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真紅幻想

006:ClassChange

「以上が、ミョルニール廃鉱地下3階より生還した冒険者たちからの報告であります」

 兵士からの報告を国王、ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツ三世は静かに
聞いていた。
 プロンテラ騎士団員も数十名失い、冒険者もかなり行方不明になっていたその
正体。それはドラゴンゾンビによるものだった。そして、それを倒した者達が
現われたのだ。

「すぐに50名の精鋭を選抜し、聖騎士ラティを隊長に本格的な調査に向かわせて
おります。より詳細な報告も届くでしょう」

 ヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツ三世は部下の報告を聞きながら、後悔
していた。トリスタンの悪夢により壊滅的な打撃を受けたプロンテラ騎士団。その後
数をそろえるために質が落ちていることは誰よりも国王である自分が一番わかって
いたはずなのである。にもかかわらず、今回は散発的に部下を送り、犠牲を広げて
しまったことに。

「…陛下?」
「ああ、すまない。それよりもそのドラゴンゾンビを倒した者たちはどうしている?」

 それだけの実力を持った冒険者が育っていることは喜ばしいことだ。是非、会って
みたいとヴァンは思ったのだ。

「現在、城内にて待機してるはずですが。褒賞もまだ贈ってはおりませんし」
「分かった。私からも労をねぎらいたい。案内してくれ」
「はっ!わかりました!」

 ヴァンは兵士に案内され、冒険者――すなわちトレント達と面会することとなった。

 ◆

「おっせぇな。いつまで待たせんだよ」

 基本的に人は待たせても自分が待つのが嫌いなトレントはぶちぶち文句をたれている。
彼らはプロンテラ城の待機室で待つように指示され、賞金をもらうのを待っているのだ。
 部屋をうろうろしているトレントの後ろで、すけぽは目を閉じて椅子に座っている。
フィン・ルアーナ・エレン・バステトの4人は用意された紅茶をのんびと飲んでいた。
 
 コンコン

 部屋のドアがノックされる。

「ようやく賞金のお出ましか。おせぇんだよ!待たせたぶん色つけて金よこせ!!」

 開いたドアに向かってトレントが叫んだ。当然――


 そこにはあっけに取られたヴァン=トリスタン=ルーンミッドガッツ三世がいた。







「すみませんすみませんすみませんすみません」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 ルアーナとフィンがトレントが白目をむくまで殴って、国王に平謝りしていた。

「いや、気にしなくて良い。待たせて悪かった」

 ヴァンとしては対等に話してくれる相手のほうが気が楽である。トレントのいきなりの
暴言に驚きはしたが、別に腹を立てたわけではなかった。まあ、トレントの暴言の直後、
フィンとルアーナが間髪いれずにトレントをドツキ回した事のほうが暴言よりも驚いた
のだが。

「しかしたいしたものだ。我が騎士団も今回の件でかなりの被害を出してしまった。
その原因がドラゴンゾンビだったとは…正直今でも信じられないよ」

 現に、証拠として提出されたドラゴンの牙がなければ、誰も信じなかっただろう。
プティットから取れるものよりもはるかに巨大な牙。何よりの証拠だった。

「君たちの腕はたいしたものだ。そこで報告…というよりは私の好奇心でもあるが、
武勇伝を語ってはもらえないかな」

 その瞬間、トレントが復活した。

「いやぁ、まあ国王がそう言うのなら仕方ありません。この竜殺しの剣士、トレント
が詳細にすべてをお教えしましょう」

 トレントは教えても仕方が無い内容から着色されまくった自分の大活躍の内容を
語った。当然、とどめは自分がさした事にしている。フィン達は別にだれがとどめ
をさしててもかまわないので特に口出ししなかった。

「…というわけで、この剣士トレントの活躍により、ついにドラゴンゾンビは
倒れたのです」

 30分はしゃべりっぱなしだったトレントにその場にいた全員が思った。こいつは別の
意味で凄いと。国王相手によくこんなことができるものだと。

「…ふむ。我が騎士団員の亡骸もそこにあったのだな?」

 トレントの話を聞き終えたヴァンが質問を開始した。

「はい。私たちが交戦した場所以外でも、かなりの数の亡骸が放置されていました。
おそらくは行方不明の騎士・冒険者たちでしょう」

 バステトの報告内容は暗いものだった。当然だが、トレントたちはあの後地下3階も
一通り探索している。だが見つかったのはドラゴンゾンビにやられたと思わしき亡骸
のみであった。

「放置するわけにもいかず、その場で埋葬しています。祈祷を行っていますから、
呪いによるアンデッド化は避けられるはずです」

 アコライトのエレンはその被害者たちを埋葬し、祈祷により呪いや魔の力より亡骸を
守っていた。

「それはありがたい。国王として、そして騎士団の代表としても礼を言わせてもらうよ」

 ヴァンは素直に頭を下げた。

「しかし正直、それだけの実力を持った君たちのほとんどがまだ1次職とは。それが
一番の驚きだったな」

 ソードマン3人、シーフ1人、アコライト1人、ブラックスミス1人。6人の内、転職
しているのは1人のみ。これは職業に縛られず、元の素質が非常に高いことをしめして
いる。

「そのことだ、陛下」

 トレントがさっきまでとは違う口調でヴァンに話し掛けた。

「俺たちは確かにまだ1次職になって間もない。本来なら1次職で長く経験をつみ、
テストを行って初めて上級職に進むはずだ…が。この実績を持って、俺たちに上級職
への道を開いてはもらえないだろうか」

 自分たちはすでに上級職の実力を持っている、とトレントは平然と言ってのけた。
その言葉の自信は、その実力によって生まれている。決して自分たちを過大評価して
いるわけではないとトレントは言った。

「…」

 ヴァンは即答しなかった。確かに彼らの実力は1次職のそれを大きく上回っている。
騎士団員のうち何割が彼らにかなうだろうか。ヴァン自信が『七英雄』の一人である。
相手の実力はある程度なら簡単に測れる。トレント達は強い。

 しかし

 ヴァンは即答できない理由があった。それはトレント、そしてその後ろにいる
フィン・ルアーナの3人から何か違和感を感じたからである。「聖結界」の異名を持つ
ヴァンは、相手の存在について敏感である。魔なるものに対する結界を張るがゆえに。
 
「一つ聞きたい。転職して『力』を得て…それを何に使う?」

 転職するものには誰もが聞く質問。だが、ヴァンはあえてそれを聞いた。

「俺のために使う。俺は聖人でも偽善者でもないんでね」

 とトレントが答えた。

「知りたいことを知るため。そのために力を使います」

 とルアーナがまっすぐに、力強い目でヴァンを見た。

「のんびり生きるにも、それを通すための力が必要と思う」

 とすけぽはそう言った。

「聖職者として、正しき道を選ぶため。そのために力が必要です」

 とエレンは胸の前で両手を合わせ、目を閉じた。

「私はすでに転職済みではありますが…。世界のあらゆることを見たい。そしてその
時に起こりえる問題に負けない力を求めました」

 バステトはまだ見ぬ未来を見ながら微笑んだ。


 そしてフィンはこう答えた。
 
「自分の空白を見つけるため。剣士を選んだ理由を見つけるために力を求めます」







「は!?」


 その場にいた全員が目を丸くしてフィンを見た。
 あたりまえだ。何かを求めて剣士になったのではなく、剣士になった理由を求める
ために力を求めるなど、矛盾した行為だからだ。

「…フィンってバカ?」
「バカなのは分かってたがこれで俺の中でまたそのランクが上がったな」
「そこ、聞こえてるから」

 ルアーナとトレントのヒソヒソ話を聞いて睨み付けるフィン。その時。

「ふ…ははははははは!」

 待機室に笑いが響いた。誰でもない、国王であるヴァンが笑い出したのだ。

「これは初めて聞いた答えだった。いやすまない、笑ったりして…クックック」

 必死に笑いをこらえるヴァン。トレントたちの答えはごまかしたりしてない、
本心だった。それはヴァンにはわかる。国王である自分を前にしてなお、自分を
飾りつけずに答えたトレントたちにヴァンは好感を持ち、嬉しかった。そこに
フィンのわけのわからない本音を聞かされ、思わず噴き出してしまったのだ。

「わかった。ドラゴンゾンビ退治の実績を持って、この私が責任を持って君たちの
転職を許可しよう。進むべき職の場所に、私が推薦状を出すとしよう」

 3人への違和感は拭えない。危険はあるかもしれない。彼らに新たな力を与えること
への不安は残る。しかし、ヴァンはあえて英断した。

「賞金もすぐに用意させる。今日は話せて楽しかったよ」

 ヴァンは席から立ち上がった。そしてトレントたちに背を向け、部屋を出ようとした。

「…陛下」

 そんなヴァンを呼び止めたのはフィンだった。その顔は心なしか硬い。

「なにかな?」

 振り返ったヴァンにフィンは迷いながら言った。

「…報告するべきかどうか悩んでいましたが―――」

 ◆

 その日の夜、ヴァンは直筆でファロス灯台にあるローグギルドへの推薦状を書いていた。
トレント・フィン・すけぽの3人はナイトへの転職を希望し、エレンはプリーストへの
転職を希望した。自分の管轄下のこれらの転職場には既に指示は出してあるため、
ローグへの転職を希望したルアーナの推薦状だけを用意すればよくなったのだ。
 推薦状を書き終え、ヴァンは昼間の彼らとの会話を思い出していた。
 不安要素がいくつか出来てしまった。
 一つは勿論、彼らに新たな力を与える許可を出したこと。彼らの力は魔ではない。
だが、それは聖でもない。
 そしてもう一つの不安は、最後にフィンが言った言葉。


――ドラゴンゾンビとの戦いを見ているものがいました。痕跡は何もありませんでしたし、
証明するものもありません。だから報告すべきではないかとも思いましたが。
ですが、確かにあの戦いを見ているものがいました――


 もし、この言葉が本当ならば。ドラゴンゾンビの事件ははトリスタンの悪夢による
呪いが原因ではなく、故意に何者かが起こしたということになる。魔なる力、死者を
よみがえらせる力を持つ何者かが。だが何のために?
 ミョルニール鉱山は既に廃鉱である。冒険者が危険を承知で鉱石を求めて向かう
程度で、あそこで事が起こってもたいした害は無い。実際、この事件は1ヶ月ほどで
解決しているが、1ヶ月あれば、悪意を持ってドラゴンゾンビを生み出した者は、
ゲフェンへとその蘇った竜をけしかけ、大損害を与えることは出来たはず。
なのに、何故じっと廃鉱で冒険者や騎士を待っていたのか。そして倒されるのを
防ごうともしなかったのか。

「そう言えば、かつてあいつがタロウをポリンに変身させるような失われた禁呪を
研究してたっけな…」

 仮説ではあるが、もし、その謎の人物があいつと同じ力を持っていたとしたら。
いや、それはないにしても、あいつの技術の研究元になっていたあの第6禁呪、
『アブラカタブラ』を使いこなし悪用していたとしたら。

「ここは相談が必要だな」

 ヴァンは一つ手を打つことにした。彼の一番の親友であり、そして知る限り最強で
ある男を呼ぶことにしたのだった。

 ◆

―翌日―

 模擬戦開始10分。それで戦闘は終了した。
 国王の推薦があるとはいえ、その実力も測らずに騎士への転職を許しては他の騎士達
が納得いかないため、トレント・すけぽ・フィンの3人はそれぞれ5人の騎士相手に
模擬戦をやらされた。
 
 結果は驚愕すべき内容だった。

 トレントはマグナムブレイク1撃で5人の騎士を昏倒させ。すけぽは5人の攻撃をすべて
受け止めた上で一人ずつバッシュで騎士を倒し。そして今フィンが速攻で相手に連携も
反撃もさせずに5人を仕留めた。3人の戦いは合計で10分。圧倒的だった。
 試験官を行った騎士は正直その強さに驚いた。剣士時代の成績は彼の元にも届いている。
すけぽのずば抜けた耐久性。トレントの圧倒的な破壊力。そしてフィンのまさに目にも
止まらぬ速さ。だがその成績のデータなど、あてにならなかった。

 結局、その実力が認められ3人は騎士の洗礼を受けた。騎士としての力を授かり、
その特技を学ぶべき能力を身に付けたのだ。

「まあ、思わぬボーナスが出たもんだ。手間が省けたな」

 そう言うトレントは新調した鎧を身に着けていた。鉄製の堅固なメイルだ。すけぽ
はさらに強固なプレートを身につけ、フィンは軽量なアーマーを着用していた。
騎士に転職した際に与えられたのだ。新たな力の一つとして。

「エレンは大聖堂で転職中だったな。俺はそっちに向かうがどうする?」

 すけぽがプロンテラの北東に位置する大聖堂を見ながら2人に聞いた。

「俺はルアーナの転職に付き合う約束してな。今からイズルードに行ってそこから
船でファロス灯台行きだ」

 めんどくさがり屋のトレントとは思えない台詞が出る。なぜか、トレントはルアーナ
には甘いといった感じがあるのだ。

「そうか。フィンはどうする?」
「俺はちょいとゲフェンに行かなきゃいけないんだ。ペコペコの試乗も兼ねてパーっと
行ってくるさ。バステトも来るらしい」
「そうか。なら今朝のミーティングの通り、ルアーナの転職が終わるまでは自由行動
ってことになるな」

 今朝のミーティング。結構な人数になったパーティをまとめるためにトレントが急遽
行ったのだ。多分偶然早起きして眠れなくなったから皆をたたき起こして思いつきの
ミーティングを行ったのは誰もが分かっていた。そこでトレントはこう言った。

「まあ、パーティを組んだとはいえ各人を縛るつもりは無い。勿論、何らかで動いて
もらうときは先に指示を出すからそのときは下僕としてしっかり働けよ」

 眠そうなフィン達にえらそうな一言。これぞトレントだ。

「まあ、廃鉱からこっちに戻ってくるまでに話した通り。俺たちの目的は真紅都市
『ルアーナ』を捜すことだ。伝説でも何でもいい。その情報を何処からか探し出すのが
俺たちの当面の目的になる」

 聞いたことも無い都。本当にあるかも分からない場所。それなのにトレントも
ルアーナもフィンも、『ある』と断言した。だからこそ、バステト達は興味を持った。
その幻の都市に。

「でだ。せっかく人数が増えたのにまとまって動いちゃ効率が悪い。俺たち騎士組みや
エレンはともかく、ルアーナは転職場に行くのに時間もかかるし、転職が終わるまでにも
分散して情報集めと行こう。転職が終わったらカプラサービスを通じて各人に連絡
入れるから行き先は言えよ」

 ふんぞり返ってトレントは皆を見渡した。その態度以外には反対は特に無いようだ。

「けど、カプラサービスを通じてっていってもどうやるんだよ。どの町にいるかが
分かっても、その町のどこかまでは分からないだろ。ギルドに所属してるならともかく…」

 フィンの反論ももっともだ。以前フィンがトレントに手紙を送れたのもあくまで
所在場所がわかっていたからだ。
 ギルドに所属していればカプラサービスがそのギルド用に手紙をストックし、ギルド
所属と証明できればその手紙を受け取れると言うサービスもあるのだが。

「ふ…フィンよ。その辺は抜かりない」

 ニヒルな笑みを浮かべるトレント。悪人顔そのものだ。

「まさか…トレント!?」
「その通りだルアーナ!!」

 ばさっ!っとマントを翻し、椅子の上に立つトレント。

「この俺、トレント様をマスターとした新ギルド設立を昨日のうちに申請してある!
ギルド設立に必要なエンペリウムはバステトからいただいた!!」
「あげたと言うより無理矢理取られた気もしますが…」

 じとーっとした目でトレントを見るバステト。当然、トレントがそんな視線を気にする
分けも無い。

「勝手にギルド作ったんかい…相談もなしにってのはお前らしいが…」

 頭を抱えるフィンを見ながらエレンがトレントに尋ねた。

「で、その新ギルドの名前は何にしたんです?流石に『逆毛wWwっうぇ』とか
『♯ハーレムにした』とかそういう名前だと嫌なんですけど…」
「心配するな。この俺のギルドにふさわしいその名前は!!」



 今ここに。

 『トレント★樹海団』が誕生した。







 もちろん、トレントはこの直後にフィンたちからボコボコに殴られたのだった。

 [続]

 〜あとがき〜

 トレント★樹海団設立!トレントが勝手に作ってしまったためこんなふざけた名前に!
ちなみにROで樹海団が設立するときの裏話。当時まだ高かったために簡単に入手できない
エンペリウムをようやく手に入れ、当時まだLoki鯖にいたメンバーはギルド名に
悩んでいました。その時、トレントさんが『よし、これだ!』と決めた名がおなじみ、
トレント☆樹海団です(当時は★ではなく☆)。GVGなどまだ存在もしておらず、完全
身内ギルドだったためにほんとに笑いを狙ったギルド名でした。それがGVGで何度も
コールされるようになるとは、作った当人も考えてはいなかったでしょうw
次回予告:ゲフェンに着いたフィンとバステト。2人は町にあるとある鍛冶屋の家
を訪ねるのだった。

〜登場人物紹介〜

●トレント[再]
job:ナイト
Guild:トレント★樹海団
 騎士に転職したトレント。剣士時代からすさまじかったその破壊力はさらに増した。
習得したボウリングバッシュをフィンにぶっ放して半殺しにした悪党。この世に神は
いないのだろうかorz

●すけぽ[再]
job:ナイト
Guild:トレント★樹海団
 騎士に転職したことにより、槍使いだったすけぽはようやく槍の技を習得できる
ようになり、その本領を発揮することとなった。習得したブランディッシュスピアを
フィンに試しうちさせてもらい、予想外の威力にフィンを虫の息にしている。誰か
俺を助けてくれ。

●フィン=ロルナーク[再]
job:ナイト
Guild:トレント★樹海団
 他2人とは違い、強力な一撃よりも連撃を身につけることにしたフィンが真っ先に
習得したのはおなじみツーハンドクイッケン。その素早い攻撃と正確さに、トレント
は「速いだけ、当たるだけ」と賛辞を贈ったと言う…


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