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Ocean's Blue

101:王国の記憶

 手を取り合ったフィリ=グロリアス、トリスタン三世の両名がプロンテラ城の
テラスから国民へと手を振る。この国の象徴たる2人が戦いの勝利を皆に伝
え、皆がこの戦いが終わったことを感じ取った。
 アルナベルツ教皇ヴァナディース率いるアルナベルツ教皇軍もまた戦闘を
停止し、傷ついた者達への治療へと移り始めた。ただ一人、アルナベルツ教
皇ヴァナディースのみがトリスタン三世を見据えていた。テラスからその視
線を悠々と受け流し、トリスタン三世が振り返る。
「さて────祝勝会といこうか、レイ」
「わかった」
 レイ、フィリ、イアル、ティアの4人はディスクリートの案内の元、玉座の間
へと案内された。そこには煌びやかな料理が並んだテーブルが用意され、
この戦いの労と功を労うとの言葉をトリスタン三世が口にしたのだ。たしかに
戦いは終わった、フェイトとウェルガは間違いなく死に、この国を闇に落とし
込んだ悪は費えた。
「全てを話そう────この国の真実、そして王国の記憶、この私の事も」
 レイ達はテーブルにつき、トリスタン三世と向き合う。同じ席にディスクリー
トがついている。聞きたいことは山程ある、だがまず確認しなければならない
ことが2点ある。
「トリスタン三世、アンタは「何」だ?目的は「何」だ?」
 ディスクリートがワイングラスを片手に口を開く。
「この方は究極の魔たる存在、魔王モロクです」

 沈黙────────────

「魔王モロクと言えば、『神々の黄昏』〜神々の最終戦争であるラグナロクが
起こった際、世界を焼き尽くした「炎獄王」スルトのこちらの世界(ミッドガルド
大陸)での呼び名だよな?それが王様のアンタなのか」
「偽りは無い、この私トリスタン三世は魔王モロクに相違はほぼ無い。正確
にはこのルーンミッドガッツ王家に流れる「血」こそが魔王モロクと呼ぶのが
ふさわしい」
「冗談きついぜ…」
 イアルが頭を抱えるのを横目に、ディスクリートが補足する。
「故にその真実を知るアルナベルツはフィリ王女、フェイト王子より後に生誕
した第一王子から第三王子を殺害するなどの事件を起こし、王家の血を根
絶やしにしようとしているのです」
 聞いたことがある。数年前、歴史学者ロダプリオンという女性によって明ら
かにされたプロンテラ王家の王子暗殺事件のことであろう。(第一王子と呼
ばれてはいたが、正確にはフィリやフェイトの方が出生は先である)
「じゃあ…私も魔王モロクってことになるのかな?」
 フィリが冷静な言葉で質問にディスクリートが答える。
「フィリ=グロリアスの身体は既に第二のユミル、「ユミルの聖杯」として変化
しています。故に貴女が魔王モロクとなることはありません。魔王モロクより
も遥かに絶対上位たる存在ですので、ユミルという存在は」

 トリスタン三世が厳かに口を開く───────

「我が目的はユミル、ユミルの力を手中とし、この世界を創り変えることだ」
「フェイトの抱いていた目的と同じで、それを横からかっさらった形か」
「そう取ってもらっても構わぬ。フェイトに駒を与え、フェイトが私の狙い通り
にその目的に向かっていたのだからな」
「話を整理させてもらう。一連の流れ、これは神々の世界から、建国の時
代、そして親父達の時代、そして現在、これら全てに通じているという理解
でいいか」
「それでいい、さすがはラクールの息子だな。理解が早くていい」
 レイとトリスタン三世は一歩も引かず、トリスタン三世は話の核心に踏み
入る。トリスタン三世はフィリ=グロリアス、ティア=グロリアスの両名に視
線を這わせた後、レイに宣言する。
「レイ=フレジッド、これより後の戦いにて貴様が賭けるべき品はこの2人だ。
ユミルを復活させる為の生贄となる資質、「Ocean's Blue」に最も近いティア
=グロリアス。そして、ユミル復活後、新たな「世界」となり、世界の「基盤」と
なる第二のユミル、フィリ=グロリアスの2人だ」
 トリスタン三世は間違いなく自分達の敵となる、レイ達は覚悟した。
「だが賭けとは同等のモノを賭けてこそ成立する。私が賭けるモノは全ての
真実を語ることをまず無条件に提供することとし、そしてさらに賭け品の対
価として賭ける者…それは貴様の母だ」
「──────────────っ!」
「この世界にただ一人残りし神、ヴィーダル。この世界での呼び名はマリア
=ハロウド。彼女は私が預かっている」
 レイの旅の終着点、最初の大目的である母の救出。それが眼前へと突如
現れたのだ。トリスタン三世はこの賭けの盤上にレイ達が乗ったことを確認
した後、静かに口を開いた。
「全てを話そう、全てをな──────────────」

 ◆

 〜北欧神話の原初の時代〜

 昔々、遥か太古の時代、主に3つの世界がこの世には存在していた。

 神々が住まう世界──アスガルド
 巨人族、つまり魔族が住まう世界───ヨトゥンヘイム
 そして、人間が住まう世界──ミッドガルド

 主神オーディン(現在のルーンミッドガッツ王国が信奉しているとされてい
る)や戦乙女フレイヤ(現在のアルナベルツ教国が信奉している)などの神々
が治めるアスガルドとその他の世界を中心に物語は形成される。

 アース神族には敵がいた。それすなわち現在の魔族──当時は巨人族と

呼ばれていた者達である。彼らは巨人族の母であるユミルの名の元に、人
間たちの世界、ミッドガルドで暴虐の限りを尽くしている時期があった。
 アース神族の王であるオーディンはこれを止めるため、ユミルの討伐を決
定、全アース神族におけるユミル討伐戦が始まった。巨人族の不意をつき、
主要なる巨人族の幹部を「雷神」トールのミョルニールで抹殺、ユミルが無
防備になった瞬間、神馬スレイプニルにまたがったオーディンが天槍グング
ニールにてユミルの心臓を貫き殺害。ユミルの肉体をミッドガルド大陸全域
に封印、その精神──「美徳」と「大罪」をそれぞれ7つに分割、これもまた
別の封印を施した。
 ユミルを失い統率をなくした巨人族を各個撃破したオーディン達は巨人族
を「不毛の大地」と呼ばれるヨトゥンヘイムへと追放した。

 故に巨人族はアース神族に激しい憎悪を抱いていた。炎獄王スルト(魔王
モロク)もまたその一人であり、神々の最終決戦を引き起こした巨人王ロキ
(フェイト)もまたその一人である。

 『神々の黄昏』〜神々の最終戦争であるラグナロクを収束させたレイの母
であるマリア=ハロウド(当時はヴィーダルと呼ばれていた)は力を失った。
マリアに倒された魔王モロク、マリアの兄である勇者ヘイムダルに倒された
フェイト(巨人王ロキ)、どちらも完全な死を遂げてはいなかったのだ。

 フェイトはニブルヘイムやミッドガルドの狭間の世界、大いなる奈落、ただ
闇が広がる世界である「ギンヌンガカップ」へと己が肉体を残し、精神を切り
離して、ミッドガルドへと舞い戻った。当時ルーンミッドガッツ王国王家に誕生
した双子(フィリとフェイト)の片割れである王子(フェイト)に憑依し、この世
界への復活を遂げた。

 逆にモロクは残滓にも等しかった。自ら復活することも出来ず、精神のカ
ケラが彷徨うだけであった。だが、魔を呼び覚ます狂信者の集団によってカ
ケラであった彼の魂は固定の力を持ち、徐々に力を取り戻していったのだ。
その狂信者の長の名はアウレリアス。

 アウレリアス=サタニック=ダークロード

 ルーンミッドガッツ王国の建国に関わる王国の記憶、それこそが魔王モロ
ク復活の引き金となったのだ。

 ◆

 〜ルーンミッドガッツ王国建国の時代〜

 ルーンミッドガッツ王国が国家として形成するよりも前の話。

 ルーンミッドガッツというコミニュティを作り上げていた七つの家門があっ
た。強烈なカリスマ性と実力を兼ね備えた家門が覇権を争い、統一国家建
国へと尽力していた。

 自由奔放に生き、世界各地で人々を救ったフィリア=フェリカを擁する
「フェリカ家」(ルーンミッドガッツの建国王となった人物)

 「嘆きの王」ゲフェニアの異名を持ち、畏れ敬われた武の探求者、ゲオル
グ=トリスタンを擁する「トリスタン家」(ルーンミッドガッツの建国王となった
もう一人の人物)

 1000年に一度の天才と謳われた魔剣士タナトス=シュケーテル(無限王シ
リウスとしてトレント達の前に立ち塞がった男)を擁する「シュケーテル家」

 この世に魔術を生み出したと言われるほどの魔術師にして、数々の功績
を残した大賢者バルムント=フロームヘル(「皇帝」アイフリード=フローム
ヘルの先祖に当たる)を擁する「フロームヘル家」

 ソウリンカーの始祖となった「真紅都市の姫巫女」ルアーナ=クレイドルを
擁する「クレイドル家」(現在のトレント達の元にいる人物)

 魔王の魂を宿し、この世界を闇へと誘ったアウレリアス=サタニック=ダー
クロードを擁した「サタニック家」

 「フレイヤ家」として世界最高峰たる聖女の格を見せ付けたヴァナディース
=フレイヤ(現在のアルナベルツ教皇の始祖)

 物語はここに名前が挙がった7人の人物を中心に展開される。この中でも
最も有名な人物、それがフィリア=フェリカ=ルーンミッドガッツ一世、この
国の建国王となった少女である。



 フィリアは仲間たちとこの世界を旅し、大別して5つの偉業を成し遂げ、世
から認められ、王となった。その5つの偉業とは、

 1つ、港町アルベルタで起こりし動乱の制圧、かのグロリアス商会(ミリア=
グロリアスやティア=グロリアスの先祖)との力を借りたものの、たった一人、
1週間もの間戦い続けたという。

 2つ、ミョルニール山脈へと陣を張った魔軍七大勢力が七魔王が一人、「亀
族の大将軍」タートルジェネラルとの激突、そして撃退。

 3つ、古代王国ゲフェニアのゲート解放、「嘆きの王」ゲフェニアとの激しい
戦い、そしてゲートの封印。

 4つ、企業都市リヒタルゼンの一組織「レゲンシュルム」が造り出せし生体
生命研究所の6体の魔人との戦い、組織の壊滅。

 5つ、施術者セリンによるアウレリアス=サタニック=ダークロード召喚の
儀。ダークロードのミッドガルド侵攻を食い止め、セリンを止める。


 アルベルタの動乱を押さえ込んだ所やタートルジェネラルとの戦いを経て
フィリアの名は知れ渡ることとなる。

 その2つの事件の後、フィリアは「嘆きの王」ゲフェニアの異名を持つ武の
探求者であるゲオルグ=トリスタンの挑戦を受けることとなる。ゲオルグはこ
の世界の覇権を争うべき存在としてフィリアを最も好敵手として見たのだ。
フィリアもそれを受け、古代王国ゲフェニアの封印解除、ゲフェニアでの決
戦。ゲオルグの力の象徴であるゲート封印を経て、ゲオルグは敗北を悟ると
ともに彼女へ永遠の愛を誓った。ゲオルグは後のフィリアの伴侶となる人
物、己を武で上回った女性に心底惚れ込んだのだ。(フィリアはこの当時、
ゲオルグの事を暑苦しい熱血馬鹿としか思ってなかった)

 フィリアとゲオルグが次に遭遇した大きな事件は企業都市リヒタルゼンや
田園都市フィゲルで巻き込まれた傭兵の反乱であった。傭兵として生計を
立てていた者達が、リヒタルゼンの企業レッケンベルが造り出したガーディ
アンに職を奪われ、さらにはガーディアンの不具合によって傭兵が殺害され
るといった事件が続き、傭兵達の不満が爆発したのだ。リヒタルゼンの記者
エンキュロ=カスンはこの当時の様子を残した記事をまとめて世間に発表し
ている。

 レッケンベルに悪意を持った中心人物がいた────────と。

 その中心人物であり、リヒタルゼンを支配しようとしていた組織レッケンベル
の中枢「レゲンシュルム」を主導していたマッドサイエンティスト、ボルセブ。
この男が用いていた「生体錬金術」という技術によって、生み出されしセイレ
ン=ウィンザーを始めとする六魔人と戦うハメになったのだ。
 事の発端はフィゲルで出会った老人ヘリコから「レッケンベル」を起業し、
闇の暴走を止められなかった過去を清算したいという願いを聞いた所から
始まった。(フィリアは持ち前の気楽さで、ゲオルグはいつもの熱血正義で、
それを引き受けた) フィリアとゲオルグはその道中である人物と出会う。

 「大賢者」 バルムント=フロームヘル

 バルムントは「レッケンベル」の起業に携わっていた人物だが、「レッケンベ
ル」の闇を憂い、姿を消していたのだ。だが闇は広がるのみ、フィリアとゲオ
ルグ、そしてヘリコの願いを知ったバルムントは決意し、フィリア達とともにリ
ヒタルゼンの六魔人を撃破、ボルセブの元へと向かった。

 そして彼女らは無惨に殺害されているボルセブの死体と対面する。

 全ては終わったかのように思われた。だがその技術を全てトレースし、持
ち出した人物がいた。彼はその技術の一端をある2人の人物へと委託し、研
究を進めたのだ。持ち出した人物の名はタナトス。

 「魔剣士」 タナトス=シュケーテル

 そしてその技術をリヒタルゼンを闇に染めた技術と知らずに受け取った
人物こそ、「真紅都市の姫巫女」ルアーナ=クレイドル。
 リヒタルゼンを闇に染めた技術と知って受け取った人物、それが原初の
「闇を統べる者」となったアウレリアス=サタニック=ダークロードである。

 これがルーンミッドガッツ王国建国に関わる最後の事件の始まりである。

 ◆

 トリスタン三世はコーヒーを片手に呟いた。
「続く」
「うおい!」
 話に聞き入っていたレイは思わずツッコミを入れた。

 [続]


〜あとがき〜
全ての謎を紐解く過去編です。
今週より3週間連続でうp予定です(=゚ω゚)ノ
ちなみに七王家の設定は原作より改変しています。
次回予告!過去編の続きです。


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