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Ocean's Blue

107:終焉の引き金

 崩壊した世界に佇む静かなる城、つい数日前までルーンミッドガッツ王国と
呼ばれ繁栄を築き上げていた国の成れの果てたる廃墟で、2つの強大なる
力が激突していた。

 魔族の頂点たる「魔族の帝王」 バフォメット=クラウザー=サイドライク

 人類史上最高峰たる七英雄「螺旋の王」 ラクール=フレジッド

 互いの誇りなど既に無く、そこにあるのは宿敵たる相手を倒すという闘争
本能のみ。全ては次世代に託し、この戦いを制することことが彼らの望み。

 ドドォン!

 ラクールの放ったスパイラルピアースが旋空衝撃となり、バフォメットの展
開する防御障壁を突き破る。互いにノーガードとなり、視線が交錯する。すぐ
に攻撃など仕掛けない、互いに溜めを要する。

 王者の誇りが真正面から激突する。

「「ブランディッシュ────スピア!」」

 力の均衡が崩れ、ラクールが防御の姿勢をとる。
「老いたな、ラクール。20年前の貴様ならば、ここで一歩踏み出していた」
「…だな」
 クラウザーの言葉にラクールが皮肉げな笑みを浮かべた。反論もしようが
無いほどの真実、20年前は引き分けた。今回は勝ちが無い。

 轟音とともにラクールがヴァルキリーレルム砦の廃墟内へと吹き飛ぶ。

「立て、20年前とは違い、私はこの橋を通過することになるが良いか?」
 20年前の「トリスタンの悪夢」と呼ばれた人間と魔族の大戦ではこの橋を
ラクールは死守した。20年前の相手も同じく魔族の帝王たるクラウザーだっ
た。故にラクールは英雄と称えられ、今に至る。
「ガハ…ッペ!」
 血混じりの唾を吐き捨て、ラクールがクラウザーの前へ立ち塞がる。
「んな安い挑発しなくても相手してやんよ」
「やはり…老いたかラクール。お前の力は既に…」

 確かにラクールは強い。だがクラウザーを相手にできるほどの実力は既
に失ってしまっているのだ。

「せめてもの慈悲だ、英雄のまま死に逝け──────」

 雷撃がラクールの身体にまとわりつき、締め付ける。
「うっぐ…グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「さらばだ、私を止めた唯一の人間よ」

 クラウザーの手にある大鎌「クレセントサイダー」に金色の魔力が集中す
る。雷撃はラクールの身体を捕らえて放さない。

 大鎌がラクールの首を刎ねる────────────

 その瞬間─────────

 レイが、ラクールの息子であるレイ=フレジッドが割って入った。レイはラ
クールを突き飛ばし、クラウザーの一撃を空へと受け流す。クラウザーが反
応するより早く、レイのシャープシューティングがラクールを拘束している雷
撃を引き千切る。
「…ク」
 ラクールが朦朧とする意識をハッキリさせながら、眼前にいる我が子へと
怒鳴る。
「バカ野郎!何で来た!」
「オヤジが負けてるからだよド阿呆!」
「うっ!」
 かなり傷ついた表情を浮かべながらラクールが次の言葉を告ぐ。
「もう魔王モロクと戦う準備はできたのか」
「ああ」
「フィリちゃん達は先にモロクへ向かった」
「わかった」
 見渡せば状況はなんとなくわかる。予期せぬバフォメットの襲撃(他にも襲
撃者がいたかもしれないが)を受け、早々に魔王モロクとの決戦に向かった
のだろう。となれば、レイ自身もここで足止めを食うわけにはいかない。
「早く行け、フィリちゃん達が待ってるぞ」
「オヤジ、本気で言ってるのか?」
 レイの鋭い言葉、ラクールはクラウザーに負ける寸前だった。このまま背
中を預ければ、ラクールはいずれ敗退する。それまでに魔王モロクとの決
着がつかなければクラウザーと魔王モロクとの挟撃状態となる。
「行ってくれ、レイ。親ってのはな、子を守る為に生きるもんだ。ここでテメェ
の足を引っ張るような真似はしねぇ」
「──────オヤジ、死ぬなよ」
「お前もな」
 レイとクラウザーの視線が交錯する。
「現世に蘇ったヘイムダルか、良い眼だ。剣を交えてみたく思うが」
「俺はアンタとは戦わない。アンタの相手は俺のオヤジだからな」
「貴様の父を私は今度こそ殺してしまうぞ?」
「そりゃ無理だ、何せ相手は世界最強の英雄なんだからな」
 レイはクラウザーの脇を通り過ぎ、モロクの方向へと駆ける。ギャラルホル
ンの力を駆使したとしても、モロクまで数時間かかるだろう。当初はフィリの
ワープポータルでの移動だったがそれは諦める他無い。

 レイの姿が遠く点となり、地平の向こうへと消えていった。

「良い子息を持ったな、確かに我らの時代は終わったようだ」
 クラウザーがレイをそう評する。
「ったくよ…レイの野郎、負けられなくなっちまったじゃねぇかよ…」
「天地に炎が狂い咲き、全ての世界の時が凍りつく。そのような時でも希望
を失わず、前へと進む。妬ましいな、我々魔族にもその器量さえあれば…」
「お前さんとこも世代交代してるだろーが、俺が気づいてないと思ってたか」
「…」
「あいつらならやってくれるさ、死地から帰った奴ってのは肝っ玉が座ってらぁ」

 我々は次なる世代に全てを託した─────────

 老兵は死なず、ただ消え行くのみ─────────

「「決着を付けよう」」

 それはオーラ、強者のみが持つオーラのぶつけ合い。両者の咆哮とともに
それは始まる。ラクールの<力>が爆発的に膨れ上がり、クラウザーを打
ち据える。それを超えるクラウザーの<力>がラクールを貫く。そしてそれ
すら超えるラクールの<力>が、それをさらに超えた<力>が。<力>が。
無限にも続く<力>の応酬。終わりなき<力>のぶつけ合い。

 そして<力>の応酬が止む────────────

 いつか終わりは来るものだ────────────

 とめどなく広がる荒野──────────────

 そこには力を出し尽くした2つの石像が立ち尽くす─────────

 ◆

 気を失っていたのかイアルが目を開けると、そこは宇宙にも似た混沌空間
であった。おかしい、記憶が混乱している。魔王モロクと最後の決戦を行うべ
く、「砂漠の都市」モロクへ出現した次元の狭間までやってきたはずだ。そこ
からの記憶が飛んでいる。戦いすら始めた記憶が無い。
「ここは────「最も深き空洞」、私が君達2人を先に招待したのだ」
 聞き覚えのある言葉、イアルが振り向くとそこにはトリスタン三世が、魔王
モロクが音も無く佇んでいた。
「君…達?」
 魔王モロクが視線を少し動かす、イアルはその視線の先に2つの大きな十
字架、その片方に手錠で括り付けられたティアの姿を発見した。
「貴様!」
「案ずるな、何もしていない」
 イアルが慎重に状況を分析する。だが、その過程である事に気が付く。2つ
の十字架、ティアが括り付けられていない方の十字架の人物。
「彼女はヴィーダル。マリア=ハロウドと呼ばれたレイ=フレジッドの母だ」

 マリア=ハロウド

 レイやラクールが長年追い求めた旅の最終目的でもある人物。

「何が目的だ…」
 イアルが素早く短剣を腰から引き抜くと、魔王モロクと対峙する。
「目的ならばプロンテラで話をしたはずだ。私の目的は「    」だ。永き時
にわたって「    」のみを追い求めてきた。君には最後の一押しをお願い
したいのだよ」
「最後の一押し…?」
「そうだ、君が「    」の名を呼んでくれるだけでよい、ただそれだけでこの
世界は終焉を迎える─────────」

 イアルが拒否の意思を顕わにする。

 短剣を素早く構え、魔王モロクと対峙する。

「愛とは時として過酷な運命を強いる──────」
 膨大な瘴気が十字架を介してティアに突如流れ込んだ。
「───ッ───────ギアアアアアアウアアアアアアアアアッ!!」
 ティアの絶叫が迸る。イアルがその瞬間、激情に任せて魔王モロクに跳
びかかる──────が、腹部に焼け付くような激痛。

 魔王モロクの漆黒の炎剣がイアルの腹部を貫通していた。



 そのまま剣で掬い上げるようにイアルの身体が吊り上げられる。

「このまま消滅し、ティア=グロリアスを見捨てるか──────」

 魔王モロクはもう一つの選択肢を用意する。

「「    」の名を呼び、世界の終焉の引き金を引くか選ぶがよい」



 口の中にこみあげる血を吐き捨て、イアルが迷う。ティアに流れ込んでい
る瘴気の量は尋常なモノではない。下手をすれば数秒以内にティアが死ん
でしまう─────────だが────────────

 ティアとイアルの視線が交錯する────────────

 ティアが笑う。

 ごめんね、最期まで足手まといで────────────────

 屈辱と悔恨、だがそれでもイアルは彼女を失いたくなかった──────




「もうやめてくれ、目覚めろ────────────「ユミル」…」




 世界にパキリとヒビが入る音がした。

 最期に「ユミル」を呼ぶ者はフィリアの血脈を生み出した存在に近く、そして
フィリアの血を継がぬ者にして「ユミルの十字架」を持ちし者。

 魔王モロクの血を受け継がず、そして近く、ユミルに近き者。

 同化という目的を達成する為に、命の等距離を保てる者。

 それがイアル=ブラストであり、ロウガ=ブラストであった。

 魔王モロクから世界を護ろうとしていたアサシンギルド、

 それすら魔王モロクにとっては必要な道具にされていたのだ。

 ドンという衝撃とともに吹き飛ばされイアルが地面を転がる。



 これで──────────────────

 これで漸く─────────────────

 我が悲願が叶う────────────────


 ユミルを私は手に入れる────────




 混沌が広がっていく。世界が壊れ行く。

 形を保っていたものが消滅していく。

 山岳都市フェイヨンが霧の中へと消滅した─────────

 峡谷都市ベインスが砂塵の中へと姿を消す─────────

 オーティン神殿が、竜の湖アビスレイクが消える────────

 世界が次々と混沌に飲み込まれていく─────────────

 何も無い、永遠の虚無───────────────

 破壊すら存在しない無存在───────────────




 そしてそれに伴い、新たなる世界の創造主が誕生していく。


 魔王モロク完全体


 かつての姿、己の肉体の前に立つ魔王モロク─────────

 トリスタン三世として生きた身体から己が姿を見上げる────────

「かつて私は炎獄王スルトと呼ばれ、世界を炎に包んだ。それは破壊のみ
だ、真に世界の変革を望むのならば、創造主として世界を変えねばならぬ」

 血を吐きながら立ち上がったイアルが咆哮を上げる。

「ふざけるなよ…てめぇ…!その傲慢さを叩き潰す…!」
「もはや用済みの人形がよく吠える」
「後はこの混沌を「ユミルの聖杯」に流し込み、世界を構築する」
「させねぇって…言ってるだろうが─────────!!」
 魔王モロクがイアルに視線を這わせる。

 イアルの身体を無数の炎槍が貫く。

 空間を血染める雨が吹き上がる。

 意識が朦朧としていたティアがその瞬間を目の当たりにした。

 イアルはティアを守ろうとした──────────

 同じ想いをティアもまた持っているのだ────────

 想いが起こす奇跡は絶望の後に来る───────────


 凄まじい力の奔流を感じ取った、魔王モロクがイアルへの攻撃の手を止め
る。それ程までに強大な力を感じ取ったのだ。
「──────何だ…?」


 Acid Demonstration!


 燃え盛る紅蓮の酸性雨が魔王モロクを襲った。ただの酸性雨ならばカン全
体間近の魔王モロクは傷一つ負わないだろう。だが魔王モロクは手をかざ
し、その攻撃を受け止めた。手の皮膚がただれ、魔王モロクの表情が歪む。
「「Ocean's Blue」の力か、ティア=グロリアス」
 アルケミストの上位二次職クリエイターへと転生したティア=グロリアスが
倒れ伏したイアルを守るように立ち塞がる。

 ここで殺しておかねばならぬ存在と認識した魔王モロクが混沌を纏う。

 大いなる大洋の力と、全てを焼き尽くす災厄が対峙する。

 そして戦いが始まった──────────────────

 [続]


〜あとがき〜
次回予告、「死を体現する者」ディスクリート=イノックシャース戦!


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