前へ  小説目次へ  次へ

Ocean's Blue

103:ユミルの十字架

 イルクライム=サタニック=ダークロードが滅び、20年前の大戦である「ト
リスタンの悪夢」は終結を迎えた。大戦を勝利に導いた7人の英雄のうち、生
き残り、生存が確認されたのはたったの3人。

 ラクール=フレジッド
 マリア=ハロウド
 ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツ三世

 大戦を裏で引き起こしたトリスタン三世の心には気付かなかったが、ただ
この世界に唯一残った神であるマリア(ヴィーダル、後のレイの母)はトリス
タン三世へと告げた。

 双子の子供のうち、どちらかに強大な魔族が憑くと───────

 もう一人の双子には過酷な運命が待っているだろうと───────

 トリスタン三世は殺せぬと親の情を装い、息子であるフェイトに巨人王ロキ
が降り立つ準備を着々と進めていった。

 フェイトはニブルヘイムやミッドガルドの狭間の世界、大いなる奈落、ただ
闇が広がる世界である「ギンヌンガカップ」へと己が肉体を残し、精神を切り
離して、ミッドガルドへと舞い戻った。当時ルーンミッドガッツ王国王家に誕生
した双子(フィリとフェイト)の片割れである王子(フェイト)に憑依し、この世
界への復活を遂げた。

 ユミルを求めるフェイトは「ユミル」を「世界」から解放する手順を構築。

 以下に手順を記す。


●ユミルを「世界」として封印したアース神族の力を弱める。
 この世界にただ一人残ったアース神族であるマリア=ハロウド(ヴィーダ
ル、レイの母)をミッドガルド大陸から別の世界へ隔離する。ディスクリート=
イノックシャースの力を用いてニブルヘイムとのゲートを開門。マリアを拉致
した後、厳重な封印を施す。
 マリアを殺害しなかった理由として、その時点で「ユミルの十字架」を背
負っていることが判明したラクール=フレジッドの旅の目的とする。


●第二のユミル(器たる「ユミルの聖杯」)を生み出し、「世界」を移し変える。
 現在のユミルは大きな器のようなものである。そして満たされている水が
「現在の世界」。故にもう一つユミルを作り出すことで世界を移し変える。器
から解放されれば、ユミルを現世に召喚し復活させることが可能となる。
 「ユミルの聖杯」については別途記載する。


●「ユミルの聖杯」について
 現在ユミルが世界の器となっているのは、ユミルの「肉体」である。ユミル
の「精神」は、ユミルが世界として封印された際に7つの美徳と7つの大罪に
切り裂かれ、世界の各地に封印された。世界各地に出現する「蜃気楼の塔」
には「ユミルの貪欲」、「Ocean's Blue」には「ユミルの純潔」、竜の棲む湖「ア
ビスレイク」には「ユミルの思慮」というように、紐付くモノにユミルの精神の分
裂体である「ユミルの十字架」は宿っていた。
 前述のマリアをニブルヘイムへと封印した行為によって、アース神族の封
印が弱まり、それらの封印が薄く解除されることとなる。マリアが封印された
当時、14人(ラクールを含む)の才ある者達に「ユミルの十字架」が宿る。

「希望」の十字架(美徳)を持つ、「螺旋の王」ラクール=フレジッド
「無為」の十字架(大罪)を持つ、「神雷」レイ=フレジッド

「英知」の十字架(美徳)を持つ、「皇帝」アイフリード=フロームヘル
「貪欲」の十字架(大罪)を持つ、「堕ちたる七英雄」ハウゼン=フロームヘル

「思慮」の十字架(美徳)を持つ、「聖剣を持ちし者」エリカ=フレームガード
「情欲」の十字架(大罪)を持つ、「聖騎士団副長補佐」セレス=ドラウジー

「勇気」の十字架(美徳)を持つ、「誇りを継ぐ者」イアル=ブラスト
「傲慢」の十字架(大罪)を持つ、「暗殺王」ロウガ=ブラスト

「誠実」の十字架(美徳)を持つ、「魔人拳」キスク=リベレーション
「純潔」の十字架(大罪)を持つ、「閃光剣」リシア=キングバード

「純潔」の十字架(美徳)を持つ、「ユミルに最も近き者」ティア=グロリアス
「暴喰」の十字架(大罪)を持つ、「ゲフェンの殺人鬼」ミリア=グロリアス

「愛情」の十字架(美徳)を持つ、「存在しない王女」フィリ=グロリアス
「憤怒」の十字架(大罪)を持つ、「奈落の王」フェイト=トリスタン=ルーン
ミッドガッツ四世

 血縁ある者に「対」として宿ったのは均衡をとるためと考えられる。曲がりな
りにも「世界」そのものを成している精神である。同種同属近き者に相反する
者を宿さなければ世界のバランスは崩れていただろう。
 これらの14人に宿った精神は元々ユミルの精神として一つであった。故に
これらの「ユミルの十字架」は互いに呼び合い、一つに戻ろうとする。だから
こそ、「ユミルの十字架」は統合を繰り返し、一つとなり、「ユミルの聖杯」(ユ
ミルの精神そのものを宿した一人の人間)を生み出すこととなる。「ユミルの
肉体」が第一のユミルにして現在の世界。「ユミルの精神」が第二のユミル
にして次なる世界となる。双翼のユミルをすり替え、ユミルの復活を図る。
 そしてそのきっかけとなる舞台、「ユミルの十字架」同士の互いの認識補
助、そして計画の推進の為、この14人を一箇所に集結させる舞台が必要で
あった。それが「ギルド攻城戦」であった。


●巨人族の目的と「神々を穿つ一条の閃光」について
 魔王モロク(炎獄王スルト)やフェイト(巨人王ロキ)の目的は「ユミルに成
ること」。ユミルに近付き、最期はユミルと同じ存在となることを望みとする。
それが全ての巨人族や魔族の目的であり、人には決して理解できない感情
でもある。故に魔王モロクもフェイトもユミルを追い求める。同じ存在となり同
化するにはその存在が現世にいなければ話にならないからだ。
 だが、その同化は永遠のモノでなければならない。だからこそ敵となる者
は排除しなければならない。ユミルを倒せる者を生かしてはおけない。

 ラグナロク … 「神々を穿つ一条の閃光」

 「ラグナロク」とは神を殺すための力。

 それは神と神に「近づいた」者を滅ぼす運命の力。

 ユミルにとってこれ程脅威となる存在は他に存在しない。さらには神々と巨
人族の全てを含めても敵無しである魔王モロクですら、これには滅ぼされる
可能性が有る。だからこそこれの使い手は封じ込めなければならない。フェ
イトは計画の詰めの一つとして、レイの命を狙った。

 ドレイク襲撃でレイは「ラグナロク」の力を失った。

 だが確実な「殺害」という手段が使えなかったのは十字架があった為。

 グラストヘイム古城では既にレイは不要であった為、殺害に及ぼうとした。

 当初の予定ではロウガがもう一人の「ユミルの聖杯」となる存在だったが、
記憶を喪い、「ユミルの十字架」に操られる存在であったレイは再び表舞台
に上げられたのだ。

 と、そこまでがフェイトの考えであった。

 魔王モロクは違う、レイを覚醒させ、アース神族の部分を引き出す。

 憎いのだ、アース神族が。

 消し去りたいのだ、アース神族を。

 己が手で完全決着をつける為、最期の舞台を整える為、レイを蘇らせた。


●ダークロード
 アウレリアスからイルクライム、そしてウェルガ=サタニックへと受け継が
れた<魔王の魂>は魔王モロクの一部である。彼らが死に絶えれば、魔王
モロクはより完全な力を取り戻せる。
 

●フェイトの部下と他の者達の動き

 「幻影」 ウェルガ=サタニック=ダークイリュージョン(ダークロード)
   … 魔王モロクの命により当初よりフェイトの計画を手助けしてきた。

 「暗殺王」 ロウガ=ブラスト
 「闇騎士」 セレス=ドラウジー
   … この国の真実を知ったが、己の力では魔王モロクには抗えず、
      レイやフィリのような存在が成長するのを待っていた。

 「古の黄金王」 オシリス
 「世紀末覇王」 オークロード
 「幽鬼なる海魔」 ドレイク
 「亀族の大将軍」 タートルジェネラル
   … いずれも魔軍の王達であるが、魔王モロクには敵わず、
      事態を静観する「魔族の帝王」から離反し、フェイトの手駒となる。

 「無限王」 シリウス
   … この時代に「真紅都市の姫巫女」ルアーナを追ってきたものの、
      魔王モロクの存在を察知、フェイトの手駒となることで保身を図る。

 「堕ちたる七英雄」 ハウゼン=フロームヘル=ヴェスパーコア
 「殺戮王」 セイレン=ウィンザー
 「死者の巫女」 ミサキ=リフレクト
   … 魔王モロクの存在には気付かず。フェイトと純粋に手を結んだ。

 「死を体現する者」ディスクリート=イノックシャース
   … フェイトの計画の進行を裏で、補正、手助けしてきた。
      フェイトの手駒とはならず、純粋に魔王モロクの命で動いていた。

 ◆

 〜数刻前〜

 プロンテラ城、玉座の間───────

 トリスタン三世が一振りの剣を手にフェイトに対峙する。
「…義……怒り……」
 ブツブツとうわ言のように呟きながら、ゆっくりと歩を進める。

「この国を護る王としての意地というわけか」
 フェイトがディスクリートに視線を向けると、ディスクリートはひょいと首を
すくめるのみ。まるで自分はここに連れてきただけで成り行きで事が済む。
ディスクリートはおそらくそう考えていたのだろう。

 フェイトの手に魔剣ミスティルティンが出現した───────

「死者の王の意に沿おうではないか」
 フェイト(巨人王ロキ)がかつて光の神を殺害したとされる魔剣ミスティル
ティンを投擲し、魔剣はトリスタン三世の腹部に突き刺さる。血が流れ出、ト
リスタン三世の眼から生気が消失する。あっさりすぎる決着、フェイト=トリ
スタン=ルーンミッドガッツ四世はディスクリートに視線を向けた。
「──────満足か?」
 ディスクリートが嘲笑を浮かべる。
「ええ、貴方は十分すぎる程に「噛ませ犬」でした」
「──────何───」

 ドン

 フェイトは己の胸板に生えている手を凝視した。違う、これは、背中から、
貫かれている。ここには3人しかいない。フェイト、ディスクリート、そしてトリ
スタン三世。ディスクリートは視界内にいる。ならば、まさか。
「そろそろ「世界」を返してもらう」
「く…」
 身を焦がすほどの熱エネルギーがフェイトの肉体を走りぬけ、肉体が爆
散しないよう制御するのが精一杯。──────精一杯だと。

 これ程の力────────────

 これ程の魔────────────

 ────────────────究極の魔

「何故、お前が「そこ」にいる…!いつから、いつから!」
 フェイトは目の前にいるモノが何かに気が付き絶叫した。
「貴様は「ラグナロク」でヴィーダルに滅ぼされたはず…だ…」
「私が炎獄王スルトと気付いて尚、その口調、無礼ではないか?」
「俺は──────貴様に踊らされていたというのかぁぁぁぁーーーッ!!」
 激情に任せた力が迸る。


  


 レイをグラストヘイム古城で撃ち滅ぼしたフェイト最強の技が暴風のように
吹き荒れる。その正体はブラックホール、超重力の天体召喚魔法である。
「残念だが─────────」

 奈落の闇が炎を喰らいきれず──────逆に炎に飲み込まれる。

 天体級の魔法を喰らいつくす程の炎。漆黒の炎剣を手に、トリスタン三世
が静かに宣告する。
「我は全ての死を受け入れる都、「ニブルヘイム」。その対たる全ての炎を受
け入れる都、「ムスペルヘイム」の王、炎獄の王。そして我はミッドガルド大
陸ではこう呼ばれている────────────魔王モロク───と」

 その「炎」はこの世に存在する「死」と同等─────────



  



 それは炎そのもの─────────

 それは魔力そのもの─────────

 かつて、世界を滅ぼした力────────

 かつて、世界を焼き尽くした力────────

「ロキよ、ひと時の夢幻を愉悦に過ごしたか───────それは全て私
が与えたものだ。このシナリオも、お前に付き従っていた部下達も全て私が
与えた」
 フェイトは足元がグラつくような感覚を覚えた。始まりも終わりも全てが決
められていた事項。この日、自分が「死」ぬことすら決まっていた。フェイトに
は自負があった。例えウェルガがダークロードとなろうとそれに劣ることなど
ない。世界の全てが、そう、あの「魔族の帝王」が敵対したとしても、勝利す
ることができただろう。だが────────────

 この目の前にいる存在だけには及ばない─────────

 この世界に存在した「イキモノ」で、これに勝るのはユミルのみ─────

 ユミルを除けばこの「イキモノ」に届くモノなど存在しないからだ。

 全ての神々ですら、全ての魔王ですら、これには届かない。

「よく、ここまで働いてくれた。礼を言おう」
 ディスクリートが嘲笑を浮かべながら無言で手を十字に切る。
「─────────────さらばだ、お前の想いは私が引き継ごう。
理想の果てで待つがいい」
 それがフェイトの最期、魔王モロクによるフェイト処刑の顛末である。

 ◆

「レイ=フレジッド、これより後の戦いにて貴様が賭けるべき品はこの2人だ。
ユミルを復活させる為の生贄となる資質、「Ocean's Blue」に最も近いティア
=グロリアス。そして、ユミル復活後、新たな「世界」となり、世界の「基盤」と
なる第二のユミル、フィリ=グロリアスの2人だ」
 先程と同じ言葉をトリスタン三世が繰り返す。
「だが賭けとは同等のモノを賭けてこそ成立する。私が賭けるモノは全ての
真実を語ることをまず無条件に提供することとし、そしてさらに賭け品の対価
として賭ける者…それは貴様の母、この世界にただ一人残りし神、ヴィーダ
ル。この世界での呼び名はマリア=ハロウド、彼女は私が預かっている」

 トリスタン三世の話が静かに終わりを迎える────────── 

 それは最期の戦いの幕開け────────────────




 そして、




 世界は壊れた。


 [続]


〜あとがき〜
物語の謎が一気に解決する過去編も終わりです。
次回予告、世界を破壊するトリスタン三世=魔王モロク。
物語は一気にクライマックスへと突入します!


前へ  小説目次へ  次へ

トレントの樹海TOPへ

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット