前へ  小説目次へ  次へ

Ocean's Blue

098:真紅の旅人達

 天空に浮かび上がる黒紅魔法陣

 20年前、首都プロンテラを炎の海と変えた闇の王

 その力にてルーンミッドガッツ王国を滅亡寸前まで追い込んだ魔王


 「闇を統べる者」 ダークロード


 それが今、フィリ達の目の前に出現した。ダークロードとは魔王モロクの魂
を「闇の眷属」の深き魔力の器在る者へと宿し生まれ出でる存在。

 人為的に作り出された究極生命体────────────

「ふむ、よい一撃だ」
  それは青い刀身、「閃光剣」リシア=キングバードが発現した長さ30メー
トルはあろうかという巨大なオーラの大剣を喰らい、右腕を斬り落とされた
ダークロードが感嘆の声を上げる。
「人間に、してはな」
「伏せ──────────────────!!」
 イアルの叫び声は轟音にかき消される。

 プロンテラ城から何十方向にも発せられるレーザーの帯。

 それら一つ一つが重力砲として存在するモノ全てを消失させる。

 ◆

「何だ…ありゃ…」
 トレントが対峙するシリウスの存在も忘れ、城の方向を凝視する。とんでも
ない数の閃光が走ったかと思えば、周囲には破壊しか残っていない。
「最期の楔が打ち込まれようとしているということだ」
「んだと」
 シリウスの言葉にトレントが問い返す。
「それにこの空に浮かび上がる魔法陣については有名だな、ダークロードが
蘇ったとでも言うのか」
「今回のダークロードはウェルガ=サタニックだ。ダークロードとは「闇の眷
属」の器在る者が過去最強の魔王の魂を宿して生まれる存在。お前が良く
知るルアーナ=クレイドルが生み出したソウルリンクの技術、この世界に存
在するもう一つのソウルリンクの技術ということだ」
「なるほど、人為的に生み出された魔王っつーことね」

 真紅剣─────「銀狼」

 トレントの眼に過去最強の自分の魂が、真紅の力が宿り、凄まじい異音を
奏でながら、魔剣エクスキューショナーに銀色の瘴気が収束していく。
「貴様の相手をしているヒマはないってことだよな、失せろ」
「トレント、お前はこれを見てもまだその台詞が吐けるか?」

 真紅剣─────「神狼」

「…な」
 トレントの驚愕の声、全く同じ剣の構え。それだけではない。シリウスの、い
や魔剣士タナトス=シュケーテルの剣もまた魔剣エクスキューショナー、剣
に真紅の力が宿り、凄まじい異音を奏でながら銀色の瘴気が収束する。

 その瘴気の強大さはトレントのモノと比較し、優に倍────────

「いい加減気づけ、もう一人の俺────────」
 シリウスの嘲笑するような声。

 衝撃波同士の激突────────────

 倍の威力差は跳ね返せず、勝敗は火を見るよりも明らか───────

 血を吐きながら膝を大地に付くトレントがシリウスを見上げる。
「そういうことか…お前は俺なんだな、その身体は俺なんだな」
「そう、貴様の前世とも言うべき「トレント」、その身体をこの俺、タナトスが
奪った。俺はお前の身体を奪った日に生まれ変わったのだよ。「無限王」と
して、「無限王」シリウスとしてな」
「寄生虫野郎かよ、んな身体もういらねえよ」
「無念だったろう。その無念たる魂を拾い、「大賢者」バルムント=フローム
ヘルが用意したリヒタルゼンの六魔人と同じ暗殺者の肉体、魔人の肉体を
与えられた貴様は再度俺に挑んだ」
「ほー…」
 勝ち誇るようなシリウスの言葉。
「そして、殺した。トレントはそこで死んだ。俺の生み出した感情、「憎悪」や
「絶望」に身体を貫かれ、最期は魔人の力を制御できずに無惨に息絶えた。
その後、ライジング=ボーンドによってルアーナはこの時代へと転移した。だ
が奇しくもこの時代、死んだ貴様が転生した時代だとはな。運命とは皮肉な
ものだ、またしてもお前を殺して俺は姫巫女を奪う楽しみを得た」
「それでお前さんが昔俺と同じようにぶっ殺した俺の仲間の転生した姿を見
て、一人一人動けなくしやがった挙句、最期に残った俺をゆっくり料理するっ
てか」
「そうだな」
 シリウスが愉悦を感じているのだろう、笑う。

「貴方は変わりませんね、タナトス」
「シリウス…いやタナトスか。お前は逃げているだけだ…」
 会話に割り込むようにルアーナとライジング=ボーンドが現れた。
「ルアーナ、愛している。今でも遅くはない、俺とともに最期を迎えよう」
「それはできません、私は希望を捨てませんから」
 シリウスの言葉をルアーナがきっぱりと拒否する。
「そうか、お前は最初から夢も希望もない、終わってしまっているこの王国
を俺よりも愛するか。どのみちもう時間もないし、力ずくも悪くない」
「トレント、立てるか。ルアーナを連れて逃げろ」
 ライジング=ボーンドはシリウスからトレントとルアーナを護るように立つ。
「もうダメだわ、俺こいつの攻撃喰らっちまったわ」
 そう、「無限王」シリウスの攻撃を受けたものは治癒できない。だからこそ
世界最強の英雄たるラクールはグラストヘイムでシリウスの敗北したのだ。
「お前が希望を託されたのは、お前が奴と同じだからだ。自分の攻撃を受け
て癒せない奴がいるか、お前は奴であるとともに、奴の天敵だ」
「余計なことを」
 シリウスが舌打ちをする。それを裏付けるようにルアーナの治癒魔法がト
レントの傷を癒す。トレントはシリウスの攻撃を受けて、唯一治癒可能な存
在だということだ。
「なるほど、だからこそお前は俺を危険視していたわけか、シリウス」
「生かしては帰さぬ、ルアーナ、お前もな」


 真紅剣─────「神狼」


 「無限王」シリウスの剣、もう一つの魔剣エクスキューショナーに真紅の力
が宿り、凄まじい異音を奏でながら銀色の瘴気が収束する。
「ハハハ、俺は無敵だよ。俺には「真紅都市」の力しか通じない、だがそれを
扱えるのはもはやトレント一人、直接この世界に来たライジング=ボーンドと
ルアーナは俺を傷つけられない!トレント、貴様が死ねば俺は何者にも傷つ
けられない存在となれるのだ!あの「塔」のシステムがこの世界に息づく限
り────────────俺は最強だ!」

 衝撃波に巻き込まれ、小石が刎ねる。

 それはシリウスの頬を切る。

 血が─────────流れる。

「…何、なんだと、何故だ」
 シリウスの驚愕の声、まるでありえない事が起こったかのようにシリウス
が動揺する。「塔」に何か異変が起きたというのか、そんなはずはない。あ
そこには自分自身の思念体、そして最強の護り手を配置している。あの「塔」
を探し出し、そしてあの「塔」の頂上にあるシステムを破壊することなど、誰
にできようか。だがそうとしか考えられない、「塔」は機能を停止している。

 ◆

 数刻前────────────

 刻の流れが歪んだ世界たる「塔」、タナトスタワー最上階

 13階層それぞれ全てが別の「世界」を構築しており、ここはその最上階。

 剣に風を纏わせ、「真紅の旅人」が息をつく。「真紅の旅人」と対峙する
居合いの使い手が感嘆の声を上げた。
「見事だ、死の淵より舞い戻った甲斐があったというものだ…」
 その言葉を残し、居合いの使い手は再び闇へと還る。

「セリア、カノン、アルファーヌ、ここは任せた」
 「真紅の旅人」はここまで辿り付いた複数の仲間の内、精鋭3人に残りの
敵の掃討を任せ、巨大な石版へと向き合う。
「さて…と」
 「真紅の旅人」は全てを斬り裂く風の力にて石版を破壊する。

 こうして「塔」のシステムは長き刻を経て、終焉を迎えた───────

 ◆

 衝撃波が荒れ狂う中、トレントはそれを見逃さず、不敵な笑みを浮かべる。
「ご自慢の「塔」…壊れてんじゃねえの?」
「そうだな、だが貴様にこれは防げぬ」
 そう、シリウスが展開する波動は、トレントのそれと優に倍以上の威力差
がある。防げるはずがない、例え「塔」が破壊されていようと、シリウスの勝
利は揺るがない。

 破壊が────────────走駆する────────────

 天に轟く轟音とともに、トレントがそれを受け止めきる。

 トレントは隠し持っているソードナイフ、そしてエクスキューショナーを2刀と
し、どちらにも真紅剣「銀狼」を宿していた。倍の威力を、2重の護りで防ぐ。
「真紅双剣とでも言ったほうがいいか?」

 シリウスの首を撃ち抜くソードナイフ。

 シリウスは言葉も発さず──────絶命した。

「お前の敗因は強い力を扱えた事と、傷を負わなくなって慢心したことだ。
戦いの基本の攻守もまともに出来なくなってやがるじゃねーか」
 トレントはさすがに疲れた声を絞り出すようにそう呟いた。

 ルアーナとライジング=ボーンドがトレントに駆け寄ってくる。

 「無限王」シリウスを倒したことで、傷が治癒できず動けなくなった者達が
全員動けるようになったはずだ。ラクールやアイフリードなどの英雄級の復
活が見込める。これで戦局は動くだろう、フィリ=グロリアスの有利な方へ。
「トレント、ダメなようだ。「無限王」の縛りは解けていない」
「…は?」
 ライジング=ボーンドは己の腕にあるかすり傷をトレントに見せた。
「これはシリウスに付けられたモノだ、傷がまだ治らない」
「どういう…ことだ?」
 ルアーナ=クレイドルがプロンテラ城に視線を向けた。
「シリウスに現世へと転移する魔術を扱えたとは到底思えません…彼は
戦いにおける魔術ならば天才とさえ言われていましたが…」
 己の感情を魔物とし、軍隊とするなど他の誰に出来ようか。
「彼に禁忌にも近い魔術、「塔」を与えたのは…究極の魔──────」

 「魔王」モロクの力────────────

「つまり…あれをどうにかしろということか」
 トレントはプロンテラ城より発せられる絶大な魔力に視線を向けた。トレ
ントがアルナベルツ勢に視線を向けると、教皇をはじめ沈黙を保っていた。
「おい、共闘してくれないのか?」
 突如、アルナベルツ教皇がへたり込む。
「「教皇様!?」」
 ジェドとニルエンが驚きの声を上げながら駆け寄る。アルナベルツ教皇
ヴァナディースは声を震わせ呟いた。
「究極の魔───────────既に現世に在った──────」

 ◆

 プロンテラ城、玉座の間────────────

 「死を体現する者」ディスクリート=イノックシャースは笑った。
「…我が真なる主の生誕と帰還に祝杯を──────」


 ──血を──命令──魂──義──怒り──廃───

 圧政を敷く王は死した。

 ──眠り──更に──眠り──更に──神よ─────

 理解できなかったであろう、理解したくなかったであろう。

 ──盛大な──血の──儀式を───────────

 己の野望は、全て用意された盤上で動かされていたに過ぎぬ。

 ────加護を──不死──生贄を──────────

 魔剣ミストルティンは根元から砕かれ、壊されている。

 ──血を──命令──魂──義──怒り──廃─────

 「奈落の王」と呼ばれた魔剣の持ち主たる王は絶命している。

 ──血が──もっと必要だ──目覚め─────────

 一片の生きている希望も無く、絶命している。

 ──もう少し──目覚め──血を──────────

 壁に己が血を撒き散らし、首から上が消し飛んでいる。

 ────血は、魂の源───────────────

 フェイトと呼ばれたフィリの宿敵たる存在はもはや肉の塊。

 ──我はもっと新鮮な血を欲している──────────

 ディスクリートは己が主の帰還に歓喜する。

 ────血は魂の源─────────────────

 主が用意した複数の駒は首都決戦で大半が死した。

 ──六つの生命を与え、七つの生命を受けよう────────

 己が駒をフェイトに与え、そしてフェイトは望んだ通りに盤上を支配した。

 ────────血は魂の源──────────────

 この国こそが、我が血。

 ────この最も崇高にして尊い血を捧げる────────

 この国の王家に流れる血こそが、我が存在。

 ──天地すべてに血の雨を降らせ、死骸の山に君臨せん────

 我がかつて統一した国こそがこの王国。

 ───クク──クフフフフ──ハハハハハハ──────!!!

 ルーンミッドガッツ王国よ、この世界全てを喰らいつくせ─────!


 [続]


〜あとがき〜
「Ocean's Blue」には大別して4つの時代が存在します。
◇神と魔の世界、「ラグナロク」が起こった時代。
◇建国王フィリアの時代
◇20年前、ラクール達、「トリスタンの悪夢」が起こった時代
◇現在、フィリ達の時代
過去があるから未来の物語が紡がれます。
フィリ達の時代は、過去があるからこそ存在しているのです。
次回予告、圧倒的力を扱うダークロード!
フィリの仲間は一人、また一人と倒れていきます。


前へ  小説目次へ  次へ

トレントの樹海TOPへ

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット