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Ocean's Blue

100:理想の果てに

 思えば永い時間を生きてきた────────

 全ては彼女の為と位置づけた己のエゴ────────

 私はセリンを愛していた、その人生の様相そのままを生き写すかのよう
に、私が果たせなかった思いを果たそうとしている。

 私はセリンを護れなかった────────

 レイ=フレジッドはフィリ=グロリアスを護ろうとしている────────

「いいだろう…」

 怒りを、憎悪を顕わに、力を発現する。狂わんばかりの魔力が荒れ荒ぶ。

「決着をつけよう────────マリア=ハロウドの血を継ぐ者よ!」

 窓を突き破り、黒紅魔法陣へと向けて天空を舞い上がるダークロードを追
うようにレイ=フレジッドが駆ける。空を駆け上がっていく。
「レイが空とんでるぞ…!?」
「ううん、あれって…」
 イアルの疑問を口にするが、ティアはその本質に気付いた。レイは跳び上
がるごとに足元に力場のようなモノを形成し、天を駆けている。はたから見て
いれば飛んでいるようにも見えるだろう。

「ギャラルホルン───────ヘイムダルの絶対聴力」

 神々の世界アスガルドの門番であり、神々の中で最強の「半神」とされて
いたヘイムダルが持っていた能力である。世界が衰滅する最後の戦いの始
まりを告げるという意味合いを宿しているこの力は、世界の流れを汲み取
り、そのわずかな自然の動きを読み取る力、大気のわずかな力場すら読み
取ってしまう「空間把握」または「空間支配」に等しい力を持つ。

 これが半神となったレイの新たな能力───────

 その説明に得心がいったものの、「Ocean's Blue」から次々と力を与えられ
ているとしか思えないほどのティアの知識の変貌にイアルは不安を覚えた。

「これは神魔戦争の再来とも言えよう、ならばそれにふさわしき力を持ってし
てこの戦に挑むことが、ダークロードたる我が使命」

 ダークロードの背後に浮かび上がる黒紅魔法陣が紅蓮に染まる。


  


 20年前、このルーンミッドガッツ王国を炎に染め上げた禁忌たる大魔法。
魔法陣より出現した燃え盛る隕石群がレイに直撃する。大気を切り裂きレイ
の身体が大地に叩き付けられ、クレータが幾重にも発生する。

 ◆

 アルナベルツ教皇ヴァナディースが天を見上げた後、紅蓮の炎とともに地
に堕ちたレイ=フレジッドの方向へと視線を向ける。
「「真紅都市の姫巫女」ルアーナ、レイ=フレジッドは神として覚醒したばかり
で力を使いこなせていません。それでも尚、彼らに運命を託しますか」
「私達にできることは2つしかありません」
 ルアーナは倒れ伏した「皇帝」アイフリード=フロームヘルを発見した。
「未来に希望を繋ぐことと、信じることだけです」
 ルアーナはライジング=ボーンドを伴い、アイフリードの元へと駆けていく。

 アイフリードの背中には「ユミルの十字架」が輝いている──────

 ◆

 ザザンッ!

 「炎の宝剣」ファイアーブランドと「氷の宝剣」アイスファルシオンを杖のよう
に地に突き立てレイが不敵な笑みを浮かべた。
「ようやく戻ってこれたんだ、諦められるかよ…なぁ?」
 意志の力が篭ったレイの言葉、それは城で戦いを見守るフィリにも通じた。

 レイは帰ってきた。

 神となって、神という名の化け物となって帰ってきた。

 皆には痛いほどにレイの気持ちが伝わってきた──────

 レイは何よりもフィリと歩む未来を掴もうとしているのだ。

 例え人でなくとも未来を掴める、化け物になったとしても供に歩める。

「まだ終わっちゃいないぜ、ダークロード!!」

 レイの気迫が皆に伝播していく────────────!

 ◆

 プロンテラ城 〜玉座の間〜

「世界はこの日を境に変わる──────か」
 レイ=フレジッドとダークロードの戦いを見守りながら、トリスタン三世が呟
いた。部屋の片隅に腕を組んで壁に寄りかかっているディスクリート=イノッ
クシャースが苦笑を浮かべた。
「変わるでしょうね、漸くといった所ですが──────」
 トリスタン三世が悪戯っぽく表情を緩めた。
「今から持て成しの準備をして間に合うか?」
「それはかなり辛い命令ですが、お抱えの腕利きのシェフ数名が牢屋にいま
したので何とか用意させますよ…」
「もうフェイトはいないのだから、牢にいる者達は全員解放して構わぬ」
「御意」
 ディスクリートの姿が消える。

「レイ、ラクール、ようやくここまで辿りついたか─────」

 全ての真実と王国の記憶は「ここ」にある───────────

「この世界は幻となるか現実となるか────理想の果てとなれ」

 ◆

 ズドォン!という轟音とともに大地が揺れる。闇の大剣「骸骨杖」を振りか
ざしたダークロードが急降下とともにレイに襲い掛かったのだ。レイは宝剣
を交差させそれを受け止める。気迫と気迫のせめぎ合い、旅の始まりから
終わりまでの宿敵との決着戦。

『ラクール=フレジッドの息子だな』
『そうだ』
『ククク…運命に翻弄されし、ラクールとあの忌々しい女の息子がここまで
たくましく育っていたとはな』
『オフクロの事を知ってるのか』

 母の手がかりを求めてフィリと旅に出て最初に掴んだ手がかり。

 砂漠の都市モロクに面する「スフィンクスダンジョン」
 アルデバランの衛星都市「ルイーナ」
 魔軍の巣窟たる「グラストヘイム古城」
 フィリが戦い、ジュニアを喪った「サンダルマン要塞」

 そしてルーンミッドガッツ王国の首都「プロンテラ」、今現在

 この戦いは必然だったのだ、神と魔の代理戦争としてここに成る。

 激しい剣戟、周囲に破壊を撒き散らす剣技の応酬────────!

「レイ=フレジッド、貴様を一目見た時から憎悪を抱いていたよ」
「ッハ!そいつは迷惑な話だ!」
「お前は昔の俺そのものだ、アウレリアスに婚約者たるセリンを奪われ殺さ
れ全てを失った俺と全く同じ空気を持ち合わせていた。近親憎悪のようなモ
ノだろう。貴様はこの世界で最も俺に近い存在だよ」

 貴様の歩む道は過去俺が歩んだ道に他ならない────────

「俺は運命は信じない!未来は自分の手で掴み取る!この道こそが理想の
果てに続く!理想の果てにこそ、自分の在るべき未来がある!」

 己のエゴイズムにて運命を切り開く────────────

「その上に積み重なる屍は罪となる!罰となろう!断罪の時は訪れる!」

 その罪と罰こそが全てのモノが生まれながらに背負う業───────

「なら全てを背負ってやる!罪と罰、未来を繋ぐ為に踏み躙ってきたモノ全
てを俺は背負って生きていく────!」

 それはさながら生まれながらに破滅を約束された因縁────────

「貴様が抱くその理想の果て、なれの果てにて生まれた存在、それがダーク
ロード!全てを闇へと還し、全てを消し去る存在!」

 無限の苦しみは連鎖し、再び理想は破滅へと転化する────────

「ならば断ち切る!全ての負の連鎖はここで俺が断ち切ろう─────!」

 決意を奪われたとしても────────

 覚悟を奪われたとしても────────

 全てを奪われたとしても────────

 レイ=フレジッドの手に「ルドラの弓」が出現する。ファイアーブランドとアイ
スファルシオンを矢としてつがえ、ダークロードへと放つ。

 轟音────────────

 その攻撃を回避したダークロードが天空へと舞い上がる──────!
「全てが終わってしまった世界に救いなど無く、先には絶望のみ…」

 ダークロードの体内に<闇>が収束していく────────

「全てを知る前に終焉を与えてやろう、それこそが救いとなる」



  



 首都プロンテラが炎の海と化していく。

 天から堕ちる隕石によって。

 20年前、トリスタン三世が即位して間もない頃起こった魔物の大量発生、
そして人の住まう地への大襲来。

 『トリスタンの悪夢』

 皮肉にも最終決戦の地となったのはここミッドガルドの大陸の中心であり、
この国ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラ。紅蓮の炎に包まれ、絶望
に包まれた人々はもはや存在しない神に助けを祈った。

 救いなど無く、炎はこの国を紅蓮に染め上げた────────

 20年前と同じ光景────────




 そしてこれもまた────────20年前と同じ光景。




 ───其は「ラグナロク」

 ───其は「神々の黄昏」

 ───其は「世界終末の日」

 だが、それらは神々の戦いをモチーフとしたワグナーの楽劇『ニーベルン
グの指輪』によってつけられた、偽りの意味。

 ───其の真なる意味は

 ───「神々の運命」




「何が最善なんて、わからないさ」

 レイ=フレジッドは城にいるフィリの方にちらりと視線を向けた。

 フィリは手を合わせ、祈りを捧げている───────────

 レイの勝利を信じて、待ってくれている───────────

「わからないから必死に生きていく、それだけさ」



  



 フィリは見た。レイが放った光の矢が天へとのびていく様を。

 それはまるでレーザーのような巨大な光の柱。

 その光の柱はまるで黄金の龍のごとく、雄々しく、力強く。

 最初にアルベルタで見た時と同じ、未来を紡ぐ力強いレイの意志。

 ダークロードは敗北を悟り、光の奔流の中へ消えていった──────

 ◆

「俺は…護れなかった…」
 息も絶え絶えにウェルガ=サタニックという男は語る。ダークロードとして
の力だけで無く、魔族としての力すら消失し、命の灯火が消えかけている。
レイはウェルガの言葉に静かに耳を傾ける。

 この男はもう一人の自分─────────

 ウェルガだけでなくレイもまた感じ取っていたのだ─────────

 歩むべき道を誤った自分の姿だということを─────────

「セリンを愛していた、決意も覚悟もあった、それすら打ち砕かれた」
 うわ言のようにウェルガの言葉は続く。
「終わってしまった世界に存在しているのだ、我々…は」
「終わってしまった世界…?」
「全ては王国の記憶に刻まれている、全てを知れ、レイ=フレジッド」
「全てを…か」
 ウェルガ=サタニックが弱々しい笑みを浮かべ頷いた後、最期に呟いた。
「セリン…ようやく俺もそちらに行けるようだ…」
 ウェルガはそのまま息を引き取った─────────

 ウェルガの亡骸が灰となり、風に流されるままに散っていく。

 それを背に、レイが城の方向へと歩みを進める。

 城から見守っていたフィリと目が合い、レイは手を振った。

 力場をつくりフィリの元へと急ぎ、跳び上がる。

 ティアが苦笑し、イアルと2人で気絶しているキスク達を柱の陰に連れて行
く。2人なりに気をきかせてくれたのだ。

 レイがフィリの前に降り立つと同時に、フィリがレイの胸に飛び込んだ。

「レイ…レイ──────レイ!」
「フィリ…!」
 互いの存在を確認し合うかのように抱きしめる。
「レイ、ずっと謝りたかった…!ずっとごめんなさいって言いたかった!レイ
は私のことを信じてくれていたのに、ずっと私の事を想ってくれていたのに、
私は、私はレイの事を─────────」
 レイは指輪をフィリの目の前にちらつかせると悪戯っぽく笑った。
「全部終わらせて、一緒にアルベルタで暮らしてくれないと許してやんない」
「─────────ッ!」

 フィリは大泣きした。

 止まってしまった時を動かすかのような暖かい涙。

 それはフィリが王から、少女に戻れた瞬間でもあった────────

 わんわん泣くフィリをなだめながら、レイがイアル達に苦笑を浮かべる。

 イアル達も苦笑を浮べ、傷の痛みを忘れて微笑みを浮かべた。





「フェイト=トリスタン=ルーンミッドガッツ四世は死にました」





 その言葉に空気が凍り付く──────────────

 「死を体現する者」 ディスクリート=イノックシャース

 フィリ達に死をもたらしてきた男の出現にレイを始め、動ける者───つ
まりフィリやイアル、ティアが戦闘態勢をとる。だが、これ以上の戦闘は休
みを挟まなければ厳しい。イアルやエリカに到っては近しい人を今回の戦
いで喪っている為、精神的な負担も大きい。

「そう警戒しないでください。私は祝勝会のご案内をしにきただけです。準備
はできています──────紳士淑女の方々は是非ご参加ください。これ
までの功を労うとのことです」

 ディスクリートの口元に歪んだ笑みが浮かんだ。

「我が主、トリスタン三世がお待ちです─────────────」

 [続]


〜あとがき〜
「ユミルの十字架」編もついにクライマックスへと突入します。
全ての謎が氷解し、全ての決着が付きます。
次回予告、トリスタン三世の宴の席についたレイ達。
全ての疑問に答えるというトリスタン三世にレイ達は──────!


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