前へ  小説目次へ  次へ

真紅幻想

008:WhiteSmith

「いいか。本気でかかってこいよ」

 強力な魔力の篭った鎚を構えるのはエンゲル・ハワード。伝説の鍛冶屋。
対するは新米とはいえ、騎士であるフィン・ロルナーク。
 フィンは正直迷っていた。本気でかかって良いのかと。だが、数秒後、フィンは
そんな心配する暇が無いということを知ることとなる。

「…よく見ておけ。騎士でも暗殺者でもない、鍛冶屋の戦いの力を」

 迷っているフィンにエンゲルは静かに言うと、鎚を肩に担ぐ形で構えを取る。




 この世界で言う鍛冶屋―すなわちブラックスミスには、大きく2つの姿がある。
一つは武器、防具を製造する姿。そしてもう一つは、そのあらゆる武器の知識を元に、
強力な戦闘能力を発揮する戦うものとしての姿。
 だが、両方を同時に極めるなど不可能だ。ゆえに普通はブラックスミスになる者は
どちらかに特化する。バステトは製造もできるが、その能力は戦闘に特化している。
 しかし。伝説とまで言われるエンゲルは―その両方を持ち合わせていた。

「カートブースト!!」

 ゴゥ!と風が唸ったかと思った瞬間、一瞬で間合いを詰められた。フィンの得意技
をそのまま真似されたかのような高速移動だった。そして間髪いれずに巨大な鎚が
高速でフィンに振り下ろされた。

「なっ!?」

 本能的な動きで振り下ろされた鎚をフィンは辛うじて後ろに飛んでかわす。同時に
剣を構え、反撃に移る。鎚のような巨大な武器は、その威力ゆえに攻撃後の隙が大きい。
フィンの素早さならその隙に攻撃を叩き込むのは造作も無い事だ。


 隙があるのなら、だが。



「アドレナリンラッシュ!!」

 ゴゥン!!

 フィンが剣を構えた瞬間。エンゲルの第二撃が下段からフィンを襲った。反撃のため
の一撃を、とっさに防御に使うフィン。受け止めた瞬間、フィンの体が宙に浮くほどの
一撃だった。そして、その浮いた体が地面にたどり着く前に、第三撃がフィンを襲う。

 ブラックスミスのスキル、アドレナリンラッシュは一時的に使用者の反応力を高め、
連続攻撃を可能とする、いわば騎士のツーハンドクイッケンと同質の技だ。

 ならば。

 フィンは第二撃と第三撃のそのわずかな時間に力を収束させた。騎士となって真っ先に
習得した、フィンともっとも相性のいい騎士の特技。フィンの体が黄金のオーラに
包まれる。

「ツーハンドクイッケン!!」

 ギィンガギィン!!

 瞬間、エンゲルの第三撃が押し返された。フィンの放った一撃…いや、二連撃に。
地面に降りたフィンは間髪いれずにエンゲルに切りかかる。押し切らねばやられる。
心配なんてとんでもない。彼はフィンよりもはるかに経験を積んだ戦士だった。
そして、カートブーストは使用者の脚力を一時的に強化する技であり、ブラックスミスに
使える代物ではない。つまり答えは一つ。

 伝説の鍛冶屋、エンゲル・ハワード。その職業は―


 アース神族の最高神たるオーディンに仕える戦乙女、ヴァルキリーに認められし者のみ
がなることができる、転生職。ブラックスミスを超えた者。



 すなわち、ホワイトスミスだった。



「はぁぁぁぁぁ!!」

 そんなエンゲルに正面から連撃を繰り出すフィン。連続攻撃を繰り出しやすい、
両手剣に対し、一撃必殺武器の鎚。そしてお互い、攻撃速度増加のスキルを使ってはいる
が、エンゲルよりも速さに関してはフィンの方が数段速い。結果―

「たいした速さだ!流石に予想外だぞ!」

 フィンの攻撃をことごとく捌きながら、エンゲルが叫ぶ。長い彼の経験の中でも、
騎士の中でこれほど速さに特化した者はいなかった。速いという事はそれだけで凶器
となり殺傷力を持つ。だが。

「しかし…その攻撃に重さが足りない」

 エンゲルがフィンの攻撃にあわせ、鎚を振り下ろした。

  ギィン!!

 フィンの連撃は、その一撃で止められてしまった。決定的な攻撃力の差である。非力な
フィンの攻撃は―速さによる殺傷力は、防御をかいくぐってこそ生かされる。それに対し、
エンゲルのその力強い一撃は、防御の上からもダメージを与える。この差は致命的だった。

「くっ…」

 剣を構え直し、フィンはエンゲルの動きを伺う。技術力も経験も、防御力も攻撃力も
体力も、ほぼすべての面において負けている。
 今まで、それでも速さを生かせば対抗できてきた。トレントにすら、フィンは分が悪い
とはいえ、勝つことがあるのだ。だがエンゲルにはその速さすら通用しない。ならば
どうするか。その答えを見つけ出す前に、エンゲルが動いた。

「ちゃんと防げよ少年」

 エンゲルの鎚に力が集中する。それは商人達に伝わる最強の一撃、メマーナイトすらも
越える、転生した者にしか使えないホワイトスミスの一撃。

「メルトダウン!!」

 マグマにも似た紅蓮の力の奔流がフィンを襲う。かわせない。防げるはずも無い。
だが、その時フィンの体は思考を無視して動いた。まるでそれは、熟練者は体が
勝手に反応するのと同じようだった。

 メルトダウンの衝撃波にフィンが突っ込む。そしてその力に向かい、剣を振り下ろした。

「ボウリングバッシュ!!」

 力に力がぶつかる。非力なフィンの一撃が、たとえ騎士の奥義、ボウリングバッシュ
とはいえ、エンゲルのメルトダウンを止めれるはずが無い。ボウリングバッシュの力は
一瞬だけメルトダウンと拮抗し、そして敗北した。

 だがそのわずかな間に、フィンは振り切った剣の反動を殺さず、体ごと1回転しながら
体制を整えていた。

「ボウリング…バッシュ!!」

 一瞬の二連撃。フィンの素早さだから可能な連撃。

 ゴゥン!!

 2度目の力の攻防が起こる。しかし2発のボウリングバッシュをもってしてもメルトダウン
の力は止められない。フィンとエンゲルとの決定的な、力の差。
 だがそれでもフィンの記憶は諦めない。その瞬間。

 フィンのウィンドバスタードソードに使われていたラフウィンドが、その力すべてを
使い果たした。フィンにその風の力を吸収されたのだ。砕ける剣に変わり、新たな
刃をフィンは手にする。それは記憶が紡ぎ出したすべてを切り裂く力。




―剣 義・『瞬 』―



 シュバァァァァァァァァァァッ!!

 圧倒的な力・メルトダウンは、抗うこともできずに切り裂かれた。力の存在する
『空間』が裂かれては抗えるはずも無い。そして切り裂かれた『力』は。



 チュドーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
「うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ドガァーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!



 フィンの周辺に着弾してフィンを巻き込んで大爆発を起こした。

「…いや、防御体制取って耐えれば騎士なら大丈夫なくらいに手加減して撃ったのに、
なんで無理して抗って、悪化させるんだ…」

 技を放ったエンゲルはその場で汗をかきながらつぶやいた。

「大丈夫。生きてますよ…多分」

 バステトはそんはエンゲルに、笑いながら答えたのであった。

 ◆

「さて。お前さんの武器を作るわけだが…当然だが多少時間かかる。バステトにも
ある程度手伝ってもらうが、それでも1週間はかかる。まあのんびりゲフェンの見学
でもしていてくれ」

 一日昏倒してて目を覚ましたフィンに、エンゲルはそう告げて工房に篭ってしまった。
バステトも助手として手伝うため、フィンは一人で時間を潰すことになってしまった。

「そうだな…なら調べてみるかな」

 そんなフィンが向かった先は知識の宝庫であるゲフェンタワー。求める知識は。



 意識の底の都市。失われた記憶。真紅都市だった。

 ◆

 一方その頃。トレントは幸せだった。
 ルアーナの転職中、暇になったトレントは周辺を散策していたトレントは、見つけて
しまったのだ。彼の心を捕えて話さない生物に…

「がらぱごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」




 トレント達の帰還は遅くなりそうだった。

 [続]

 〜あとがき〜

 本編に追いつかなきゃいけないのに書くのが送れていました外伝!ごめんなさいorz
しかしいい加減外伝も本編に絡む内容がちらほら出始めています。トレントさんほど
上手に裏設定つくりまくって困るような内容にするのは不可能ですががんばってみます。

 次回予告:ガラパゴの魅力にはまったトレント。だがそんな彼の幸せな時間を砕く巨大な
      顔!そして現れる妙な2人組み!外伝が本編1話に追いつくのはいつなのか!?


前へ  小説目次へ  次へ

トレントの樹海TOPへ

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット