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真紅幻想

004:A deep labyrinth

 魔法都市ゲフェンの北東に位置するミョルニール廃鉱。大体3回層に分かれており、
かつては良質な鉱石の発掘場所としてにぎわっていた場所。今ではその名残で
トロッコのレールと残骸、打ち捨てられた発掘道具が残るのみである。
 トリスタンの悪夢以来、魔物が住み着くようになり、多くの工夫が犠牲となった。
そして彼らもまたアンデッド:スケルワーカーとして新たな犠牲を呼ぶものとなった
危険な場所となっている。

「で…ずいぶんと入り組んでんなこの地下2階は」

 まるで迷路になっている場所を歩きながらトレントはぼやいた。

「ええ。本当は金網なんかで遮断されていなかったらしいですが、魔物が住み着く
ようになってあちらこちらのエリアを遮断する目的で金網が張られたとか。
…結局は破棄されてしまったのですけどね」

 暗い闇をランタンで照らしながら、バステトが博識なところを見せる。だが
周りへの警戒は怠っていない。手馴れた冒険者ならではである。

「でも何度も採掘に来てますから道は覚えてます。もう10分も歩けば地下3階に
つきますよ」

 既に何度か魔物の襲撃は退けている。剣士2人、盗賊1人、ブラックスミス1人。
著しく攻撃に特化したPTならではの戦闘能力だ。

「…まて。その角の先にいる。数は分からないね」

 パーティーが角に差し掛かろうとしたときフィンが皆を呼び止めた。

「了解。私が飛び出すから援護よろしく」

 ルアーナはフィンのこの気配を探知する能力に完全に信用していた。トレントすら
ごまかせた彼女のハイディングを探知したのはフィンが初めてだったからだ。

 ルアーナが飛び出し、それに間髪いれずスケルワーカーが襲い掛かる。だがそれを
待ち構えていたバステトが、その手に持つ鉄槌を地面に叩きつけた。

「ハンマーフォール!!」

 ドガン!

 その衝撃がルアーナを襲おうとしたスケルワーカーたちをその場に釘付けにした。
と、同時にトレントとフィンがスケルワーカーに向かって剣を振りおろした。

―数がいるなら一気に潰す

「「マグナムブレイク!!」」

 同じ考えをもった2人の剣から発生した炎と衝撃が、5体のスケルワーカーを砕き、
そして燃やし尽くした。

 ◆

 ようやく次がきたか。
 前回もたいしたことの無い連中だった。
 今度こそと思ってしまう。
 いいかげん、まともなデータが欲しいものだと―

 ◆

「しっかしいつも思うんだが。お前のその変な第六感は何処で身に付けたんだ」

 地下3階への道を下りながらトレントはフィンを見た。

「気配だよ気配。勘で見つけてるんじゃない。完全に気配を断っても、生きている以上
の気配はあるだろうが。たとえアンデッドでも動いてりゃそれが気配になる。それを
拾い上げてるだけだ」
「簡単にいいますね。それができれば誰でも危険回避できますよ」

 バステトが苦笑しながら言った。

「まったくだ。フィンの分際で生意気な特技持ちやがって…」
「長所は短所になるんだよ。おかげでお前の挑発に何度引っかかったか」

 剣士の特技になるプロボックは殺気を飛ばし、相手の注意をそらさせることにより
隙を作る高等技術だ。トレントはその性格通り、この技が異様に上手い。

 そんな話をしているうちに一向はついに最下層、地下3階に到着した。
 深い闇が広がり、死臭がかすかに漂っている。地下2階とはその空間が作り出す圧力が
まるで違っていた。

「…フィン。わかるか」
「ああ、わかる。これだけの威圧感だと嫌でもわかる。こっちだ」

 トレントの指示に従い、フィンが先導する。狭い通路を抜け、広い空間に出た。
そこには―



 闇に光る2つの赤い光
 巨大な影
 足元に転がる騎士達の死骸



「なっ…!」

 皆、いっせいに声を飲んだ。こいつは―!!

「ドラゴン…ゾンビ!?」

 見たことも無い成竜の、腐乱死体が動いている。明らかにこちらに敵意を向けて。

 がしゅぅぅぅぅぅ…

 ドラゴンゾンビが動く。新たな犠牲者を生むために。

「ちっ!散会しろ!ブレスが来る!!」

 トレントの号令でいっせいに散るフィン達。

 ぐっぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 次の瞬間、赤い炎がさっきまで彼らがいた空間を包んだ。
 ルアーナは炎をかわしながら、壁を蹴って三角飛びの要領でそのままドラゴンゾンビ
に切りかかった。シーフならではの身軽さだ。

 バシュッ!

 腐乱した鱗は彼女の持つスティレットの刃を止めることは出来なかった。腐肉が切り
裂かれ、飛び散る。
 だがその巨大な体に短剣の一撃はほとんど意味が無かった。ただでさえ痛覚が失われ
ているアンデッドである。防御などせずにすぐに攻撃に移ったのだ。

「ちっ!」

 ルアーナの次に攻撃に移りかけていたフィンが慌ててルアーナを抱えて飛んだ。

 ブォッ!!

「がっ!」

 ルアーナのいた位置を巨大な尾が薙ぐ。辛うじて回避が間に合った。だが無理な体勢
で飛んだため、フィンは背中から地面に叩きつけられてしまった。一応、意地でルアーナを
かばっている。

「おおおおおおお!」

 トレントが吼え、ドラゴンゾンビに切りかかる。

―バッシュ!

 トレントの剣がドラゴンゾンビの胴体に触れた瞬間、剣気による爆発が起こる。その
やわらかい体を深々と切り裂いた。しかし同時にそのトレントにドラゴンゾンビの爪が
襲い掛かった!

「オーバートラスト!!」

 バステトの体が赤く光った。本人の力を限界以上まで引き出すブラックスミスの
特技を使い、トレントに襲い掛かる爪にソードメイスを振り下ろした。

 ゴォウンッ!!ズズン…!

 爪の一部が砕け、ドラゴンゾンビがバランスを崩し倒れる。これほどの力で振り降ろ
された武器は本来ならば損傷するところだが、彼女のソードメイスは初めからこのスキル
の使用を考慮して強化されているため、損傷することはなかった。

 とはいえ。

「クソ!こっちを殺すことしか考えていない分、危険すぎる!」

 辛うじて連携で攻撃をしのいだものの、こちらの攻撃はそのまま死につながる反撃が
待つとなるとうかつに攻撃が出来ない。トレントは奥歯をかみ締めた。

「動きを止めるのが最優先ですね」

 バステトが鉄槌を握る。

「待て。あれだけの巨体にハンマーフォールを繰り出すなら至近距離まで近づかなきゃ
いけない。そのための援護をする余裕がない」

 トレントはバステトを止めるトレント。その冷静さにバステトは驚いた。

「なら、どうします?」

 そういわれるまでもなく、トレントは頭をフル回転させている。戦況を打開させる方法
を見つけ出すために。

 しかし。

 それを見つけ出す前にドラゴンゾンビは次の行動を取った。
 ドラゴンゾンビが口を開き―失われているはずの知能で言葉を放ったのだ。


 MONSTERID ElEO…


「なっ!?」
「えっ!?」
「くっ!」
「なに!?」

 古代の竜が使う特殊魔法とでも言うのだろうか。突然、4人の体が自由を失う。
体は硬直し、全く動かなくなった。

「な…んだよこれ…!」

 必死に動こうともがくフィン。しかしその意思に反して体はピクリとも反応しなかった。
そんなフィンをあざ笑うかのように、ドラゴンゾンビはまずフィンに向かってその牙を
向いた。
 フィンは必死に叫んだ。




「まて!俺は美味くないぞ!まずはそこの銀髪の変なやつ食え!世界はそれで平和に
なる!」
「またんかゴルァ!!」

 トレントからの抗議の声があがる。すると―ドラゴンゾンビはその声に引かれる
かのようにトレントにその首を向けた。

「まて!なんでほんとにこっちに来る!まず食うならそのもやし君だろ!前菜に
もやしをどうぞ!!」
「それはどういう意味だこのボケ!」

 そのトレントの言葉を理解したのか―再びドラゴンゾンビはフィンに向き直った。

「ぬおぉぉくんな!植物は体にいいぞ!まずは樹人で食物繊維の補充を!」
「人に押し付けんな!遠慮せずに最初にぱくっと食われろ!」
「トレント!リーダーらしくみんなの人柱になれ!!」
「知らんわ!俺が生きてればすべてよし!!」

 醜い。醜すぎる。

 この期に及んでそんな言い争いをする2人に呆れて、ルアーナもバステトも気が付か
なかった。ここに近づく2つの足音に。

 フィンがまさにドラゴンゾンビに食われそうになった、その直前!

「バッシュ!!」

 パァンッ!!

 何かがはじけるような音と共に、ドラゴンゾンビの足が文字通り破裂した。
たまらずドラゴンゾンビはバランスを崩し倒れる。

「キュアー!」

 4人の体が緑色の光に包まれ、金縛りが解除される。

「ぎりぎりセーフでしたね。目的は同じようですし、支援しますよ!」

 4人を治癒したアコライトがにこりと笑った。

「インクリースアジリティ!」

 アコライトの叫びと共に、4人の体が軽くなる。機敏さを上げる補助魔法だ。

「よっしゃぁ!」

 復活したフィンがようやくドラゴンゾンビに一太刀浴びせ、先にドラゴンゾンビの
足を粉砕するほどの威力のバッシュを放った、槍―パイクを持った剣士の横に
並んだ。

「助かった、礼を言うよ」
「ん。ああ間に合ってよかった。ところで」

 その剣士はなんか間の抜けた声でフィンに聞いた。

「これドラゴンゾンビか?」


―見てわからんのかい!

 トレント達4人から無言のツッコミが入った。

 [続]

 〜あとがき〜
  本編に比べ戦闘のテンポや内容がかなり違うと思いますが気にしないでください−−;
 次回予告:ドラゴンゾンビと助っ人2人を含めたトレント達の死闘!そしてその決着
 は意外な形でつくのであった!!


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