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Ocean's Blue

105:開幕最終章

 世界が崩壊したという言葉はあながち間違いでは無い。

 生きる物のほぼ全てが石の彫像と化し、世界に暗雲が立ち込めている。だ
が、レイ達にとって幸いだったのは食料などがそのままの形で残されていた
ことである。これまで石化していては餓死確定だったからだ。レイ達はプロン
テラ城で最後の戦いに備え、作戦を練り、入念な準備を行っていた。

 「神雷」 レイ=フレジッド
 「ユミルの聖杯」 フィリ=グロリアス
 「誇りを継ぐ者」イアル=ブラスト
 「ユミルに最も近き者」ティア=グロリアス
 「聖剣を持ちし者」エリカ=フレームガード
 「皇帝」アイフリード=フロームヘル
 「魔人拳」キスク=リベレーション
 「閃光剣」リシア=キングバード

 たった8人で未だに力の底が見えぬ敵との戦いに備えていた。そんなレイ
達の元に、9人目の仲間が辿り着く。
「や、皆元気にしてた?」
 かつてゲフェンで大量殺戮に手を染めてしまったフィリ達の姉であるミリア
=グロリアスである。彼女もまた「ユミルの十字架」の力を持ちし者。そして
彼女はある特殊能力を保持している。

 武器を自在に創り出す力────

 武器を極限まで鍛える力────

 かつて己が手を血で染めたその力を持って、彼女は決戦のその日までに
レイ達の武器を極限まで鍛え上げることを約束する。だが一人だけ、武器を
鍛えることができない人物がいた。
「レイ君、貴方の武器は私でも鍛えられない。貴方にふさわしい武器は「神の
力を扱える者」でなければ鍛え上げれない」
「ドワーフ…か」
「この国から北方に広がるミョルニール山脈、そこに住まうスドリと名乗るド
ワーフに頼みなさい。彼ならばきっと貴方にふさわしい武器を授けてくれる」
「スドリ──────か」
「…勝てればだけど」
 ミリアが額から汗を流しながら呟いた一言には誰も気付かなかった。

 ◆

 レイは早急にスドリの元へと旅立ち、数日が過ぎた時、事件は起こる。

 ◆

 夜遅くまで書斎に篭っていたフィリの元に飲み物を手にエリカがやってく
る。フィリが何かの書物を読み込んでいるのに集中しているのか、エリカが
やってきたのに気付いていない。
「フィリさ〜ん?」
「うあっ、ってエリカ」
「根を詰めるとよくないですよ、はいホットミルク」
「うん、ありがと」
 エリカはフィリが読んでいる書物に「ユミルの心臓」の記述を発見した。
「ユミルの心臓について調べているのですか?」
「うん、いくつかわかったことがあるよ」
 世界に散らばるユミルの心臓はいわば封印である。ユミルを世界として繋
ぎとめるための封印。つまり現在のユミルの心臓はユミル自身ではなく、ユ
ミルを抑えつけるものであったのだ。おそらくウェルガが外界を回っている際
に、現ユミルの心臓の破壊も目的に含まれていたのだろう。封印が弱まれ
ば復活は楽になる。賢者の都市ジュノーを浮遊させているような破壊するの
に手間取りそうな巨大な封印は放置し、力の弱い封印を数多く破壊しユミル
を抑えつける枷を弱めてきた。
「ただ、ユミルはこの世界では復活できない。自分の身体の中に自分を生み
出すようなパラドックスが発生するから」
「では…別世界で行うと?」
「だから魔王モロクは手を結んだんだと思う。死者の王ロードオブデス…今
はディスクリート=イノックシャースね」
 死者の都ニブルヘイムの中でユミルを現界させる。魔王モロク本体として
現界させるのだ。ただそれはまだ世界の滅びではない。

 魔王モロクの本体がこちらの世界に踏み込んだ時、世界は消滅する。

 世界の全てを飲み込み、破壊し、完全なる復活を遂げる。

「逆に言えば、魔王モロクはこの世界の安定を現在不安定に変えている存
在でもあるの。だから、魔王モロクを倒せば、パラドックスの逆理が発生し
て、世界は元に戻る。石になった皆を助け出すこともできる」
「どのみち、勝利は絶対条件ということですね」
 フィリは強く頷いた────────────

 ◆

 月の光が爛々と輝く。

 プロンテラ北の橋で、イアルとティアが様々な想いを馳せていた。
「イアル、私と世界を選べと言われたら────どうする?」
 イアルはすぐに答えられなかった。そういう事態がある得るからだ。

 ティアはユミル復活の最期の鍵。

 彼女の犠牲をもってして、世界が滅び、ユミルが覚醒する。

「わからないな、本心からすればティアを選ぶだろうな」
「だめだよ」
 ティアが哀しげにその言葉を否定する。
「それは世界の終わりを意味していて、結局私も死んじゃうよね、だから」

 ティアは覚悟を決めた表情でイアルに向き合う。
「いざとなったら私を殺して、イアル」
「ッカヤロ…!」
 様々な感情に耐え切れずイアルがティアを抱きしめる。
「何があっても…俺は諦めないからな!」
「────────うん…」
 ティアがイアルの想いに涙を流した。



 突如────────────────────


 魔が顕現する────────────────



 イアルとティアが振り返る。そこに立つは英国紳士のような男。静かに英国
紳士は会釈し、挨拶する。

「初めまして、私の名はバフォメット=クラウザー=サイドライク」

 イアルとティアがその名に息を呑む。

「魔軍七大勢力「魔の眷属」を率いし「魔族の帝王」────────」

 私は君達を殺しにきた────────────────

 ◆

 プロンテラ城のテラスでキスクとリシアが城下の街並みを見渡す。
「世界の終わりってのは、もっと凄惨なモノと思っていたんだけどね」
 リシアの呟きにキスクが答えを返す。
「終わりなんてあっけないものさ、輝きながら終わるなんてずっとなかった」
「そうね…それでも、最期の時まで輝きたいと思う気持ちもあるかな」
 リシアがそっとキスクに手を差し出す、パートナーを求めるかのように。
「…」
 キスクは差し出されたその手を見た。
「カツアゲ?」
「ボケェ!」
 関西風ツッコミとともにリシアの拳がキスクの腹に突き刺さる。ズドム!と
いう物凄い音とともにキスクの身体が吹っ飛ぶ。
「ごふぉぁ!」
「アンタ〜〜ね…!」
 キスクが倒れたまま、月を見上げて呟く。
「その手を取るのは、全部終わったあとだ」
「────キスク」
「そうだろう?────────アイフリード」

 キスクの言葉とともに「皇帝」アイフリード=フロームヘルが現れる。
「お前がそう決めたならば、そうするがいい。最期の時など来ない。2人で手
を取り合う「為」に生き延びろ」
 キスクとリシアの口元に笑みが浮かぶ。
「そろそろ出立の準備だ。ミリア嬢が武器が仕上がったから受け取りに来て
欲しいとのことだ」
 キスク、リシアがコクリと頷き、城の中へと消えていく。それを見送りなが
ら「皇帝」が静かに言葉を発する。
「今までは復讐の為の戦いだった。だがこれからは護るべきモノを護る戦
い。故に希望の灯火は消させぬ。例え相手が誰であろうとな」


 静かに──────────────────────

 テラスの手すりに立つ女性の姿────────────

 両の手には殺戮を目的とした巨大な2対のツルギ─────


「私の名は「インセクトクィーン」マヤー」
「魔王か」
「我が名を聞きながら恐れぬとは、余程の愚者かそれとも────」
 その言葉を遮る。
「英雄とは魔王と対為す人々の希望の象徴とも言われている」


「Ultimate Emperor's Cross」


「我が名は「皇帝」───アイフリード=フロームヘル────────」

「魔王を喰らう英雄の名を脳裏に焼き付けろ───────────!」

 ◆

 砂漠の都市モロク────────────

「バフォメット、マヤーの両魔王がプロンテラに侵攻した模様です」
 ディスクリートの言葉に魔王モロクが頷いた。
「そうか、ではこちらも始めるとしよう…」

 魔王モロクが漆黒の炎剣を天へとかざす。

 一息に「天」を切り裂いた────────────────

 裂けた部分より莫大なエネルギーが漏れ、砂漠の都市モロクの中心部へ
と突き刺さる。その衝撃でモロク城が一瞬にして消滅し、巨大な底の見えな
いクレーターが出来上がった。

 天の裂け目から世界が這い出てくる───────────

 這い出てくる世界の名は「死者の都」ニブルヘイム。

 この世に9つ存在すると言われている世界のうち2つの世界、

 ミッドガルドとニブルヘイム、2つの世界を強制的につなげたのだ。

 世界を切り裂き、そしてつなげる。

 それ程の大魔力を持ってしてもこれまで叶えられぬ願いがあった。

「ユミルをこの手に、全てをこの手にする刻がきた────────」

 それは全ての巨人族の、魔族の願いであり、叶わぬ矛盾。

 神々が滅びを持って封じた願いにして矛盾──────────

 ロキという魔族が奈落に堕ちて尚叶えられなかった願い。

 幾百、幾千の年月が経っただろう、永き、永久に抜けられぬ牢獄。


 ばち…

 ばちばちばち…

「まだ、力の一端にも満たされておらぬというのに魔力が溢れるか」

 天が、地が、黒く染め上げられる──────────────

 それは夜闇の星月を覆い隠すほどの魔力。

 魔王モロクの魔力の端から勝手に生み出されるモロクの現身の群れ。

 天使を模し、物質を模し、人間を模し、精霊を模す。

 無限にも等しき数の現身達が世界の終わりを祝福する。

 祝福の宴に相応しき獲物を求めて動き出す──────────


「宴の始まりに相応しき美酒として、この「街」を呑もうぞ」


 ズ───────────────────────────


 ズズズ─────────────────────────


 この日、「砂漠の都市」モロクは消滅した───────────


 魔王モロクの生み出した「次元の狭間」に呑みこまれ消滅した。


 究極の魔、絶対悪意が次元の狭間に充満する─────────

 ◆

 ミョルニール山脈────────

 その山中奥深くにスドリと名乗るドワーフはひっそりと暮らしていた。レイが
尋ねると彼は何もかもわかったかのように、ある場所へと案内した。

 そこはまるで古戦場であった。

 草木溢れるミョルニール山脈とは思えぬ死の気配。ここで幾千もの命が
散っていったと感じられるほどの重たげな気配。
「よく参った、レイ=フレジッド。ここはわしがかつて神器を創らんとする者と
闘ってきた場所、わしの他にも3名の護り手がおったが、いずれも殺された」
「殺された?」
「ディスクリートと名乗る男にな…」

 「死を体現する存在」 ディスクリート=イノックシャース

「あの男は全てを呑み込もうとしておる。この世界だけでなく、存在する全て
を。だからこそ魔王モロクはこの世界に再び現れた」
「わしらドワーフの技術は4種4様に分けて伝承されている。故に一人でも欠
けては神器クラスの武具は生み出せぬ…」

 それが答え、避けようのない解────────────

「先日ここを訪ねてきたお主の知り合い、ミリアと名乗る女性から聞いてお
る。お主の武具は3種──────」

 神々を穿つ一条の閃光を撃ちし「ルドラの弓」
 紅蓮の宝剣「ファイアーブランド」
 輝氷の宝剣「アイスファルシオン」

「現世のヘイムダルとして力を行使することが可能なお主ならば、あらゆる
武具を扱えるだろう。何せ…人に戦う術を教えたのは他ならぬヘイムダル
なのだからな。人の持つ戦う術は須らくヘイムダルが起点となっておる」

 故に、汝が扱う真なる戦う術とは「混沌」────────────

 ありとあらゆるモノに変質する事が可能な「混沌」─────────

 「混沌」とはユミル、ユミルに最も近付き、そしてユミルでない存在。

「魔王モロクは漆黒の黒炎を操っていました。まるであれは…」
「その通り、あれもまた「混沌」なる力、全てを滅ぼす災厄。魔王モロクはユミ
ルに現世で最も近い存在。「混沌」を制御し、この世界を滅ぼそうとしている」
「つまり、魔王モロクを倒す為には、「混沌」を制御する力が必要と…?」
「その通り、そして新たなる神器を生み出すことはできずとも、それは武器と
なる。「混沌」を制御する力、神々の力を受け継いだ現世のヘイムダルなら
ば可能であろう」
 スドリはおもむろにレイの3種の武器を手に取ると、古戦場の中心部へと放
り込んだ。突如、瘴気が増し、それらの武器が呑まれる。
「わしの受け継いだ力はあらゆるものの「破壊」、他のドワーフ達の「創造」、
「強化」、「神託」と4つ揃ってこそ神器は生み出される。だが、もはやそれも
叶わぬ願い」

 見せてみよ、「破壊」が生み出した「混沌」を制御する術を──────

 瘴気がある人物を形とする───────────

「やはり、そうなるか…」
 スドリが静かに目を伏せる、これから起こる激戦を予感して。魔王モロクに
殺害され、「混沌」に取り込まれた彼が再び現世へと蘇る。

 「勇者」ヘイムダルの唯一の宿敵にして、絶対なる悪の王であった存在。

「フェイト──────いや、「巨人王」ロキか」
「────────────」

 ロキの言葉は言葉にならない。既に「ルドラの弓」を始めとする3種の武器
を贄として、「混沌」から意識を表出させ、「混沌」を体現させているだけの存
在。レイはロキと対峙しながら、口を開いた。
「何でロキなんだ?」
「魔王モロクの「混沌」に取り込まれし存在で最も強大な力を有するからだ」
 スドリの明確な回答。もはや「世界」と「混沌」と「魔王モロク」と「ユミル」の
線引きが曖昧になり、終焉が近いことが察することができる。

 ロキの咆哮─────────────



  



 [続]


〜あとがき〜
次回予告!魔軍七大勢力の魔王の襲撃を受けて、
ワープポータルで「砂漠の都市」モロクへと向かうフィリ達!
残された者、進んだ者、それぞれの決戦が始まります。


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