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Ocean's Blue

102:究極の魔

 ルーンミッドガッツ王国を支配し、蹂躙したフェイトは倒れた。そして玉座で
レイ達を待ち受けていたのはトリスタン三世。自らの正体を魔王モロクと明
かし、全ての真実を語るという。

 全ての真実が──────王国の記憶が紐解かれる────────

 ◆

 タナトス=シュケーテル(現在の無限王シリウス)によってもたらされた「生
体生命研究所」の技術を共に研磨し、そして己が理想に反した「真紅都市の
姫巫女」ルアーナ=クレイドルを消す為、アウレリアスは「銀狼」と呼ばれた
暗殺者を雇い入れた。その暗殺者の名をトレント(前世のトレント)という。
 トレントはルアーナの首を狙い、執拗にルアーナを追い詰めていった。そ
のトレントを止めたのが「真紅の旅人達」と呼ばれる集団だった。現在の「ト
レント★樹海団」の構成メンバーの前世に当たる彼ら彼女らは真紅都市の
ソウルリンクの技術を完成させる為のモルモットでもあり、仲間でもあった。
その「真紅の旅人達」の中心にいたのがロエン(現在のライジング=ボーン
ド)である。
 トレントは「真紅の旅人達」を手練手管で排除し、ロエンをペテンにかけ、つ
いにルアーナへと肉薄した。そこでトレントを待っていたのは、己の命を削り
ながら小さな一つの願いを少女の姿だった。

 「死んだ人達にはもう会えないけれど…それでも、30秒でもいい、5秒でも
いい。言えなかった気持ちを伝えられたら…嬉しいですよね」

 それは自然の摂理に反する行為だった。だがそれを知り、トレントはル
アーナを殺せなかった。皆が願い、でも叶えてはならぬ願い。命を削りなが
ら、一つの目的に向けて命を削る少女。トレントは心動かされ、暗殺任務の
失敗をアウレリアスの元へと戻っていった。任務失敗は死をもって償わせる
だろう、だがそれでもトレントにはルアーナを殺せず、彼女には生きていて欲
しい。だからこそアウレリアスを止める存在は自分であると決意したのだ。


 だが──────────────


 アウレリアスの元に戻ったトレントは、願い空しく凶刃に倒れる。トレントを
殺害した男の名はタナトス、タナトス=シュケーテルである。タナトスは生ま
れながらに病魔に身体を蝕まれていた。故に「代わりの身体」を欲しており、
されにはそれを達成する技術として、「生体生命研究所」に目を付けたのだ。
 タナトスはアウレリアスの元で技術を完成させ、「トレントの身体」を乗っ
取った。彼はそれより「無限王」シリウスと名乗る。「光り輝くオオイヌ」と皮
肉ったシリウスという名は、「銀狼」と呼ばれたトレントに対する悪辣な皮肉
でもあった。

 ソウルリンクの技術の完成形「過去最強の魔王の魂を付与」を目指すアウ
レリアスとシリウス(タナトス)が目を付けたのは「塔」と呼ばれる技術である。
「塔」とは主神オーディンがユミルを殺害した際に用いた、肉体と精神(七つ
の美徳と七つの大罪の感情)を分離した技術が遺された遺跡である。
 彼らはその技術を解析し、「肉体」と「精神」を分離する術を得た。アウレリ
アスが「塔」に興味を失った後も、シリウスは研究を続け、「タナトスの憎悪」
や「タナトスの苦悩」を始めとする己の感情を魔物として生み出す術を得た。
「無限王」シリウスはアウレリアスを含む七つの家門を排斥し、この国を手中
にするという目的を「塔」…タナトスタワーの力で実現しようとしていた。

 ◆

 無念の死を遂げたトレントの魂を救い上げたのは意外な人物であった。

 ルーンミッドガッツ王国、七つの家門であり、後のアルナベルツ教皇となる
女性ヴァナディースである。現在の教皇ヴァナディースは彼女の記憶をユミ
ルの心臓を通して引き継いだ存在であり、彼女の記憶を引き継ぐ証拠として
オッドアイ、白い肌と髪を有している者こそが次代のアルナベルツ教皇とな
る。当時はルーンミッドガッツ王国、七つの家門の一つに数えられていた彼
女だが、魂の流れを視ることができた。

 無念で散ったトレントの魂を拾い上げ─────────

 フィリアやゲオルグ、そしてルアーナと邂逅を遂げ─────────

 バルムントが用意した生体生命研究所の魔人の肉体と、ルアーナのソウ
ルリンクの技術を用いて、トレントは再生を果たし、ルアーナの守護者となっ
たのだ。

 アウレリアスとシリウスの野望を知ったフィリア達はアウレリアスを追って
旅をすることとなる─────────

 そして運命の時は訪れる。

 アウレリアスは「砂漠の都市」モロクで極大の召喚魔法を行使した。

 「死者の都」ニブルヘイムが「砂漠の都市」モロクの頭上へと─────

 ミッドガルド大陸へと召喚されたのだ───────────────

 ◆

 散りばめられた魔王の力が収束していく。

 神々の時代に滅ぼされた「究極の魔」の魂が形を成していく。

 「炎獄王」スルト─────────魔王モロクである。

 魔王モロクは施術者であるセリンと呼ばれた少女の魂と肉体を喰らいつく
し、<闇>をアウレリアスとその眷属に与えた。アウレリアスについていた人
間は須らく「闇の眷属」として魔物へと成り果てた。己の自我を保てず、殺戮
に走るもの、さらなる忠誠をアウレリアスへ誓う者、姉であるセリンを殺され
復讐を誓うディスクリート、恋人を失い全てに絶望し全てを消し去ることを
誓ったウェルガのように、<闇>がもたらした影響は大きかった。

 そして<闇>を最も浴びたアウレリアスはダークロードとなる。

 人為的に生み出された魔王ダークロードは魔軍七大勢力の空位に埋ま
り、「闇を統べる者」としてミッドガルド大陸侵攻を開始した。そしてそれを食
い止めるべく、全てを終わらせる為に、フィリア達はモロクへと足を踏み入れ
たのだ。さらには「無限王」シリウスの介入により戦いはさらに混迷を増す。

 ルアーナ=クレイドルの眷属は、タナトスタワーのシステムを完成させた
「無限王」シリウスとの戦いに敗北、トレントも無念のうちに命を落とし、そし
てロエン(ライジング=ボーンド)とルアーナは現世へと時空移動することと
なる。その反動でルアーナは記憶を失うが、現世でトレントやフィン達、「真
紅の旅人達」の来世、転生した者達と巡りあい、そして記憶の片隅に残る
「真紅都市」を追い求めて旅をすることになる。
 タナトスタワーのシステムとは過去と未来を繋ぎ強制干渉することで、未
来の肉体に傷をつけ、実質の傷は過去の存在しない肉体に現れる。未来で
は癒えぬ傷をつけることでこちらの絶対優位を保つ。精神と肉体を分離する
ことで可能になる恐るべきシステムである。「無限王」シリウスは自分の最終
的な勝利を確信していた。

 大賢者バルムント=フロームヘルの相手は「幻蔭」エイセル=サタニック、
「幻影」ウェルガ=サタニック、「幻陰」イルクライム=サタニックの魔族と
なったアウレリアスの3人の弟達であった。1対3という悪条件下でバルムント
は善戦したが、強大な魔の力には抗えず、非業の死を遂げる。だがバルム
ントの平和を愛する想いを知った「幻蔭」エイセル=サタニックは自問自答を
永き時に渡って繰り返し、「トリスタンの悪夢」で魔軍敗退後、杖を捨てアマ
ツへと渡る。現在、エイセルは戦いとは無縁の世界で、狐の仮面をかぶり冒
険者達を気ままに導いている。

 フィリア、ゲオルグ、ヴァナディースの3名はアウレリアス=サタニック=
ダークロードとの直接対決に突入し、そしてニブルヘイムの魔女キルケラの
導きの元にダークロードを滅ぼすことに成功する。<魔王モロクの魂>を
ヴァナディースが砂漠の都市モロクの地下へと封印し、魔女キルケラがそ
の命と引き換えに「死者の都」ニブルヘイムとミッドガルド大陸の接点を断ち
切った。バルムントを倒したウェルガやイルクライムもまた決戦に望んだが、
フィリアとゲオルグの前に敗退し、どこかに姿を消していった。「無限王」シリ
ウスはルアーナを追い求め姿を消した。

 一方、ディスクリート=イノックシャースは姉であるセリンの残滓を追い求
めて、「死者の都」ニブルヘイムへと残ることとなる。

 こうしてミッドガルド大陸を揺るがした大事件は幕を降ろした──────

 ◆

 人々に異論はなかった。

 世界を救った英雄である2人、フィリアとゲオルグが結婚し、この国、ルーン
ミッドガッツ王国の王にフィリアが即位することになったのだ。

 王国の記憶が「これより始まるのだ」───────────────

 ◆

 ゲオルグはフィリアと肌を重ねるたびに悪夢を視るようになった。

 フィリアが最初の子供を妊娠した頃、フィリアは病気を患う。

 アルナベルツ教国の長たるアルナベルツ教皇ヴァナディースは知る。

 フィリアは既に魔王モロクによって楔を打ち込まれていたのだ。

 楔とは魂の一部、魔王モロクの魂の一部を、血脈に打ち込まれたのだ。

 フィリアの血脈によって形成された子は全て魔王モロクとなる。

 時既に遅く、第一子が誕生する。

 ヴァナディースによりそれを知らされたゲオルグは絶望を覚えた。

 絶望を覚え、震えながら我が子を殺すことをヴァナディースに託す。

 ヴァナディースは極大の呪いを第一子の血脈に打ち込む。

 友の為、国の為、世界の為、涙を流しながら呪いを打ち込んだ。

 第一子である魔王モロクは呪いを弾き返し、ゲオルグ達へと打ち込んだ。

 生まれ来る第一子は死する運命「ゲオルグの呪い」の始まりである。

 魔王モロクの母体となった反動で、フィリアは若い生涯を終える。

 ゲオルグは「ゲオルグの呪い」をその身に受けながらも身を隠した。

 ゲオルグはアサシンギルドを設立、その創始者となった。

 闇としてこの国を影ながら護る為、魔王モロクから護る為に生きる。

 この国の本当の真実を知るモノの努め─────────

 アサシンギルドの長兄として生まれた子らは全員呪いで死した。

 それでもこの国を護る為、アサシンギルドは存続されていく──────

 アルナベルツ教皇ヴァナディースもまた魔王モロクの「呪い返し」で死亡。

 彼女の記憶のみが、オッドアイによって受け継がれ、教皇の証となる。

 真実を知るアルナベルツ教国はルーンミッドガッツ王国に敵対した。

 魔王モロクに支配されたルーンミッドガッツ王国を滅ぼす───────

 「無限王」シリウスは己の敗北を悟った。

 魔王モロク、「本体」が魂のみではあるが現れたのだ。

 アウレリアスが魔王の力を行使しているなどとは比較できない。

 故に「無限王」シリウスは未来へと逃げ出した─────────

 ルアーナを追って、未来へと逃げ出したのだ─────────

 ◆

「その時点でようやく肉体を得ることに成功し、そして私はこのルーンミッド
ガッツ王国を歴代に渡り、例え何があろうと魔王モロクの素性は表に出さ
ず、人として、良き王として、この国を治めていった」
 トリスタン三世の言葉が波紋のように響き渡る。
「そのまま世界を平和に治めていてくれれば文句はないんだけどな」
 レイの言葉にトリスタン三世が苦笑する。
「確かにそうだな、お前達人間にはわからないかもしれぬが…私の望みは
ユミルそのものだ。これは全ての巨人族の望みであるといえよう。ユミルに
近付き、ユミルに成る、ユミルが存在する世界を創る。それが我ら巨人族の
真の願い。故にこれまでの治世もそれに?がる礎である」
「必要なものは「ユミルの聖杯」か─────────」
 トリスタン三世が頷いた、現実を受け止めきるだけの器量がレイにはある。
「ユミルは現在、世界という水を飲み干している、飲み干している間はユミル
が世界となると考えればいい。世界を「ユミルの聖杯」に注ぎ、ユミルを解き
放つ。そして世界という水を注がれた「ユミルの聖杯」がこの世界となる」

 それが「ユミルの聖杯」フィリ=グロリアス─────────

「「トリスタンの悪夢」を引き起こしたのは私だ」

 魔族の大襲来はトリスタン三世自身が引き起こした─────────

「全ては布石を打つためだ。あの戦いの最中、私はウェルガや、その時代の
ダークロードとなったイルクライムを操り、さらにはディスクリートと接触をと
り、「ユミルの聖杯」となる者を「産む」母体を手に入れた。誰もあの戦いが、
人一人を選び出す為に起きた戦いとは思わなかっただろう?ルーンミッド
ガッツ王国で戦いを引き起こし、ルーンミッドガッツ王国とシュバルツバルト
共和国の目はそちらに集中する。そして敵対国家たるアルナベルツ教国に
は目は行き届かない。そして選ばれ拉致されたのはお前の本当の母親だ、
フィリ=グロリアス。誰と思う?」
 フィリの顔が険しくなり、口元が引き締まる。
「先代アルナベルツ教皇ヴァナディース、それが貴様の母親だ」
「…っ!」
「私はあの女を犯し、双子の子供を産ませた。あの女については公式にはあ
の戦いの最中病死したと記録されているようだがな。そして双子の子供のう
ち、片方は「ユミルの聖杯」になる者として、そしてもう片方は「魔王の受け
皿」となり、我が目的の成就遂行を達する為の存在としてな。聖女と魔王の
血を受け継いだ存在だ、「聖杯」そして「魔王」になる者としては十分過ぎる
程の器だろう?」
 フィリもフェイトもこの為に生み出された存在、フィリの足元が口元が震え
だす。そんなことの為に自分はこの世に生まれたのか。レイはフィリの手を
握りしめ、フィリはレイの胸元に頭をうずめる。
「レイ=フレジッド、そしてお前の物語が始まるのだよ─────────」

 [続]


〜あとがき〜
物語は佳境へ─────────


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