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真紅幻想

007:伝説の鍛冶屋

 プロンテラから北西に位置する魔法都市ゲフェン。町の中央にはゲフェンタワーが
象徴のようにそびえ立ち、そして円形に町が並ぶ都市だ。魔術師ギルドを初め、
実はブラックスミスのギルドも存在する、魔法・技巧ともに発展している都市である。

「この間はほんとにちょっとよっただけだったからなぁ。こうやって改めてちゃんと
見ると魔法陣みたいな町並みだな」
「あながち関係ないとは言えませんけどね。もともとこのゲフェンは過去に存在した
魔法都市『ゲフェニア』の上に存在する町ですから。ゲフェンタワーの存在も、この
町並みも、この危険も多い魔法遺跡を封じるためにあるともいえますからね」

 そこに騎乗用の鳥、ペコペコに乗ったフィンとバステトが到着していた。徒歩で
移動した前回に比べ格段に早く、そして疲れも少ない旅だった。

「荷物も大きいですから、ペコペコがいてくれるのはありがたいですね」

 ペコペコは商人職に就く者に貸し与えられるカートを引っ張っていた。つまりフィンの
ペコペコがバステトのカートを引っ張っていたわけである。そのカートには巨大な袋が
積まれていた。

「しかし、流石は剣の愛好家といったところでしょうか。よく思いついたものですよ」

 バステトがその袋を見ながら言った。

「後で考え付くならともかく、私たちがこれを持ち出せるのは倒した後のあの時のみ。
それでよくもまぁ」

 笑うバステトにフィンが困ったように答える。

「まあ、我ながらよく思いついたと思うけどね。でも使えるかどうかは分からないし
過度な期待はできないな」

 フィンはペコペコを厩舎に預ける。街中ではかえって不便だ。

「で、この町に住んでるのは確かなのかな?」
「ええ。一般には知られてませんけどね。私はちょっとしたことから彼に武器製造を
教わったことがありましてね。だから面識があるんですよ」

 あなたに売ったウィングバスタードソードはそのおかげで作れたんです、とバステトは
フィンの背中に吊ってある剣を見た。

「通りで。初めて作った一品が属性武器なんて、何かおかしいとは思ってたんだ」

 属性武器を作るための原料となる属性石。火の属性石フレイムハート、風の属性石
ラフウィンド、水の属性石ミスティックフローズン、そして土の属性石グレイトネイチャ。
この4種の属性石は非常にデリケートであり、武器製造に使用すればその属性を宿した
武器が作れる反面、製造に失敗する確立が跳ね上がる。そのために属性武器は一般的に
出回ってるものではないし、普通転職したてのブラックスミスが製造に成功する物でも
ないのである。

「確かにそうでしょうね。彼の指導が無ければとてもラフウィンドを使って剣を作ろう
なんて考えませんでしたよ…こちらです」

 バステトがカートを引きながら歩き出す。フィンもその後に続いた。

 そして十数分後。ゲフェンの町の南東に位置する住宅街に2人は到着していた。

「確かここです。ただ彼はいつも旅している人。在宅かどうかは分かりませんが…」

 家の表札にはこう書いてあった。



 エンゲル・ハワード と。



 ◆

 一方のトレントとルアーナは、イズルードから快速船に乗り、ようやく今ファロス
灯台に着いたところだった。
 古代遺跡が並び、綺麗な砂浜が広がる。そして

「それ以外何もねぇ!!」

 トレントの叫びももっともであった。もっとも、こういう場所だからこそ、近くに
ローグギルドがあるのではあるが。

「不便な所にギルドアジトなんぞ作りやがって…。もっとわかりやすく行きやすい
所に建てろよな…。コモドのダンスステージの下とか」
「いやそれわかりやすいとか以前の問題だから」

 トレントの愚痴に突っ込みながらルアーナはこの灯台の地下にあるというローグギルド
の入り口を捜した。流石にぱっと見てわかるような入り口では無いはずである。
灯台をぐるっと回るとそこには。





ぎゃーっはっはっはっはっは☆




 ものすごく巨大な赤い文字で、落書きがあった。というか入り口がこれのせいで
ばればれになるくらい派手に書いてあった。

「・・・」
「・・・」

 2人は見合って頷いた。この落書きにかかわってはいけないと。2人の何かが、確信を
もってそう告げていた。

「行くか」
「うん。見ちゃダメだね」

 2人は地下への階段へと歩みを進めた。決して後ろを振り向かずに…。

 ◆

「これはまた珍しいものをもってきたものだな」

 伝説の鍛冶屋とも呼ばれる男、エンゲル・ハワードはフィンが持ち込んだ物を見て
驚いていた。
 エンゲルは偶然にも家に戻ってきていた。妻子に会いにきたのは勿論だが、道具の
補充も兼ねての予定外の帰宅だった。そしてそこに現われたのが前に一度、鍛冶の
指導をしてやったブラックスミスと、そして騎士の少年だった。
 彼ほどの腕前を持っていると、多くの人が彼を訪ねてくる。彼の作る武具を欲して。
最初はこの2人もそうだと思った。だが彼らがエンゲルの腕を必要とした理由は
正当なものだった。エンゲルすら扱ったことの無い素材を持ち込んだのである。

 そう。フィンはドラゴンゾンビの骨と牙をあの戦いの直後、状態のいいものを選んで
数本持ち出していたのだ。
 ドラゴンの牙は鉄をも切り裂き、そしてその骨は鉄をも越える強度の鱗で覆われた
体を支える強靭なものである。そしてそれらは、特に同種であるドラゴンに対して強大な
力を誇る。古代の遺跡などから稀に発見される強力な魔法の剣、ドラゴンスレイヤー。
そして魔法の短剣、ドラゴンキラー。これらはそれぞれドラゴンの骨、牙で作られて
いるといわれている。フィンはその材料を持ち込んだのである。
 成竜がほとんど確認されていない今では、本来調達のできるはずも無いその素材。
当然ながらそれらで武器を作ったことのある者など現代にはいない。だからこそ
エンゲルこの素材の加工を頼みにきたのである。

「こういうのを見せられては断われないな、この仕事は」

 エンゲルがその巨大な骨を触りながら言う。その目は輝いていた。鍛冶屋として
こういう素材にめぐり合える幸運に感謝しながら。

「なるべく質のよさそうなものを選んだんだけどな。なにぜゾンビ化していたドラゴン
だ。どれが使えるかは分からないんだけど」
「フム…そうだな」

 エンゲルが早速素材の吟味に入る。フィンの考えでバステトが選んでいた骨と牙を
さらに厳しい目で厳選しだす。

「確かに劣化が激しいな。芯の部分を使うとしてと。鍛冶というよりは彫刻的な仕事
が多そうだな。…この牙はダメだな」
「そちらの牙が状態は一番いいと思います。正直武器として耐える部分が残ってるのは
そっちだけかと…」

 専門知識を総動員して材質チェックを行うエンゲルとそれを手伝うバステト。
フィンには分からない細かい部分まで調べていく。数十分経過して、エンゲルが
ようやく顔を上げた。

「フィン、だったな。結果から言うと」

 先ほどバステトが指した牙を持ち上げ、

「これを使ってドラゴンキラーの作成は可能だろう。だが残念ながら、骨は劣化が
ひどくてな。一本の剣として使うだけの場所がない」

「そうですか…」

 フィンは残念そうに肩を落とした。期待が大きかっただけに、そして短剣よりも
自分用の剣が欲しかっただけに。

「まあ、そうがっかりするな。俗に言う『ドラゴンスレイヤー』が作れんと言うだけだ」

 にっとエンゲルは笑うと壁際に置いてある箱からオリデオコンを取り出す。

「その骨とこいつ、そして属性石を組み合わせて特性の騎士の剣、クレイモアを作って
やる。並みの剣よりもはるかな力を持つクレイモアになるのは保障してやるぞ」

 つまり、ドラゴンの骨を軟鉄代わりに使い、属性石を繋ぎにオリデオコンを鋼鉄と
してクレイモアを作るというのだ。

「そんなことが可能なんですか?」

 フィンは驚いてエンゲルを見た。金属同士ならまだしも、骨と金属を組み合わせる
など聞いたことが無い。

「私もそんな技術聞いたことがありませんが…」

 バステトも興味を持ってエンゲルに尋ねる。

「勿論普通の方法では無理だ。いくら加熱しようと『骨』が金属のように溶けるとこは
考えられんからな。だが、繋ぎに属性石を使えば話は別だ。属性石の魔力と、骨に残る
ドラゴンの魔力を、エンペリウムの金敷を使い繋ぎ合わせるのだ。これは可能だと思う」

 常人では思いつかない方法。鍛冶とは物理的な考えで作られるというのに、柔軟に
考えるその思考はさすが生きながら『伝説』と呼ばれるだけはあった。

「…まあ多少の手間はかかるけどな。特に問題は無いはずだ…でだ」

 エンゲルは壁に立て掛けてある巨大な鎚を手にする。

「お前の剣を作ってやるにあたって、お前の戦い方を見せてもらおう」
「え!?」

 鎚で自分を指され、驚くフィン。確かにエンゲル・ハワードは伝説の鍛冶屋だ。
だがまさか、その人から戦いを挑まれるとは。

「大量生産品なんぞ作る気は無い。せっかく俺がやる気満々なんだ、オーダーメイド
で作らせろよ」

 嬉しそうに笑いながら玄関に向かうエンゲル。そんな彼をフィンは慌てて追いかけた
のであった。

 [続]

 〜あとがき〜

 とてつもなく遅れました外伝第7話です!!ごめんなさいorz
 いや仕事に慣れるまで結構大変で…言い訳ですけど|||orz
 本編は魔王との戦いとかホームランされるとか大変なことになっていますが、
外伝はきわめて平和であります。何せ本編より昔の話ですからね^^;
さて、次回のトレントさんは?
トレント「はーい、トレントです。最近急に寒くなって来ましたね。課長が手加減
してくれないので気候と疲労のダブルパンチで死にそうです。では次回のトレント
外伝は?
@さらば樹人!トレント、暁に死す!
Aトレント、散る
B天空のトレント
の三本です。それでは、また見てくださいねー^^。ンガググ」


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