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Ocean's Blue

097:再来する悪夢

 倒れ伏すフィリの頭を踏みつけるレイの姿がそこにあった────

「この程度か、「ユミルの聖女」フィリ=グロリ…」
「貴方は誰なの」
 レイが吐き捨てるように言葉を発するのを遮る。
「レイ=フレジッドだ、間違いなくな。さっきウェルガから聞いてなかったのか?
肉体はレイ=フレジッド、精神は「無為」の十字架に操られる殺戮人形」
 レイは自分の頭を指先でトントンとつつく。
「脳に記憶がある。だからこそ俺はレイの記憶を持ちうる」
「レイはどこに消えたの」
「ここにいる、貴様の望んだ形ではないがな」
「────────そう」
 フィリが静かに目を伏せる。

 これが────────結末。

 フィリがゲフェンで、グラストヘイムでレイを信じられなかった結末。

 なれの果て。

 終わってしまったレイの物語。

 あの時、フィリがレイを信じ切れれば、別の道もあっただろうに─────

「ここにいるのは…レイの亡霊なんだね」
「亡霊か…貴様からすればそうなのかもしれないな」

 決意する。

 覚悟を決める。

「レイ、ごめん。私は貴方と────────戦う!」

 ゴォゥン!

 フィリの身体からオーラが噴き上がる。レイは飛びのき、フィリは立ち上が
る。フィリは全ての罪と罰を背負う覚悟を決め、レイを止める決意をした。そ
れに呼応するかのごとく、フィリの背中に白銀の翼が浮かび上がる。

 「ユミルの聖女」の証たる、魔力の翼が──────────

「シャープシューティング」
 一点集中の貫通撃、レイはすかさずフィリの心臓めがけてそれを放った。
だがその攻撃は無効化される。
「ニューマか」
 レイが呟く。フィリはこの部屋全域に遠距離攻撃を防ぐ結界であるニュー
マを展開したのだ。これでレイは弓では戦えない。

 レイの殺気が増す、レイの両手には紅蓮と輝氷の2対の宝剣。

 フィリとレイが対峙する。


 ズブリ…

 突如、レイの腹から手が生えた、フィリにはそう見えた。
「……っガ…」
 レイの口元から血が零れ落ちる。レイの腹部から貫通させた手刀を引き抜
き、突如として姿を現し戦いに介入したその男は醜悪な笑みを浮かべた。

 「幻影」 ウェルガ=サタニック=ダークイリュージョン

「…ウ…あ」
 レイの身体が崩れ落ちる。フィリにはわかった。

 もう助からない。

 レイは────────

 レイの肉体が弛緩し、緩やかに生命反応が無くなる様をフィリは硬直した
まま見ているしかできなかった。

 レイの瞳孔が開く──────────

 死──────────

 こんな簡単に──────命は消える、奪われる────────

 レイが死んだ為、「ユミルの十字架」全ての力がフィリに宿る。以前のよう
な痛みは感じず、ただ力が宿ったかのような感覚をもたらす。


「決意も────────────奪う」

「覚悟も────────────奪う」

「全てを────────────奪う」


 ウェルガが両手を天に掲げ、そしてフィリに視線を向ける。

「私が憎いか──────────フィリ=グロリアス」
「────────────ッ!」
 フィリは沸き上がる激情のままにウェルガに<力>を放った。練り込まれ
てもいないただの力の暴走、ウェルガはそれをあっさりと片手で握り潰す。


「決着をつけよう、フィリ=グロリアス──────────」
「うるさい…っ!!」
 フィリは冷静さを欠き、ウェルガが闇の大剣「骸骨杖」を掲げる。フィリは感
情を抑えられぬまま力を暴走させ、それを切り裂くように闇の大剣が迫る。

 ガギィィィィィイィン!

「落ち着けよ、フィリ。今、お前がしなければならないことは何だ?」
 戦いに割り込んできたイアルの短剣が、ウェルガの闇の大剣を受け止め
る。さらにイアルの背後より伸びた手がウェルガの闇の大剣を掴む。
「メテオアサルト」

 ゴン!

 ロウガのメテオアサルトがウェルガの闇の大剣を吹き散らす。
「加勢しよう、少々埋め合わせをしなければならないようだ…」

 カツン…カツン…

 階段を登ってくる靴音とともにエリカが現れる。
「フィリさん、貴女は一人ではありません、それから…そんな弱いフィリさん
をレイさんは望むと思いますか?」
 エリカが静かに聖剣エクスキャリバーをウェルガに向ける。

「哀しみの連鎖は断ち切るぞ」
「その為に皆ここに来たんだからね」
 キスクとリシアが窓枠からひょいと入り込んでくる。

 そして最後に、キスクとリシアの後ろからティアが入ってきた。
「お姉ちゃん、私達は皆お姉ちゃんを信じてる」


 イアルが、ロウガが、エリカが、キスクが、リシアが、ティアが─────

 フィリとともに戦う為に、フィリを信じてここまで来た─────────

 フィリの眼に静かな闘志が宿った────────────────

 ◆

 アルナベルツ教皇軍と「無限王」シリウスの戦いは熾烈を極め、シリウスは
己の感情である「憎悪」、「絶望」、「苦悩」、「哀しみ」を魔物として具現化さ
せ、強大な軍として対抗していた。同数以上の魔物に襲われたアルナベル
ツ教皇軍は飛行船を大地に叩き落され、平地戦を余儀なくされていた。

 アルナベルツ教皇ヴァナディースもまた、ルーンミッドガッツ王国の地に降
り立った。それを護るように大神官ニルエンが立つ。

 シリウス本体と現在戦闘を繰り広げているのはアルナベルツの筆頭大神
官であるジェド。ジェドは己の手に炎を宿らせていた。
「狂おしい程に紅き炎だな、トール火山のモノか」
「私は教皇様を守ると決めたあの日より、トール火山へと赴き、トール火山
の主であるイフリートと契約した。この指輪、リングオブフレイムロードはそ
の証」
「腹立たしいことだが、手こずると感じている」
 おびただしい爆炎と斬撃の中、シリウスとジェドが戦いを繰り広げている。


 完全に蚊帳の外に置かれたトレントは、ルアーナとライジング=ボーンドと
ともに教皇ヴァナディースの元へとやってきた。
「ホントにこのガキが教皇なのか?」
 ニルエンの眼がスッと細まる、トレントは悪かったとばかりに手をひらひら
と振る。ルアーナとヴァナディースが対峙する。

 ヴァナディースが静かに口を開く。
「久しぶりですね…「真紅都市の姫巫女」ルアーナ=クレイドル」
「その名を知っているということは「記憶」を共有しているということですか」
「ええ、アルナベルツの教皇の意思、そしてこのヴァナディースという少女の
意思。これらがゆっくりと混ざり合っています。どちらも私と言うべきですが」
 ヴァナディースの言葉にルアーナが静かに頷いた。

 トレントがライジング=ボーンドの脇をつついた。
「おい、あれ知り合いなのか?状況わけわからんのだが」
「黙って聞いていろ」
「…」

 ルアーナがヴァナディースに問う。
「何故…このような暴挙に?」
 ヴァナディースが射抜くような視線をルアーナに向ける。
「20年前に失敗した楔が再び打ち込まれようとしています、それも今回は完
全なる形で。我々はフレイヤ様の名の元にすべからく悪鬼羅刹を排除しな
ければなりません」
「ルーンミッドガッツ王国7つの家門…七王家の真実を知る者としてここは道
を開けなければならないようですね」


 トレントには状況が全く掴めなかった。だがはっきりしていることが一つ、
アルナベルツが対立しているのはフィリ=グロリアスの軍ではないというこ
と。目的は違うようだが、フェイトの軍を潰して回っていることから、共闘関
係になれる相手と考えていいだろう。

 ならば、トレントの取る行動はただ一つ────────

 トレントは魔剣エクスキューショナーを手にジェドに並び立つ。

 せっかくシリウスと互角にやり合える共闘相手がいるのだ。

「悪いな、俺はド汚いんだ。この際だし排除するのも悪くないわな」
「トレントか…」
 シリウスがトレントに視線を向ける。

 するとジェドがポンと手を打った。
「そうか、君がこの男の相手をしてくれるのか。任せたぞ、私は教皇様を守
らなければならぬ」
「え、ちょ」

 バッ!

 ジェドが教皇の元に飛び去っていった。

 トレントの人生終了が確定した。

 ◆

 フィリを含む7人と対峙したウェルガ=サタニックが静かに口を開いた。
「昔話をしよう────────────」


 ルーンミッドガッツ王国が国家として形成するよりも前の話。

 ルーンミッドガッツというコミニュティを作り上げていた七つの家門があっ
た。「トリスタン家」や「フェリカ家」、「シュケーテル家」、「フロームヘル家」
などの強烈なカリスマ性と実力を兼ね備えた家門が覇権を争い、統一国
家建国へと尽力していた。


 「嘆きの王」ゲフェニアの異名を持ち、畏れ敬われた武の探求者、ゲオ
ルグ=トリスタンを擁する「トリスタン家」

 自由奔放に生き、世界各地で人々を救ったフィリア=フェリカを擁する
「フェリカ家」(フィリアはかなりの自由人で身内が苦労していたという話が
残されている)

 1000年に一度の天才と謳われた魔剣士タナトス=シュケーテルを擁す
る「シュケーテル家」

 この世に魔術を生み出したと言われるほどの魔術師にして、数々の功績
を残した大賢者バルムント=フロームヘルを擁する「フロームヘル家」


 これら4つの力ある家門が覇権を争っている時代、家門には数えられては
いるが、力の無い家門も存在していた。そのうちの1つの中に、「真紅都市」
と呼ばれるコミニュティが擁する姫巫女、「クレイドル家」のルアーナ=クレイ
ドルの姿があった。
 彼女は争いは好まず、だがそれでもコミニュティの発展を願い、ある技術
の研究を続けていた。そしてその研究には「クレイドル家」以外のもう一つの
力の無い家門も参画し進められていた。

 それは人に過去の英雄の魂を宿すソウルリンクの技術だった─────

 「真紅都市の姫巫女」ルアーナ=クレイドル

 彼女こそ、現在におけるソウルリンカーの始祖である。

 もう一つの家門と力をあわせ、技術を完成させようとした間際、もう一つの
家門はある案を提唱した。

 それは魔族の魂を人に宿すという提案であった──────────

 その考えを危険視したルアーナはその案を闇に葬るように説得を試みた
が、力を欲するその家門の人間は、ルアーナと袂を分かち、研究を続けた。
それが悲劇の始まりとも知らずに──────────


 ルアーナと袂を分かち、研究を続けたその家門の「彼」は、ルアーナとと
もに生み出したソウルリンクの技術をさらに昇華させた。


 過去最強の魔王の魂を付与────────────


 「彼」は魔王の魂を付与するには器が必要と感じていた。「彼」は彼の家
門の人間、眷属に力を与えた。それは人ならびに生命あるものを喰らう力。
「彼」らはどこまで人であったのだろう。「彼」らは人の頂点に立つために魔
道へと堕ち、人為的に生み出された魔族として生を得る。
 魔王の魂を付与する器を最初に得たのはやはり「彼」が最初であった。
「彼」は精神が死した魔王を呼び覚ます為、「死者の都」ニブルヘイムへと
施術者を配置し、過去最強の魔王の魂を呼び覚ました。
 その余波で生まれ出でた砂漠、それが現在のソグラト砂漠である。


 過去最強の魔王の名はスルト──────────────

 かの神魔戦争「ラグナロク」にて世界を焼いた「炎獄王」スルト

 過去最強の魔王を呼び覚ました施術者の名はセリン

 そして、全ての元凶たる「彼」の名は──────────────


「アウレリアス=サタニック=ダークロード…か」
 ロウガの言葉に、フィリ達が一斉に反応する。
「ロウガ=ブラスト、真実を知るだけのことはあるな」
 ウェルガの賞賛の言葉を受け流し、ロウガが言葉を続ける。
「アウレリアスは建国王フィリアやゲオルグ、バルムントと戦い、そして魔王
の魂を切り離すことに成功したときに死亡した。そして暴走を開始したスルト
の魂はタナトスによって砂漠の奥底に封じ込められた」
 キスクやリシアが目を見開いた。
「聞いたことあるぜ…その魔王が封じ込められた場所の上に出来た都市、
この世界に現界した際に呼ばれた名を冠し、都市にその名が付けられた」
「あたしも聞いたことある。砂漠の都市モロク…神の世界では「炎獄王」スル
トの名で呼ばれていたけど、人の世界での「魔王」モロクの名が使われたと」

 ウェルガが言葉を続ける。
「我ら「闇の眷属」と呼ばれる魔族は元は人間なのだよ、もはや昔の話だが
ね。そしてアウレリアスを擁していた家門「サタニック家」は器さえ用意できれ
ば己に魔王の魂を付与することができる。20年前、それを証明して見せた」
「トリスタンの悪夢…!」
 エリカがすぐにその単語を口に出した。20年前起こった魔族の大攻勢、最
終決戦となったダークロードは「突如」プロンテラに出現した。
「20年前ダークロードとなったのは私の弟だよ。イルクライム=サタニック=
ダークイリュージョン、私と同じクラスの力を持つ我が弟。イルクライムは世
界各地でラクール達と戦ってはいたが、正体がイルクライムであることに気
付いたのは「七英雄」の一人、菊丸=クレバーだけのようだったがな」
 気付かなかった理由は明白である。魔王モロクの魂が宿り、ダークロード
となった際の力、魔力、存在、全てが圧倒的に桁違いなのだ。それに気付
いたイアルとティアが焦燥を覚える。



「もう──────────わかるな?」

 ウェルガ=サタニックの声、死刑宣告にも等しき言葉の重み。

 ウェルガはフェイトと手を組み、世界中の魔王を呼び覚まし、

 その力を取り込んできた──────────────

 己が魔王の器を完成させるために──────────



 ウェルガ=サタニックの手に<魔王の魂>が出現する。

「サァ──────コレガ最期ダ────────────」

 ウェルガは<魔王の魂>を飲み干すように口へと入れた。



 鳴動─────────────────────────

 世界を揺らす大振動───────────────────

 天空に浮かび上がる黒紅魔法陣──────────────

 その魔法陣に覚えがある者達は戦慄に震え上がる───────

 20年前と全く同じ──────破滅の象徴──────────



 「魔軍七大勢力」が七魔王が一角、「闇を統べる者」────────


 ──────────────ウェルガ=サタニック=ダークロード

 [続]


〜あとがき〜
これまでのウェルガ=サタニックの行動はここに通じています。
次回予告!「無限王」シリウス(魔剣士タナトス)との決戦!


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