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真紅幻想

001:BlackSmith

 剣を持つものには『理由』があるという。
 何かに勝つため、倒すため。何かを守るため。強くなるため、負けないため。
 ならばお前たちは何のために剣を握る?
 剣士転職所で聞かれた事だ。

 ―俺は…何のために剣士になる?何故シーフではいけない?


 変な夢を見てフィンは目を覚ました。ここはプロンテラ。ルーンミッドガルド王国の
首都である。武器の修理にイズルードからはるばるやってきたのだ。
 トレントから渡された5本のソードナイフに自分のカタナの修理をプロンテラの名工、
ホルグレンに渡したのが昨日だ。今から取りに行けば修理も終わっているだろう。
フィンは宿を出た。

 ◆

「クホホホホホホホ」

 フィンを迎えたホルグレンは、第一声でまずそう言った。

「…ひとつ聞く。俺は精錬を頼んだ覚えは無い。どういうことだ」
「コホコホコホコホ」

 フィンのカタナは折れていた。トレントのソードナイフはこれでもか!と言う出来
なのに対し、フィンのカタナはこれでもか!というほど折れていた。というか砕けていた。

「…そろそろ人間の言葉喋らないとお前の口にべとべと液500個詰め込むぞ」

 フィンが殺気を放ちながらホルグレンに詰めよる。皮袋に手を突っ込みながら。

「わかった!実はこんな手紙がきててな…」
「手紙?」

 フィンがホルグレンから手紙を受け取った。

『プロンテラ一の名工、ホルグレンよ!数日中にフィンってネタい顔した剣士が
武器の修理に来ると思うんだがよ!こいつ内気なもんで自分のカタナ精錬したいのに
言い出せないでいるんだ。ここは一発、あんたの漢の魂を注入してやってくれ!
もちろん+10までノンストップな!頼むぜ名工!!ああ、精錬費はフィンから徴収
してくれな?』

 差出人:トレント


「あのクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 フィンはいきなり武器を失った。ついでに無理やり精錬費も徴収された。

 ◆

 武器は高い。まだ冒険をはじめて間もないフィンにほいほい買える値段ではない。
幸い、転職前に使ってたソードがあるとはいえ、正直これでは心もとないのである。

「くそ…あのクソトレントめ…」

 かわりの武器を何とか入手しておきたいところであった。武器屋の他、商人が開いている
露店にも武器は売っている。値段はこちらのほうがお得だが、中古品であるためたいていが
古ぼけている。名剣もあったりはするが、商人の鑑定眼は確かだ。そんなものに安い値は
ついていない。

「参ったな…。世の中金かよ…」

 フィンはがっくりとうなだれながら露店を見て回った。もしかしたら掘り出し物もあるかも
しれない。そう思いながら。

「そこの剣士の少年さん!腰に下げてるのがそんな剣じゃあなたには見合いませんよ!
ちょっと見ていきませんか?」

 フィンは露店を開いてる女性の商人に声をかけられた。いや、商人ではない。その上級職、
ブラックスミスだ。

「私の転職記念で格安商品を並べてますよ〜。どうぞどうぞご覧ください」

 確かに、安い。中古品の武器がずらっと並んでいる。買えない値段ではなかった。
槍、剣、斧。中古品ではあるが手入れがしっかりとしてあり、十分使えそうだ。というか

「このクラスの品がこの値段じゃ赤字じゃないの?」
「お、なかなか鑑定眼ありますね。転職記念セールですから大出血サービス中です」
「なるほど…と」

 フィンの視線がずらっと並んでる武器の中で、一本の両手剣で止まった。
正直、見栄えは良くない。だが、その分実用的に見える。何より他とは何か違う。
その剣、バスタードソードを手にとり、鞘から少し抜いてみる。ギラっと光る刀身。
古い作りの鞘からはわからなかった、新品の刀身だった。

「見る目ありますね」

 ブラックスミスがうれしそうに言う。
 鍔に掘り込みがしてある。フィンはそれでこれがこのブラックスミスの手製の剣だと
いうことに気が付いた。たいていのブラックスミスは、作成した自分の武器には
自分の名前を掘り込む。名工、と呼ばれることを夢見て。

 黒い鍔に目立たなく掘ってあるその名は、バステト。おそらく彼女の名だ。

「これはいくらで?」

 いい出来であるのは間違いないが、それ以上に感じるもの。風の力だろうか。手が届く
ならば買いたい。フィンはブラックスミスに尋ねた。

「他と同じでいいですよ。10Kで」

 すなわち、10000z。格安だ。今のフィンでも全財産はたけば買えない事は無い。

「わかった、買うよ。というかこれを10Kで見逃したら剣士失格だ」

 フィンは財布からほぼ全額を出すと、ブラックスミスに渡した。

「有り難うございます。…お代、確かに。それ、私の1作目の武器なんですよ。
仕上げにラフウィンドを使ってみたんですけどね。我ながら良い出来と思いますよ」

 ラフウィンドは風の魔力を宿した鉱石である。属性石、とも呼ばれるもので、デリケート
な金属ゆえに武器作成に使えばたいていが壊れてしまうと聞いていたが…
新人のブラックスミスでも成功するときは成功するらしい。
当然、これで作られる武器は魔力を宿す武器となる。かなりレアな一品だ。

「しかしそれならなおさらこの値段でいいの?」

 買っておいてなんだがつい聞いてしまうフィン。

「そうですね…なら一つ頼まれごとをしてもらえますか」
「頼まれごと?」
「ええ。実は私はゲフェンの北にあるミョルニール廃鉱によく行くのですが。その
最下層B3Fに最近、とんでもない化け物が現れたらしいんですよ」
「あそこって元々モンスターの巣窟じゃ…」

 ミョルニール炭鉱は元々良質の鉱石が出るために多くの労働者が働いていた場所である。
トロッコ用の路線も引かれ、にぎわっていた炭鉱だったのだが、例の魔物の大発生
『トリスタンの悪夢』以来は魔物の巣窟となり、きわめて危険なために閉鎖された場所
であった。

「ええ。スケルワーカーを初めとしてかなりの魔物がいますが…逆にそのせいで一部の
ブラックスミスは他人に邪魔されずに鉱石掘れる、と絶好の堀場になってるんですよ」

 彼女もその一人らしい。

「私は鉱石掘りが終わってしばらくここで武器作成に励んでたのですが、風のうわさで
聞いたんです。廃鉱奥深くで巨大な竜が現れたと…」
「竜!?巨大!?」

 このルーンミッドガルド王国周辺で確認されている竜と言えばプティットである。だが
幼竜であるプティットは決して大きくない。それでも竜だから熊くらいのサイズは軽く
あるが…成竜の確認はされていないのである。

「私も確認しに行きたかったのですが、何せ本当に竜がいるとなると少々一人では
心もとないですから、仲間が欲しかったんですよ」
「つまり、俺とパーティ組んで廃鉱へ向かおうと言うわけですか…」
「どうです?剣の代金と思って」

 成竜が相手だと危険ではある。だが、冒険者となれば危険はつき物である。
その先にあるものが見たくて皆冒険者となる。フィンもその例外ではない。
フィンの好奇心は抑えられなかった。

「わかった、行くよ。ただ、イズルードに仲間が2人いるんだ。出来ればそいつらも
手紙なりで呼びたいんだけど」
「そうですね。数は多いほうがいいですし…出発はその仲間が来てからにしましょう」

 ブラックスミスはにっこりと微笑んだ。

「私はブラックスミスのバステトです。よろしくお願いしますね」
「俺はフィン。ソードマンだ。よろしく」

 2人はしっかりと握手をした。

「仲間に手紙を出したら連絡お願いしますね。私はここか、宿屋『ブラックキャット』に
いますから」
「ああ、わかった」

 フィンは早速手紙を出しにカプラサービスプロンテラ支店へと向かった。

 ◆

 カプラサービスが混雑していたため、手続きが終わる頃には日が傾いていた。
『トリスタンの悪夢』以降、ワープ系の魔法が封じられたために手紙を送る、などのサービス
を行っているカプラサービスは大繁盛であった。
 バステトは既に店をたたんでいたので、フィンは宿屋『ブラックキャット』へ向かった。

「ブラックキャット…黒猫、か。黒猫…宿屋?」

 頭をよぎる何か。黒猫宿屋?なんだろうこの違和感は。


―何?遠出中に家差し押さえられたの?仕方ないなぁ。私の家にしばらく泊まる?


 ふと、何処からか声が聞こえた気がした。

 誰の?
 いつどこで?

 何のために剣を握るのか。何故剣士で無いとダメなのか。一瞬答えが出た気がしたのは
何故だろうか。

 わけがわからない。頭が混乱する。
 宿屋の前で、フィンは頭を振った。しっかりしろ、と。

 妙な違和感を感じながら、フィンは宿屋に入っていった。


 [続]

 〜あとがき〜
  勝手に小説第2話!トレントさんの悪人っぷりがいかんなく発揮されてます。
 本来の彼はこんなもんじゃありません。クリープを混ぜてかなりマイルドな仕上がり
 にしています。
  そしてブラックスミス:バステト登場!樹海団の面子が少しずつそろっていきます。
 そして樹海団がいつ、どうして出来たのか!Ocean's Blue外伝はOcean's Blueが続く
 限りネタがつきません!(オイ)
  次回予告:フィンからの手紙を受け取るトレント。そしてフィンはトレント達を待つ
 間に、意外な人物に出会うのであった。


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