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Ocean's Blue

108:死を体現する者

 世界が混沌に引きずり込まれていく。
「世界の創世が始まったようです」
 天を見上げ、「死を体現する者」ディスクリート=イノックシャースが呟く。
彼を取り囲む「ユミルの十字架」を持ちし者達は戦いの意思を失わない。

 「聖剣を持ちし者」 エリカ=フレームガード
 「魔人拳」 キスク=リベレーション
 「閃光剣」 リシア=キングバード
 「武具練成の士」 ミリア=グロリアス

 そしてその戦場より一歩引いたラインで結界を構築する者。

 「ユミルの聖杯」 フィリ=グロリアス

 つまる所、フィリ達の作戦は魔王モロク、ディスクリートの2人を集中して
排除するモノである。魔王モロクの現身達を遮るようにフィリが強大な結界
パジリカを展開し、ディスクリートのみをその内部に取り込む。フィリは結
界維持の為に、戦闘に加わることはできないが、ディスクリートを撃破する
為に最適な環境を作り上げる。

 そして残る「ユミルの十字架」を持つ者達がディスクリートを倒す。

 この戦いに勝利できるかがまず焦点となる。

 だが先程異変が起こった。突然イアル=ブラストとティア=グロリアスの
姿が消えたのだ。ディスクリートはそれについて回答をもたらす。あの2人
はユミルを目覚めさせる最期のカギだと。

 そしてユミルは目覚めようとしている────────────

「あの2人が消えたときも、この世界が混沌に飲みこまれようとしても、目的
を見失わない貴方達の胆力には感服しました」
 ディスクリートは己が力全てを持って、フィリ達へと挑む。


 「打ち砕くモノ」 ミョルニール
 「天駆を滑るモノ」 スレイプニール
 「魅力の炎」 ブリーシンガメン
 「神の力」 メギンギョルド

 そして────────
 「神々の戦士たる証」 The Sign


「全ての神器!全ての力を手にいれ────────!」


 太陽と月と星の融合とともに、破壊の使者となろう────────!


「世界各地に現れていたのは神器の力を取り込む為ですか」
「その通りです」
 エリカの問いにディスクリートが頷く。サンダルマン要塞ではフィリ達に力
を使わせ、その力を取り込む為に現れたのだろう。
「まずは「ココ」で我が姉の無念を晴らしましょうか────────」
 エリカ達の居る空間が歪み、その場にいた全員が荘厳たる神殿へと移動
する。巨大な紫炎の魔方陣が敷かれているその場では、まるで時が凍りつ
いたかのように死の気配が充満している。

「ここは死者の都ニブルヘイムの中枢…我が姉セリンが死した地────」

 その言葉を遮るようにリシアが巨大な閃光剣を振るう。

 ガギィ!

 ディスクリートの前に壁があるかのようにリシアの攻撃が止まる。
「全てのモノは死に通じています」
 リシアの閃光剣がバラバラに砕け散る、恐らくはミョルニールの力。リシア
の身体に衝撃が逆流してリシアが血を吐き出す。


「メルトダウン!」
 溶岩にも似た紅蓮をディスクリートに浴びせかけたミリアが驚愕する。そ
れを超える炎が────ブリーシンガメンの炎が反射して吹き飛ばされる。
「死界を望む私は死の王であるロードオブデスと同化した」


「後ろががら空きだぜ!死者の王!」
 キスクの渾身の一撃が、阿修羅覇王拳が放たれる。

 ゴゴォン!

 ディスクリートの拳とキスクの拳の激しい激突、力の暴流。軍配はメギン
ギョルドの力に上がる。キスクの全身から血が噴出し、キスクが倒れる。


「ディスクリィィイトーーーーーーーーッ!!」
 姉であるセレス=ドラウジーの仇であり、怨敵でもあるエリカが剣を振る
う。超スピードで振るう彼女の剣はディスクリートにかすりもしない。凄まじ
い立ち位置の変動、スレイプニールの高速移動により彼女の攻撃は当た
らない。ディスクリートが嘲笑を浮かべる。
「聖騎士とは…完全なる悪が現れし時、聖戦に挑む者と聞いていたが」
「ック!」
「実態たるや、完全なる悪である私が現れたとき、ほとんどの聖騎士は既
に倒れ、実質的には貴女一人だ。滑稽極まりない」
「私達を侮辱するのですか!」
「えぇ、最期までくだらぬ未来を信じていた貴女の姉も滑稽だった」
「きさ…」

────────────────────「The Sign」

 ディスクリートが生み出した衝撃波がエリカの身体を吹き飛ばす。

「これで4人────────────ですよ?」
 ディスクリートが結界を維持するフィリに問う。
「いい策ではありましたが、相手の力を見誤りすぎましたね。そろそろ貴女
にお相手願いたいのですが。「ユミルの聖杯」フィリ=グロリアス」
 フィリはニコリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「私達の背負っているものって、大きいんだよ」
「…」
「だから─────これは私達にとっても負けられない戦い」

 どれ程の力の差があろうと、ここだけは退けない。

 エリカが不屈の闘志を瞳に秘め立ち上がる──────

 キスクが、リシアが、ミリアが立ち上がる─────────

「面白い…総力戦ということですか」
 ディスクリートが咆哮を上げる。それは目の前に立つ者達を真なる敵と認
めた証。死者の王たるディスクリートが襲い掛かる────────

 それは死闘と呼ぶに相応しい戦いとなった。

 ディスクリートに誰かが薙ぎ倒されれば、誰かが戦いを引き受ける。

 ズタボロにやられながらも精神力のみで戦う。

 圧倒的な力を持つ、全てを手にした超越者と向かい合う。

 彼我の戦力差など最初からわかりきっていた。人の身で「魔王」を討つな
ど奇跡にも近い偉業。人の身でも突出した戦いの天才である「七英雄」ラ
クール=フレジッドや「皇帝」アイフリード=フロームヘルですら、まともに
戦えば相討つのがやっとというレベル。

 それを超えた者と戦っているのだ。

 「死を体現する者」ディスクリート=イノックシャース

 全ての神器、全ての死を取り込んだ「死者の王」ロードオブデス

 死にかけた世界、滅び行く世界を救うのはこの戦いを制するしかない。魔
王モロク、ディスクリート、どちらも倒せなければ世界は終焉を迎えることだ
ろう。そしてフィリが切れるカードは、レイと自分自身が最も強いカードであ
る。だがそのカードは魔王モロクという数値の見えない相手にぶつけるもの
であり、ディスクリートとの戦いでは動けない。故に苦しくとも仲間を信じ、
戦いの行く末を見守るしかない。

 だが──────────

 彼らを一番見誤っていたのはフィリ自身だったかもしれない──────



 それは些細な隙だった。

 ディスクリートの豪腕と、何度目かもうわからない阿修羅覇凰拳が凄まじ
い爆発とともに激突した。衝撃に大地が割れる中、ディスクリートは違和感
を、キスクは懐かしさを覚えるような感覚を覚えた。
「やっとうまくいったぜ…」
 今の阿修羅覇凰拳はまるで、メギンギョルドの力を乗せた一撃を捌く為
に使われた。「ギルド攻城戦」でキスクがレイに一撃を入れた必殺のフェイ
ント。阿修羅覇凰拳そのものを捌くことにそのものに集中して使った。

 その威力たるや、2撃目の阿修羅覇凰拳に比べれば極わずか。

 2撃目の阿修羅覇凰拳こそ、「魔神拳」キスク=リベレーションの真価。

「あの時は上手くいかなかったけどよ、今回は外さねぇ…!」
「…貴様!」
 獰猛にして狂暴な笑みを浮べ、キスクの一撃がディスクリートの腹部に炸
裂する。ディスクリートの防御は間に合わない。

「阿修羅!覇!凰!拳!」

 ドゴォゥン!

 ディスクリートに突き刺さった拳の超エネルギーが大爆発を起こした。
「がっ…貴様ァ!!」
 ディスクリートがキスクを殴り倒した瞬間、腕を何者かに掴まれる。
「ちょっとじっとしてなさい」
 ミリア=グロリアスの物凄い力でディスクリートが動きを止める。ミリアは
マキシマイズパワーで限界まで力を引き上げているのだ。それでも、力自
体はディスクリートの方が遥か上、動きは一瞬しか止まらない。

 「閃光剣」 リシア=キングバード

 青く澄んだ輝ける刃、巨大なる閃光剣、オーラブレイド。長さ30メートルは
あろうかという巨大なその刀身がディスクリートを叩き潰す。

 ズガァン!

 土煙から這い出てきたディスクリートの傍らに倒れるミリア、全てを出しつ
くし動きのとれないリシア。ディスクリートはリシアの横を通り過ぎ、エリカと
対峙する。ディスクリートの額から血が一筋流れ出ていた。

「絶望に身を焦がせ─────人間ども」
「貴方とて─────元は人間でしょう」
 ディスクリートの言葉に、エリカが問い返す。
「俺が人間であったのは、姉であるセリンが生きていた時だけだ。お前達も
気付いているだろう…魔王モロクを含むこの戦い全ては愛する者の奪い合
い、そして奪われた者の怨恨によって成っている。お前とてその一人だろう」
 サンダルマン要塞で散ったエリカの想い人が思い出される。
「彼は私に想いを遺してくれた、その想いは私の心にある」

 魔族である彼はに、人間である彼女を愛してしまった。

 魔族と人間、種族、寿命、存在全てが違う彼女とずっといたいと願った。

 彼は道を切り開いた。彼女が進む道標を、彼自身が刻んだ。

「詭弁だな、死した者は何も語らない。もう存在し得ないのだから」
「死した者に何かをするという行為は、究極の自己愛に過ぎないでしょう。
ですが──────人は歴史の中でそれを繰り返して生きてきた。哀し
みを超える生の謳歌でもってこの世に生きてきた。その想いを、生き様を、
否定すしないでください」
「ハハ────────ご立派な事だ」
 その言葉とともにディスクリートの拳に<憎悪>が宿る。

 太陽と月と星の憎しみが<憎悪>に転化される──────────

「全てを踏み躙ってやる…世界を踏み躙ってやる。人間を踏み躙ってやる。
魔族を踏み躙ってやる。神々を踏み躙ってやる。踏み躙ってやる踏み躙っ
てやる踏み躙ってやる踏み躙ってやる踏み躙ってやる踏み躙ってやる踏み
躙ってやる踏み躙ってやる踏み躙ってやる踏み躙ってやる踏み躙ってやる
踏み躙ってやる踏み躙ってやる踏み躙ってやる…!」

 <憎悪>が────────解き放たれる──────────

「…」
 エリカが静かに剣を構える。
「ウジウジウジウジ!いい加減にしやがれぃ!このスットコドッコイ!」
「────は?」
 今まで見たことも聞いたことも無いエリカの口調にフィリの目が点になる。
「糞餓鬼が張っ倒すぞ!このボケナス!おあっしゃああぁぁああああ!」
 気迫に満ちた叫びを上げたエリカがディスクリートの<憎悪>にまともに
聖剣エクスキャリバーを叩き付ける。

 ギャッギャッギャガガリガリガリガリガガガガリガリガリガリガ!!!

 物凄い轟音とともに<憎悪>を受け止めるエリカ。
「いや…いやいやいや…」
 フィリがありえない光景を目の当たりにして、口元を引きつらせる。

 バギィン!

 エスクキャリバーが折れる音とともに、<憎悪>が雲散霧消する。
「バカな…」
 ディスクリートが驚愕の声を漏らす。今のは間違いなく全力で放った一撃
だ。それが聖剣を持っていたとはいえ一介の人間に阻まれた。だが、エリカ
にはもう戦う力は残っていまい。軍配はディスクリートに上がった。
 無造作にディスクリートがエリカへと歩み寄る。
「最後は驚かされましたが、すぐ楽にしてあげますよ」
 エリカは敗北を認めず、ディスクリートを睨み付ける。

 ディスクリートがエリカの首を刎ね飛ばそうと逆の手をディスクリートが振
り上げた瞬間、ディスクリートは背後におぞましい程の寒気を感じ取った。

 フィリ=グロリアスが切れるカードはもう存在し得ない。

 だが、カードには一枚だけ特殊なカードが存在する。

 全てに勝利するイレギュラー、存在しない最強手「ジョーカー」が。

 ◆

 天空に浮かび上がりし魔法陣──────────

 雷龍が猛々しく天空を闊歩する───────────

「何故、貴方がここにいるのですか、生きているのですか」
「質問攻めだなぁ、死んでなかったし、動くべき時に動いただけさ」
 背後にいる者へのディスクリートの問いに言葉を返す懐かしい声。
「私の死の予測が外れたというのか」
「勝負に絶対は無い。そして我が父の放った布石はここに収束した」
 
 ディスクリートの背後に立つ、懐かしい姿───────────

 大鎌を手に──────在りし日の姿で彼は戻ってきた──────

 そしてエリカは再会する────────────────

「生きていたというのか…バフォメット=ジュニア=サイドライク!」
「いやぁその呼び名は違うなぁ」


 魔軍七大勢力、最強の魔王────────────

 「魔族の帝王」 バフォメット=アビス=サイドライク


「我が父、バフォメット=クラウザー=サイドライクより魔王の権能全てを
受け継ぎ、世界全ての魔を統べる者として僕はここに在る」
「貴方はサンダルマン要塞でオシリスと相討ったはず」
 ディスクリートの疑問にアビスが答えを返す。
「オシリスへの最期の一撃を放った後僕は力尽きた、だけどその直後に父
の使者によって僕は「迷いの森」に回収されていたのさ」
「使者─────「暗殺王」ロウガ=ブラストか…!」
 あの時立ち塞がったイアルの兄であるロウガはギリギリのラインでフィリ
達を守っていたのだ。ディスクリートの干渉を牽制し、アビスを影ながら救
出する。ロウガは先の先を読んで手を打っていた──────────
「その後は五体満足で動けないし、魔王の権能を引き継ぐ時間が必要だっ
た。父より世界の理と布石を知らされ、この最期の戦いに望んだ」

 誰かが言っていた。

 切り札とは最も最適な時に使ってこそ、最上の効果を発揮する。

 存在し得ない魔王のカードを行使するこの瞬間こそ、決着の時。

「死を体現する者」ディスクリート=イノックシャース、チェックメイトだ」
 アビスの魔力が容赦無くディスクリートを吹き飛ばした。

 [続]


〜あとがき〜
物語もクライマックス!


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