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Ocean's Blue

096:暗殺王

 「暗殺王」 ロウガ=ブラスト

 その男の名はルーンミッドガッツ王国の闇、裏を取り仕切るアサシンギルド
と常にともにあった。ルーンミッドガッツ王国建国時より存在したアサシンギ
ルドの歴史に置いて、最強と呼ばれた天才。彼が表舞台に姿を現したときに
は騒然としたものだ。かの「皇帝」アイフリード=フロームヘルと双璧を為す
第三世代の英雄、だがロウガは闇の中の闇を知っていた。そしてその闇の
中から、実弟であるイアルを始め、世界中を闇に呑みこもうとしている。

 イアルとロウガの激しい激突、余波で爆音にも近い衝撃音が響き渡る。

「ッチ!」
 兄であるロウガが天才であるとともに、弟のイアルも才に恵まれていた。本
人が気付かなかっただけで、彼の潜在能力は「皇帝」にも匹敵している。だ
が、ロウガは己の才を全て力へと昇華させていた。

 完全なる暗殺者、完成された天才

 キリングマシーンとすら言っても過言でない程の化け物を相手にイアルは
徐々に追い込まれ始めていた。音も無く首を斬り落とそうと周囲から不可視
のソウルブレイカーが無作為に襲い掛かる。

 ガキガキィイン!

 多少のダメージは構わず、イアルはそれを打ち落としながらロウガの相手
をしていた。当然、体術ではロウガが勝る。鈍い音とともにイアルが弾き飛ば
され、イアルが受身を取る。
「くそ…想像以上に化け物だな…」

 ロウガはイアルから視線を逸らさず、失望ともとれるため息をついた。
「貴様は────弱い」
「…何だと」
「それでは俺には勝てぬ、そして…この先に待ち受ける真実に勝てぬ」
「…?」
 イアルが怪訝な表情を浮かべた。まるで独白のようなロウガの言葉。
「見せてみろ、貴様の中に宿る「ゲオルグの呪い」をな」

 ドクン

「が…っ!!」
 イアルが胸を押さえて手を床につく。血管が蠢き、イアルの右腕に大蛇の
紋様が浮かび上がる。激痛と激しい熱さ、そして吐き気を感じながらイアル
がそれに耐える。ロウガはその様子を見下ろしながら語る。
「この国、ルーンミッドガッツ王国に光があるとともに闇が存在している。この
国の闇を司るはアサシンギルド」


 ロウガ=ブラストの眼に鋭い刃のような意志が宿る。
「アサシンギルド、その直系たるブラスト家は、ルーンミッドガッツ王国のもう
一つの王家である」


「…!」
 イアルは自分の耳を疑った。イアルの驚愕を他所にロウガは語る。
「ルーンミッドガッツ王国の建国王は正確には2人存在している。ルーンミッド
ガッツ王国建国王、フェリア=フェリカ=ルーンミッドガッツ一世。そしてもう
一人はゲオルグ=トリスタン=ゲフェニア一世、「嘆きの王」ゲフェニアと呼
ばれた男。ルーンミッドガッツ王国の始祖たる七つの家門それぞれの出であ
る2人は刃を交えた後、恋に落ちた」

 それがこの王国の始まり────────

「2人は愛を育むとともに、その身を削りこの国の建国に苦心していく。そして
この国を光と闇から治めていくこととなる」
「それが…アサシンギルドの始まりってか…」
「そう、そして闇に生きる者の頂点たるブラスト家が始まり…呪いを引き継ぐ
こととなった」
「…呪い?」
「それが「ゲオルグの呪い」。三大国家、ルーンミッドガッツ王国、シュバルツ
バルト共和国と名を連ねるアルナベルツ教国の頂点たる教皇による血に植
え付ける死の呪い。世界を取り囲む世界蛇ヨルムンガンドの牙の毒を「血
筋」へと忍ばせ、一定の年齢になった際、その呪いをかけられた者は死ぬ」
 アサシンギルドとは呪いの受け皿となる為に、その世代ごとの王家の犠牲
となることを運命付けられた存在でもあったということだ。そしてその犠牲た
る存在が今回イアルということになる。逃れられぬ絶対なる死の運命、神格
級の呪い、それが「ゲオルグの呪い」である。
「俺は死ぬのか」
「そうだ。無意味にこの世界から消える。それが貴様の運命だ」
「へっ…」
 イアルが自嘲気味に笑う。痛みに耐えながら笑う。
「俺の運命は生まれた時から散々だったな、あんたみたいな天才の背中
ばっかり見させられて、あげく最期は無意味に死ねか」
「…」
 ロウガは哀れみの視線など向けない。ただ無機質に見下ろすのみ。
「…っくっく」
 自嘲気味な笑いは、不敵なモノへと変化する。

 ロウガはそこで気が付いた。

 イアルの眼は死んでいない───────

「兄貴、悪ィ。俺さ、もう簡単に逃げたりできないんだわ」

 このプロンテラに辿りつくまでに倒れた仲間達───────

 涙をこらえ歯を食いしばり、懸命に歩を進めた多くの友───────

 絶対に生き延びると約束した愛する少女───────

「運命だろうが何だろうがねじふせる。俺の運命を勝手に決めるな」
 イアルの言葉に力が篭る、意思が宿る。

 それに呼応するかのように───────世界蛇の紋様が輝いた。

 痛みが消え、世界蛇は逆にイアルの力となる。

「乗り越えるか、死の運命を。それでいい…」
 ロウガが呟いた。
「もし生き延びたならば───────アルナベルツ教皇より「完全なる真
実」を受け賜れ、イアル」
「…何」
「俺もセレスも敗者だ。運命に耐え切れず、セレスは未練のみでこの世界に
留まっている存在に過ぎなかった。俺もまた運命に絶望し、それでも未練が
ましく生きているだけの存在だった。超えろ、この俺を越えろイアル」




 ──────────────汝に死の安息を。


 ロウガの眼に「死」が宿る、それは「暗殺王」が真の力を発揮した証。


「Enchant Deadly Poison──────────────」




「全ての運命をねじ伏せろイアル。お前に全てを託す俺を許せとは言わぬ。
だが、お前達の未来はお前達のモノだ。運命に負けたこの俺ではなく未来を
切り開くのはお前達自身だ」
 ロウガもまた─────────セレスと同様にフィリやイアル達の為に
戦っていたのだ。


 咆哮とともにイアルが己が兄の元へと駆け抜ける。

 渾身にして絶対なる力でもってイアルとロウガが刃を交え───────

 そしてロウガの胸に二条の傷が刻まれる。


「フ…ダブルアタックとはな…」
「こういう時に生きるのは基礎中の基礎だ、兄貴が唯一俺に教えてくれた戦
い方だ」
「それでいいイアル。生きろ、生き延びろ、泥にまみれて生き延びろ」
「あたりめーだ、俺はあんたからそれを教えてもらったんだぜ」
「…そうか」
 恐らくは生まれて初めてだろうロウガの本当の笑みをイアルは見た。そし
てロウガが音も無く膝をつく。
「イアル…」
 途切れ途切れの言葉、イアルは静かに耳を傾けた。


「この国を───────「信じるな」───────」


 イアルはこの瞬間、生まれて初めて兄を超え、勝利した───────

 ◆

 フィリの頬をかすめるように、レーザービームと見紛う程の衝撃が貫く。
シャープシューティング、レイが「ギルド攻城戦」で「皇帝」アイフリード=フ
ロームヘルを倒した技である。
「レイ…!」
 レイは冷徹な狩人の視線をフィリへと向けていた。

 狩られる。

 フィリは防御結界であるキリエ・エレイソンを前方に展開した。と、同時にレ
イの攻撃がキリエ・エレイソンに突き刺さる。ロウガ=ブラストと同様に不可
視の域にまで昇華された影の矢がフィリの前方、そして「後方」から襲い掛
かっていた。
「…っ!」
 フィリの肩口に背後からの矢が突き刺さる。これもまた「ギルド攻城戦」に
おいてレイが見せた技、対トレント戦の際に見せた射出と別角度へと矢を向
ける超高等技術。

 フィリを護る為に手に入れた力が、フィリに襲い掛かる。

 フィリは矢を無理矢理引き抜き投げ捨て、ヒールで傷を癒す。レイはその
隙を見逃さず次なる攻撃を繰り出す。
「フィリ」
 レイが発するフィリへの呼びかけ、フィリは動揺し─────────

 紅蓮の炎、輝ける氷、2対の宝剣がフィリに襲い掛かった───────

 ◆

 プロンテラ図書館────

 次なる戦いに備え、身体を休めるトレントの前に男女2人の姿が現れた。
それはトレントが良く知っている顔だった。
「ルアーナ、それにライジング=ボーンド、お前らは気配を消して隠れてろと
言ったはずだが?」
 シリウスに見つからない為に能力を駆使して隠れているといった手筈を無
視した2人に対して、トレントは咎めるような言葉を吐いた。だがその言葉より
優先すべき事項が2人にはあった。
「トレント、どこまで────知った?」
「「真紅都市」は過去存在していたとかそういうことを聞いてるのか?」
「────────すまない」
 ライジング=ボーンドが話を切り出す。
「まさか私自身が未来にとんでいるとは思っていなかった。いわゆる平行
世界の類だろうと────」
「そんな事より説明することがあるんじゃないのか──────ルアーナ」

 ルアーナが目を伏せた。ルアーナはいつもの気楽そうな表情は浮かべ
ず、凛として雰囲気をまとっていた。
「記憶が────────戻りました」
「ほぅ?」
「私の名はルアーナ、ルアーナ=クレイドル。恐らくは過去よりこの世界に
転生した「真紅都市の姫巫女」」
「クレイドルか、ソウルリンカーの始祖様に生で出会えるとはね。で、何がト
リガーになって記憶が戻ったんだ?」
「魔を感じたからです。世界を滅ぼす究極の魔──────」
「…」
 トレントは黙して語らない。
「フン…いよいよ戦いも佳境に入ってきたっつーことだろうな。「真紅都市」に
ついて色々聞きたいことはあるが、それより優先すべき事があるんだろ?」

 トレントはひょいと剣をかつぐと図書館の外に歩み出た───────

 そこに待ち受けるは宿敵────────────


 「無限王」 シリウス


 かつて魔剣士タナトス=シュケーテルと名乗ったその男は遥かなる時を
越え、この世界に出現した。己が手に「真紅都市の姫巫女」を手に入れる
為。だがシリウスの視線はトレント達ではなく上空へと向けられていた。ト
レントはシリウスの視線を追い、その理由に得心がいった。
「おいおい…このタイミングでか」
 トレントが半ば呆れたような声を上げた。

 シリウスの殺気、そして視線と敵意はそちらへと向けられている。


 上空に存在するは無数の飛行船群───────────

 飛行船に掲げられし紋章はルーンミッドガッツ王国のモノでは無く、同盟
国家たるシュバルツバルト共和国のモノでも無い。その飛行船に掲げられ
し紋章は、ルーンミッドガッツ王国に敵対せし教団国家、このミッドガルド大
陸における三大国家、最後の国家────────────


 唯一神たる聖女フレイヤを崇めし宗教国家

                   ───────────アルナベルツ教国


「「彼女」が動いた──────」
 トレントの背後で飛行船を見上げたルアーナが呟く。シリウスが戦闘態勢
に入る。剣を静かに構え、トレント達に言い放つ。
「トレント、ルアーナ、そしてライジング=ボーンド。今は見逃そう、あの者達
を生かしてはおけぬ」
「…」
 トレントは沈黙を通す。勝手に戦って消耗してくれるのならば、そうしてくれ
との意思表示だ。シリウスは飛行船の舳先に佇む3人の姿を捕捉した。
「─────消す」

 ──────ゴォゥン!!

 物凄い轟音とともにシリウスが飛行船群へと跳躍した。捕捉した3人の内、
最も小柄な人物に狙いを定める。だが───────

 結界が出現した。

 ガキィィィィィィィン!

 狙われた人物を守るようにシリウスの剣を受け止める男女2人の術者。

 男性の術者が名乗りを上げる。
「我が名はジェド、アルナベルツの筆頭大神官也───────」

 女性の術者が名乗りを上げる。
「我が名はニルエン、同じくアルナベルツの大神官────────」



 ジェドとニルエン、2人に護られていた小柄な人物───────

 ──────────────少女が静かに口を開いた。

「我はアルナベルツ教皇、名をヴァナディース───────」

 ヴァナディースと名乗った少女は白き法衣を翻し、宣言した。

「我々はルーンミッドガッツ王国に宣戦を布告します───────」

 アルナベルツ教皇軍が、突如として侵攻を開始した─────────

 [続]


〜あとがき〜
書きダメ終了\(^o^)/
次回予告、アルナベルツ教国の侵攻で戦いが混迷を深める中、
フィリとレイの戦いが静かに終わりを迎える。
遺された者、消え行く者の想いが交錯します。


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