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Ocean's Blue

109:運命の再会

 ディスクリートの姿が瓦礫の中に沈む。アビスは容赦なく魔力をそこに叩
き込んだ。圧倒的な存在感を撒き散らし、アビスは帰って来た。魔王の権能
を扱うアビス、その凄みは今までの比ではない───────────
「アビス…アビ…ス」
 エリカの目が潤む、二度と会えないと思っていた想い人。アビスもまたエリ
カに会いたいのを耐え、この日まで生き抜いてきた。
「エリカ、おいで」
 アビスが手を広げる。エリカがアビスの胸に飛びこ─────────
「生きてるなら先に連絡くらいしてください!!」

 どがす!

「ぐっは!」
 世界最強の魔王となったアビスは、再会した恋人から最初に強烈なアッ
パーカットをもらった。
「いつから動けたんですか!いつから大丈夫だったんですか!?」
「サンダルマンの戦いから1週間くらいしてかなあ…」
「はやっ!もっと早く連絡を…!」
「いやほら、ここに至る過程がね…」
「心配したんですから…良かった…良かった…」
 目に涙を浮かべながら、エリカがアビスの胸にすがりつく。エリカを抱きし
め、そしてそのままアビスが目を静かに見開いた。

「いい加減正体を、君の中身を明かしたらどうかな? ディスクリート」

 その言葉にエリカが驚きを覚える。今の言葉でディスクリートがただの傀
儡ということに気付いたからだ。アビスはエリカの身体を静かに放すと、ディ
スクリートが埋もれた瓦礫の中を見据える。

 瓦礫の中からは意図的な沈黙のみが帰ってくる────────

「正体を明かせないのはわかるさ、君が正体を明かすべき最も最適なタイミ
ングは、レイ達と魔王モロクが互いに戦い、疲弊した所から利を得ようとして
いたのだからね。そうだろう…「死の女神」!!」

 その呼び名にクックという「女」の笑い声が響き渡る。

 瓦礫の中から、ディスクリートの身体が這い出て来る。だがその眼には生
気などなく、あるのは虚ろなる死そのもの。ディスクリートの口から「女」の声
が漏れ出る。
「我が存在に勘付いていたのは主の父か?」
「父は神魔の最期の戦い「Ragnarok」を生き延びた最期の巨人族だった」
「ふむ…あの小姓がよくのし上がったものだ」
 異様な雰囲気に包まれながらもエリカは冷静に状況を把握した。この場に
いてはアビスの足手まといになる。既に戦局は人と魔の戦いではなく、魔と
魔の戦いへと移行したのだ。

 全ての死を飲み込む存在を、一介の人間であるディスクリートが飲み込み
支配できるのか?答えは100%否である。ディスクリートは自覚すらできず
に操られていただけに過ぎない。全ての神器、全ての力を手に入れ、ユミル
を手にした者を殺害し、全てを手にする為の道具にされたに過ぎない。


 凍れる死者の都ニブルヘイム真なる女王、「死の女神」 ヘラ


 彼女こそがロードオブデスの本体。終末北欧の時代にマリア=ハロウドに
滅ぼされた彼女は意識体でありながら、神々の黄昏で死した者達の「死」を
束ね上げ、ロードオブデスを生み出した。

 全てはヘラがユミルを手にする為。

 彼女もまた、ロキやモロクと同じく、野望の糸を張り巡らしていたのだ。

 そして──────────────


「それを阻止する為に、我が父クラウザーは人と同盟を組んだ」
「──────ラクールか」
 アビスの言葉に対し、ヘラがある一人の人物の名前を挙げた。
「神々が滅び、そして最期の神であるマリア=ハロウドが力を失った事で実
質的に世界のバランスは崩れた。魔族の王達ですら、巨人族には遠く及ば
ない。その巨人族の王が生きていたとあれば、彼らの誰かが覇権をいずれ
握り、そして世界を滅ぼしユミルを手にするだろう」

 だからこそ人と魔は争ってはならない、手を結ぶ必要があったのだ。

 そのバランスが崩れたのは20年前の大戦「トリスタンの悪夢」

 魔王モロクの謀略により、「ユミルの聖杯」が生み出され、そしてその副産
物としてマリア=ハロウドは力を喪った。これが決定的だった。息を潜めてい
たロキやスルト(魔王モロク)やヘラの動きを活性化させることとなる。
 故にそれを予見していた「魔族の帝王」バフォメット=クラウザー=サイド
ライクは、人間側で最も強き男、己が実力と双璧を成す「七英雄」ラクール
=フレジッドへ話をもちかけたのだ。人と魔が手を取り合えるようになる為、
若い力を育てていくと。(ラクールへは魔王モロク達の存在は伏せられてい
たが) 彼らは未来に光を残したのだ。魔王モロク達の目的は等しくユミルを
手にする事。だが、彼らが争い互いに倒れるとは考えがたい。魔王モロク達
が手を結んだ時こそが最悪のシナリオ。
 クラウザーやラクールが総力を結しても、一人倒すので精一杯であろう。
だが、そこに神の子が加われば戦局は五分へと持ち込める。

 「神」と「魔」と「人」、三位一体となり、3つの巨悪を討つ───────

 これこそがレイやアビスの父達、前の世代の者達が打った布石。

「最悪の状況になることはわかっていた、だが希望の光はここにある」
 「死の女神」ヘラと対峙アビスを中心に強大な魔力が収束する。
「魔王モロクは2人に任せる──────ここは引き受けた」
「うん」



 事態をじっと静観していたフィリ=グロリアスが前へと手を差し出す。



「ああ、任せとけ」



 その手を取り、「神雷」レイ=フレジッドが応える───────

 皆の想いに応える為に────────若き力達は決戦へと臨む。

 ◆

「役者が────────揃ったようだ」
 混沌に包まれた「最も深き空洞」。そこの中央に立つ「魔王モロク」が口元
に笑みを浮かべる。彼の目の前に対峙していたはずにティア=グロリアスの
姿はない。それどころか、イアル=ブラストやマリア=ハロウドの姿まで消え
ている。うまいやり方だ、彼らのような存在こそ英雄と呼ぶに相応しい。

 ティアはクリエイターとなり、「Ocean's Blue」の力を開花させ、戦いを挑ん
でくるや否や、イアルがマリアを救出するように立ち回ることに全力を注いだ
のだ。そしてイアルが渾身の力を振り絞り、インティミデイトで2人を魔王モロ
クの支配するこの空間から脱出していった。イアルは命を落とす事無くマリ
アを救出するという目的を達し、ティア達を連れ全力で逃亡した。
「逃げる事もまた戦い、華々しい戦果の影にこのような小さな戦いの積み重
ねこそが勝利へと結びつく。イアル=ブラストか、最初に見た頃は随分と小
者と感じていたが…真の英雄となって我が眼前へと現れていたか…」

 元より、人質など姑息な手段など用いる気はなかったが───────

 正面から全てを打ち破り、全てを手にする。

 己の想いを叶えんが為────────魔王モロクが決戦へと臨む。

 ◆

 レイが到着した直後に、ティアとマリアの2人を連れたイアルが皆の元へ
と出現した。満身創痍の3人のうち1人姿を見た瞬間、レイが硬直した。
「…っ」
 レイのその様子を見たイアルが親指をグッと立てて気を失う。慌ててそれ
を抱きとめるティア。レイを後押しするようにフィリが背中を押す。
「ほら、レイ。会いたかったんでしょ」

 レイがゆっくりと歩み始め─────────

 マリアが─────レイの旅の目的であった母が目を開く─────

 言葉が出ないレイに、母が優しく声をかけた。
「大きくなったね…レイ」
 レイが静かに頷く。
「レイ──────────行きなさい」
 母の力強い言葉。マリアとて成長した我が子を抱きしめたいだろう。だが母
は強かった。今、レイがここにいるということは、レイがどのような立場にあ
り、何をすべきかをわかっているのだ。今、触れ合えば彼の決意と覚悟を弱
めてしまうかもしれない。母は優しく、そして強かった────────

 レイはひょいとマリアに近付くと一瞬だけ抱きしめた。
「!?」
 マリアが驚いた表情を浮かべた。レイはすぐに身を離すとニヤリと笑みを
浮かべた。
「行ってくるよ、母さん」
 マリアは悟った。自分の息子は─────これ程までに強くなっていた。
決意と覚悟を弱めてしまうなんて、そんなことを思う必要すらなかった。だか
らこそ、母は息子に言葉を返した。
「早く行ってきなさい、戻ってきたら母さんの手料理を食べさせてあげる」

 フィリが苦笑しながら、レイの元へとやってくる。2人は顔を見合わせると、
同時に頷いた。2人は駆け出し、混沌の中へと消えて行く。

 その姿を母は頼もしげに見守っていた──────────

 ◆

「さて───────────────」

 「魔族の帝王」バフォメット=アビス=サイドライクが宣言する。

「そろそろ始めようか、君には死ではなく魂の塵すら残さない消滅を贈ろう」

 「死の女神」ヘラがその姿を白銀の死甲冑を掲げた存在へと変化する。

「フフ、母との再会か。良い余興であったよ、これから踏み躙り甲斐がある」

 「死者の王」 ロードオブデスがその傲然とした姿を顕現させた。

 エリカを中心に皆が避難する。もはや人の領域での出来得る戦いは終わっ
たのだ。これから始まるのは神魔の戦い───────

 「神々の黄昏」───────「もう一つのRagnarok」開戦である。

 ◆

 混沌へ飛び込んですぐ、空間が開けた───────

「レイ、これは…」
「居る───────」
 フィリが進むのを手で制し、レイが前を見据える。

 混沌を支配する霧が徐々に晴れ、絢爛なる都市が開ける。

 無人の砂漠の都市モロク─────────────

 崩壊する前の栄えた姿を保ったまま、その都市は姿を現した。

「なるほど、ここが決戦の地か」
「左様」
 砂漠の都市モロク、モロク城の城壁の上に立つは魔王モロク─────

 トリスタン三世の姿をした彼は悠然とレイとフィリの2人を待っていた。

「ついにこの日が来た。私がユミルを手にする日が───────」
 レイが静かに剣を鞘から抜く、フィリが魔法詠唱を開始する。
「最期の戦いにふさわしき、王者の戦いを執り行おうぞ───────!」
 魔王モロクが漆黒の炎剣を出現させる。

 魔王モロクは逃げも隠れもしないだろう。正面から、最期の戦いを本気で
挑んでくる。小細工など通用しない。互いの力と力、想いと想いをぶつける。


 最終決戦───────────────────!!


 魔王モロクの姿が消え、フィリ達を薙ぎ払うように横薙ぎの斬撃が放たれ
る。フィリの魔法詠唱が完了した。魔王モロクの剣が輝き、フィリとレイの身
体をすり抜ける。

 我が武器と、己に聖属性を付与し、ダメージをほぼゼロへと転化したか!

 魔王モロクが返す刃に炎を宿らせた時にはすでに遅く、レイが魔王モロク
の額に、弓につがえた矢を向けていた。奴が持っていたのは剣ではなかっ
たか─────────────!?
「先制攻撃は頂くぜ」

 ドガォン!!

 レイのシャープシューティングの強靭な一撃が魔王モロクへと炸裂した。
その瞬間、レイは悪寒を感じた──────────────
「…っ!」
 レイはフィリの首根っこを捕まえると思いっきり、悪寒から回避した。

 そこを貫く神速の居合い───────────────────

「…っ!今の太刀筋って…!」
 フィリと同じことをレイも感じ取った。今の太刀筋は見覚えがある。

 かつてアルベルタを襲撃した「幽鬼なる海魔」ドレイクの居合い。

 ゴォ…ッ!!

 魔王モロクから溢れ出た瘴気が悪意の集合体たる大魔神と化す。フィリに
はこれも見覚えがあった、これはサンダルマン要塞で戦った「古の黄金王」
オシリスの真なる姿───────!その大魔神の拳の一撃がレイとフィ
リへと頭上から潰すように轟音とともに炸裂した───────!


 沈黙が支配する──────────────


「この程度では終わらないだろう、違うか?」
「────そうだな」
 魔王モロクの言葉に、レイが言葉を返す。轟音とともに巻き上げられた
粉塵が徐々に晴れ、そこにはイレギュラーな武器を手にしたレイの姿が
あった。そしてその「武器」に見覚えがあったフィリは驚きを隠せない。
「レイ…それ」
「アイツの技とか使いたくなかったけどな…!」


 王の権威を示す為のカテゴリーの一つとして武力が上げられる。

 王権を維持する為に存在せし武力。

 剣と魔法。

 「皇帝」を魔法とするならば、それはフィリ=グロリアスという王を守る剣。


 王を守護せし真紅の剣


「真紅剣────────「銀狼」!」


 レイが手に持つ真紅の剣から放たれた銀色の衝撃波が魔王モロクへ直撃
した───────!

 [続]


〜あとがき〜
最終決戦開幕です。
様々な紆余曲折がありましたがついにここまできました。
最後までお付き合いよろしくお願いします。


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