。

 三日月状の紫炎、ソウルブレイカーが突如としてイアルに襲い掛かった。

 ガギィッィィィィッィン!

「俺の不意打ちを受け止めるのは2度目か、イアル」
 ソウルブレイカーを弾き飛ばしたイアルの眼前に、イアルの兄であり、世界
最強の暗殺者が姿を現した。
「このクソ兄貴!」


 「暗殺王」 ロウガ=ブラスト


 ウェルガはフィリとイアルの隣を横切っていくと、背中越しに口を開いた。
「ロウガ=ブラスト、レイ=フレジッド、この場は任せよう────────
物語の終焉をくれてやれ───────」
 そう言葉を残すとウェルガは大回廊の奥へと消えていった。

 そして───────

 ドゥン!ドゥン!

 レイとロウガ、2人の足元からオーラが吹き上がる。それはこの2人が尋常
ならざる実力者である証───────


 対するフィリとイアルだが、まだフィリの動揺が抜けきってはいない。この
状態でこの戦いを生き残るのは難しい。だが、悩む間もなくロウガが間合い
を詰め仕掛けてきた。背後ではレイがルドラの弓を引いている。

 イアルは渾身の力を持ってロウガの迎撃に向かう。クローキングでロウガ
の姿が消え、イアルの背後に出現する。イアルはバックステップで攻撃が来
る前に回避する。だがそれを追うようにソウルブレイカーが───────

  ギギギギギギ!ドガン!!

 ソウルブレイカーを受け止めたもののイアルは壁に叩きつけられる。壁が
崩れ落ちる中、ほぼ無傷のイアルが這い出してきた。
「すまん、フィリ。ちょっと時間かかりそうだ」
 イアルがロウガに視線を向け、その瞳に実の兄の姿が映る。
「まずはコイツから片付ける」

 [続]


〜あとがき〜
書きダメ第4(ry
次回予告!フィリvsレイ!イアルvsロウガ!
愛した者との戦い、そして血塗られし兄弟の戦いが今始まる!


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