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Ocean's Blue

106:揺るがぬ信念

 ミッドガルド大陸各所に棲まう魔族、それら全てを称して「魔の眷属」。

 「幽鬼なる海魔」ドレイク率いる「幽の眷属」、「闇を統べる者」ダークロード
率いる「闇の眷属」、それらの眷属は全て「魔の眷属」の一部に過ぎぬ。

 「魔の眷属」を統べる者、それこそが真なる魔王に他ならぬ。

 「魔族の帝王」 バフォメット=クラウザー=サイドライク

 神々との抗争で巨人族が滅び去った。そして巨人族に届かないまでも、力
ある魔性の者達がいた。それらを魔族と呼び、その全ての魔族を率いる王を
「魔族の帝王」と呼び、人間達と魔族は戦いを繰り返していた。「魔族の帝
王」の力は他の「魔軍七大勢力」の魔王など比較にならないほど強大。いや
比較するまでもなく実力差が「見えない」。見えないほどに圧倒的。

 クラウザーがゆっくりとイアルとティアに向ける。放たれるはどれほどの力
か。想像もつかないほどの超圧縮エネルギーが出現する。
「…?」
 クラウザーが怪訝な表情を浮かべた。イアルがあまりにも不敵な笑みを浮
かべていたからだ。
「私と対峙した者は、表情を絶望に歪めるものだが」
「悪いな、アンタと戦う理由が無いし。俺達はやることがある、邪魔するな」

 瞬間、閃光が迸る─────────────

 それはイアルとティアのわずかな隙間を縫って、背後のヴァルキリーレル
ム砦に突き刺さり爆散。もはや砦の跡形も残らぬほどの大破壊。
「っぁ…」
 驚愕とともにティアが声をもらす。
「お前達は弱い─────本来ならば我が眼前に立つことすら不遜である」
「言ってくれるな…」
 イアルが歯噛みする、だが言葉通り勝負にすらならない。
「だが────────お前達は魔王モロクが欲する「最期の鍵」だ」
「「─────!?」」
「ユミルを巡り過去より繰り返された戦いは全て──────止まらぬ愛欲
とそれに纏わるエゴイズムのぶつかり合う理想の果ての産物」


 目の前に居る大切な愛しき人───────────

 目の前に有るこの美しき世界───────────


「お前達をここで殺すわけにはいかぬ、それに待ち人も来たようだ」


 お前達は選べるか─────────────


「ちーーーーーっす、冒険屋でーーーーす」
 セリフとは裏腹に力強く、そして圧倒的安心感を与える聞き覚えのある声。
イアルとティアは声がした方に視線を向けると、そこにはおそらくはこの「魔
族の帝王」をこの世界で唯一止めれる人物がそこにいた。


 「七英雄」が一人、「螺旋の王」ラクール=フレジッド


 20年前の大戦「トリスタンの悪夢」において、20年前このプロンテラ北の橋
にて、「魔族の帝王」と対峙し、その侵攻を喰い止めた世界最強の英雄。「無
限王」シリウスにつけられた傷は既に癒えている。イアルの横を通り、ラクー
ルはクラウザーと対峙する。その際、ラクールはイアルにこう告げた。
「マリアを頼む」
 イアルはハッとした。ラクールの旅の目的は妻の捜索、そして既に妻であ
るマリア=ハロウドは魔王モロクに捕らえられていることが判明している。す
ぐにでも行きたいだろう、助けにいきたいだろう。その感情を押さえ込み、ラ
クールはこの場に現れた。この場に現れた最強の魔王を20年前と同じく喰
い止め、妻を救うという己が夢をイアルに託したのだ。

 ラクールが真の意味でイアルを認めた証でもあった。

 イアルに初めて背中を預けた証であった。

「行こう、ティア」
 コクリとティアが頷き、イアルとティアの2人はこの場より駆け去っていく。
2人の姿が消え、気配が遠ざかり───────────────

「あの「森」から出てきたか、クラウザー」
「「旅」の終着点は見えたか、ラクール」

 世界最強の英雄と世界最強の魔王の最終決戦が幕を開ける。

 20年前と同じ地で─────────────

「この世界は若い世代のモンだ、余計なチャチャは入れさせないぜ?」
「問題は無い。私の目的は最初から貴様との20年来の決着だ───!!」

 雷鳴のごとき、光と闇の激突─────────────!

 ◆

 玉座の間にイアルとティアが辿り着いた。そこにはフィリ、エリカ、キスク、
リシア、そしてミリアの5人、そしてミリアが鍛え上げた彼らの武器が待って
いた。ミリアが静かに口を開く。
「敵が来たのね?」
「バフォメットです。ラクールさんが現在相手を」
「…そう、フィリどうするの」
 イアルの回答を受け、ミリアがフィリに問いかける。さらに上からかぶせる
ようにリシアが言葉を続ける。
「さらにマヤーも来てるわ、こっちはアイフリードが足止めしてくれている」

 もはやプロンテラに留まる事はできないだろう。

 ラクール、アイフリードが突破されれば彼女らは蹂躙される。

 ならば最適解は一つのみ───────────────

「私達はプロンテラを放棄し、砂漠の都市モロクへ向かいます」
 フィリ=グロリアスの力強い言葉。

「ったく、レイが戻る前に決戦開始か、面白ぇ」
 キスク=リベレーションが狂暴な笑みを浮かべる。

「行きましょう、全てに決着をつけに──────」
 エリカ=フレームガードが聖剣を手に覚悟を決める。

「最後まで見届けさせてもらうわよ」
 ミリア=グロリアスが足を踏み出す。

「レイが来るまでに道を切り開いておけばいいわけね」
 リシア=キングバードの剣が閃光を帯びる。

「これが最後の戦いだね!」
 ティア=グロリアスがイアルの手を握る。

「行こうぜ、レイが来るまで思い切り暴れてやるよ」
 イアル=ブラストがティアの手を握り返す。

 フィリ=グロリアスの強大な魔法詠唱、発動するは20年前に失われた魔法
「ワープポータル」、神々の力で制約を受けた世界の空間は、それをも超え
るユミルの物理法則によりフィリ達へ道をこじ開ける。

 「砂漠の都市」モロク────────────

 フィリ達の最後の戦いが幕を開ける。

 全ての時代に渡り形成された因果は、流転を経て、ここに収束する。

 ◆

〜 プロンテラ城バルコニー 〜

 「皇帝」アイフリード=フロームヘルはワープポータルの光が消え失せた
のを感じ取った。アイフリードは身体のあちこちに裂傷を受け、満身創痍の
無惨な姿であった。静かに己が対峙する者へと意識を戻す。

 相対するは「魔軍七大勢力」の一角、「蟲の眷属」を統べる女王

 ────────────────「インセクトクイーン」 マヤー

 2対の巨大なツルギを両の手にそれぞれ持ち、天津国の人々が持つ着
物のような着装、殺意と妖艶さが混在する異様な雰囲気を併せ持つ存在。
「英雄が聞いて呆れますね、足止めが目的なのでしょうが…」
「俺は俺の護るべき者を護るだけだ」
 かつて「皇帝」はこの世界で最も愛した人物を護れなかった。己が信じる
者に裏切られ、そして力のみで這い上がってきた。そして復讐を果たし、彼
に残ったのは喪失感のみであった。

 この力は何のためにある───────?

 例え復讐を遂げた所で誰かが喜ぶわけではない───────

 死者は何も思わない、この世界に存在しないのだから───────

「護る──────為に戦う、もう誰かが涙を流す姿を見たくないから…な」
「貴方は知っていますか、この戦いは大切なモノの奪い合いですよ」
「ああ、誰かを傷つけなければ、イキモノは生きられない」
「矛盾だらけですね、悩める英雄よ。貴方と話す価値は無さそうです」

 神速の間合いゼロ──────────────

 マヤーの一閃がアイフリードの首を刎ねるかに見えた。

 アイフリードはその一撃を短剣で受け止める。

 凄まじい衝撃が周囲に走りぬけるが、両者の動きが止まる。

「一つだけ、答えがでている────────せめて手の届く仲間は護りき
る、英雄としては矮小すぎるかもしれないが…その決意、覚悟は揺らがぬ」
 マヤーの口元に笑みが浮ぶ。
「それでいい…それでいいのだ、矮小なる英雄よ。私とて魔王の名を冠して
いるが、手の届く我が眷族の為のみに剣を振るう。力があるからこそ大きな
ことを行うのではなく、揺ぎ無き平穏を目指す」
 その言葉を受け、アイフリードの眼に炎が灯る。

 「英雄」はただの人であった。

 「魔王」はただの魔物であった。

 特別な力を持っているから特別な存在になるのではない。覚悟の質、前に
進もうという意思があるものが、己が理想を実現へと変えていく。アイフリー
ドとて過去は力無き少年であった。マヤーとて過去は弱き魔物であった。そ
の道は平坦でなく、己が誤り、間違いを重ね、それでも良かれと選んできた
道を進んできたに過ぎない。
 平凡なる存在から見上げられるまでの過程こそが彼らが歯を食い縛り、
涙をこえ、経験を糧とし、彼らを押し上げた。

 それでも尚、彼らは己が大切な者を護る。

 護るべき本質が見えている──────────────

 例え前を歩いている存在がどれ程に優秀で大きくとも、後ろから妬み蔑み
を受けようとも、己が信念を持ち、理想を実現に変えるからこそ、言葉ではな
く、行動にて現実のものとした者こそが「英雄」、「魔王」と呼ばれる。


 マヤーの身体が爆ぜる、アイフリードの無詠唱魔法だ。同時にマヤーの両
のツルギがアイフリードの胸板に十字の傷を刻む。

 「皇帝」アイフリード=フロームヘルが「詠唱」を開始した。

「Amplification Magic Power」

 アイフリードの詠唱完了とともに魔法力の増幅が天空の混沌を切り裂く。

 魔力とともに吹き上げる乱気流の中で、「皇帝」アイフリード=フロームヘ
ルが静かにして絶対なる闘志を瞳に浮かべる。


 乱気流を切り裂き、マヤーが破壊に通ずる烈風をツルギに纏う。


 


 「英雄」、「魔王」、それぞれが信じる心を力に変えた一撃が激突する。

 マヤーのツルギがアイフリードの胸板を貫く────────

 怯まず、渾身の力を、裂帛の魔力を込め、アイフリードがマヤーの頭蓋を
握りこむ。氷龍が荒れ狂い、アイフリードが咆哮が響き渡る。

 アイフリードの魔力がマヤーの頭蓋を吹き飛ばした───────

 マヤーが絶命し、その身体が崩れ落ちる。それより一瞬遅れて、アイフ
リードが膝を付く。口元に血がせり上がってくる。己の死を身近に感じたア
イフリードはフィリ達の無事と勝利を願う。

 アイフリードの意識が闇に消え、その身体は石と化した。

 そこには何も残らない。

 死の気配だけが充満していた。

 そこに遺されたのは仲間への想いのみ──────────────

 ◆

「────────っ!」
 フィリの表情が突如蒼白となり、身体がぐらつく。
「フィリさん!?どうしたのですか!?」
 エリカが慌ててフィリを支える。

 「皇帝」が───────────────命を落とした。

「ううん、大丈夫。気配にあてられただけ…」
 無闇に士気を落とすような事は言う必要はないだろう。すると、キスクとリ
シアがフィリの傍へとやってきて、一言ずつ声をかけた。
「気遣ってくれてありがとな」
「私達がやるべきことをやりましょ」
 アイフリードと最も親しい存在であるキスクもリシアも、アイフリードの死を
感じ取ったのだろう。だがそこに哀しみは無い。全てを成し遂げようとする強
い意志があるのみ─────────────

「さぁて、気合いいれていきますか」
 イアルが気合いをいれる為、パンと自分の両頬を叩く。

 彼らの前には「砂漠の都市」モロクであったモノが広がっている。



 そこは世界崩壊を引き起こす狭間の世界。

 ────────────────「次元の狭間」



 「ミッドガルド大陸」や「ニブルヘイム」を含む九つの世界が溶け合い、ユミ
ルに最も近き場所。モロク城を模した牙城が中央に存在しており、そこから
魔王モロクの強大な魔力を感じ取ることができる。

 夜闇の星月を覆い隠すほどの魔力が満ち満ちた空間の中──────

 魔王モロクの魔力の端から勝手に生み出されたモロクの現身の群れ。

 天使を模し、物質を模し、人間を模し、精霊を模した者。

 無限にも等しき数の現身達が世界の終わりを祝福せんと「次元の狭間」を
埋め尽くす。究極の魔、絶対悪意が牙を剥く。

 その悪意の先頭に立つ男が静かに開戦を宣言する。

「創めましょう、新たなる世界の創世を───────────────」



 「死を体現する者」、死者の都ニブルヘイムの王たるロードオブデス

 ─────────────── ディスクリート=イノックシャース

 [続]


〜あとがき〜
次回予告、もう一つの「英雄」と「魔王」の決戦!


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